大きなステップを踏んだ“ウィメン・イン・モータースポーツ”
2018年4月13日
FIAが始めた「ウィメン・イン・モータースポーツ」が、新たな段階に入った。
ウィメン・イン・モータースポーツ(略称WiM)は、2009年、FIAが女性のモータースポーツ参加を促すことを目的に始めたプロジェクト。FIAの中にWiM委員会を立ち上げ、女性が参加しやすいモータースポーツの環境作りについて議論を重ねてきた。
この委員会にアジア地域代表委員として参加しているのがレーシングドライバーの井原慶子氏。井原氏はJAFが2014年に発足させた「JAFウィメン・イン・モータースポーツ ワーキンググループ」でも創設時からアンバサターとして関わり続け、FIAとJAFの連携役を担っている。
FIAは3月7日、世界の自動車産業の関係者が集うジュネーブモーターショーで「The Girls on Track」の発表を行った。これは欧州の8ヵ国(ベルギー、フィンランド、ドイツ、オランダ、ポーランド、ポルトガル、スロバキア、スウェーデン)で開催されるカートイベントによって選抜された女子が各国から3名ずつ、来年7月にル・マンで行われるカート・ヨーロッパ選手権での最終選考会に招かれ、そこで選ばれた6名がFIAのトレーニングプログラムに参加できるというものだ。
トレーニングプログラムでは、ミシェル・ムートンWiM委員長をはじめ、スージー・ウォルフ、タチアナ・カルデロンといった欧州のモータースポーツ界で活躍中の女性ドライバーや、日本でもお馴染みのトム・クリステンセン氏らが指導を行う。ムートン委員長は1980年代、アウディ・クワトロに乗り、WRCで勝利を重ねた伝説のレディスラリーストだ。
The Girls on Trackの最初の選考会は、欧州各地のスーパーマーケットの駐車場などでパイロンを配置して作ったスラロームコースを舞台に行われる。参加できるのは13歳から18歳までの女子だ。このイベントではカート体験走行のほかにも、交通安全に向けた取り組みなども行われる予定で、FIA、各国のASNの取り組みやモータースポーツ全般を、新しい世代の若者達に伝えるというテーマが貫かれている。FIAは各イベントで数百人規模の来場者を見込んでいる。
そして、ここには既存のモータースポーツフィールドのみならず、できるだけ広く門戸を開放した場所から、幅広く才能ある若い女性を掘り起こすという、WiMの意欲的なコンセプトが何より感じられる。そこで選ばれた才能は、ル・マンでの最終選考会を勝ち抜けば、プロドライバーに至るプログラムに参加することができるのだ。
むろんプログラムに参加したことでプロへの道が保証されたわけではない。実戦を経験することになる女性ドライバー達は様々な困難に直面するかもしれない。そこから、本当の意味での彼女達の戦いが始まるのだろう。
この「The Girls on Track」は、これまでは女性のモータースポーツへの参加をサポートするという立場であったFIA WiMにとっては、明らかにワンステップ踏み込んだプロジェクトであることは間違いない。FIAが、いわば“1本釣り”で世界から才能を発掘する試みを始めたことは、モータースポーツ界にとっても、エポックメーキングな出来事となるはずだ。
Cap.1.
2016年秋、愛知県で行われた井原氏らが主催したイベントに招かれたミシェル・ムートンWiM委員長。1980年代のWRCを代表するレジェンドドライバーの一人。