勝田貴元選手、今季3回目のワークス参戦となったWRC第8戦は苦しみながらも7位入賞!

レポート ラリー

2023年7月28日

2023年FIA世界ラリー選手権(WRC)第8戦「ラリー・エストニア」が7月20~23日、エストニア第2の都市、タルトゥを中心に開催。この後半戦の緒戦となるハイスピード・グラベルラリーに、日本人WRCドライバーの勝田貴元選手もコ・ドライバーのアーロン・ジョンストン選手とともに参戦。今季3回目となるTOYOTA GAZOO Racing World Rally Team(TGR-WRT)のマニュファクチャラー登録を受けて、3台目のGR YARIS Rally1 HYBRIDでチャレンジした。

2023年FIA世界ラリー選手権 第8戦「ラリー・エストニア」
開催日:2023年7月20~23日
開催地:エストニア・タルトゥ周辺

7月20日・シェイクダウン、デイ1 / 7月21日・デイ2

 2020シーズンにWRCに昇格したラリー・エストニアはスムーズなグラベルでスピードレンジの高いラリーだが、第9戦に控える同じくグラベルでスピードレンジが高い「ラリー・フィンランド」より砂が多く、路面が柔らかいことが特徴。さらに道幅が狭くツイスティな低速区間も多いことから、ドライビングとセッティグの両面で幅広い対応が求められるラリーだ。

 勝田貴元選手は2022シーズンにこのラリーで総合5位に入賞した実績を持っており、「これまでのラフ・グラベルラリーと違って、エストニアはスムーズな高速(グラベル)ラリー。僕自身、フィンランドに住んでいることもあって高速ラリーを経験してきたので、得意意識のあるラリーで結果を求めていきたいと思っていました」と意気込みを語っていた。

 事実、勝田貴元選手は「少しアンダーステアが気になりましたが、それ以外はいいフィーリングでした」と語るように20日午前中のシェイクダウンでは、4番手タイムをマークした。

 さらにTGR-WRTはこのラリーを前に車両に搭載するエンジンのアップデートを実施。勝田貴元選手は「旧型と比較していないので、どれくらい速くなったかは言えないところなんですけどフィーリングは良くなっていて、パワー不足を感じていた4速、5速のところでパワー感はありました。アドバンテージがあるわけではなく、ライバルとの差は詰まっていて僅差ですが、それでもアップデートがうまく機能していたと思います」と言うだけに、ラリー・エストニアでは、マニュファクチャラー登録ドライバーとして参戦した勝田貴元選手の躍進が期待されていたのだが、予想外の苦戦を強いられるラリーになった。

 20日のデイ1は20時、エストニア国立博物館すぐ近くの市街地ステージを舞台にした、オープニングSS1のスーパーSSで6番手タイムをマークした勝田貴元選手。

 しかし21日のデイ2を迎えて「金曜日は柔らかいグラベルだったので、セッティングを変更していたんですけど、シェイクダウンのステージと違って狭くてアップダウンが増えたこともあって、足回りの動きが不安定で乗りづらい状態でした」と、山岳エリアで本格的なラリーが始まると苦戦の展開。序盤の3つのSSは7番手タイムが精一杯という状況で、総合6番手で午前中のループを折り返した。

 さらに「セッティングを変更したことで良くはなってきたんですけど、轍が深くなっていてドライビングで苦戦してしまって、タイムを伸ばせませんでした。今回は全体的にスピードを乗せて走ることができなかったんですけど、初日に流れを掴むことができなかったことが最後まで尾を引いてしまいました」と語るように、セカンドループでも勝田貴元選手は終始8番手タイムに伸び悩み、総合7番手でデイ2を終えた。

シェイクダウンで4番手タイムをマークして以降は、終盤のSS20でマークした5番手タイムが精一杯と、タイムが伸び悩んだ第8戦ラリー・エストニアでの勝田貴元選手。TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team(TGR-WRT)から3回目のマニュファクチャラー登録されたラリーで、苦しみながらも第7戦サファリ・ラリー・ケニアの4位に続く7位入賞によってポイントを稼いだ経験を「第2のホームラリー」、第9戦ラリー・フィンランドで発揮したい。

7月22日・デイ3 / 7月23日・デイ4

 デイ2は厳しい戦いを強いられた勝田貴元選手だが、「土曜日のSSは幅が広くなってスピードも乗るようなステージ構成だったので、フィーリングとしては初日ほど苦戦するような状態ではありませんでしたが、1kmあたり0.3秒から0.5秒、多いところで1kmあたり0.6秒から0.7秒ぐらい遅れていました。ルーズグラベルがのっていたので出走順の差が上乗せされていたと思いますが、ピュアなスピードでも0.3秒から0.5秒ぐらいの差がありました」とのことで、22日のデイ3でも苦戦を強いられた。

 さらに「僕自身、攻めきれていない部分がありました。ハイスピード(・グラベル)ラリーでは1つ1つのコーナーをどれだけ詰めていけるかで、その後のストレートが変わってくるし、その影響で0.5秒から1秒ぐらい変わってくるので、攻めきれているか、そうでないかがラフ・グラベル以上に差が出てくるんですけど、土曜日はその差が顕著に出ていたと思います」と苦戦の原因を語った。

 それに加えて「午後はセッティングを変更したことでフィーリングは悪くなかったんですけど、それでもタイム差が詰まっていかなかった。それに午後のループは電気系のトラブルが発生してしまいました。具体的にはSS14でモニターにエラーが出てシャットダウンされる状態となり、インターコムにも不具合がでていました。SS14のフィニッシュ後にエンジンを止めて、なんとか再スタートできたんですけど、同じトラブルが起きていた。トラブルに対応しながらの状態だったのでフラストレーションが溜まりました」とのこと。

 事実、勝田貴元選手はSS14でこそ6番手タイムをマークするものの、それ意外のSSは7番手タイム、8番手タイムにとどまり、デイ3は総合7番手で終えた。

 このようにデイ2に続いてデイ3でも厳しい戦いとなった勝田貴元選手だが、「日曜日は新しいセクションが増えていたので未知数な部分はありましたが、セッティングを大幅に変えていきました。土曜日までグリップ感がしっくりこなかったので、足回りとデフのセッティングを変えていったんですけど、そこはかなり大きく改善されました」とのことで、23日のデイ4で復調。

「比較対象としてMスポーツ(M-SPORT FORD WORLD RALLY TEAM)のオイット・タナック選手と順位を争っていた(同チームの)ピエール=ルイ・ルーベ選手をチェックしていたんでけど、差がほとんどなかったり、僕の方が速かったりしていたのでセッティングはいい方向にいっていました」と語るように勝田貴元選手はペースアップを果たした。

「土曜日を(総合)6番手のルーベ選手と7秒差で終えていて、日曜日にそれを詰めていって、なんとかSS20でルーベ選手を交わして6番手に上がることができたんですけど、轍が深くなった2ループ目のコンディションで攻めきれていない部分があって、パワーステージでも不安要素になっていました」と最終のパワーステージ、SS21を迎えて躍進が期待されたが、不安も抱えていた勝田貴元選手。

「自分が追いかける立場だったら行くしかなかったと思いますが、少しでもリードしていたので無意識に無理し過ぎないようになっていたのかもしれません。自分でも攻めきれていない…… と思う部分がありましたが、その差がパワーステージに出たと思います」とのことで、SS21は勝田貴元選手の8番手タイムに対してルーべ選手は7番手タイムをマーク。総合6番手を守りきれず、総合7位で完走を果たした。

 まさに悔しいリザルトであり、「終末を通してスピードを乗せられなかったし、いるべきところに辿り着けられなかったので、結果に関しては悔しい思いがあり、不甲斐なさも感じています」と本人も唇を噛んでいた。

 その一方で、「ラリー・フィンランドに向けて問題点を洗い出して、事前にテストがあるのでセッティングを確認したいと思います。やわらかくて轍ができやすいエストニアに対して、フィンランドはハードベースでグリップも高かったりと、エストニアとフィンランドは“似て異なるラリー”なので、セッティングをアジャストしたい」と次戦に目を向けた。

 8月3~6日にフィンランドで開催される、第9戦「ラリー・フィンランド」はTGR-WRTの本拠地があり、勝田貴元選手も拠点としているユバスキュラ周辺で開催されるラリー。「いいスタートが切れるようにテストで準備をしたい」と語る彼の躍進に期待したい。

 なお、ラリー・エストニアを制したのは、勝田貴元選手のチームメイト、カッレ・ロバンペラ/ヨンネ・ハルットゥネン組。今季2勝目とともにこのラリー三連覇を達成し、やはりチームメイトのエルフィン・エバンス/スコット・マーティン組が4位入賞。TGR-WRTは首位に立つドライバー/コ・ドライバーとマニュファクチャラー、3つのランキングでのリードをさらに拡大した。

デイ3とデイ4を完全制圧するなど、22のSSのうち15SSを制する圧倒的な強さを見せたカッレ・ロバンペラ(右から2人目)/ヨンネ・ハルットゥネン(左から2人目)組は、トヨタ自動車の佐藤恒治代表取締役社長(中央)と表彰台で今季2勝目を喜んだ。左端は2位のHYUNDAI SHELL MOBIS WORLD RALLY TEAM(ヒョンデ)のドライバー、ティエリー・ヌービル選手、右端は3位のヒョンデのコ・ドライバー、ヤンネ・フェルム選手。

フォト/TOYOTA GAZOO Racing レポート/廣本泉、JAFスポーツ編集部

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