高校生でモータースポーツデビューの十代の二人が、今年新たな挑戦を始める
2019年5月10日
全日本ラリー選手権で活躍する奴田原文雄が2017年に設立したNUTAHARA RALLY SCHOOL(ヌタハララリースクール)。 日本初の本格的なラリースクールとして多くの注目を集めているが、早くも同校の出身ドライバーたちが様々なカテゴリーで活躍し始めている。
スクールの受講生の中でも、特に注目を集めている逸材が大竹直生(おおたけ なお)、大谷皇就(おおたに こうな)の若手コンビと言えるだろう。 ともに2000年生まれの18歳で、オーディションを経て2018年に同スクールに入校した。当時、彼らは17歳の現役高校生。 レーシングカート等の経験もなく、運転免許取得前ということで、4輪の公認競技への参戦経験も当然ながら、なかった。
二人はともにダートトライアルドライバーを父に持つ2世ドライバーだ。大竹の父、公二氏はランサーが圧倒的多勢の全日本ダートトライアル選手権にあって、敢えてインプレッサにこだわって参戦を続けているドライバーで、その豪快な走りで知られる一人。 一方、大谷の父、竜三氏は、自動車整備工場を営むという経歴を生かして、JAF中国ダートトライアル選手権にオリジナル製作した改造車で参戦を続けてきた。 大竹、大谷の二人は幼い頃から、モータースポーツの現場でそんな父親の背中を見て育った。走りこそしなかったが、モータースポーツはもうすっかり勝手知ったる世界なのだ。
奴田原をはじめとする充実した講師陣によるトレーニングで両ドライバーともに急成長。運転免許証の取得と同時に大竹が2018年7月に、大谷は2018年10月に同スクールのジュニアチームのドライバーとして、まずJAF北海道ラリー選手権で公認競技のデビューを果たした。この時、二人の走りを見た奴田原は、「彼らは経験がないけれど、若くてともかくスキルアップが早い」と感じたと言う。事実、この年の11月に福井のオートパーク今庄で行われたJMRC西日本ダートフェスティバルin中部で両ドライバーは素晴らしい走りを披露、何とダブルでクラス優勝を飾ってしまったのだ。
伝説の始まりか!?衝撃の西フェスデビューウィン
1996年に第1回目が開催され、昨年、22回目を迎えたJMRC西日本ダートフェスティバルで新たな歴史が生まれた。まず、この大会の紹介をしておくと、前身となるのは1990年代半ばまで開催されていた中部近畿ダートフェスティバル。
年末にお互いの交流を深めるべく両地区で交互に開催されていたのが発展的解消を遂げて、1996年から西日本5地区の交流戦として開催されたのが、この西日本フェスティバルだ。
毎年、会場を各地区持ち回りとして開催されてきたが、昨年は中部地区が受け持ち、11月18日にオートパーク今庄で開催された。現役高校生ということで大きな注目を浴びた二人は、まず大竹がRWDクラスにエントリー。大谷は改造無制限の車両が集まる最強のクラス、SCDクラスにエントリーした。
この西フェスに先立つJAF中国ダートトライアル選手権最終戦に参戦した二人は、大竹がRWDクラスで3位に入ったものの、大谷はSCD2クラスで7位とほろ苦いダートラデビューとなった。
しかしダートラ参戦2戦目となるこの大会で、二人は西日本地区の強豪達を相手に、ともにクラス優勝を飾る快走を見せた。
特に大谷は免許取立ての高校生ながらハイパワーのインプレッサを手なづけて、何とオーバーオールウィン、つまり全参加者中、最速のタイムをマークしての優勝という快挙を成し遂げた。
実は大谷の父、竜三さんは、大谷が生まれた2000年に、九州で開催された西日本ダートフェスティバルのDクラスで優勝を飾っている。18年がかりの親子でのWウィンだった。
その勢いは2019年も健在だった。3月24日、広島県のテクニックステージタカタおよびその周辺の林道を舞台に開催された、JAF中四国ラリー選手権第1戦およびTOYOTA GAZOO Racingラリーチャレンジの第1戦「ラリーin高田」で、この若き才能達たちは、ここでも噂に違わぬパフォーマンスを披露した。 まず、トヨタ86を武器にJAF中四国ラリー選手権のFG2クラスに参戦した大竹は、林道のターマックステージを舞台にしたSS2およびSS4でベストタイムをマーク。 テクニックステージタカタのダートトライアルコースではダイハツ・ブーンの後塵を浴びることとなったが、それでも終始コンスタントな走りを披露し、後続に7秒の差をつけてクラス優勝を獲得。「現役高校生として参戦する最後のラリーで勝てて嬉しいです」と振り返った。
一方、神戸トヨペットモータースポーツとのジョイントプログラムにより、TGRラリーチャレンジのE2クラスにトヨタ86で参戦した大谷は「ターマックは初めてだったので、かなり抑えて走りました」とターマックの林道のSS2では慎重な走りを披露。 しかし、得意のホームコース、テクニックステージタカタを舞台にしたSS1、SS3、SS5ではベストタイムをマーク。SS4でもセカンドベストをマークするなど、ターマックのリピートステージでもジャンプアップを果たし、「初めて乗るクルマでしたが、とてもいい状態でした。 初めて舗装のステージを走ったので苦労しましたが、地元のイベントで勝てて嬉しい」と語るようにE2クラスおよび総合優勝を獲得した。 大竹は参戦3戦目、大谷は参戦2戦目ながらラリーで勝利を獲得した両名に対して、奴田原は「まだドライバーとして評価するレベルにはないけれど、天候が雨から曇り、路面も刻々と変わる難しいコンディションの中、これまで参加したことのないラリーで完走したことは良かったと思う」と評価した。
彼らのこの実績を高く評価したのは奴田原だけではなかったようだ。スクールでのトレーニングは終了した二人だが、今年から同スクールのサポートを受けながらラリーを継続し、それぞれ参戦カテゴリーは異なるものの、実戦の中でスキルアップを果たすこととなったのである。 まず、大竹はクスコ・ワールドラリーチームより日本で開催されるFIAアジア・パシフィック・ラリー選手権(APRC)に参戦する予定で、トヨタ・ヴィッツR1で第3戦のラリー・モントレーおよび第7戦のラリー北海道と国内ラウンドながら国際ラリー競技にチャレンジする。 一方の大谷は神戸トヨペットモータースポーツのトヨタ86で引き続きTGRラリーチャレンジのE2クラスに参戦することが決定。4月13日〜14日に開催された第2戦の八ヶ岳でもクラスおよび総合ともに2連勝を達成したほか、今後は第3戦の恐竜勝山、第8戦の高岡万葉、第10戦の丹波篠山に参戦する。
この若き両雄の今年の活動について奴田原は「本当は海外の速いコースを経験させて上げたいけど、まだまだラリー競技自体の経験が少ないので、今はどんなカテゴリーでも、とにかく多くの競技に出ることが重要だと思う。 まずはリザルトより、多くの経験を積んでもらいたい」とのこと。高校を卒業し、新たな道を進み始めた大竹と大谷にとって、2019年は飛躍のシーズンとなるに違いない。