「自分は子供の頃から、自分より大きな乗り物を思い通りに動かせることへの憧れがあって、幼稚園バスやタクシーの運転手さんを見て、カッコいいな、どうすればそうなれるのかな、と思っていました。クルマの運転免許を取ってからは、“運転がうまくなるためにはどうすればいいか”を考えて、実現させるためにあらゆることを実行していったら、結果的にレーシングドライバーをやっていた、という感じなんです。この“運転がうまくなりたい”という思いは、現在でもモータースポーツ活動の大切な動機になっています。
最初に始めたジムカーナでは、フレッシュマンやミドルシリーズ、地方選手権、全日本選手権とステップアップしていきました。途中から挑戦したレースでも、プロダクションカーレースからシビックレース、スーパー耐久、そしてスーパーGTというステップを踏んでいます。実は、モータースポーツ活動に対して、特に“目標”を設定していなくて、どんなステップにおいても、自分やマシンのパフォーマンスを最大限まで引き出すことに注力して、そのために自分ができることを精一杯、実行することに集中してきたんです。
競技会では、スタートからゴールまで一つ一つのコーナーを大切に走るようにしました。モータースポーツは、急に路面状況が変化したり、タイヤのグリップを感じにくくなることがあります。そうなっても、すぐには諦めないことが肝要で、行き過ぎなのか、ギリギリ手前なのかと、路面やタイヤと対話するんです。それぞれのコーナーで平均100%の走りができるように、101%と99%の走りを繰り返すようなイメージですね。そこで成功した分を足していって全体を底上げする、そんな方法で経験値を積み重ねていきました。
そして、プロフェッショナルなモータースポーツでは、与えられた環境に合わせることが大切になります。レース中に思わぬトラブルが発生しても、プロドライバーには、何とかマシンをチェッカーまで持っていくことが求められます。すぐにピットに入るのも一つの対応ですが、それで失われるタイムは大きいので、例えタイムが落ちていく状況であっても、そのままコースで我慢する方を選ぶんです。そうやって踏ん張っていると、何かの拍子で、自分たちにチャンピオンの座が転がり込んでくる、なんてこともよくあるんですよ。
これらのモータースポーツで培った経験は、自分のガレージから目的地まで、トラブルフリーで効率良く到達するにはどうしたらいいか、といった日常生活にも応用できると考えています。状況を読み取って最適な行動につなげていく。これらを突き詰めていくことによって、突発的な事故を未然に回避できたりするし、万が一事故に巻き込まれることがあっても、被害を最小限に留められるといったことにもつながると思っています。
ステップアップに関して、初心者や中級者の皆さんにオススメしたいのは、“ジャンプアップしないこと”です。高い壁を一気に超えようとするのではなく、低い階段を上り続けること。そして、階段の途中には踊り場を作っておくことですね。それがないと、戻りたいと思ったときに、高いところから飛び降りてイチからやり直すことになりますし、低い階段をたくさん作っておけば、少し手前からやり直せるわけです。
また、活動する理由を“運転がうまくなりたい”という動機にしておくこともオススメです。モータースポーツ活動で、優勝するとかチャンピオンを獲るといった数値的な目標を掲げると、到達したら止めるとか、到達できなかったら諦める、といった感じになりがちです。でも、活動の動機が技量の向上にしておけば、その達成には終わりがないんですよ。だから自分は、現在でも走っているし、まだまだうまくなりたいと思っているんです。
皆さんには、モータースポーツを始めたら、できるだけ長く続けてほしいんです。どんなにセンスがある人も、いきなりプロ並みのタイムを出すことは難しいものです。初めて出た大会でビリになったり、スピンして“俺ってセンスない!”と思うこともあるでしょう。でも、最初から技量がある人なんていないんです。自分が免許を取って初出場したジムカーナでは、借りたクルマでスタートして、30秒後には転倒させましたから(笑)。それが、“運転がうまくなりたい”と強く意識した最初の瞬間で、自分の原点になっています。
たくさん失敗を繰り返せば、必ず成功に結びつきます。だから、よろこんで失敗してください。長く続けるほど確実にうまくなります。技量の向上は、できた、できなかったの繰り返しで、最初は偶然だったものが徐々に必然になっていきます。自分にとっては、こういう技量が上がるプロセスが楽しいんですよ。うまい人を追うのではなく、過去の自分と戦うこと。他人と比べるのではなく、自分の技量を上げること。そして、時には実力以上のチャレンジをしてみること。こんな考え方も、頭の片隅に置いておいてほしいですね」。