安全に対する取り組み
1.モータースポーツの発祥は自動車レース
19世紀の末にフランスで初めて自動車レースがおこなわれて以来、欧州や北米でも自動車レースがおこなわれるようになっていきました。フランスでは、最初の自動車レースをおこなった競技団体がモータースポーツの運営をおこなうナショナル・クラブへと発展して「フランス自動車クラブ(ACF)」を結成。自動車レースを開催した他の国でも次々と自動車クラブが結成されていきました。これらは「ナショナル・スポーツ・オーソリティー(ASN=AutoriteSportive Nationale、フランス語)」と呼ばれる、国を代表するモータースポーツの統轄団体となっていきました。
2.どの国でも同じルールで競い合うために
欧州の自動車レースでは、誕生当初から国をまたいだ参加がありました。しかし、それぞれの国では言葉や習慣が異なっており、自動車やルールもバラバラでした。そのため、どの国で開催しても安全性や公平性に関する認識に差異が生じないようにするため、互いのルールを統一する機運が高まりました。
1904年6月20日、ドイツのハンブルクに13か国の代表が集まり自動車クラブの国際機構を作る会議がおこなわれました。そこで「国際自動車公認クラブ協会(AIACR=Association Internationale des Automobile Clubs Reconnus)が設立され、1946年には名称を「国際自動車連盟(FIA=Federation Internationale de l'Automobile、本部パリ)」と改め、今日に至っています。
3.FIAは国際ルールを定める世界唯一の拠り所
FIAは、ASNの加盟によって構成され、安全かつ公平にモータースポーツをおこなえる国際ルールを定め、それに基づいて運営を行い、紛争が発生した場合には裁定をおこないます。つまり、FIAはモータースポーツを国際的に統轄する機関であり、世界各国のモータースポーツは、基本的にFIAが定める規則の下でおこなわれています。一般社団法人日本自動車連盟(JAF=Japan Automobile Federation)は、1963年の創立以来、日本のASNとしてFIAに加盟しました。以来、FIAの有力メンバーとして、理事会の理事や世界モータースポーツ評議会の評議員およびいくつかの専門委員会の委員に就任して、その運営や活動に積極的に参加しています。
4.国内モータースポーツを統轄するのはJAF
FIAは世界の国や地域を代表するクラブ(ASN)によって構成されており、このASNは日本ではJAFが加盟して、FIAに公認されています。各国のASNも各国内の自動車クラブが登録することで成り立っており、国内のどこでも安全かつ公平にモータースポーツがおこなえるように統轄し、国内のルールを定めています。国際的なルールはFIAが決めていますが、その規則に準拠していれば、ASNには独自のやり方が認められています。国際的な競技(国際競技)はFIAのルールに従う必要がありますが、利害関係が国内にしか及ばない競技(国内競技)では、ASN独自のルールを適用できます。ジムカーナやダートトライアル、ドリフト競技などは日本独自の競技として知られています。
5.モータースポーツを支えるのは個人
JAFには「四輪」と「カート」を合計して、多くのクラブ・団体が登録されています。競技を開催しようとするクラブ・団体は、規則に従ってJAFに登録する必要があります。これらの「JAF登録クラブおよび団体」が、それぞれの規則に基づいてJAF公認競技会を開催しています。登録クラブおよび団体は、その構成や実績によっていくつかの種類に分けられています。
モータースポーツに関わる組織は、モータースポーツをおこなう一人ひとりによって成り立っています。つまり、個人が集まってクラブを構成し、クラブが集まってASNを構成、そしてASNが集まってFIAを構成しています。従って、モータースポーツはクラブに所属しておこなうことが望ましいとされています。
6.潜在的な危険性を持つモータースポーツ
すべてのスポーツにはルールがありますが、モータースポーツは、潜在的な危険性を持つ自動車という道具を使っている点において、他のスポーツとは一線を画しています。そのため、より高度な安全性と公平性を確保することが必要なのです。自動車は1トンを超える重量を持つ物体で、エンジンやモーターの動力で運動させています。自動車は走る速度に比例して運動エネルギーも高まりますが、それを「ゼロ」にするためにはブレーキなどを用いて停止するのが通常の手順です。それが自分の意思に反してゼロになったとすれば、高められた運動エネルギーは自動車もしくは運転手を損傷させる方向に働いてしまいます。
7.安全で公平な競技はルールの遵守あってこそ
自動車を使うモータースポーツでは、一般的なスポーツに比べて、より高度な安全性と公平性の確保が必要です。そのため、それらを定めたルールの遵守が大切で、ルールを守れない人はモータースポーツに参加するべきではありません。ルールの基本となるのはFIAが定める国際モータースポーツ競技規則であり、日本ではそれに加えてJAFが定める国内競技規則があります。モータースポーツのルールには、競技規則(スポーティング・レギュレーション)と、車両規則(テクニカル・レギュレーション)があり、ここには安全かつ公平にモータースポーツをおこなうための、先人たちの経験とノウハウが凝縮されています。
8.スポーティングとテクニカルの両面で
国内競技規則や各種選手権規定などのスポーティング・レギュレーションでは、安全かつ公平な競争をおこなえるようにするための、参加者やオーガナイザーらが採るべき行為が示されています。また、国内競技車両規則に代表されるテクニカル・レギュレーションでは、個々の競技車両の安全装備を定めていて、JAFは各種安全装備の公認をおこなっています。競技車両を走らせるサーキットやコースについても、識者の助言や査察などを繰り返し行い、万が一の事態が起きた際のリスク低減をおこなっています。
9.レスキュー訓練の実施
JAFでは、公認モータースポーツにおいて、参加者やオーガナイザーなどを対象としたレスキュー講習会などを定期的に実施しています。スーパーフォーミュラやスーパーGTについては、オフィシャルを対象とした救出訓練がサポートレースを含めて定期的に実施されており、ラリーについては、実際の参加者を対象とした、車両からの救出方法やAEDの使用方法を実技で学べる「JAFラリー競技における救急活動訓練」や、オーガナイザーなどを対象とした「FIA基金助成によるJAFラリー安全訓練講習」などを定期的に開催しています。
10.あらゆる目的や役割を持つ規則・規定
JAFでは、モータースポーツ審査委員会を設けており、これらの機関では、国内モータースポーツで発生したあらゆる紛争を裁定し、得られた知見をルールの改修に活かしています。また、ライセンス制度には年齢制限を設けており、それは身体が未成熟なうちから高い速度域の競い合いを抑制するセーフティーネットの役割も果たしています。JAFでは現状に即して既存のルールを定期的に改修しています。これらのルールを参加者が厳密かつ高度に遵守しないと、モータースポーツの安全性と公平性は確保されません。参加者はFIAやJAFが定めたルールをよく理解する必要があり、それは参加者の義務でもあるのです。