モータースポーツ好きな女性の集い「FIAガールズ・オン・トラック」が今年も東京E-Prixで開催

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2025年5月27日

「FIAガールズ・オン・トラック」は、モータースポーツ界に興味や関心を持つ女性たちがより活躍できるように支援するプログラムだ。昨年のFIAフォーミュラE世界選手権 東京E-Prixでも開催されたプログラムが今年も東京E-Prixで実施された。その詳細をレポートする。

FORMULA E FIA GIRLS ON TRACK TOKYO
開催日:2025年5月16日
開催地:シティサーキット東京ベイ、東京ビッグサイト(東京都江東区)
主催:Formula E Operations 運営協力:株式会社トムス(シティサーキット東京ベイ)

 2023/2024シーズンに続き、2回目の東京E-Prix開催となったFIAフォーミュラE世界選手権。その開催前日である5月16日、東京都江東区のシティサーキット東京ベイと、東京E-Prixが行われる東京ビッグサイト内のファンビレッジなどで「フォーミュラE FIAガールズ・オン・トラック東京」が開催された。

 このFIAガールズ・オン・トラックとは、女性がモータースポーツの世界で新たな可能性を切り拓き、さらなる活躍ができるように支援するためのプログラムだ。その活躍の場はドライバーだけではなく、メカニックやエンジニア、オフィシャル、チーム、運営側まで、モータースポーツ全般を対象としている。

 女性たちに幅広い分野でモータースポーツへ関わって欲しいというFIAの想いが根底にあるFIAガールズ・オン・トラックは、2009年に創設された「FIAウィメン・イン・モータースポーツ委員会」が起源。それに倣い、日本では2014年に「JAFウィメン・イン・モータースポーツ作業部会」が立ち上がった。現在、この支援活動は各国のASNで行われている。

 そしてFIA フォーミュラE世界選手権では、各大会に帯同する形でフォーミュラE FIAガールズ・オン・トラックのプログラムが実施されている。モータースポーツの世界で活躍する女性たちと実際に会い、交流してさまざまな刺激が受けられるとあって、参加した女性陣に好評を博しているようだ。

 東京E-Prix初開催となった昨年は日本でもフォーミュラE FIAガールズ・オン・トラックが実施された。今回のプログラムは12~25歳の女性を対象とし、約70名の応募があったという。シティサーキット東京ベイで行われたセッションには、モータースポーツに興味のある女性たちが集合。親子や友人同士で連れ立って、あるいは勇気を出してひとりで参加するなどさまざまだ。この会場にはKYOJO CUPなどで活躍する織戸茉彩選手とバートンハナ選手がゲストで登場し、本プログラムを取り仕切るFIAのイモージェン・ハーパー氏が同席した。

イモージェン・ハーパー氏

 2回目の実施となる東京E-PrixでのFIAガールズ・オン・トラックについて、ハーパー氏に話を聞いた。

「昨年、東京E-Prixで開催したFIAガールズ・オン・トラックは、とてもポジティブなイメージを持たせてくれました。今回の参加者の中には昨年参加した女性もいて、我々の活動に満足していただいたことが感じられてとてもうれしかったですね」と振り返る。

「東京での開催は、このシティサーキット東京ベイという施設が使えるのが素晴らしいです。フォーミュラEの会場の近くにこのような施設があるのは東京だけですね。EVカートだけでなく、シミュレーターやフォーミュラカーの展示がされているのが、会場としてとても優れている点だと思います」と開催環境を評価。

「FIAガールズ・オン・トラックの調査では、モータースポーツの世界で働きたいという女性の声はどんどん増えていると出ています。日本の女性たちにぜひ仲間になってもらいたいし、そのような想いを持つ女性をより増やしていきたいですね」と活動の意義を説いた。

「女性たちは能力や才能がないわけではなく、チャンスがないだけなんです。まずはモータースポーツのトップカテゴリーに関わる男女比が同じようになってほしい、それが私たちの願いのひとつです。そのためにこれからも努力を続けていきます」と来年の東京E-Prixでの開催はもちろん、ほかの国々でも活動を拡大していきたいとのことだった。

 プログラムの冒頭にハーパー氏が挨拶をし、「今回はEVカートにタイヤ交換体験、シミュレーター、そして午後は各チームで活躍する女性スタッフとのコミュニケーションなどさまざまなコンテンツを用意しています。このFIAガールズ・オン・トラックの活動を通して、今まで以上にモータースポーツに興味を持って欲しいです」とコメントした。

 その後のフリータイムでは、貸し切り状態の屋内外施設でモータースポーツに触れ合う時間となった。CYBER TRACKに用意された各種シミュレーターでのドライビング体験のほか、レーシングカートのタイヤ交換にチャレンジしたり、SKY TRACKではレンタルEVカートに試乗できたりと、参加者全員がさまざまな形でモータースポーツを満喫。

 このセッションではゲストの両選手との距離が近かったこともあり、積極的に親交を深めていたのが印象的だった。彼女たちとの2人乗りEVカートの同乗走行の機会が設けられ、女性プロドライバーの横に乗った参加者たちは、そのアグレッシブな速さに「首が投げ出されてしまうかと思った」と驚きの表情を見せていた。

FIAガールズ・オン・トラックは参加費無料のプログラムとあって、モータースポーツに関心を持つ多くの女性が集まった。
昨年に続きPartnerships &FIA Girls on Track Lead Formula Eのイモージェン・ハーパー氏がプログラムを取り仕切る。またゲストとしてKYOJO CUPに参戦する織戸茉彩選手とバートンハナ選手が登場した。
シミュレーターコーナーではフォーミュラEドライバーになりきって東京E-Prixの舞台を疑似走行できたほか、お台場をリアルに再現したレーシングカートで特設コースをバーチャル走行体験。
サーキットを走るフォーミュラカーのドライバーシートに乗り込める貴重な体験も。コックピットからの視線の低さに驚きながらも、記念撮影をして楽しんでいた。
メカニックの仕事の片鱗を体感できるタイヤ交換コーナー。T型レンチを握りしめ、何秒でタイヤが脱着できるかチャレンジ。
全日本カート選手権 EV部門も開催されるシティサーキット東京ベイ。そのコースのSKY TRACKをレンタルEVカートで体験走行。ステアリングを左に右に切ってコースを攻める。
バートンハナ選手と織戸選手による2人乗りEVカートの同乗走行。KYOJO CUPで切磋琢磨するふたりのドライビングテクニックを感じることができた。
参加者からの質問にフレンドリーに応対するバートンハナ選手と織戸選手。モータースポーツという共通の話題で会話に花が咲いた。

織戸茉彩選手

「同乗走行はすごく喜んでもらえたし、一緒に写真を撮ってほしいなど、参加された皆さんのテンションが高かったですね。また学生フォーミュラで活動をしている参加者の方からは、自身が乗っているマシン造りの参考にしようという具体的な質問をされたのですが、その向上の高さがとても印象的でした」

バートンハナ選手

「いろんなことを尋ねられましたね。とくに印象的だったのは『どうしたらモータースポーツができるようになりますか?』という質問でした。私はアメリカから日本へ来て活動しているのですが、日本には応援する文化があって、自分から『やってみたい!』って声に出してみると応援してくれるんです。だからいろんなイベントに顔を出して、人とのつながりを持ち、自分がやってみたいことをアピールすると良いよとアドバイスしました」

 シティサーキット東京ベイでの体験型セッションを終えた後は、ゆりかもめで東京E-Prixの会場である東京ビッグサイトへ移動。東展示棟にあるフォーミュラE ファンビレッジ内に設けられたFIAガールズ・オン・トラックブースに集合した。東京E-Prix開幕を翌日に控え、熱気を帯びつつある会場に気分が高揚する様子の参加者が見られた。

 フード&ビバレッジゾーンでやや遅めのランチタイムの後、FIAで活躍する女性スタッフからこれから行われるプログラムの説明がなされた。その説明の中には「疑問に思ったことは遠慮なく質問して欲しいです。ここで興味を持って、将来的にモータースポーツに関わる仲間が増えたらうれしいです」とアナウンスがあった。

シティサーキット東京ベイの目の前にある青海駅からゆりかもめに乗車して東京ビッグサイト駅へ移動。FIAガールズ・オン・トラックブースがある東京ビッグサイト東展示棟のファンビレッジを目指した。
ピットツアーに必要なクレデンシャルパスが配布されるとともに、帽子や髪留め、ウォーターボトル、キーホルダー、ミニカーなどが入ったエコバッグがお土産として手渡された。

 フォーミュラEの舞台裏を覗くツアーの時間まで、2グループに分かれてゲーミングゾーンのシミュレーター体験、ステージゾーンのトークイベント見学を入れ替え制で行った。シミュレーターは東京E-Prixをリアルに再現したもので、レーシングドライバーになりきってスリリングなコースを走行。

 一方、トークイベントはモータースポーツ・ジャーナリストの高橋二朗氏をMCに、1回目のセッションでは女性ゲストドライバーの2名がトークを行い、レースを始めたキッカケや普通のドライビングとの違い、そしてレースキャリアにおける苦労が語られた。共感できる話も多く、うなずいて話を聞いている参加者も見られた。

 グループを入れ替えての2回目のセッションにはサプライズゲストが登場。映画ワイルドスピードシリーズの主要キャストであるハリウッドスターのサン・カン氏だ。予想外のできごとに会場では黄色い歓声が上がった。終盤には参加者からの質問を受けて、非日常の体験ができる時間となった。

手軽にレースの世界に入り込めるシミュレーター。GEN3 Evoを駆って東京E-Prixのコースでタイムアタックを行った。
貸し切り状態のステージゾーンでは2つのトークショーが行われた。高橋二朗氏がMCを務め、女性ゲストドライバー2名とサン・カン氏がモータースポーツについて語った。
サン・カン氏はトークセッションで「EVは未来の乗りものという感覚ですね。その技術の先を走っているのがフォーミュラEという感じがします。ほかのモータースポーツとは音が違いますが、独自のサウンドで迫力があるのが魅力でしょうか。あと観客の声がより聞こえるのが今までのモータースポーツとの違いですね。違った楽しみがあるカテゴリーだなと思っています」と語っていた。

 いよいよメインイベント、待望のツアーが始まる。参加者全員でグランドスタンドへ移動し、フリープラクティスでフォーミュラEの走行を目の当たりにする。その走りを見た参加者は一様に、マシンが奏でるサウンドに圧倒されていた。モーターやスキール音が想像以上に大きかったようで、驚いている様子だった。

 そして、ここでハーパー氏が日曜日に行われる第9戦決勝の表彰式で、FIAガールズ・オン・トラック参加者の中からプレゼンター選出のための面談を行っていた。河野杏奈さんがその大役を引き受けることとなり、このようなサプライズがあるのもFIAガールズ・オン・トラックならではの演出と言える。

 フリープラクティス終了後は、グループを6つに分けてピットツアーが実施された。エンビジョンレーシング、DSペンスキー、タグ・ホイヤー・ポルシェ、マセラティMSGレーシング、マヒンドラレーシング、ジャガー・TCS・レーシングの6つのチームに、それぞれのグループが訪れていた。

 モータースポーツの最前線で活躍する女性スタッフたちの楽しそうな表情に羨望のまなざしが向けられ、キャリアや現在に至るまでの経緯など、多くの質問が投げかけられる。中には自身で英語を使って会話をする参加者や、英語が使えなくてもスマートフォンの翻訳アプリなどを駆使してコミュニケーションを取る参加者もいた。

 通訳を通さず自分自身が聞きたい質問や疑問に対して、そのままダイレクトな答えが聞きたい。もっとフレキシブルかつレスポンスよくコミュニケーションが取りたい。そんな前向きな意思を持つ参加者が多くいることを印象付けられた光景だった。

ファンビレッジでのプログラムを終えて、6グループに分かれてグランドスタンドへ移動。フォーミュラEの走行を間近で感じられる貴重なチャンスだ。
フォーミュラEのマシンが目の前をハイスピードで駆け抜けていく様子に釘づけになった。
河野杏奈さんがFIAガールズ・オン・トラックからプレゼンターとして選ばれた。第9戦決勝の表彰式では日産フォーミュラEチームのトマソ・ヴォルペ氏にトロフィーを手渡した。
6つのグループに分かれてミニ・ワークショップを実施。それぞれモータースポーツの第一線で活躍する女性たちが、FIAガールズ・オン・トラック参加者と交流した。
参加者にとって未知の世界だけに、さまざまな刺激を受けて興味が尽きない様子。たくさんの質問が投げかけられていた。

 こうして東京E-PrixでのFIAガールズ・オン・トラックの全プログラムは終了した。ドライバー、運営サイド、チームスタッフとモータースポーツで活躍するあらゆる女性スタッフとコミュニケーションを取ることができるこのプログラムは、モータースポーツに対して興味がある若い女性に対して、自身がモータースポーツの世界でキャリアを築く具体的なイメージをつかませてくれるイベントとなった。

この活動が広がることにより、モータースポーツ界の女性人口は増えるだろう。来年の開催はもちろん、日本では東京E-Prix以外での開催も期待したいと思えたイベントだった。

PHOTO/石原康[Yasushi ISHIHARA]、遠藤樹弥[Tatsuya ENDOU]、西川昇吾[Shougo NISHIKAWA]、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS] REPORT/西川昇吾[Shougo NISHIKAWA]、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS]

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