【オフィシャル連載コラム 第2回】オフィシャルはどんなことをするの? その仕事をリアル解説!
2026年10月26日
オフィシャルたちの業務は「役務」と呼ぶ
モータースポーツの競技会は多くのオフィシャルによって支えられています。コース脇に設置された監視拠点(ポスト)で旗を振る姿を見かけたことがある人も多いかもしれません。しかし、オフィシャルの役務はそれだけではありません。今回はそのオフィシャルが、競技会でどのような役務に就いているかを解説します。
なお、モータースポーツの世界ではオフィシャルの担当業務を「役務(えきむ)」と呼んでいます。あまり聞きなれない言葉かもしれませんが、オフィシャルをはじめとするモータースポーツを支える側の人々の世界では一般的に使われている言葉で、この連載でもたびたび登場する言葉ですので、ぜひ覚えてください。
「コース委員」は競技会の安全を最前線で支える
さて、モータースポーツのオフィシャルという言葉を聞くと、やはりポストで旗を振る姿をまず思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。コース委員(コースオフィシャル)と呼ばれる彼らの役務は、旗を振るだけに留まりません。例えば、レースで前方に危険があることを知らせる黄色い旗が振られるのは、よく見られる光景です。追い越しが禁止となるこの黄旗の区間で、違反行為がなかったかを確認するのもコース委員の大切な役目です。
そしてコースを安全な状態に保つことも、コース委員の重要な仕事です。その日最初の競技が始まる前や、次の競技が始まるまでの間に竹箒などを使って路面を掃いている彼らの姿は、実際にサーキットなどで観戦したことがある人にはおなじみの光景でしょう。砂や小石、タイヤかす、また細かい部品などが落ちていないか、そしてオイルが漏れた跡がないか、コース委員は競技の間にチェックします。
また、アクシデントなどにより競技車両が停止した場合は、レスキュー担当のコース委員が現場に急行して処理にあたります。もし選手の負傷が疑われるような場合は、さらに救急/救護委員(救急/救護オフィシャル)も出動して選手の救護にあたり、救急の措置が必要な場合はサーキット内にある医務室に搬送され、医師が対応します。通常、彼らはコース内にある複数の指定場所に待機し、アクシデントに備えています。
そして、選手の救出や競技車両の撤去が行われた後は、ポストのコース委員がアクシデントによって散乱したパーツや、掻きだされた土や砂、小石の処理などコースクリアのための作業をします。この間、各ポストでは黄旗が提示されますが、場合によっては赤旗が提示されて競技は一旦、中断されます。そしてコース委員による措置がすべて終わり、コース上の安全が確認されるのを待って緑旗が振られ、競技再開となります。
パドック・ピットでも活躍するオフィシャルたち
また、競技会を司るコントロールタワー、そしてピットやパドックの周りにも、多くのオフィシャルがさまざまな役務に就いています。競技車両や関係者の一般車両、トランスポーターなどが行き交うパドックでは、パドック委員(パドックオフィシャル)が車両と人々がトラブルなく通行できるよう、適切な誘導を行っています。
レースでは、ピットレーンのあるエリアにピット・グリッド委員(ピット・グリッドオフィシャル)がいて、担当するピットの競技車両が規則に沿ったかたちで作業を行っているかを確認しています。耐久レースなど長時間になれば、当然のことながら彼らの業務も一層、高い集中力が要求されることになります。
さらにスタート時、競技車両が決められた位置に停まり、違反なくスタートしたかをチェックするのもピット・グリッド委員の役割となります。ピットウォールを挟んでコースとピットレーン双方に目を凝らす幅広い洞察力が求められる仕事です。
競技車両などの検査官「技術委員」、そして競技会の結果をつくる「計時委員」
パドックの一角などに設けられている車検場では、技術委員(技術オフィシャル)が競技車両や装備品などの検査(車検)を行います。車検は主に練習走行などの前に全選手・車両を対象として行われ、安全装備などに重点を置いたチェックが実施されます。そして決勝後は、上位入賞選手の車両などを対象に、規則に従っているかを検証する再車検が行われます。
一方、コントロールタワーの中では計時委員(計時オフィシャル)が、競技の結果を記したリザルト作成のための作業を行っています。ひと昔前までは、競技中に目視で目の前を通過する車両の順位判定を行うのも計時委員の主要な役割でした。現在は車両の周回数やラップタイムを計測するシステムが確立され、微妙な順位判定なども計時室内に吊り下げられたスリットカメラなど、電子の眼なども用いて判定しています。
ただしリザルトの作成はペナルティタイムを加算したり、それに伴う順位の変動などの確認作業があり、特に長時間に及ぶ耐久レースともなれば、やはり計時委員の作業量は膨大なものになります。レースに限ったことではありませんが、モータースポーツでは競技終了後にはまず順位などの暫定結果が出され、そののちに出る正式結果によって順位が確定し、賞典の授与などが行われます。その意味でも計時委員の役務も不可欠なものと言えるでしょう。
オフィシャルライセンスごとの主な役務一覧表
| ライセンス種類 | 主な活動内容 | 主な活動場所 |
|---|---|---|
| コース | コース監視、旗信号補助、ピット管理、パドック安全管理など | コースサイド、ピット、パドックなど |
| 技術 | 車両・装備品等検査、規則適合確認、車検業務など | 車検場、パドック |
| 計時 | 周回計測、順位判定、公式記録作成など | コントロールタワー |
コントロールタワー内のレースコントロールが競技会の中枢を担う
そして、レースではコントロールタワーの中に競技会の中枢となるレースコントロールがあり、競技長をはじめ各委員長が目の前に並べられた複数台のモニターや、オフィシャルからの報告などをもとにサーキットの状況を把握し、競技会の進行を司っています。必要な場合は各委員長がオフィシャルに指示を出します。またペナルティの審議などについては、コントロールタワー内に設置される競技会審査委員会が裁定します。
オフィシャルの一日を追う
オフィシャルの一日は朝、各担当ごとに行われるミーティングで始まります。当日の競技の注意事項などの周知徹底や、コースコンディションの情報についても共有が図られます。
その後、各々担当する現場に移動して役務をこなすことになり、コース委員はコース清掃、技術委員は練習走行前の車検などを行い、他のオフィシャルも競技車両の走行が始まればそれぞれの役務に専念することになります。
通常、競技会では昼に参加者・オフィシャルともに休憩できるような時間を設けたタイムスケジュールが組まれます。しかし、計時委員は午前最後の走行が終わってからリザルトをつくる作業があるので、すぐには休めません。また他の委員も、アクシデントが起きた場合のコース整備など、不測の事態にも備えて各々が工夫して交代で昼食がとれるような体制が採られています。
最後の競技がアクシデントもなく無事に終了すれば、ポストを担当するコース委員のコース上での役務が終了しますが、技術委員には再車検が、計時委員にはリザルト作成が控えています。規模が大きい競技会などではコース上に上位入賞車両を並べたりする場合もあるので、ピット・グリッド委員は該当する競技車両を誘導します。救急委員は近年、レースでは特に夏場の競技後に選手が熱中症に近い症状を訴える場合もあるので、全ての選手と競技車両が無事にピットに戻れたかまで確認するかたちになっているようです。
各委員は担当する現場から戻ると、デブリーフィングを行います。競技中に起きた事象や気づいた改善点の報告、翌日も競技会が続く場合は確認事項の共有などを行ったのち、オフィシャル活動の一日は終了します。
あるオフィシャルの一日
| 時間 | 主な活動 |
|---|---|
| 07:00- | 出勤・受付・集合 (着替え準備、朝食など) |
| 07:30-08:00 | ブリーフィング (スケジュールや配置場所の確認、注意事項共有など) |
| 08:00-08:30 | 持ち場へ移動 |
| 08:30-09:00 | 競技前業務 (各種準備や確認) |
| 09:00-12:00 | 走行開始・午前の競技運営 (練習走行や予選走行における役務) |
| 12:00-13:00 | 昼休憩 |
| 13:00-16:00 | 午後の競技運営・競技終了 (決勝走行における役務) |
| 16:00-17:00 | 結果確認・撤収 |
| 17:00-17:30 | デブリーフィング (当日の振り返り、改善点や連絡事項の共有) |
| -17:30 | 解散 |
年間の活動回数はどれくらい?
さて、モータースポーツの現場で活動しているオフィシャルの人々は、年間どれぐらいの数の競技会に関わっているのでしょうか。全日本スーパーフォーミュラ選手権やスーパーGTを開催している全国の主要JAF公認サーキットでは、独自のシリーズも年に数回、開催されています。鈴鹿サーキットを舞台とした「鈴鹿チャンピオンカップレース」や、富士スピードウェイで行われる「富士チャンピオンレースシリーズ」、スポーツランドSUGOの「SUGOチャンピオンカップレースシリーズ」がその代表格です。
例えばレースのオフィシャル活動の頻度は、このような地元のシリーズの他、年に数回開催されるビッグレースでも役務をこなすとなると、およそ一年で5~8回が一般的なようです。
オフィシャル入門の第一歩を踏み出そう!
サーキットやコースでは、「モータースポーツを支えたい」という気持ちを持ったたくさんのオフィシャルが、それぞれの役務に就いています。これからオフィシャルを始めてみたい人の中には、その思いが叶えられる場所なら、どんな役務でも構わないという人もいると思います。その場合は一度、サーキットやコースに相談してみましょう。アナタに最適と思われる役務を紹介してもらえるはずです。
また、「どうしても自分はポストの中で仕事をしたい!」とか、「クルマのメカが好きなので、技術のオフィシャルをやってみたい」という人は、その希望をあらかじめ伝えておけば、大抵は希望する役務に就けるはずです。
オフィシャルは大別すると、ポストやピット・グリッドなど屋外で活動する役務と、計時など屋内での役務に分かれます。オフィシャルとしての自分の適性を判断する際も、まずはどちらで活動したいのかを自分で考えてみるのも良いでしょう。
やってみて、どうしても自分に向かないと思ったら、別の役務を希望しても良いでしょうし、まず体験してみてから、自分に合う役務を見つけるのも良いかもしれません。初心者のうちは、まず担当の役務についたら、先輩たちの働きぶりを見ながら一連の流れを理解していくことになります。それができるようになれば、徐々に具体的な役務を任されるようになるはずです。
オフィシャルの現場を体験してみたい、という人に向けて「オフィシャル体験会」が用意されているので、ぜひ一度、サーキットやコースなどに足を運んでみましょう。
まずは「オフィシャル体験会」へ行ってみよう!
オフィシャルの世界を垣間見たいという人には、サーキットで開催されているオフィシャル体験会がオススメです。これは実際にレースが開催されている現場でオフィシャルの活動を見学できるもので、ここ数年、各地のJAF公認サーキットで開催されるようになっています。
ポストに入って、実際に旗を振るオフィシャルの姿を近くで見学できるほか、さまざまなセクションの現場で担当のオフィシャルから直接、役務の内容を解説してもらうことが可能です。またコントロールタワーではめったに近づくことができない計時の現場も見学できるなど、オフィシャルの世界を五感で知ることができる臨場感に溢れた体験会になっています。興味がある人は、まず最寄りのサーキットのホームページを見て、体験会の情報をチェックしてみましょう。
PHOTO/今村壮希[Souki IMAMURA]、後藤佑紀[Yuuki Gotou]、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS] REPORT/田代康[Kou TASHIRO]、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS] PRODUCTION COOPERATION/スポーツランドSUGO[SPORTSLAND-SUGO]、菅生レーシングスポーツクラブ[SRSC]、オートパラダイス御殿場[AUTO PARADISE GOTEMBA]、チームマグナスオートクラブ[TMAC]

