勝田貴元選手、WRC第2戦スウェーデンで総合トップに立つも、痛恨のミスに泣く

レポート ラリー

2024年2月26日

2024年FIA世界ラリー選手権(WRC)第2戦「ラリー・スウェーデン」が2月15~18日、北極線の南側約400kmに位置するスウェーデン北部の都市、ウーメオーにて開催。2024シーズン唯一のフルスノーラリーに、今季よりTOYOTA GAZOO Racing World Rally Team(TGR-WRT)のマニュファクチャラー登録ドライバーとして、コ・ドライバーのアーロン・ジョンストン選手とともにフル参戦している日本人ドライバーの勝田貴元選手も、GR YARIS Rally1 HYBRIDを武器に参戦した。

2024年FIA世界ラリー選手権 第2戦
ラリー・スウェーデン

開催日:2024年2月15~18日
開催地:スウェーデン・ウーメオー周辺

 2018シーズンのこのラリーでWRC2クラスを制するほか、2022シーズンでは総合4位入賞を果たすなど、ラリー・スウェーデンは勝田貴元選手が得意とするラリー。しかし、2023シーズンではリタイアを喫したほか、「昨年、トヨタ勢はアンダーステアがすごくて、特に2ループ目が厳しい状況でした。ラインのなかでしか対応できず、アンダーステアでフロントタイヤを痛めていました」と語るように車両の熟成不足に苦戦を強いられた。

 そのため、TGR-WRT勢は車両のセッティングを変更。「ジオメトリーを含めて、ロールセンターや前後のバランスをガラリと変えました。最初は戸惑うぐらいの大幅な変更だったんですけど、確実に進化していて事前テストから調子が良かったです。自信を持って挑んでいたラリーで、いい結果を求めてプッシュしていきたいと思っていました」と、語るように勝田貴元選手は手応えを掴んでいた。

2月15日・デイ1 / 16日・デイ2 / 17日・デイ3

 事実、15日日中のシェイクダウンこそ7番手タイムにとどまっていたものの、夜のオープニング、スーパーSSのSS1で勝田貴元選手は2番手タイムをマークしてデイ1を終え、順調な立ち上がりを見せていた。

 その勢いは16日のデイ2でも衰えることはなかった。「クルマのフィーリングが良くて、トップタイムをマークすることもできました」と語るように、勝田貴元選手はこの日のオープニングステージ、SS2で4番手タイム、続くSS3で3番手タイムをマークするとSS4でベストタイムを叩き出し、ついに総合順位でもトップに浮上した。

 午後のセカンドループは雪が降り始めたことから、他のワークスドライバーたちと同様に5番手スタートの勝田貴元選手も雪かき役に苦戦を強いられた。「雪の量がすごくて、10cm以上も積もるような感じでした。午後は特に出走順の影響が出ていて走れば走るほど有利な状況だったので、ラインをトレースしながらプッシュしていました」とのことでWRC2のドライバーが上位を占める中、勝田貴元選手はSS5で11番手タイムに低迷した。

 それでも勝田貴元選手はSS6で3番手タイムをマークしたほか、SS7およびSS8で2番手タイムをマーク。HYUNDAI SHELL MOBIS WORLD RALLY TEAM(ヒョンデ)でi20 N Rally1 HYBRIDを駆るエサペッカ・ラッピ/ヤンネ・フェルム組に総合トップを奪われることとなったが、「ラッピ選手は2台後の出走だったのでコンディション的には有利だったことから自分もプッシュしていたんですけど、午後のループでは差を抑えられました。いいマネジメントができました」と語った勝田貴元選手はラッピ選手と3.2秒差の総合2番手でデイ2をあがった。

 シュコダ・ファビアRSラリー2を武器に総合3番手につけていたWRC2のオリバー・ソルベルグ/エリオット・エドモンドソン組は、すでに総合トップから1分20秒以上引き離されていたことから、総合優勝争いはラッピ選手と勝田貴元選手の一騎討ちとなるなか、17日のデイ3がスタート。

「トップのラッピ選手と僅差でしたし、3番手以降も差が開いていたので、トップとの差を詰めていきたいと思っていました」と勝田貴元選手。さらに「気温が下がって雪もあまり降らなかったことと、主催者がマシンを入れて雪を履いてくれたので、いいコンディションになりました。グリップが良くなって高速ラリー特有のあまり差がつかない展開になりそうだったので、攻められるところはプッシュしていこうというアプローチでしたし、マシンのフィーリングも良かったです」と語る。

 事実、勝田貴元選手はこの日のオープニングステージ、SS9で4番手タイムをマークし、5番手タイムに遅れた総合トップのラッピ選手とのギャップを0.9秒差まで短縮した。「最初の3kmぐらいは戸惑いがありましたが、そのあとは感覚が掴めてタイムを稼ぐことができました。ラッピ選手との差を詰めることができたので、このままいけばいいところまでいけるんじゃないか、と思っていました」と語るように、まさに勝田貴元選手のWRC初優勝も視野に入りつつあったのだが、続くSS10で予想外のハプニングが発生する。

「3km地点にある中高速の右コーナーをオーバースピードで侵入してしまって、リヤがラインから外れてしまったことでリヤがスノーバンクに当たって。その慣性でフロントもスノーバンクに当たって、そこでスタックしました」とのことで勝田貴元選手は再スタートを果たせずに、デイリタイアを決断することになったのである。

「3番手以降は離れていたんですけどラッピ選手との一騎討ちになっていたし、ペースを落とすと離されてしまうので、安定思考でミスなく走って2位になることは考えていませんでした。ラッピ選手との差だけを見てリスクを負って走っていた状況ではあったんですけどね。ミスをしてしまって、いい結果を得られるチャンスを失ってしまったので、ものすごく残念でした」と、勝田貴元選手は悔しそうに語った。

勝田貴元選手(TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team)はコ・ドライバーのアーロン・ジョンストン選手とともに、序盤の好タイム連発で2024シーズン初の総合トップにSS4で立つが熾烈な首位攻防戦の中、SS10でひとつのミスによりデイリタイアを喫して脱落。念願のWRC初優勝は2021シーズンにWRC最上位の総合2位をマークし、以来総合トップ4以内でのフィニッシュを続けている第3戦「サファリ・ラリー・ケニア」で達成することに期待したい。

2月18日・デイ4

「日曜日(18日)はポイントが取れるチャンスもあったので、自分にできることをやっていきたいと思っていました。どうしても2本目はラインが出てきて厳しいので1本目でタイムを稼いで、2本目はロスを抑えたい。パワーステージはどうしても出走順の差が出てしまうので、トップタイムを狙わずに、できる限りのことをしたいと思っていました」と語った勝田貴元選手。

 気持ちを切り替えて18日のデイ4に再出走を果たすものの、「クルマのフィーリングは良かったんですけど先頭スタートの影響もありましたし、ギアボックスにトラブルが出てしまって3速だけで走っていました」と苦戦を強いられていた。

 それでも勝田貴元選手はこの日のオープニングステージとなるSS16で3番手タイムをマーク。それだけに日曜日のみのリザルトで争われる“スーパーサンデー”での飛躍が期待されたのだが、「タイムが良かったので、うまく戦えば日曜日のポイントが取れるんじゃないかと思っていたんですけどね。コンディションの変化や不用意なミスがあってロスをしてしまいました」と、語るように勝田貴元選手はSS17で8番手タイムにとどまり、パワーステージとなる最終SSを5番手でフィニッシュ。スーパーサンデー6位とパワーステージの5番手タイムで合計3ポイントを重ね、総合45位でラリーを終えることとなった。

 勝田貴元選手にとって今季のラリー・スウェーデンも悔しい一戦となったが、「ポテンシャルもあって、いい結果が得られる可能性のあったラリーだっただけに残念で悔しいけれど、この経験を活かしていきたい。強くなれるように変換させていきたいと思っています」と前を向いた。

 さらに「こういうラリーはプッシュしないと勝てないし、ミスをしないように走るとすぐに離されてしまう。実際、全ドライバーは紙一重のところで走っているのでミスはあって、今回も僕だけでなく、(カッレ・)ロバンペラ選手(TGR-WRT)や(オィット・)タナック選手(ヒョンデ)も同じようなかたちでリタイアしているので、ミスをしたとしても最小限に抑えられるようにしないといけません」と付け加えた。

「ラリーは自分との戦いで、相手が見えていない中、リスクを負うことが正解なのか判断していかないといけないんですけど、その見極めがすごく重要で今後の課題です。そのあたりのリスクマネジメントはセバスチャン・オジエ選手(TGR-WRT)がすごくて、先を見据えてプッシュしたり、抑えたりしています。自分もそこにいくために踏み出しているんですけど、いき過ぎています」とのこと。

 さらに「昨年のラリージャパンもそうですし、今年のモンテカルロもそうですけど、ペース自体は自信を持って戦える状況にはあるので、それを安定して出せるようにしたい。どのドライバーもミスをしているんですけど、生き残っているので、ミスをしてしまった時も対応できるようにしていきたいです」と、勝田貴元選手は今後の課題を語った。

 そして次戦の第3戦「サファリ・ラリー・ケニア」について、「これまではいい結果を残してきたラリーですが、季節が変わってコンディションも変わってくると思いますので、クルマやアプローチを見ながらやっていかないといけません」と昨季までの好結果に油断はしていない。

 そして「特に雨が降った場合は、ありえないぐらいグリップしないので、今まで以上に大きなチャレンジになると思います。自信を持って戦えるように準備をしたいです」と語っているだけに3月28~31日にケニアで開催されるサファリでも勝田貴元選手の活躍に期待したい。

 なお、ラリー・スウェーデンはラッピ選手が今季初優勝を獲得、TGR-WRTのエルフィン・エバンス/スコット・マーティン組が2位、M-SPORT FORD WORLD RALLY TEAMでFORD PUMA Rally1 Hybridを駆るアドリアン・フォルモー/アレクサンドレ・コレア組が3位で表彰台に上がった。

 一方、TOYOTA GAZOO Racing WRCチャレンジプログラムの2期生として武者修行中の日本人ドライバー、小暮ひかる選手と山本雄紀選手も、コ・ドライバーのトピ・ルフティネン選手とマルコ・サルミネン選手とともにGR YARIS Rally2を武器にWRC2にスポット参戦。

 小暮選手はデイ2で雪壁に激突してスタック、さらに2本のタイヤがトラブルに見舞われ、デイ3では再びスタックしてデイリタイア。この日は山本選手もタイヤトラブルからサスペンションにダメージを負うなど、ハプニングが続出したものの、山本選手が総合15位、WRC2の10位で完走し、デイ4で再出走を果たした小暮選手も総合46位、WRC2の20位でラリーを終えた。

ラリー・スウェーデン名物SSのひとつ、ウーメオーのレッドバーン・アリーナでジャンプを見せるエサペッカ・ラッピ/ヨンネ・フェルム組(HYUNDAI SHELL MOBIS WORLD RALLY TEAM)。勝田貴元/ジョンストン組との首位攻防戦を制すると独走態勢を築き、TGR-WRT所属中だった2017年の第9戦ラリー・フィンランド以来となるWRC2勝目を挙げた。
コ・ドライバーのスコット・マーティン選手と組むエルフィン・エバンス選手は、今季からTGR-WRTでエースの重責を担う。デイ2はスピンを喫するなど苦戦して総合5番手で終えたが、デイ3とデイ4ではSS12とSS17でベストタイムをマークするなど、総合2位まで巻き返してドライバーランキング2番手を守った。
勝田貴元選手に続くTOYOTA GAZOO Racing WRCチャレンジプログラム二期生の小暮ひかる選手と写真の山本雄紀選手は、WRC第1戦ラリー・モンテカルロでデビューしたばかりのGR YARIS Rally2を駆ってWRC2クラスに参戦。コ・ドライバーのマルコ・サルミネン選手と組む山本選手は「速いドライバーたちの走行ラインをフォローし、彼らとタイムを比較できたのもいい経験でした」と、クラス10位、トピ・ルフティネン選手と組む小暮選手は「浮き沈みの激しい週末でしたが、全体的にはとてもいい経験になりました」と、クラス20位でWRCデビューを果たした。

 フォト/TOYOTA GAZOO Racing、Red Bull Media House レポート/廣本泉、JAFスポーツ編集部

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