ラリー活性化のヒントを地方シリーズから探ってみる
2018年6月14日
出場台数の減少から色々なカテゴリーや多くのシリーズで存続の危機が叫ばれている昨今のモータースポーツ界。しかし、そんな現状の中でも多くのエントラントを集めて活況を呈しているシリーズもいくつか存在している。その一つがJMRC群馬ラリーシリーズだ。
昨シーズンも全5戦でシリーズは構成され、エントリー台数の平均は45.6台。改めて数字にしてみると人気があることが実感されるが、さらにその中でも平均を上回る競技車が集まっているラリーの一つが、今年でクラブ創設40周年を迎えたAutoSportsClubあさま隠が主催する「あさま隠山岳ラリー」だ。今回はその人気の秘密をリサーチしてみたい。
まずはラリーのフォーマットのチェックから。今シーズンの「あさま隠」は群馬ラリーシリーズの第2戦として5月13日に開催された。1号車のスタートは9時01分、ゴール予定は15時というデイライトのワンデーラリーでの開催はここ数年変わらない。「あさま隠」の最も特徴的な一面とも言えるだろう。スタート&ゴールは一昨年までの榛名湖畔から移動しているものの、主戦場となるステージは榛名山周辺の林道に変更はなく、3本の林道を2ループして計6本約40km弱のSSが用意されていた点も例年通りとなっていた。
現場を訪れていたラリー関係者数名に人気の秘密がどこにあるかを尋ねてみると、昼間にワンデーで行われているのが大きいのではないかという意見が散見された。ただ、選手からは「昼間走れるのはやはりイイ」という声がある一方で「任意とはいえ、土曜日にレッキがあるので完全なワンデー(ラリー)とは言い切れないでしょう」という意見も聞かれた。今回はエントリー台数54台中53台がレッキを実施していたが、エントラント心理としては、レッキに参加せず、スタート前からそれが不利となってしまうことは避けたいはずで、やはり都合がつくならレッキも参加することを選ぶはず。
土曜に行われたレッキに参加しなかったのは僅か一台。実質的には2DAYイベントとなるが、勝負のためにはやはりレッキは欠かせない。
そうなるとやはりレッキ込みでラリー日程と感じるのは当然といったところだろう。ただ、TOYOTA GAZOO Racingラリーチャレンジのようにレッキを含めて1日に収めたとしても、前泊が必要となる場合もある上にかなり早朝から動き出さなければいけなくなるので、前日レッキにはメリット&デメリットの両方があるようだ。
多くの選手が口にしていたのは群馬ラリーシリーズの競技性の高さだ。ベテランに言わせれば「”群馬”っていう、かつての走らせるラリーっていうイメージが今も強いせいじゃないかな(笑)。昔ほど群馬の人間は走ってないけどね」ということになるが、C、B、Aの3クラスすべてで少なくとも10台程度のエントラントがいることを考えれば、「ライバルが数多くいるので走っていて楽しい」と台数の多さを評価するコメントにも頷ける。
これはさらなるエントラントが集まる呼び水にもなるわけで、正のスパイラルともいうべき好循環につながった可能性は大きい。さらにシリーズ5戦中4戦は違うエリアでの開催となることから、ワンシーズン戦うことでいろいろなバリエーションの道を走れることもあり、この点も(数は少なくなってはいるものの)ステップアップを考えているドライバーには評価が高い。
また一方で、全戦オールターマックでの開催ながら、ランニングコストを考慮してラリータイヤでのエントリーとしている(一部、ラリータイヤのサイズがない車種に対しては特例あり)点や、シリーズを通じてのサポート制度も設けることによって初心者等への訴求も怠りない。主催者にもエントラントが集まる秘訣を聞いてみたが、「何でしょうねぇ」と首を捻るメンバーも多かった。「正解」を見つけるのは当事者達にも難しいようだ。
舗装を舞台としながら使用できるタイヤはラリータイヤ限定とするなどローコストとイコールコンディションが図られている。
ただ今年から競技長に就任した青木正人氏は「ラリーの設定は、選手がリズムがよく走れるようにするということは、気にしています」と話す。この周辺のエリアではラリーで使用許可が下りる林道は今回使用した林道以外でもまだ3、4本あるとのこと。それらを組み合わせつつ、ラリーを作ることになるが、今回も中之条駅の近くにラリーのスタート&ゴールが移動したことから、榛名山の北側の林道を久し振りに使用するなど競技車の取り回しには気を遣っているようだ。ホームページはもちろんのこと、それ以外にもFACEBOOKにラリーのスレッドを立てラリーのインフォメーションをいち早くリリースするなど、“エントラント・ファースト”の姿勢も人気の理由に一つに違いない。
こうして見ていくと「あさま隠」の人気の理由として、明確にこれといった大きなモノはないように感じられる。が、それでも数多くの選手たちを惹き付けて止まないのは、エリアや自治体などラリー開催に恵まれた環境の中とはいえ、高次元でバランスの取れた良心的なイベントを、主催クラブが続けてきた証左といえるのではないだろうか。
恵まれた環境に囲まれているとはいえ、主催者のラリーの作り方への共感が多くのエントラントを集めている理由かもしれない。