WRC第12戦ラリー・スペイン、新たな領域に挑む勝田貴元選手は7位!

レポート ラリー

2022年10月28日

2022年FIA世界ラリー選手権(WRC)第12戦『ラリー・スペイン』が10月20日~23日に開催された。ラリーはバルセロナの西に位置するビーチリゾートで知られるコスタ・ドラダの都市、サロウが拠点。ヨーロッパラウンドを締めくくるこのピュア・ターマックラリーに、TOYOTA GAZOO Racing WRCチャレンジプログラムに参加中の日本人ドライバー、勝田貴元選手もGR YARIS Rally1 HYBRIDで参戦、7位で完走を果たした。

2022年FIA世界ラリー選手権 第12戦
ラリー・スペイン

開催日:2022年10月20~23日
開催地:スペイン・サロウ周辺

 かつてラリー・スペインはターマックとグラベルの両路面を持つミックスサーフェスラリーとして開催されてきたが、2021年から完全なターマックラリーとして開催。同ラリーに4回の出場経験を持つ勝田貴元選手は、これまでに完走した経験はないものの、「ラリー・ジャパンに向けてターマックのフィーリングを掴むために少しでも距離を稼いでいいポテンシャルを発揮したい」とのことで、次戦の母国イベントへの最終調整がターゲットとなった。

 20日に行われたシェイクダウンは雨の影響によりウエットコンディションとなったが、「今回は事前のテストができなかったんですけど、フィーリングが良かったし、イプルー・ラリー・ベルギーで学んだことを活かせたと思います」と語ったように2番手タイムをマーク。それだけに21日のデイ1から勝田貴元選手とコ・ドライバーのアーロン・ジョンストン選手の躍進が期待された。

 しかし「出走順が5番手ということもあって、インカットではグラベルが出ていました。グラベルクルーとのすり合わせがうまくできずに、少しペースを落としすぎていました」と語った勝田貴元選手はファーストループを6番手~8番手タイムにとどまるなど厳しい立ち上がりを強いられていた。

 それでも「午前中のループは濡れている路面に対してソフトタイヤを装着していたので、セーフティサイドからスタートしましたが、午後のループからはグラベルクルーともうまくすり合わせができたことで改善することができました。セッティングも午前中はリアのグリップを重視していたんですけど、午後はフロントの入りを重視してデフとシャシーのセットアップを変更したことも良かったと思います」と語った勝田貴元選手はSS6で4番手タイムをマークするなどペースアップを実現していた。

 しかし、SS7で予想外のハプニングが勝田貴元選手を襲う。「ハイブリッドが使えなくなったほか、インカットの際に左フロントタイヤをパンク。ビートが落ちてホイールだけで走る状態になりました。残り3kmだったんですけど、ハイスピードなSSだったので差がつきました」と語ったように、トップから42秒遅れの11番手タイムに失速。

 それでも、「雨が降り始めていたんですけど、ペースを取り戻すことができました」と語るように勝田貴元選手はこの日最後のSSとなるSS8で5番手タイムをマーク。SS7での失速が響いて総合順位では8番手だが、それでも勝田貴元選手は手応えをつかんでデイ1を終えた。

 事実、勝田貴元選手は翌22日のデイ2で素晴らしい走りを披露。とくに24.18kmのロングステージ“El Montmell”を舞台にしたSS14では、「フィーリングが良かったです。(SSトップのダニ)ソルド選手が速かったし、タイヤが後半厳しくなってペースが落ちたんですけど、(SS3番手のセバスチャン)オジエ選手とはそんなに差がありませんでした」と語ったように4番手タイムをマークした。

 その勢いは23日のデイ3でも健在で、勝田貴元選手はSS17で5番手タイムをマークし、最終のパワーステージとなるSS19を迎えた。「フィーリングが良かったので、パワーステージは最初からプッシュして行きました。それまでプッシュしたことのないほど、クルマとタイヤの限界まで攻めたんですけど、前半でミスが多くてタイムロスしました」と勝田貴元選手。それでも5番手タイムでフィニッシュし、貴重な1ポイントを重ねて7位で完走を果たした。

「初めてスペインで完走したことはポジティブでしたし、多くの学びを得ることができました」と語った勝田貴元選手は「SS7でパンクしたんですけど、タイヤを見てみるとスパッと切れていたので、イン側に金属系の突起物があったのかもしれません。レッキの時は確認できなかったんですけど、午前中のループでパンクをした選手がいたので、なんでパンクをしたのか、気をつける必要がありました。それにロングステージのSS14の後半ではタイヤが厳しかったので、タイヤをオーバーヒートさせないことの重要性を再認識しました」と語った。

 さらに後半戦について「今後はポディウム争いをするために、リスクを追ってプッシュしたい」と語っていた勝田貴元選手だが、パワーステージを限界でアタックしたことで、オーバープッシュのタイムロスについても大きな学びがあったようだ。「パワーステージはオーバープッシュによって前半だけで3秒近くのタイムロスをしていましたが、6km以降はミスを減らすために侵入スピードを抑えて走りしました。そういった走りをしたらフィーリングが良かったし、(パワーステージを制した)オジエ選手と比べてもタイム差がほとんどありませんでした」と勝田貴元選手は自己分析している。

 そのうえで「前半戦は80%ぐらいで走っていたんですけど、95%から100%で走っているドライバーに離されていました。そこが足りていない部分だったので、今回のパワーステージでは99%のプッシュをしていたんですけど、タイヤやコンディションを考えると100%を超えている状態で、クラッシュはしていないけれど思ったラインをトレースすることができなかった。とくにRally1車両は重さもあるし、センターデフがないことで小さなミスがタイムに影響する。3km/hオーバースピードしただけでクリップにつけないほどシビアなクルマなので、100%近くプッシュするためには、ドライビングとペースノートの精度を上げていくことが次のステップになると思います」と付け加えた。

 このように新たな領域に踏み出そうとしている勝田貴元選手だが、最終戦として11月10~13日に開催されるラリー・ジャパンについて「日本の林道はアベレージが低いし、インカットもできないのでヨーロッパのSSと違いますが、ターマックの走り方やセッティングの持っていき方は、これまでの経験を行かせると思います。テストができないので持ち込みのセッティングを外した時は大変ですし、走ってみないと分かりませんが、最初からリスクを持ってプッシュして行きたいと思います」と語っているだけに、ラリー・ジャパンではTOYOTA GAZOO Racing World Rally Team Next Generationのドライバーとしてホームラリーに挑む勝田貴元選手の躍進に期待したい。

歴史を感じる塔と風力発電の風車、新旧のギャップが印象的な街並みと、カメラを構えるギャラリーたちの前を駆け抜ける勝田貴元/アーロン・ジョンストン組のGR YARIS Rally1 HYBRID。ターマックラリーではコーナーのイン側をショートカットする“インカット”を多用するため、路面に砂や土、時には泥などで汚れていることが多い。サーキットのようなきれいな舗装路ではない路面への対処も、上位進出のカギを握る。

 なお、優勝を巡る争いでは、前戦のラリー・ニュージーランドで2位入賞を果たしたセバスチャン・オジエ/ベンジャミン・ヴェイラス組がGR Yaris Rally1での初優勝を獲得し、オジエ選手はWRC55勝目を達成。さらに前戦で今季6勝目を獲得し、史上最年少記録となる22歳でドライバーズチャンピオンに輝いたカッレ・ロバンペラ選手とヨンネ・ハルットゥネン選手のクルーは3位に入賞した。

 この結果、TOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamが最終戦を待たずしてマニュファクチャラーズ部門とドライバーズ部門、コ・ドライバーズ部門のチャンピオンを同年に獲得する“三冠”の二連覇を達成。トヨタとしては通算6回目のマニュファクチャラーズチャンピオンの獲得で、WRCではランチアの10回、シトロエンの8回に次ぐ、歴代3位の記録となった。

特長的な“R”の文字をかたどったトロフィーを掲げる、優勝したセバスチャン・オジエ選手(左)とコ・ドライバーのベンジャミン・ヴェイラス選手。オジエ選手は55回目のWRC優勝だが、今季からオジエ選手とクルーを組むヴェイラス選手はWRC初優勝を果たした。

フォト/TOYOTA GAZOO Racing レポート/廣本泉、JAFスポーツ編集部

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