九州ラリー選手権 第2戦は激戦区RH1クラスで岩本昴大/岸本香太郎組が初優勝

レポート ラリー

2024年5月1日

九州ラリー選手権は、開幕戦から約1か月のインターバルを経た4月20~21日に、第2戦「ひむかラリー2024」が宮崎県で開催された。

2024年JAF九州ラリー選手権 第2戦
2024年JMRC九州ラリーチャンピオンシリーズ 第2戦
「ひむかラリー2024」

開催日:2024年4月20~21日
開催地:宮崎県高千穂町周辺
主催:R-10-N

 今年の九州ラリー地区戦は、昨年と同じく全7戦の開催が予定されている。6月までほぼ1か月おきに第4戦までが行われ、シリーズ前半戦が終了。8月末~9月第1週にシリーズが再開となり、10月第4週の土曜日に最終戦が1DAYイベントとして行われ、シリーズが幕を閉じる。路面はすべてターマックとなる予定だ。

 各イベントのスケジュールも昨年と変わらず、まず福岡でJAF加盟クラブ、モータリストクラブあかしあ(MCA)主催による開幕戦が行われた後に、第2戦は宮崎の加盟クラブであるルート.10.延岡(R-10-N)が受け持つという順番もここ数年、しっかり定着している。

 R-10-Nは1980~1990年代にかけて宮崎県椎葉村を舞台に、全日本ラリー選手権の名物ラリーとして知られた「ひえつきラリー」を主催したクラブで、全日本の主催を離れた後も、宮崎の地で九州ラリー地区戦を主催してきた。今年は、昨年初開催した高千穂町が再びホストタウンとなったが、地区戦へ移行後にネーミングされた大会名の「ひむか」を今年も踏襲している。

「ひむか」は現在、宮崎県北広域観光圏の名称としても知られており、このエリアにはR-10-Nが過去ラリーを開催してきた椎葉村や美郷町も含まれる。かつては、「ひえつき」がR-10-Nのラリーの代名詞だったが、「ひむか」がすっかりその位置を受け継いだ形だ。

 ラリーのフィールドが高千穂町に移った経緯については、ここ数年の天候の不安定化が影響しているとR-10-Nの米良薫代表は語る。「集中豪雨などで、これまで使用していた林道が崩壊して使えなくなるということが何度か続いて、ラリーの開催には苦労してきました。ただ高千穂町の山間部の道は、元々が硬い地盤の上に、太古の昔に阿蘇の火砕流が4度にわたって“コーティング”したという歴史もあって、非常に安定した路面が整備されているので、ラリーには最適なエリアなんです」

 今回、ラリーが行われたのは高千穂町の北部、標高1,000mを超える高地を縫うように敷かれたターマックロード。ヘッドクォーターが置かれた四季見原すこやかの森キャンプ場に至っては、何と標高1,200mに位置する“雲上のキャンプサイト”として知られているという。

 ラリーはキャンプ場周辺の林道6.75kmをSSとして使用し、サービスを挟んでふたつのセクションで2回ずつ、計4本、27.0kmを走るという設定。SSの終盤にあるジャンクションからゴールまでの約2kmは、昨年のラリーでもSSとして使われたが、ジャンクションに至るまでの部分は今回初めて設定された。リエゾンを含めたラリールートの総距離は49.39kmとコンパクトなラリーとなっている。

 天候は前日のレッキ終了後から降った雨が路面に残った状態で、曇天の中ラリーは朝8時にスタート。ラリー前半は降雨もなく路面もドライ傾向になったが、サービス前から再び雨が降り出して、後半の2本のSSは再びウェット路面に戻るコンディションで行われた。

SSは、標高1000mを超えるエリアを縫うように走るルートが設定された。
入賞者にJAFメダルのほか特製の楯や焼酎などが用意された。

RH1クラス

 9台が出走し、今回最多の激戦区となったRH1クラス。開幕戦では昨年のチャンピオンの松尾薫/平原慎太郎組のスバル・インプレッサ(GDB)が、トップに立ちながらもクラッシュでリタイアと波乱の一戦となった。松尾選手は傷めたリアセクションを修復して何とか第2戦に間に合わせたが、「まだ本来の動きに戻っていない」と苦戦を強いられ、今回は5位に留まった。

 チャンピオンが2戦連続で表彰台を逸する不調に見舞われたことで、レギュラー陣には図らずもチャンス到来と思われたが、このクラス参戦わずか2戦目の新人が彼らの度肝を抜くスピードを見せる。その岩本昴大/岸本香太郎組は、まずSS1で開幕戦ウィナーの津野裕宣/岡崎辰雄組を11.1秒の大差で2番手に従えると、SS2でも後続に約4秒差をつける連続ベストをマーク。2番手の津野/岡崎組に17.1秒の大量リードを築いてラリーを折り返した。

 ライバルの追撃はSS3から始まり、四国愛媛から遠征してきた岩堀巧/渡部洋三組が岩本/岸本組を9秒差で下して2番手に浮上。岩堀/渡部組は最終のSS4も連取したが、ここはペースを取り戻した岩本/岸本組がまったくの同秒で走り切って競技終了。最終的に岩本/岸本組が8.8秒差で岩堀/渡部組を振り切って、九州地区戦初優勝を達成した。

 かつて松尾選手が駆って九州地区戦に一時代を築いた、栄光のマシンであるGC8インプレッサを受け継いだ岩本選手は、「SS1から攻めましたが、最初はアンダーステアが強くて全然ダメだったので、途中から慎重な運転に変えたのが良かったのかもしれません。でもSS3は路面が濡れていたので、ちょっと置きに行く走りをしたら、一気に離されたのでラリーの怖さを思い知りました。これではまずいと、最後はSS1のように頑張って集中して走れたのが良かったと思います」とラリーを振り返った。

 昨年の後半からラリーを始めた岩本選手は長崎県佐世保市でカーショップを営む36歳。普段は店のお客さんとともにオートポリスやHSR九州を走行しており、舗装での走りやセッティング等に関しては経験を持っている。そうした経験を踏まえてか、今回のラリーでは、「前半の上り区間で敢えてリアタイヤを暖めるような走りをして、下り区間でしっかり攻め切れるような走りができた」ことも勝因の一つとしてあげた。

 小学生の頃、地元のハウステンボスで行われたスバルのイベントで、新井敏弘選手のGDBインプレッサのデモランを見て以来、ラリーに惹かれ続けてきたという岩本選手は、「ともかく1回、全日本ラリーに出ることを目標にやってきたので、いつか何とかして実現したい」とのこと。遅咲きルーキーの夢の実現への第一歩が始まったようだ。

 また2位に入った岩堀巧選手もまだ26歳と、今後が期待される若手有望株。中四国ラリー界のレジェンドドライバーとして知られる渡部洋三選手の教えを乞うべく、コ・ドライバーシートに迎えてのラリーとなったが、舗装仕様のトヨタ・GRヤリスで初めて臨んだラリーで2位を獲得。「丁寧に走ればタイムが出るのだということを学べた一戦でした。クルマにも慣れてきたので次は勝負をかけたいです」と、こちらもさらなる飛躍を誓っていた。

RH1クラス優勝は岩本昴大/岸本香太郎組(ガレージ27R.I&K GC8)。
2位は岩堀巧/渡部洋三組(MSワタナベ♩GRヤリス)、3位は津野裕宣/岡崎辰雄組(WM宮尾石油SPMランサー)。
RH1クラスの表彰式。左から1位の岩本/岸本組、2位の岩堀/渡部組、3位の津野/岡崎組、4位の廣川慎一/遠藤彰組、5位の松尾薫/平原慎太郎組、6位の神田和徳/後藤義則組。

RH2クラス

 RH2クラスは4台が完走と少数精鋭の戦いとなったが、昨年のシリーズ上位勢は今回も元気な姿を見せた。ただしこのクラスも、開幕戦で昨年のチャンピオンである林大河/重富駿組が躓いた。マツダ・ロードスターから乗り換えたばかりのトヨタ・86をコースアウトさせてしまいリタイアになったのだ。このため、林/重富組は急遽足回りを借りて暫定仕様での参戦となったため、苦戦が予想された。

 ラリーを序盤からリードしたのは、昨年、林/重富組とタイトルを競り合ったトヨタ・GR86の鶴田健二/門田実来組。筒井克彦/猪熊悠平組のスズキ・スイフトスポーツを約10秒差で下して好発進すると、SS2では筒井/猪熊組に1.3秒差まで詰め寄られるも再びベストを奪取してリードを広げる。全日本ラリー選手権も追っている筒井/猪熊組は全日本ではクラスが別になるGR86が相手とあって、厳しい戦いだ。

 鶴田/門田組はサービス後のSS3もベストを奪うが、ペースを上げてきた林/重富組が2.7秒差の2番時計をマーク。最終SSでは0.8秒差まで鶴田/門田組を追い詰めたが、ラリー前半の遅れが響いて25.4秒差の3位でゴールした。筒井/猪熊組は2位を守ったが、18.5秒届かなかった。

 雨の予報が出ていたことを踏まえ、同様に雨が降り続いた開幕戦でのGR86のセットをさらに煮詰めて臨んだという鶴田選手は、「SS1を獲れて今日のペースがつかめたので、最後までそのペースを保って走りました。フルウェットの仕様でしたが、ハーフウェットの時がクルマもタイヤも一番路面と相性が良かった感じなので、その辺は何とも」と苦笑しながらラリーを振り返った。今年も最大のライバルとなりそうな林選手のスピードについては、「だいぶ86というクルマを分かってきた感じなので、次は自分達ももう少しプッシュしないと厳しい戦いになるでしょうね」と、早速手綱を引き締めていた。

RH2クラス優勝は鶴田健二/門田実来組(カローラ福岡☆カロロの86☆)。
2位は筒井克彦/猪熊悠平組(TEAM221 DL スイフト)、3位は林大河/重富駿組(TWRクスコG38DLWM86)。
RH2クラスの表彰式。左から1位の鶴田/門田組、2位の筒井/猪熊組、3位の林/重富組、4位の山内英一郎/内藤通孝組。

RH3クラス

 RH3クラスは北垣恵一/近藤員章組のトヨタ・ヴィッツがSS1、SS2と連取して順調なスタートを切るが、ダイハツ・シャレードを駆る西高志/岡智典組が、2本のSSをほぼ同じタイムで走った北垣/近藤組に対して、4秒近いタイムアップを遂げて追撃態勢に入る。しかし折り返し後のSS3では、北垣/近藤組は7.3差と再びマージンを広げてゴール。SS4でも西/岡組に9.7秒差をつけて走り切り、トータル33.4秒差という盤石の走りで逃げ切った。

「自分としてはSS2は頑張ったつもりでしたが、『まだ80%程度の走りだから、あと10%は行ける』とコ・ドライバーに言われたので、後半の2本はアクセルを長く踏み続ける走りを心掛けました」と振り返った北垣選手は、これが地区戦初優勝。「10年、地区戦を追っていますけど、長かったなぁと(笑)。でも自分が好きなタイプの道で勝てて良かったです」と最後はホッとした表情を浮かべていた。

RH3クラス優勝は北垣恵一/近藤員章組(TWRヴィッツ)。
RH3クラスの表彰式。左から1位の北垣/近藤組、2位の西高志/岡智典組。

RH4クラス

 RH4クラスは6台によるバトルとなった。RH3クラス同様、1,500cc以下のマシンで争われるが、こちらはノーマルに近いRPN車両に限定したクラスだ。中西昌人選手や三苫和義選手といった全日本ラリー選手権ドライバーが、“地区戦仕様”のマシンを仕立てて参加し、大会の盛り上げに一役買っている。

 その中、ラリーをリードしたのはトヨタ・ヤリスを駆る山下公章/結城七海組。前半の2本のSSでともに三苫和義/春日美知子組のホンダ・フィットを下して4.7秒差で折り返す。しかし、SS3で山下/結城組はSS2より約1秒タイムダウン。一方の三苫/春日組はおよそ10秒もタイムを詰めて一気に逆転に成功する。三苫/春日組は続くSS4ではタイムを落とすものの、再びベストタイムを奪い、山下/結城組に11.1秒差のリードを作って逆転優勝を飾った。

「オフに仕様を変えました。セッティングを出せないまま走った開幕戦では、全然乗れなかったので、今回は対応してきました」という三苫選手は、「前半はズルズル滑ってダメでした。サービスでセットを変えたら、タイヤを活かせる足になってグリップしてくれました」と勝因を語った。一方の山下選手は、「SS3は雨が降った直後だったので、無理せず逃げ切ろうという気持ちが強く、無意識にセーブした面があったかもしれません。でもウェット路面でのスキルを上げるという意味では、いい勉強になったラリーだったので、次に生かしたいです」とリベンジを誓っていた。

RH4クラス優勝は三苫和義/春日美知子組(フィット)。
2位は山下公章/結城七海組(カローラ福岡☆Y&Y☆ヤリス))、3位は廣瀬友久/小原ひろみ組(K&K13大川ボディヴィッツ)。
RH4クラスの表彰式。左から1位の三苫/春日組、2位の山下/結城組、3位の廣瀬/小原組、4位の本城崇志/鹿田裕太組、5位の中西昌人/豊田智孝組、6位の田中翔太/梶原拓未組。

RH6クラス

 AT車限定のクラスは、1,500cc以下のFWD車及び1,800cc以下のハイブリッド車等を対象とするRH6クラスが5台のエントリーを集めた。昨年、6戦全勝で満点チャンピオンを決めた納富瑠衣/安田裕太朗組のホンダ・CR-Zが今年もエントリーし、開幕戦でも快勝。連勝記録を伸ばしている。

 今大会でも速さを見せ、「SS1は新しく履いたタイヤのグリップを探りながら走りましたが、SS2からは攻めの走りができました」と結果的に全SSベストで上がって、2WD総合でも4位というタイムでゴールした。ただ本人は、「上りがきつくて、クルマ的にはタイムの稼ぎ所があまりないコースでした。タイム的にも、もう少し他のクラスに迫れると思っていたので、そこは悔しい」と、やや不本意な一戦だった様子。

「今年はクルマの戦闘力が上がっているので、その分をしっかりタイムに反映させたラリーをしなければダメだと思っています」と納富選手はさらなるタイムアップに意欲を見せていた。なおこのクラスは、ともにトヨタ・アクアを駆った有川大輔/梶山剛組が2位、川中天兵/河嶋康史組が3位に入賞し、ハイブリッド車が表彰台を独占する結果になっている。

 今回はRH5クラスは不成立となったものの、九州地区戦はAT車を対象とするクラスをふたつ設定するという先駆的な試みを行っているだけに、今後のエントリー増を期待していきたいところだ。

RH6クラス優勝は納富瑠衣/安田裕太朗組(YH・DXL・AZ・CR-Z)。
2位は有川大輔/梶山剛組(TWR☆レンタルアクア)、3位は川中天兵/河嶋康史組(さくら運輸城島高原タクミアクア)。
RH6クラスの表彰式。左から1位の納富/安田組、2位の有川/梶山組、3位の川中/河嶋組、4位の山﨑純一/河本拓哉組、5位の大谷美紀夫/白石認組。

フォト/田代康 レポート/田代康、JAFスポーツ編集部

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