安心して競技に参加してもらうために

- メディカル部会からのお知らせ
- モータースポーツ医療とは
- JAFメディカル部会について
- メディカル関連の各申請について
- サーキットオフィシャル募集(リンク集)
メディカル部会からのお知らせ
モータースポーツ医療とは
サーキットにおけるモータースポーツ医療
サーキットでのモータースポーツ医療は、次のような内容が含まれます。
- 1.事故現場での救出・応急処置:
事故が発生時に医療チームが迅速に現場へ駆け付け、負傷者の救出・応急処置を実施し、メディカルセンターへ搬送する。 - 2.メディカルセンターでの初期治療:
軽症の場合は、メディカルセンターで処置。重症時は、救命処置を実施後、迅速にドクターヘリや救急車で後方支援病院に搬送する。なお、レース中の外傷だけでなく、観客を含めた熱中症や一般の疾患についても対応する。 - 3.イベントの安全性確立、災害やテロ時の対応:イベント医療
多数の競技参加者や観客が集まるイベントで大規模災害やテロが発生した場合の対応。 - 4.選手の健康管理と競技復帰支援:スポーツ医学・リハビリテーション医学
傷病後の選手のリハビリと復帰支援を行い、レース参加についての可否を判断する。ドーピングへの対応。
サーキットでのレースは車両の速度が時速300kmを超え、事故時の外傷は高エネルギー外傷となり命に関わるものが少なくありません。自動車レースとオートバイレースでは発生する外傷も違い、一般の交通外傷とも相違点があります。救出時にはレース車両の構造やレーサーのヘルメットやレーシングスーツなどのプロテクションについての知識も必要です。コースサイドにて対面で病状の判断をし、破損した事故車両からの早急かつ安全な救出を行います。観客やマスコミの眼前のためプライバシー確保の配慮も必要です。近年はハイブリッドエンジンや水素エンジンも走行しており、1000Vを超える高電圧バッテリーや水素火災などの対策も必須です。
世界基準の医療体制
人材ならびに機材を確保して体制の構築を行い、入念な事前の準備とシュミレーションが欠かせません。サーキットコース長は4~6kmあり、全長にわたる事故状況の掌握や指揮命令の伝達には画像や音声の通信機器が必要で、レースコントロール室では30を超えるモニターで監視します。医師団としては救急救命科、麻酔科、整形外科、脳外科、胸部外科、腹部外科、熱傷外科などから構成され、レースコントロールで指揮する医師、コースサイドに待機する医師、メディカルカーで事故現場へ直行する医師、メディカルセンターに待機する医師と役割分担をし、世界選手権では総勢20名ほどの医師が待機します。コースサイドにはレスキュー隊員と医師から成る救出チームが待機します。F1グランプリなどの世界選手権として開催されるレースには世界標準の医療が求められます。FIA(国際自動車連盟)や日本のJAF(日本自動車連盟)などの統括団体と協力して、サーキット内だけでなく後方支援病院も含めた医療体制を構築します。FIAでは独自の医師の資格制度があり、世界選手権では資格を保持した医師団長(CMO: Chief Medical Officer)の常駐が義務つけられ、CMOが事前の医療体制の構築から事故時の指揮、事故後の管理など全てに責任を持ちます。全国のサーキットでは若い医師を募集しています。モータースポーツを愛し、モータースポーツ医療に興味のある先生は是非一緒に活動しましょう。各サーキットのモータースポーツ担当に連絡してください。
(F1日本グランプリCMO 鈴鹿サーキット医師 瀬戸口芳正)
ラリーにおけるモータースポーツ医療
ラリー競技は一般公道とくに山間の林道を主体に開催される競技であることが特徴として挙げられます。サーキットイベントとの違いは①平均的な競技スピードは低い。しかし最高速度は非常に高いコースも。②基本的にコースにSafety areaやクラッシュパッド設置などの安全対策は取られていない。③競技エリアは広域にわたり、目視監視可能な競技コースは一部に限られる。このような特徴を前提に医療体制の構築がなされています。
競技車両の安全性向上、選手の安全装備、コース設定として崖などハイリスクなコースを使用しない事、過剰なスピードの抑制(シケイン設置)などは大前提です。
ラリーの医療体制において最も重要なのは、いかに早く事故の発生を確認し選手の状態を把握するかに尽きます。サーキットのように競技全体を目視監視する事は不可能であり、それを補完するためコース内の一定距離ごとにラジオ通信ポイントを設置し各競技車両の通過確認を実施します。近年では携帯電話端末の通信・GPS機能を利用したトラッキングシステムを競技車両に搭載し各車両の位置・走行状態を監視しています。クラッシュ時には選手によるOKもしくはSOS発報、また携帯端末機能の一つであるGセンサーの数値も緊急車両出動要否の判断に大きな役割を担っています。しかし、山間エリアでは無線、携帯電話ともに通信状態が悪いことは珍しくなく、良好な通信状態の確保が課題となっています。
WRC(世界ラリー選手権)開催時に求められる医療体制
事前準備として、応需病院との調整、医療スタッフの確保、FIAが求める医薬品・医療資機材、消火・レスキュー資機材の準備を行います。またラリーのための専属待機ドクターヘリを準備し、臨時ヘリポート設営、航空管制体制構築も必要となります。
応需病院は、重症外傷、熱傷患者に包括的(初期対応・緊急手術・ICU管理)に対応できる3次救急病院である事は必須です。現場で活動する医療スタッフには、外科・外傷診療の十分な経験を要求され、さらにレスキュー要員とともに大会前に十分な救出訓練を受ける必要もあります。
メディカルチームは、MIV(医療介入車輛、医師・看護師乗車)、TIV(消火・工作車両、レスキュー要員乗車)、Ambulance(救急搬送車輛)、レッカー車4台を1チームとして編成されます。FIAは事故発生を確認してから10分以内で傷病者に接触する事を求めています。国内の林道では10分で到達できる距離は7㎞程度であり、WRC Rally Japanで多い20㎞程度のSS(スペシャルステージ)では、スタート地点の他に3か所の中間地点を加えた計4つのメディカルチーム配置が必要です。従って、1日当たり3か所開催される林道でのSSに12チーム、豊田スタジアムのSSS(スーパーSS)と補充(スペア)チーム各1チームで計14チームが編成されました。
またFIAは1時間以内での3次病院への搬入を必須としているため、ドクターヘリは必須です。悪天候でヘリ運航が困難な場合には、SSがキャンセルとなることもあります。
(WRCラリージャパン DCMO 紙谷 孝則)
JAFメディカル部会について
JAFメディカル部会は、モータースポーツの安全と参加者の健康を守るため、以下のような重要な役割を担っています。
- 1.モータースポーツにおける救急医療体制の調査および研究
- 2.医師・医療機関・医療設備等、モータースポーツに関与する医療体制の審査
- 3.ドライバーの国内および国際身体検査証の審査
- 4.その他、これらに関連する医療および安全に関する事項
競技会が安全に開催され、すべての参加者が安心して競技に臨めるよう、FIAの安全基準を踏まえた国内競技規則への反映や、国際大会における医療体制の審査・整備を行っています。
また、障がいのある方にもモータースポーツの楽しさを提供できるよう、ライセンス発給にあたっての審査も行っています。
さらに、世界選手権などの国際大会における医療体制や、事故発生時を想定した救出訓練の視察を通じて、国内モータースポーツの救急医療体制のさらなる向上に取り組んでいます。
JAFメディカル部会は、モータースポーツの未来を支える安全と信頼の医療環境づくりに、これからも尽力してまいります。