山本尚貴選手にスーパーライセンス発給。そしてF1日本グランプリでFP1走行へ

ニュース レース

2019年10月10日

10月4日、ドイツ・ケルンで行われたFIA世界モータースポーツ評議会(WMSC)で、山本尚貴選手に対するF1スーパーライセンスの発給が承認された。これにより5年ぶりの日本人によるF1参戦が現実味を帯びてきた。

 10月7日(月)、本田技研工業とScuderia Toro Rossoからの発表により、10月11~13日に三重県の鈴鹿サーキットで開催されるFIAフォーミュラワン(F1)世界選手権第17戦日本グランプリで、山本尚貴選手がフリープラクティスセッション(FP1)の走行を担当することが明らかにされた。

 そして、これに先立つ10月4日(金)、ドイツ・ケルンの展示場「MOTOR WORLD」にて行われた今年3回目の世界モータースポーツ評議会(WMSC)にて、山本選手に対するF1スーパーライセンスの発給が承認されている。

 ここでは、今回のスーパーライセンス発給に関する顛末を関係者への取材で振り返る。

 山本尚貴選手は、2018年にJAF全日本スーパーフォーミュラ選手権、およびFIAインターナショナルシリーズ スーパーGTでドライバーズタイトルを獲得。これにより、スーパーライセンス申請資格にある40ポイントに対して、20+15=35ポイントを獲得したことから、日本人として久々のF1シート獲得に期待が高まっていた。

 このF1参戦に必要な「スーパーライセンス」の発給については、過去にスーパーライセンスの発給実績がないドライバーについては、「FIA国際グレードAライセンス所持者」であることと「申請前の3年間に少なくとも40ポイントを累積する」ことなどが資格として挙げられている。

 山本選手の場合は、すでに国際Aライセンスの所持者で、2018年のスーパーフォーミュラおよびスーパーGTで獲得した35ポイントに加え、2017年スーパーフォーミュラでのシリーズ9位、2016年のシリーズ7位で合計4点を獲得していた。

 これに、ペナルティを受けなかったドライバーに与えられる2ポイントを加算することで、2018年までの実績における申請資格を満たすかと思われていた。しかし、それではスーパーライセンスの発給資格の要件を満たすことにはならなかったのだ。

 ここから発給までの経緯を、FIA評議会メンバーであるJAFモータースポーツ部の村田浩一部長に伺った。

「日本のASNであるJAFとしては、山本尚貴選手へのスーパーライセンス発給にあたり、FIAに対してこれまで3度の要請を行いました。最初は、先立つ3年以内に累積25ポイント獲得を資格要件とする、フリープラクティス専用のスーパーライセンスの発給を要請したのですが、申請資格に書かれている、”最低300km”を満たしていなかったため、承認されませんでした」。

 そもそも、39ポイントに加算されると想定された「2ポイント」とは、FIA国際モータースポーツ競技規則付則L項に明記されている「ペナルティポイントシステムが適用されるFIA選手権において、何のペナルティポイントも受けず選手権の期間中に競技したドライバーに与えられる」ことの適用を期待したもの。しかし、スーパーフォーミュラやスーパーGTがFIA”選手権”ではなかったために、2ポイント付加は適用されなかったのだ。

 そして、村田部長が語る、フリープラクティス専用のスーパーライセンスの申請資格にある”最低300km”とは、前述のL項にある「当該F1チームは、申請に先立つ180日以内に申請者が相当とするフォーミュラワンの車両で最低300kmをレーシングスピードで最大2日間の間に走行していること」という項目を指している。

 これは、走行車両が近年のF1車両に近似したスペックを持つ必要があるのだが、現在のホンダがF1においてパワーユニットサプライヤーである環境においては、該当する車両を用意することが困難だった。そのため、規則にある「相当とするフォーミュラワンの車両で」という要件を満たすことができなかったのだ。

「次なる機会を模索する中で、その間にも、山本選手はF1マシンのシミュレーターでのテストも積み重ねていました。山本選手は日本を代表するフォーミュラドライバーですし、過去の戦歴やシミュレーターでの訓練実績、そして今シーズンもスーパーフォーミュラではランキングトップを争っています。そういった山本選手の実績を検討材料として付け加えながら、改めて、今度はフルのスーパーライセンス発給の要請を行いました」。

 しかし、時期を同じくしてアントワーヌ・ユベール選手の事故が発生。尊い命が失われたこの重い事態を受けたFIAは「安全に関わる免除要請は、いかなるものであっても受け付けない」と態度を硬化。山本選手に対する再考も棚上げにされてしまったという。

「これらの状況を受けて、ホンダ筋でもレッドブルやトロロッソ首脳陣と相談し、彼らもFIAに対して働きかけを行ったそうです。その話を受けて、JAFとしても、もう一度、申請することにしたのです」。

 この熱心な働きかけにより、FIA首脳陣が改めて検討を行い、再考の補足材料として提出していた2019年シーズンの実績を、申請資格として考慮するという案を審議することになったという。

 つまりこれは、従来の申請で対象としていた2016年から2018年までの39ポイントではなく、2017年と2018年に獲得した36ポイントに、2019年最終戦を前にしたシリーズ成績における獲得ポイントの見込みを合算して、40ポイント以上という申請資格を満たしている、という判断だ。

「この案はFIAから提案していただいたもので、最終的には10月4日のWMSCの議題として上がり、山本選手のスーパーライセンス発給が審議されることになったのです」。

「スーパーライセンスの発給については、本来FIAのセーフティコミッションが主幹するものなのですが、今回はFIA事務局が直接取り扱う異例の案件となりました。WMSCの会議では、私も日本のファンの方々の思いなどを交えた補足説明をさせていただきましたが、会議出席者の皆さんは、日本のWRCカレンダー入りを喜んでくれていたような、日本のモータースポーツ発展に好意的な方も多く、FIAジャン・トッド会長を始め、”No Objection”ということで発給が承認されました」。

 今回の発給が実現した裏側では、JAF全日本スーパーフォーミュラ選手権ではドライバーたちの牽引役としても活躍してきた山本選手の確かな実績と、ホンダF1マネージングディレクターの山本氏を始めとした、国内外のモータースポーツ関係者らによる不断の努力が大きく評価されたことと言えるだろう。

「F1日本グランプリ開催を前に、日本のモータースポーツファンは、山本選手のF1マシン乗車に大きな期待を寄せています。そんな日本のファンのためにも、ぜひとも承認をお願いします」。

 これは、山本選手へのスーパーライセンス発給を審議する最終局面で村田部長が発した言葉。村田部長によるこれらの補足説明が終わり、議事を主幹したFIA事務局長がFIAジャン・トッド会長に承認の意向を促すと、トッド会長は静かにうなずいたという。

レポート/JAFスポーツ編集部 フォト/石原 康

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