誰が一番速いのか? ついに実現したプロドライバーと現役トップカーターのカート対決!

レポート カート

2021年7月1日

6月27日、鈴鹿サーキット国際南コースで開催された2021鈴鹿選手権シリーズ第3戦 KARTRACE IN SUZUKA、その併催レースとして行われた『エクスジェルOKチャンプシリーズ2021』の第2大会に、スーパーGTなどで活躍中のレーシングドライバー6名がスペシャルゲストとして参戦。カート界の若きトップドライバーたちと、ドリームマッチと呼ぶにふさわしい本気のレースを繰り広げた。

エクスジェルOKチャンプシリーズ 2021 第3戦/第4戦
開催日:2021年6月27日
開催地:鈴鹿サーキット国際南コース(三重県鈴鹿市)
主催:SMSC

 OKチャンプは今季から始まったカートレースのシリーズ戦(全3大会/6戦)で、全日本カート選手権でも最高峰クラスに採用されているOK部門のマシンを使用したレースだ。大会ごとにワンメイクタイヤの指定メーカーが替わるのが大きな特色で、この第2大会ではダンロップが指定タイヤとなっている。

 今回の大会にスペシャルゲストとして出場したのは、ロニー・クインタレッリ選手(TAKAGI PLANNING)、福住仁嶺選手(VITEC racing)、大津弘樹選手(CUORE)、大湯都史樹選手(VITEC racing)、笹原右京選手(TEAM EMATY)、佐藤蓮選手(DragoCORSE)。いずれも日本を代表するトップレベルのレーシングドライバーであると同時に、カート時代にもそうそうたる戦績を残してきたドライバーばかりだ。

 そのスペシャルゲスト勢と対決する現役カートドライバーたちも、現在の日本のカート界を代表する顔ぶれがズラリと揃っている。この豪華な出場選手たちの中から注目選手をピックアップして、カートでの主な戦歴をご紹介しよう。ただし、これはほんの一部だ。

豪華なメンツがそろったOKチャンプのスペシャルゲスト勢。左から2008年全日本カート選手権KF2部門チャンピオンの大津弘樹選手、2010年ジュニアカート選手権FP-Jr部門チャンピオンの大湯都史樹選手、2009年/2011年 ROTAX GRAND FINALS・Jr MAXチャンピオンの笹原右京選手、2013年全日本カート選手権KF1部門チャンピオンの福住仁嶺選手、1999年ヨーロッパ選手権フォーミュラCチャンピオンのロニー・クインタレッリ選手、2017年/2018年全日本カート選手権OK部門チャンピオンの佐藤蓮選手。

「久しぶりのカートコースで昔のことを思い出して、楽しくやってます。レースでは順位うんぬんより、普通に速く走りたいです」と福住選手。また笹原選手は「実はOKのカート自体が初めてで、キャブレターに触るのもジュニア選手権以来(笑)。新鮮な気分ですし、カートの雰囲気は楽しいですね」と笑顔でコメントした。

 一方、「プロドライバーがみんな参加するという話を聞いて、いい機会なので自分も出てみようと思いました。『佐藤蓮がカートレースに帰ってきたぞ』とみんなを納得させられるような走りをしたいですね」とカート現役時代を彷彿とさせる意気込みを語る佐藤選手。

 スペシャルゲスト勢は本番に向けて秘かに事前練習に通うなど本気度を露わにしたり、久々に体験するカートレースの雰囲気を笑顔でエンジョイするなど、さまざま。共通して言えるのは、皆、この大会をとても待ち望んでいたということだろう。

 カート界のレジェンドと現役カートドライバーが最高峰のマシンを駆って本気で戦う、このかつてないドリームマッチは、大会前から大きな話題を呼び、会場にはギャラリーも多数来場した。

モータースポーツファンのために、大会前日と当日の昼休み時間にはパドックの一部を開放して、スペシャルゲスト全員参加の写真撮影タイムが設けられ、ファンを喜ばせていた。

 エントリーは全23台。まず行われたタイムトライアルでは、前大会2連勝の野村勇斗選手(Ash)が48秒179のトップタイムをマークして決勝ヒート1のポールを獲得した。2・3番手は卜部和久選手(TEAM EMATY)と前田樹選手(Team Regolith)。

 スペシャルゲスト勢では佐藤選手がトップと0.077秒差の4番手につけ、笹原選手が6番手、大津選手が10番手に。そして15~17番手にクインタレッリ選手、福住選手、大湯選手が並んだ。

 2ヒート制の決勝は、各ヒート20周だ。曇り空の下、ドライコンディションを保って行われたヒート1では、スタート直後の1コーナーで笹原選手がブレーキトラブルのためスピンするハプニングが。レースは野村選手が1周目から後続を引き離し、独走でシリーズ開幕3連勝。卜部選手が単独走行で2位となった。

 スペシャルゲスト勢では、佐藤選手が切れ味鋭いオーバーテイクを披露して3位表彰台をゲット。大津選手が一時は3番手を走って6位に。大湯選手が最終ラップにクインタレッリ選手をオーバーテイクして10位となり、11~12位にクインタレッリ選手と福住選手が続いた。

並みいる強豪を抑えてシリーズ開幕3連勝を飾った野村勇斗選手。「レース後半にタイヤの不安があったんですが、最初からプッシュして、中盤からは後ろを見ながらレースをコントロールして、結果としてタイヤを労わることもできました。後ろが離れて、気持ちにも余裕を持って走れました。(ヒート2のグリッドを決める)ファステストラップのことは、まったく気にしていませんでした」
今シーズンは全日本と地方選手権で表彰台を獲得している卜部和久選手が、2位入賞と大健闘! 3位はスペシャルゲスト勢で最上位の佐藤選手が獲得した。
第3戦の表彰式。左から2位の卜部選手、1位の野村選手、3位の佐藤選手が登壇。

 ヒート1のベストタイム順で決まるヒート2のグリッドは、佐藤選手がポール。洞地遼大選手(K.SPEED WIN)が2番手に続き、ヒート1優勝の野村選手は3番手だ。大津選手は8番グリッド。クインタレッリ選手、大湯選手、福住選手は今回も12~14番手に固まって並び、笹原選手は最後尾からのスタートだ。

 そしてヒート2が始まると、スタートで野村選手がトップを奪うが、佐藤選手はすぐにトップへ復帰。ここから佐藤選手は後続からの厳しいチャージを跳ね除けて独走へと持ち込み、ブランクをまったく感じさせない走りで優勝を飾った。

 2位は11番グリッドからの猛追を演じ、一時は佐藤選手の勝利を脅かした堂園鷲選手(Energy JAPAN)。3位ゴールは最終ラップの混戦の中でポジションを上げた卜部選手だった。

 スペシャルゲスト勢では、大湯選手がトップグループの一角に加わって7位でフィニッシュ。福住選手は9位、大津選手は13位、クインタレッリ選手は14位に。笹原選手は4周で15ポジションアップを果たしたが、ブレーキパッドの固着でやがて戦列を去った。

「3~4コーナーが(直前の通り雨で)かなり濡れていて難しい状況でしたが、フォーメーションラップでいろんなラインを試してグリップするところが分かっていたので、落ち着いてバトルできました。(現役の選手たちは)みんな速さはすごく持っていて、将来は上で戦うことになるのかもしれないけれど、今の段階では総合力で負けていないのかな、と思います」と、実力を発揮した佐藤選手が優勝。
FS-125部門でも2連勝と波に乗っている堂園鷲選手が2位入賞を果たす。そして卜部選手は2戦連続の表彰台と安定の走りを披露した。
第4戦の表彰式。左から2位の堂園選手、1位の佐藤選手、3位の卜部選手が登壇。

 大会前日と大会終了後、この大会に参加したスペシャルゲストのドライバーたちに、参戦した経緯や感想を聞いてみた。

■ロニー・クインタレッリ選手(ろにー・くいんたれっり/41歳/TAKAGI PLANNING)

「トレーニングでカートに乗りに行ったサーキットで、たまたま高木虎之介さんに『こういうレースがあるからぜひ出てみようよ』と声をかけてもらって、すごく興奮して、迷わず参加を決めました。僕はとにかくカートが大好きなので、またカートレースに出られてうれしいです。今回はすごくいいチーム体制に恵まれたので、あとは僕次第ですね」と、今も全日本選手権などのカートレースをチェックしてるというクインタレッリ選手。その選手たちとレースできるのが楽しみな様子だった。
そしてレース終了後、「みんな速かった! ヒート2はセッティングがいい方向に行かなかったけれど、どちらのヒートもスタートで激しいバトルがあった時にいい対応ができて、最高のトレーニングになりました。カートの魅力は、メカニックとのコミュニケーションなど、すべてが近いこと。バトルも激しいし、すべてが楽しかったです。『カートってこんな凄いことをやってるんだ』と、本物のカートレースの魅力をいろんな人たちに知ってもらえて、すごく良かったと思います」とコメント。

■大津弘樹選手(おおつひろき/27歳/CUORE)

SRS(鈴鹿サーキットレーシングスクール)ではカートスクールの講師を務めている大津選手。「実はカートに乗る機会は今でも結構あったりするので、久々感はないんです。でも全日本規格のクルマに乗るのは10年ぶりくらいで、やっぱりエンジンの加速はめちゃめちゃ速いと感じました。レースではもちろん優勝も狙ってますけど、まずはゲストの中で速く走りたいし、現役の全日本カーターたちと戦えるっていうところも見せたいです。今のカート界も速い子が多いですね」と抱負を語った。
ヒート1ではトップ集団に食らいついて6位と健闘するも、ヒート2は中団グループに飲み込まれてしまって13位フィニッシュ。この結果を受けて、「今回OKチャンプでレースをしてみて、自分の走り方は古いのかもしれないな、と改めて思いました。カートは日々どんどん進化しているわけですし、ブレーキングだとか転がし方だとか、今のカートの走らせ方があれこれ見えた部分がありました」と、自身にとっても良い刺激が受けられた1日となったようだ。

■大湯都史樹選手(おおゆとしき/23歳/VITEC racing)

大湯選手はプレミアものの温泉マーク入りの特製レーシングスーツで意気込むも、「いや~もうね、現役に勝つのは絶対に無理(笑)。技術的にも慣れがなくなってるし、体力的にも四輪とは使うところが違うんで、余計な力が入ってとにかく疲れましたよ。これはいいダイエットになると思います(笑)。今回のメンバーは豪華すぎますよね。最初はここまでじゃなかったはずなのに……。今回の目標は、目立つことかな。来てくれたお客さんに楽しんでもらえるレースをしたいですね」
「なんだかんだでヒート2でジャンプアップできて、楽しかったです! 本当はこんなにガチでレースするつもりじゃなかったんですけど、なんだかやらざるを得ない状況になっちゃいました。今回もピットレーンで仲間が真剣に指示出ししてくれたりして、カートレースはみんなでいっしょにワイワイやれる楽しさがありますよね。僕も走りながら、その楽しさをいっしょに感じられました」と、ジュニアカート選手権に参戦していたころのように、童心に返った表情でレースを振り返った。

 同じく現役ドライバーたちにも大会前日と大会終了後に、スペシャルゲストドライバーたちと一緒に走ってみての感想を聞いてみた。

■洞地遼大選手(ほらちりょうた/15歳/K.SPEED.WIN) 2021年全日本カート選手権OK部門参戦

「もちろんレースには勝ちたいんですけど、それより(ゲスト勢から)コミュニケーションの取り方とかをいろいろ勉強したいです。ゲストの選手たちの近くで走る機会はまだあまりないですが、速い人たちは、いきなりカートに乗ったのにすぐにコーナーに突っ込んで、タイヤの特性を早く見つけているところがすごいと思います」と、洞地選手は驚きを隠せない様子。
「ヒート2では路面が濡れているところにうまく対応できなくて、終始ペースが悪かったです。(佐藤)蓮君なんかは、上手すぎます。チームの調子が良くない時でもその中で常に速かったし、ハンドルもぜんぜん切ってなくて、自分は上手さがぜんぜん足りないなと思いました」と反省するも、これからのレース活動に役立つ新たな課題を得られたことだろう。

■堂園鷲選手(どうぞのしゅう/13歳/Energy JAPAN) 2021年全日本カート選手権FS-125部門東地域参戦

さまざまなレースに参戦して経験と実力を身につけている堂園選手。「(ゲスト勢がたくさん参加してきて)モチベーションが上がります。ゲストの人たちの走りはまだあまり見られていないんですが、中でも佐藤蓮選手はすごく突っ込んだ走りをしていて、特にブレーキが上手いなと感じました」と、元チャンピオンの走りをしっかりと研究していた。
レースを振り返って「(ヒート2でトップの佐藤選手に追い付いてから)自分のペースが落ちたわけじゃないんですけど、バトルをした時に佐藤選手と離れて、そこからは追い付くことができませんでした。佐藤選手はコーナリングスピードが速くて上手かったです。勝てたレースだったのに勝てなくて、2位でもうれしい気持ちはないです」と悔しさを滲ませた。

 なお大会裏話として、大津選手のチームであるCUOREでは、チーム監督の伊沢拓也氏がマシンをいじって掃除をして、誰より甲斐甲斐しく働いていた。またレース終了後、クインタレッリ選手はすぐには帰らず、後片付け終了後のチームミーティングにもしっかり参加していた。

 そして特筆すべきはヒート1のスタート直後、ブレーキ固着の前触れと思われる180度スピンを喫した笹原選手が、ブレーキをかけずにマシンをバックさせて後続の衝突を回避したことで、クラッシュはゼロ。これらプロドライバーたちのレースに臨む真剣な姿勢が印象的だった。

 YouTubeで映像配信された2つのヒートの生中継とそのアーカイブの合計視聴数は、大会翌日の時点で1万3000回を超えた。決勝日は中野信治氏も視察に来ており、次回は参戦するとの噂も!? このOKチャンプに対する注目度の高さがうかがえる大会だった。

OKチャンプは次回、8月15日に2021シリーズを締めくくる第3大会(指定タイヤ:ヨコハマ)が鈴鹿サーキットで行われる。

フォト/JAPANKART レポート/水谷一夫、JAFスポーツ編集部

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