地方戦士達の“甲子園”を、今年は観に行きませんか?

2019年10月21日

 今年もJAFカップの季節がやってきた。JAFカップは全国各地で開催されているJAF地方選手権(ジムカーナ/ダートトライアル)で活躍したドライバー達が、年に一度、全日本選手権の上位ランカーと速さを競い合うビッグイベント。 その年のシーズンを締め括るイベントとして、毎年、秋に開催されている。だから正式名称はJAFカップオールジャパン・ジムカーナ/ダートトライアル、となる。

 今年はジムカーナが11月9〜10日に、茨城県の筑波サーキットコース1000(下妻市)で、ダートトライアルは10月26〜27日、北海道のオートスポーツランドスナガワ(砂川市)で、それぞれ開催される。 JAFカップの開催場所は毎年変わり、北は北海道、南は九州まで、これまで様々なコースで開催されてきた。因みに今年、ダートトライアルが開催されるスナガワは、毎年、全日本選手権が開催される全国屈指のハイスピードコースだが、JAFカップの開催は初めてとなる。

 JAFカップの参加者の多くは、普段は地元のJAF地方選手権を戦っているドライバーだ。全日本を追いかけながら、その練習も兼ねて地方選手権にもエントリーするという猛者もいるが、ほとんどの参加者は地方選手権のチャンピオンを目指して日々、腕を磨いている。 チャンピオンを獲った自分へのご褒美としてJAFカップにエントリーするドライバーもいれば、逆に不甲斐ない成績に終わったシーズンの最後に起死回生の走りを狙って参戦するドライバーもいるし、その参戦の理由は様々だ。この年イチのビッグイベントで彼らは何を目指すのか。 昨年の模様を通じて、地方戦士達の、素顔を紹介していこう。

 昨年のJAFカップオールジャパンジムカーナは、北海道千歳市にある、新千歳モーターランドで初開催された。新千歳はコースの外には新千歳空港が広がるジムカーナコースだ。
 愛知県の清水聡志選手は、北海道の大学時代の自動車部の後輩で、現在も北海道在住の浅野晴海選手を誘ってダブルエントリーで参戦した。5歳、年が違うので自動車部ではダブってはいない。
 「愛知に就職しても、最初の1, 2年は、北海道まで自動車部は見に行ってて(笑)、活きのいい奴がいるからって紹介されたのが浅野だったんです。誘ったのは、最近、彼が古いクルマで燻ってるようだったんで(笑)、自分のBRZみたいな最新のクルマに乗れば刺激になるんじゃないか、と。たまには違うクルマで、どう?って声掛けました」

 浅野選手は、ジムカーナ界では伝説のクルマとして知られる、“エスダブ”こと1989年に発売されたSW20型MR2に乗る。浅野選手はJAFカップ初参加。清水選手の誘いがなければエントリーしなかったという。清水選手は現在30歳。北海道を離れて月日は経っているとは言え、新千歳はかつて走り込んだコース。今回も2位に入り、中部のトップスラローマーの貫禄を見せた。
 「基本は自分の走りをしてもらえればよかったんで、ターンのアドバイスをしたくらいですよ」と清水選手。「1本目まではBRZに慣れなくて踏めなかったんですが、2本目はドライになってコースもいつもの新千歳になったので全力全開で走りました」と振り返った浅野選手の結果は11位だった。清水選手から2.2秒差だったが、「初めて乗ったクルマで、この差はいいと思う。有望ですよ」と先輩から合格点をもらった。

 「アドバイスを聞いて壊さずに走れたのが一番良かった。清水さんにはただただ感謝です。今回走ってみて、初心に帰れた、というか。少しずつ続けて行って、いつかは自分のクルマで全日本に出るのが夢なので、今日はそれに向けての第2ステージが始まったという気がしました。後10年は最低続けます!」と浅野選手。今後のスラローマー人生に向けて、大きな希望を見つけた一戦となったようだ。

清水選手(右)と浅野選手(左)は、札幌の大学自動車部の先輩と後輩。現在は愛知に住む清水選手が、かつて走り込んだ新千歳で開催されたJAFカップに浅野選手を誘った。

 浅野選手と同じく、地元北海道在住の24歳の若手、福浦亮選手は、何とジムカーナデビュー1年めで、いきなりJAFカップに参戦した。本人は当初は、まったく参戦は考えていなかったそうだが、お世話になっているショップや回りの関係者からの、『絶対、出なきゃダメだ』、という声に押されて参戦を決めたという。 新千歳はジムカーナを始める前から月イチは走っていたホームコースだ。

 「練習会に行くといつも速いシビックがいて、そのクルマに貼ってあったステッカーを調べたら、旭川のモータースポーツショップの名前だったんですよ。そこのお店に行って、ジムカーナという競技に関心を持ったのが始まりです」
 そのお店、ディライトは、2000年に全日本ジムカーナ選手権でチャンピオンに輝いた田口玲氏が旭川で営むショップだった。参加したSA1クラスの結果は同じ、ディライトを拠点とするクラブの先輩で、全日本の優勝経験もある阿戸幸成選手が優勝。4.6秒差の8位でゴールした。

 「いつもの新千歳とはピリピリ感が違うので1本目は緊張しましたけど、2本目は今年最後の走りだからと思ったら、堂々と走れました。でも、フリーターン(パイロンで仕切られたスペースの左右2方向の回り方をドライバーが選べるターン)は、こっちの大会では設定されたことがないので、ダメでしたね。 全日本出てる人達のフリーターンは全然違いました。 でもいい刺激になったので、経験不足だったけど思い切って、出てよかったと思います。来年も頑張ります」とキッパリ語った福浦選手。しっかりと最高峰のジムカーナの走りを目に焼き付けたようだった。

福浦選手がエントリーしたSA1クラスは北海道出身のドライバーが全日本でも活躍中。地元スナガワの全日本を制することも珍しくない。

 今年、全日本ジムカーナ選手権のPN4クラスで、一躍、名を轟かせた奥井優介選手も、19歳だった昨年、JAFカップに父親の毅選手とダブルエントリーで初出場を果たしていた。免許を取得し、公認競技会デビューとなった昨年は春のJAF関東選手権でいきなり優勝。周囲の度肝を抜いた。
 「親の私の方が負けてしまったので、ダブルエントリーする際は、私の方が最初に走ってタイヤを暖める引き立て役に回ってしまいました」と毅選手は、目を細めて息子の早すぎる成長を語ってくれた。

 ジムカーナにデビューした年にいきなり迎える初のビッグイベントとなった昨年のJAFカップでは、「地区戦は日曜の1DAYで終わりますから、2DAYの大会は初めて経験したんです。やっぱりデカい大会なんだなと実感しました。親父のサービスで何度かJAF カップは経験してるんですが、自分で走るとなると、やっぱり勝手が違いますね」と優介選手。

 4年連続出場となった毅選手は「JAFカップの時だけ会うという友人もできて、お互いに声を掛け合って頑張れたりするので楽しいですね。全日本を追うのは予算的にも厳しいけど、JAF CUPは僕にとってはプチ全日本。全日本の雰囲気が味わえるだけで満足です」と語る。

 注目の決勝では、優介選手がいきなり、ヒート1でベストタイムを奪う。ヒート2でも僅かにタイムを上げるが、二人にかわされ、結果は3位。しかし2位の元全日本のトップスラローマー、岡野博史選手との差は0.1秒だった。毅選手は4位に続いた。親子で表彰台の快挙に、あと一歩に迫った。
 「僕も父も初めて走るコースでしたが、金曜の練習走行から走って、コースを掴めたのが良かったです。岡野さんとの差をここまで詰められたし、一番最初のJAFカップで表彰台は、やっぱり嬉しいですよ」と優介選手。大器の片鱗を見せつけた若者には、大きな自信を得たイベントになったようだ。

親子で参戦の奥井毅/優介選手。強豪ひしめくクラスで優介選手は表彰台を獲得した。優介選手によれば、「セッティングはどちらというと経験の浅い僕の方が細かいんです(笑)」

復活組はJAFカップで、ダートラ人生第2章を歩み出す

 昨年のJAFカップオールジャパンダートトライアルは、JAFカップジムカーナが行われた北海道からは対極をなす九州福岡のスピードパーク恋の浦で行われた。コースの外側はもう海、という全国でも珍しいシーサイド・グラベルサーキットだ。

 地元の井上博保選手にとっては2017年に続いて2度目の出場となった。井上選手はその前年、ダートトライアルを実に20年ぶりに再開した一人だ。
 「自分にとっては色々と事業の絡みもあって、資金を準備して戻ってくるのに20年掛かった、というだけの話なんですけどね。だから苦労したという気持はなくて、逆に今は凄く楽しいんですよ」と笑って振り返る。

 最後に乗ったダートラ車はランサー・エボリューションIII。ダートラ復活に当たってチョイスしたクルマは、『エボテン』こと、ランサー・エボリューションXだった。
 「2017年のJAFカップは散々な結果でした(笑)。もう迷走してましたね。『このクルマ、どうやって走らせたらいいんだ?』って」と、ブランク明けで久々に接した電子制御満載の"X"世代に苦心したものの、昨年はそれまでの"突っ込み癖"を修正し、最新世代のドライビングにアジャスト。20年のブランクを克服して臨んだJAFカップだった。

 「今年1年、地区戦も2位だったし、本当に悔しい思いをしたから、1回ぐらい、JAFカップでいい思いをしてもいいかな、と思ってます。今回、N2クラスに参戦した岸山(信之)君は、クラスは違うんですけど、大学の後輩になんですよ。一応最初は僕が彼に教えてたはずなんですけど、いつのまにか立場が逆転しちゃって(笑)……。できれば大学自動車部連合で両クラスとも勝ちたいな、とは思ってますけどね」と、あわよくば後輩とのアベック優勝を狙ってみたいと意欲を見せた。

 結果は、クラス5位。けれど前年の14位からは大きくジャンプアップした。「この順位を弾みにして来年も全日本を追いかけたいという気持が強くなりましたね。何より、全日本に遠征する九州勢の積載車のドライバーを担当しているので、僕が行かないとみんな不機嫌になっちゃんですよ(笑)。トランポドライバー役で強制参加です」と、来たるシーズンに向けて、気持ちを新たにしていた。

20年間のブランクから復活した井上選手は、全日本にも遠征。ダートラ漬けの日々を送りながら、全日本でも好成績を狙う。

 PN1クラスに参戦した松田耕平選手も、地元福岡の選手。そして井上選手同様、復活組だ。
 「13年のブランクを経て、数年前に復帰したんですけど、最初はロードスターで出てました。本気でまた取り組むつもりはなかったんですよ。あくまで遊びで楽しめればいい、と」
 しかし、昨年はかつての日々のように本気モードでシリーズを追う一年になった。

「それはもう、うちの師匠で、メンテナンスショップのオーナーでもある、全日本ドライバーの永田誠さんに『走ってくれ』って言われたからで(笑)。『お前、試しに乗ってみてくれ』って乗ったヴィッツでトントンと2連勝したんで、すっかりその気になってしまったんです。 でもその後はやっぱりライバルとのパワー差がどうしても出てきて、特に晴れて路面がカチカチになると弱いんですよね。ウエットやったら俺、負ける気しないんですけど……」

 JAFカップには地区戦の終盤からスイッチしたデミオに乗り換えて参戦した。
 「自分にとっては今回が初めてのJAFカップになります。20年前に少しチャンスはあったんですけどね。この恋の浦は、走り慣れた地元のコースですが、休む前にはなかった新しいコースなんで、正直、まだ攻めどころが少し分からないところがある。昔はクロカンも走ってたコースですけど、アンダーガード打っても気にしちゃいけません。度胸が問われる一発勝負。ビビったら負けです」

 その言葉通り、誰よりも高い車速を維持して高速コーナーを攻め込んだものの、やはりパワー差に泣かされ、結果は全日本ランカーの後塵を拝する5位。しかし最低目標とした「九州勢1位」のターゲットは見事にクリアしてみせた。  「デミオに乗り換えて1番いいのは軽いこと。ヴィッツはその辺、やはり重たいんで、下りのコーナーとかは本当に真横向けて4WDみたいにして降りてくる感じだったんですけど、デミオはそれがなくオン・ザ・レール。でも、僕自身の走らせ方で言えば、正直ヴィッツの方が嬉しい(笑)。クルマ横向けて本当に『ダートラ』って感じで走れますから」
 その笑顔は、本人の当初の思惑とは別に進みながらも、完全復活を遂げた輝きに満ちていた。

松田選手も復活組の一人。JAFカップは今回が初出場だったが、乗り慣れないデミオで攻めの走りを見せて、九州勢最上位を獲得。

 最後の登場は、昨年、九州地区戦チャンピオンの肩書を引っ提げてJAFカップに参戦した南義則選手だ。そのマシンは外見こそ、CJ4Aミラージュに近いが、歴代のランエボが積んできた三菱の名機、4G63型エンジンを搭載したFFのモンスター改造マシンだ。その分、気苦労の耐えない『相棒』だという。

 「今年は私にとってはツキまくったシーズンでしたね。えらいトラブルが少なかったちゅうことが第一ですね。このクルマはどうしてもドライブシャフトに致命傷を抱えるちゅうか、トラブルが起きるんですが、それが今年は1本しか折ってないんです。これは、対策したからとかではなく運、ただ単に運です(笑)。乗り方を工夫したとかもなく、無我夢中で踏んどったんで」

 そう謙遜する南選手は、ダートラ歴25年の大ベテラン。「常に恋の浦に置いてある」というこのミラージュととは平成17年以来の付き合いで、すでに17シーズン目を数える。
 「なので完全に手の中というか、私の子供みたいなもんで。あ、孫ですかね、孫みたいなもんです。全日本は九州だけ出て、他のところは走ったことないです。地区戦のチャンピオンも今年何回目か、よう覚えとらんですけどね」

 その南選手にとってのJAFカップは「シリーズ戦からも離れとりますし、何か1年最後の締め括りみたいなもんですね。今年も最初から『獲りたい』というよりは、まあ『走りたい』という思いの方が強くて。何とかクルマもってくれよ、と」
 地元佐賀から恋の浦に足繁く通い続けた。今回のJAFカップでも、ドライブシャフトを気にかけつつも、タイヤチョイスに悩む、楽しくも緊張感ある時間を過ごした。

 「地元で漁父の利があればということでね、自分のクラスでは私が一番走り慣れてると思いますけど、技術がまだまだなので。このコースは技術もそうですけど、気合半分というところもありますし。ドラシャがもって、1本目に何とかタイムが残れば、2本目は一発勝負のタイヤに賭けて、行けるかなという感じですね」 そう語りながら、1本目は中間からベストを記録。2本目も島回りのテクニカルなセクションで舵角の少ないコンパクトなラインで熟達のドライビングを披露したが、全日本勢の背後につけるクラス4位でゴールした。

 「来年も地区戦を追いかける、というか、もうそれしかやることないですから、この年になったらですよ(笑)。他に何もやってないですし、ダートラだけです。でもやっぱり楽しいですね、ダートラは。こうして手軽に勝負できるんが、割といいんです」と、改造車にこだわり続ける大ベテランは、最後まで、モータースポーツ満喫、という表情を見せ続けてくれた。

九州地区戦では知らぬ者のない、独独のカラーリングのミラージュで参戦を続ける南選手。改造車のミラージュはツボにハマれば滅法速い。

 ともに参戦して後輩たちに胸を貸すチャンピオンもいれば、復活を機に、さらなる上を狙うステップボードとして、照準を合わせるドライバーもいる。そして何より、自らとの対話を楽しみつつ、自らのスタンスで、この年イチの大勝負を満喫するドライバーもいる。コースを相手に一度として同じシチュエーションがない、だから一筋縄ではいかない。それがジムカーナ/ダートトライアルという競技。全神経を研ぎ澄まして、僅か1分半程度のトライに賭ける地方戦士達の走りを、ぜひ観戦してほしい。

今年のJAFカップの詳細は、下記を参照下さい。
2019JAFカップオールジャパンジムカーナ(11月9〜10日・筑波サーキット・コース1000)
http://eas-japan.com/2019jafcup/

2019JAFカップオールジャパンダートトライアル(10月26〜27日・オートスポーツランドスナガワ)
http://agmsc.site/jaf-cup-dt

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