2025シーズンWRC開幕!勝田貴元選手はSS12を制するも凍結した路面に泣く

レポート ラリー

2025年2月4日

2025年1月、今季のWRCが早くも開幕し、23~26日にモナコおよびフランスを舞台として第1戦「ラリー・モンテカルロ」が開催された。この伝統の一戦にTOYOTA GAZOO Racing WRCチャレンジプログラムの1期生として活躍してきた日本人ドライバー、勝田貴元選手もエントリー。コ・ドライバーは2024シーズンから変わらずアーロン・ジョンストン選手と組み、TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team(TGR-WRT)より4台目のGR YARIS Rally1で参戦した。

2025年FIA世界ラリー選手権 第1戦
ラリー・モンテカルロ

開催日:2025年1月23~26日
開催地:モナコ・モンテカルロ周辺

 今季はRally1車両のハイブリッドシステムが廃止された他、タイヤサプライヤーが変わるなど、レギュレーションが変更された。勝田貴元選手もラリーウィーク直前に、今回のラリーでもサービスパークが置かれたフランスのギャップ周辺でテストを行なっており、「クルマとタイヤの変化があったので、ドライビングとセッティングを合わせていくようなかたちで試しながらドライビングしていたんですけど、ウェットからドライコンディションの走行となったので、スタッドタイヤとスノータイヤで走る機会がありませんでした」とテストの内容を語った。

 気になる今季仕様の車両について勝田貴元選手は、「ハイブリッドユニットが降りたことで、クルマのフィーリングは大きく変わりました。いままではピーキーな挙動がありましたが、ハイブリッドブーストとリアに搭載されていた80kgのユニットがなくなったことで、乗りやすくなってます。これまでリアが出始めると止まらないような感じでしたが、その挙動が無くなったのでプッシュできるようになりました」と、変更点を語る。

 新しいタイヤに関しては、「特性が違います。特にアクセルと一緒に左足ブレーキを使用してタイヤに荷重をかけると、それに持ち堪えられなくてバランスを崩すことが多く見受けられたので、ドライビングやセッティングで改善していく必要がありました」と、勝田貴元選手は昨季までのタイヤとの違いも語ってくれた。

 更に「スリックタイヤも今回はソフトタイヤが一番硬いタイヤになるんですけど、硬めにつくられていて、ウォームアップ性の部分ではどうしてもタイヤが温まるまでに時間がかかってしまうので、その辺の違いも見極めていく必要がありました」と分析した。

2025シーズンのFIA世界ラリー選手権はハイブリッドシステムの廃止に伴う車両最低重量の減少やタイヤサプライヤーの変更など、Rally1車両が変化した。コ・ドライバーのアーロン・ジョンストン選手と戦う日本人ドライバーの勝田貴元選手(TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team)は事前のテストで新たなGR YARIS Rally1を学び、第1戦の「ラリー・モンテカルロ」に臨んだ。

1月23日・シェイクダウン、デイ1 / 24日・デイ2

 それでも事前テストでのフィーリングは悪くなく、シェイクダウンに関しても「タイヤのコンビネーションを試しながらの走行でしたが、フィーリングは悪くなかったです」とのことで、勝田貴元選手は23日のシェイクダウンで総合7番手につける。更にこの日はデイ1としてナイトステージが3SS設定されていたが、厳しい戦いを強いられることになった。

「ナイトステージは上位に離されないようにするつもりだったんですけど、インカットで泥が出てくるので出走順ごとにタイムが落ちていくような状況でした。そこは割り切っていくしかない部分なんですけど、スタートの段階でギアボックスにトラブルが発生して1速が使えない状態になりました」とのことで、勝田貴元選手の車両にいきなりトラブルが発生した。

 その中でも「木曜日を乗り切れば、その日の夜のサービスで直してもらえると思っていたので、できるだけロスを少なく乗り切っていきました」と、勝田貴元選手は手堅い走りに徹する。3SSともに7番手タイムでしのぎ、トップから約53秒遅れの総合8番手でデイ1を走り終えた。

 明けた24日のデイ2は気温が冷え込み、ブラックアイス(凍結)やフロスト(霜)のセクションが発生した。しかし、それらもすぐに溶け始めるなど路面の変化が多い、難しいコンディションの中でラリーが行われた。各クルー、スタッドを装着するなど試しながらのドライビングとなる中、勝田貴元選手は「あまりリスクを負いたくなかったので、ブラックアイスや霜のあるセクションはペースを抑えて走ったんですけど、そこでタイムを落としてしまいました」と語るように、ファーストループは慎重な走りを見せていた。

 しかし、セカンドループではブラックアイスなども溶け、路面コンディションが安定したことから勝田貴元選手はプッシュを開始し、SS7で5番手タイム、SS8で4番手タイムをマークするなどペースアップを実現。デイ2は「区間タイムでは競争力あるタイムで走れるようになってきたんですけど、リスクをとらずに走っているところでタイムを落とし過ぎていたので、もうちょっと改善していきたいと思いました」と語りながらも、総合6番手に上げて終えた。

デイ1はいきなり車両トラブルに見舞われて、総合7番手に留まった勝田貴元選手だったが、デイ2以降は苦労しながらも総合6番手を奪取、デイ3のSS12では今季初のベストタイムをマークした。しかし、最終日最初のSS16で凍結した路面に足元をすくわれ、今季のWRC開幕戦は無念のリタイアとなった。

1月25日・デイ3 / 26日・デイ4

 こうして苦戦が続きながらも、デイ1から徐々にペースアップを果たしていた勝田貴元選手だが、「もう一歩リスクを負ってもいいのかな…… という部分をチームと話し合いました。それにクルマのフィーリングもイマイチな部分もあったので、そこを変えるために金曜日の最終サービスでデフのセッティングをガラリと変えました」とのこと。

 そして「他のドライバーと比べるとオープン気味だったんですけど、リアのデフを強く効かせるようにしたことでタイヤの接地感とトラクションのかかり方が向上しました」と、改善された車両を駆って、25日のデイ3は素晴らしいパフォーマンスを披露した。

 勝田貴元選手は「朝のステージからすごくフィーリングが良くて、タイムも良くなっていきました」と振り返ったように、デイ3のオープニングステージとなるSS10と、続くSS11で連続4番手タイムをマークして好発進。更に「多少ミスはあったんですけど序盤からすごくいいフィーリングで、自分が思っていた以上にタイムが良かったです。もっと攻めないとタイムが出ないと思っていたので、自分でもビックリしました」と、SS12では今季初のベストタイムをマークした。

 とはいえ、すでに前後のクルーとの差が開いていたことから、セカンドループは「どちらかというと今後のためにセッティングを含めて、いろいろなことを試しながら走ることにしました」と、勝田貴元選手はターゲットを定めたそうだ。それでも、「ペースは悪くありませんでした」と語るように、SS13およびSS15で3番手タイムをマークし、デイ3は総合6番手を守った。

「2025年もスーパーサンデーとパワーステージのポイントシステムで、日曜日もポイントが加算されますし、土曜日の段階で自分に競争力があるという手応えもあったので、ペースを維持しながらポイントを取っていきたいと思っていました」と、独自のアプローチで26日のデイ4に挑むこととなった勝田貴元選手。

 しかし、この日のオープニングステージのSS16は前日の雨で濡れた路面が凍結するなど、難しいコンディションとなった。「最初のステージを乗り切れば、それ以降は高いパフォーマンスが発揮できると予想しました」とのことで、勝田貴元選手はスリックを4本、スタッドを2本搭載してSSに向かったが、このタイヤ選択が勝敗を分けることになった。

 勝田貴元選手は、「右のロングコーナーでアイスができていたのでペースを抑えて入ったんですけど、スリックタイヤなので機能せず、外側の草むらにコースアウト。スペクテーターも手伝ってくれたんですけど、岩のブロックのところに深くはまってしまって、クルマを出すことができずにリタイアになりました」と振り返ったとおり、ラリーをフィニッシュすることができなくなった。

「今回のモンテカルロはリスクマネジメントをしたうえで、競争力があるペースをところどころで出しながらフィニッシュすることをターゲットにしていました。土曜日はそれを完璧にこなしていけたし、フィーリングも良かっただけにこういった終わり方になって残念です」と、勝田貴元選手は悔しさを滲ませた。

 更に「ヤリ-マティ(・ラトバラ監督)は“スタッドタイヤ4本で行かせるべきだった”と言っていましたが、自分で判断したことですからね。モンテカルロで早朝のステージではありえることなので、グラベルクルーと入念に話をして改善していきたいです」と、課題を語った。

 このようにデイ3でペースを掴みながらも、デイ4でリタイアを喫した勝田貴元選手だが、「昨年と同様にマニュファクチャラー登録される時はしっかりポイントを取れるように戦いたいですし、4台目で参戦する時は競争力があるペースで走りたいと思います」とのことだ。

 そして「第2戦のスウェーデンはマニュファクチャラー登録されるので、しっかりポイントを持ち帰られるように戦いたいと思っていますが、個人としては昨年優勝争いをする中で取りこぼしたものがあるし、得意なラリーでもあるので期待していただきたいな…… と思っています」と語っているだけに、2月13~16日に開催されるスノーラリー、第2戦「ラリー・スウェーデン」でも勝田貴元選手の戦いに注目したい。

 なお、第1戦を制したのは勝田貴元選手のチームメイト、セバスチャン・オジエ/ヴァンサン・ランデ組。ギャップ出身のオジエ選手が通算10回目のモンテカルロ制覇という、前人未到の記録を達成した。

 更に、エルフィン・エバンス/スコット・マーティン組が2位と、TGR-WRTは1-2フィニッシュ。スーパーサンデーはエバンス/マーティン組とカッレ・ロバンペラ/ヨンネ・ハルットゥネン組による1-2、SS18に設定されたパワーステージもオジエ/ランデ組とエバンス/マーティン組が1-2を果たしてTGR-WRTは大量のポイントを獲得。ドライバーズ/コ・ドライバーズチャンピオンの奪還と、マニュファクチャラーズチャンピオン5連覇に向けて好スタートを切った。

SS8でこのラリー3回目のベストを奪い、総合トップに立った勝田貴元選手のチームメイト、セバスチャン・オジエ/ヴァンサン・ランデ組がその後も3SSを制し総合トップを譲らず優勝。オジエ選手はモンテカルロ通算10勝という偉業を成し遂げた。
表彰台には左から、TGR-WRTの副チーム代表で元WRCドライバーズチャンピオンのユハ・カンクネン氏、2位を獲得したコ・ドライバーのスコット・マーティン選手とドライバーのエルフィン・エバンス選手(TGR-WRT)、優勝したランデ選手とオジエ選手、3位に入ったコ・ドライバーのアレクサンドレ・コリア選手とドライバーのアドリアン・フォルモ―選手(HYUNDAI SHELL MOBIS World Rally Team)。TGR-WRTは総合結果とスーパーサンデー、パワーステージで1-2フィニッシュを果たす活躍を見せた。
TGR WRCチャレンジプログラム2期生のドライバー、山本雄紀選手(左)と小暮ひかる選手(右)は今季もGR YARIS Rally2を駆ってWRCに参戦。RC2クラスに挑んだモンテカルロはジェームズ・フルトン選手をコ・ドライバーに迎えた山本選手はデイ3にデイリタイアを喫するもクラス25位を獲得。コ・ドライバーのトピ・ルフティネン選手と組む小暮選手は18SS全てを走破、クラス13位でフィニッシュした。

松下拓未選手がフィンランドラリー選手権でクラス優勝!

 TGR WRCチャレンジプログラム3期生のドライバー、後藤正太郎選手と松下拓未選手は2025年1月18日に開催されたフィンランドラリー選手権の開幕戦、第1戦「ラリー・クオピオ」に参戦した。

 両選手はルノー・クリオRally3を駆ってSM2クラスに挑み、Rally3車両のデビュー戦となった。しかし、コ・ドライバーのユッシ・リンドベリ選手と組んだ後藤選手は車両トラブルから、SS5であえなくリタイアとなってしまった。一方、松下拓未選手はコ・ドライバーのペッカ・ケランダー選手とともにクラス優勝争いを繰り広げて見事、Rally3車両とスノー・アイスラリーのデビューウィンを果たした。

TGR WRCチャレンジプログラム3期生のドライバーたちの今季は、Rally4車両からRally3車両にステップアップ。その初戦となるフィンランドラリー選手権の第1戦「ラリー・クオピオ」で、松下拓未(右)/ペッカ・ケランダー(左)組がSM2クラス優勝を達成。後藤正太郎/ユッシ・リンドベリ組はリタイアとなった。

フォト/TOYOTA GAZOO Racing、Red Bull Media House レポート/廣本泉、JAFスポーツ編集部

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