第9戦はオリバー・ローランド選手が日本で日産フォーミュラEチームに勝利をもたらす! 第8戦は昨年に続きマセラティMSGレーシングのストフェル・バンドーン選手が勝利
2025年5月28日

シーズン11となる2024~2025年FIAフォーミュラE世界選手権の第8戦&第9戦「東京E-Prix」が5月16〜18日、東京都江東区の有明地区にて開催された。第8戦はストフェル・バンドーン選手(マセラティMSGレーシング)が3年ぶりの優勝を手にし、第9戦ではオリバー・ローランド選手(日産フォーミュラEチーム)が日本でポール・トゥ・ウィンという最高の結果をもたらした。
2024/2025 ABB FIA Formula E World Championship Round 8/9 TOKYO E-Prix
2024~2025年FIAフォーミュラE世界選手権(シーズン11)第8戦・第9戦 東京E-Prix
開催日:2025年5月16~18日
開催地:東京都
主催:VICIC
2014年に発足した、バッテリー式電気自動車のフォーミュラカーを使用して世界各地で争われているフォーミュラEシリーズ。2019年末にはFIA世界選手権のタイトルが冠されてさらなる人気を博し、今季で11シーズン目を迎えている。昨季にはフォーミュラEサイドがかねてより熱望していた日本での開催が叶い、多くの観客の下で東京の公道を駆け抜けたが、2025年も東京・有明を舞台に「東京E-Prix」がパワーアップして帰ってきた。
二度目の東京E-Prixとなる今回は、開催に際していくつかアップデートがなされている。昨年は前売り券が売り切れになるほど人気が高かったため、今年は観客席を増設。さらにシリーズ第8戦・第9戦と2戦連続のダブルヘッダーとなった。17日と18日の2日間でそれぞれ予選と決勝レースが楽しめるスケジュールが組まれただけでなく、さらに今季から採用されている“ピットブースト”が第8戦に用いられ、2戦で異なるレース戦略を楽しむことが可能に。
このピットブーストとは、レース中に必ず一度のピットインが義務化されており、その際に600kWの超高速充電を30秒間行うことで、10%のエネルギーを回復できるというもの。ピットに入るタイミングによっては大逆転も狙えるだけに、戦略が重要な鍵を握り、より臨場感を味わえる。対して第9戦は通常フォーマットで行われるが、ピットインが不要なため、スプリントのガチンコ勝負を楽しめるのだ。
また、今季から四輪駆動システムを採用し、かつピットでの急速充電を可能にした新型マシン「GEN3 EVO」が導入された。さらにコースレイアウトの一部変更によって、スピード感をより一層感じ取れるようになった。この東京ストリートサーキットは、東京ビッグサイト(東京国際展示場)を囲むように設営され、全18のコーナーからなる全長2.575kmのコースで、3つのロングストレートが特徴だ。
コースの変更点はターン2~3にかけてのジャンピングポイントの改善と、ターン15から先のシケインが削減されたことだ。開催初年度はターン2からターン3まで下り坂で、各車がジャンプしてフロアを擦ることが問題として挙げられており、ドライバーの間でも評判が悪かった。今季は改修工事が行われたことで下り坂が少し滑らかになり、ドライバーたちの間では改善を評価する声も挙がっていた。
そのほかレイアウト面ではとくに大きな変更などはなく、アタックモードのアクティベーションゾーンも前年度同様のターン4に設定されている。ややコース幅が狭く感じる箇所がいくつかあり、オーバーテイクが多いフォーミュラEシリーズだけに今回もどこで仕掛けるかで展開が見ものとなる。そして公道のマンホールの蓋に溶接が施され、より安全なレース環境を目指した配慮がされていたのが印象的だった。







大会は16日より公式セッションが開始され、この日は1日を通して曇り空で少々蒸し暑い陽気となったが、16時からのFP1でついにGEN3 EVOが初走行を開始。セッションが始まると、土曜日の雨予報を見越してかほぼ全車がピットを離れて計測を開始、5分ほどで上位3台が昨年のフリー走行で記録された1分20秒台を突破し始める。
続々とタイムアップするドライバーが現れ始めるも、ルーキーのテイラー・バーナード選手(ネオム・マクラーレン・フォーミュラEチーム)が、今季変更されたターン16〜17の高速コーナーでクラッシュ。自力で降りたものの、マシンの損傷が激しく以降は走行が叶わなかった。
赤旗中断後にはさらにタイムが更新され、ダン・ティクトゥム選手(クプラ・キロ)が真っ先に1分12秒台へ入れトップに浮上。残り5分を切ると、母国で初優勝を狙う日産フォーミュラEチームが速さを見せ、ノーマン・ナトー選手とローランド選手がワン・ツーにつけた。その後に一時順位を下げてしまものの、ナトー選手が1分12秒152をマークして再びトップへと返り咲いてセッションは終了。
2番手のマキシミリアン・ギュンター選手(DSペンスキー)に対し、0.278秒差をつけて首位発進を決めた。3番手にはランキングトップのローランド選手が入り、初日から日産フォーミュラEチームがワン・スリーにつける好調ぶりを示した。






雨の影響で予選キャンセルとなった第8戦は、戦略を味方につけたバンドーン選手が勝利
迎えた第8戦開催日の17日は予報通り雨に見舞われ、8時からのFP2はウェットコディションで開始となった。激しく水飛沫が上がるほどの雨量で、各車がスタックやスピンを喫する場面もあり、一時フルコースイエロー(FCY)や赤旗中断を挟む少々荒れ模様の展開に。その中、東京ストリートサーキットを得意とし、「クルマのパッケージも非常に良い状態だ」と自信を示していたローランド選手が、2番手に約0.7秒差をつけてトップで終えた。
2番手にはエドアルド・モルタラ選手(マヒンドラ・レーシング)、3番手にはナトー選手も入った。雨の中で存分にタイムアタックできないドライバーもいたが、日産陣営が前日に引き続きドライとウェットの両コンディションで速さを示し、このことは後にいい結果をもたらすこととなった。
10時20分からは予選が行われる予定だったが、直前に雨脚が強まった影響で度々ディレイ。最終的にはキャンセルという決断が下り、第8戦決勝レースのグリッドはFP2の結果が反映されることに。そのため、雨の中でもしっかりとタイムを残していたローランド選手に運が味方し、2戦連続および東京E-Prixでは3戦連続となるポールポジションを獲得。日産の地元で初優勝に向けて大きな一歩を踏み出した。



午後になっても薄暗い雲が雨を降らせ、決勝レースは約10分遅れの15時15分にセーフティカー(SC)導入によって幕を開けた。4周目終わりにはSCが隊列を離れ、5周目にスタンディングスタートが切られると、ポールスタートのローランド選手がホールショットを決め、早々にリードを広げて逃げ切りの体制に入っていく。
2番手にモルタラ選手、3番手にバーナード選手が順位を上げ、その後方では早々にアタックモードを使用し始め、ニック・デ・フリース選手(マヒンドラ・レーシング)がトップ3圏内に浮上する。各所でバトルが展開され順位が変動する中、早くも11周目には14番手スタートのバンドーン選手がただひとり先手を切ってピットインする姿もあった。
すると、その直後に中団を走るマキシミリアン・ギュンター選手(DSペンスキー)が13コーナーでトラブルからマシンをストップさせ、14周目に赤旗が掲示される。ここで有利な状況になったのは、ピットインを早々に済ませていたバンドーン選手だった。赤旗中断によって各車のギャップがなくなり、ピットでのロスタイムを取り戻せる絶好の機会が巡ってきたのだ。
その後、10分ほどの中断を経て再びスタンディングスタートを切られると、変わらずローランド選手が首位をキープし、モルタラ選手、ブエミ選手が続き中盤戦へと突入していく。終盤にかけて各車はアタックモードの消化やピットブーストをこなしてやや小康状態になる中、残り15周を切るとローランド選手を含む上位勢が次々にピットへ。ここでようやくアンダーカットに成功したバンドーン選手がトップの座を奪う。
ピットを終え2番手で復帰したローランド選手とは、約30秒のアドバンテージがある状態だった。雨で滑る路面状況で途中スピンする場面もあり差は20秒以内になるも、巧みなマネジメントで一定のギャップをキープし続ける。2番手のローランド選手も残り少ない周回数で徐々に差を縮めていくが、背後にはバーナード選手が迫りテール・トゥ・ノーズの状況で容易く追撃は許されない。
激しい攻防戦はファイナルラップまで続き、ふたりのバトルを尻目に展開を味方につけたバンドーン選手が8.140秒差をつけてトップでチェッカーを受け、大逆転勝利を収めた。「レース序盤にたくさんのエネルギーを使い、最初から早いタイミングでのピットインを決めていた」とバンドーン選手。アグレッシブな戦略が見事にはまり自身3年ぶりの優勝を手にした。
2年連続でマセラティが東京E-Prixを制し、日産陣営とローランド選手はまたも2位に留まるという結果になったが初志貫徹な様子。ドライバーズランキングでは2位に60ポイントのリードを広げ、さらにはチームおよびマニュファクチャラーズランキングでも逆転することに成功し、ローランド選手も思わず「夢のようだ」とコメントした。
3位には、初日のクラッシュから見事リカバリーし日産のパワートレインを積むバーナード選手が入り、今季4度目のポディウムを獲得。多くの観客が詰めかけたファンビレッジで表彰式が行われ、JAF坂口正芳会長や江東区長の大久保朋果氏らがプレゼンターとして登壇した。









日産が母国レースでついに頂点に! ローランド選手が1年前のリベンジを果たす
前日の興奮も冷めやらぬ18日、第9戦を迎えた。この日は朝から青空が広がっていたが、定刻8時に始まったFP3の時点ではややウエットパッチが残る状況だった。序盤から各車が積極的にタイムアタックを遂行する様子が見られ、続々と1分12秒台に突入させていく。その中、パスカル・ウェーレイン選手(タグ・ホイヤー・ポルシェ・フォーミュラEチーム)が、1分12秒011と11秒台も垣間見える好タイムをマークしトップで終えた。
その後、10時20分に予選開始の時刻を迎えた。フォーミュラEの予選方式としては、まずはランキングで分けられたA・Bグループによる各12分間の予選が行われ、各上位4名計8名がデュエル形式にて1対1でのタイム合戦を繰り広げる。そこで絞られた4名はセミファイナルへ、さらに上位2名がファイナルに進出しポールポジションをかけて争うというものだ。第8戦では雨の影響でキャンセルとなったため、今季の東京E-Prixではこれが初の予選となった。
Aグループでは終盤の赤旗中断でタイムアタックが難航するものの日本陣営が躍動。ルーカス・ディ・グラッシ選手(ローラ・ヤマハABTフォーミュラEチーム)がトップ通過を決め、ナトー選手、ローランド選手と日本を母国とするチームが上位3台を独占した。Bグループではタグ・ホイヤー・ポルシェ・フォーミュラEチームが本領を発揮し、FP3トップのウェーレイン選手とアントニオ・フェリックス・ダ・コスタ選手ともに次のステージへと進んだ。
続くデュエル予選では、日産とポルシェでのチームメイト同士のバトルが実現しローランド選手とウェーレイン選手がタイム合戦を制したが、ここで躍動したのはティクトゥム選手だった。勢いをそのままにファイナルステージに進出し、セクター3までローランド選手を上回るペースで来ていたが、クラッシュを喫してスローダウン。後攻のローランド選手は危なげなく最後まで丁寧に走り切り、東京E-Prixで3戦連続のポールポジションを獲得した。




曇り空が広がるドライコンディションの下、15時05分に第9戦決勝レースがスタート。まずは前日同様にローランド選手が良い蹴り出しを見せてホールショットを奪う。5周を消化すると上位勢が少しずつアタックモードを使用し始め、8周目にはティクトゥム選手がトップに浮上。ローランド選手はウェーレイン選手、バーナード選手と立て続けに先行を許して4番手まで後退していたが、ここではアタックモードを温存する。
12周目に落下物回収のためFCYが導入され、リスタートが切られると16周目にウェーレイン選手がトップへと躍り出る。後方では、一時6番手まで順位を下げていたローランド選手が14周目にアタックモードを始動させるも挽回できず、今度は22周目と早いタイミングで6分間使用を開始。周りも合わせて一気に出力を上げたため混戦に。
上位勢の中で余力を残していたローランド選手は一気に2番手まで回復させると、ウェーレイン選手のアタックモードが終了したタイミングでサイド・バイ・サイドを展開。やや接触しながらも、26周目についにトップを奪い返し、応援に駆けつけた観客を沸かせた。ただ依然として接近している状態で、28周目には上位4台による激しい首位争いが繰り広げられ、29周目にはターン5でバーナード選手がクラッシュを喫してSC導入へ。
最後は1周で再開され超スプリント勝負へ持ち込まれたが、ローランド選手が最後は見事逃げ切り、『東京E-Prix』3戦目にしてついに日産の地元で初優勝をもたらした。愛娘のハパちゃんとともにポディウムに登壇し、多くのファンと日産応援団が見守る中で今季5勝目を捧げた。
2位にはウェーレイン選手が続き、ダ・コスタ選手とバーナード選手がノーポイントとなったためランキングでも2位に浮上。3位にはティクトゥム選手が入り、フォーミュラE初となる表彰台を獲得した。この結果によりローランド選手は2位と84ポイント差をつけ、チームとマニュファクチャラーランキングにおいても首位を維持しリードを築いた状態で、シーズン後半戦に挑むことになる。
ローランド選手は「レース前半は戦略面でうまくいかず、とても失望していたけど、みんなが僕をアンダーカットしてくるだろうと予想して、残り6分あるからこっちがアンダーカットしてやろう!と思ったんだ。結果的にそれが功を奏したよ」とうれしさを滲ませた。
チームメイトのナトー選手は中盤まで上位争いも繰り広げていたが、タイムペナルティにより17位で終えている。また、ローラ・ヤマハABTフォーミュラEチームのディ・グラッシ選手は5位、ゼイン・マローニ選手は14位という結果となった。
さらにパワーアップし2年目の開催を迎えた東京E-Prixは、連日多くの観客を動員し、さらにニッサンの母国でローランド選手がポール・トゥ・ウインを捧げるなど大盛況のうちに幕を閉じた。シーズンはまだ残っているが、来季以降も東京・有明に帰ってくることを期待したい。













2026年も東京E-Prixの開催は内定。ジェフ・ドッズCEO「我々と東京は共生関係にある」

大会開幕前の16日には、フォーミュラEのジェフ・ドッズCEOと、シリーズの共同創設者兼チーフチャンピオンシップオフィサーであるアルベルト・ロンゴ氏が日本のメディア向けの囲み取材に応じた。
まずは2024年の初開催を振り返ると2名とも「大成功だった!」と自信を持って発言。実際にその手応えを十二分に感じた様子で、ロンゴ氏は「ファンの反応が良かった。グランドスタンドも満席でしたし、あのときは小池都知事と日本の首相も来てくださって、来場者数においてもレースの内容においても大成功だったと言える」と昨年大会を総括。
開催2年目となった2025年はダブルヘッダー開催となった。ドッズCEOは「今年は2レース開催できるということには、とても誇りに思う。そもそも公道を閉鎖するということは簡単なことではないが、東京都の協力もあり、2連戦をやってもらえるというのは、とてもうれしく思っている」と、協力した東京都と小池百合子都知事への感謝の気持ちを述べていた。
当初はさまざまな憶測や不安視する声も聞こえていたが、周囲が想像する以上に東京都とフォーミュラEの絆は強固な模様。「私たちと東京はsymbiotic(共生)の関係にあると思っている」とドッズCEO。
「これは小池都知事とも話していることだが、それぞれ異なる視点はあるにせよ、『CO2排出量の削減、地球にやさしい環境を目指していく』といった求めているものは同じ。日本には熱心なファンが多く、モータースポーツの歴史もある。そして東京はゼロエミッションに対しても強い意識を持っている」
「我々は、その共通の目標に向かって擦り合わせていけるのではないかと考えている。これからも東京でフォーミュラEを何年も開催してきたいと考えているし、その方向で東京都と話をしていく予定だ」と力強く語っていたのが印象的だった。
すでに2026年大会についても話は進んでいるようで、ロンゴ氏によると「FIAモータースポーツ評議会での承認を得なければいけないので、今はそれを待っている状況だけど、現状では東京大会も来季のカレンダーの中に入る予定だ。東京都の我々に対する信頼というのは大きくなっていて、今年はこうして2レース開催を許可してくれた。これからも、この素晴らしいパートナーシップを継続していきたい」と、3度目の開催について言及があった。
2026年大会は、どこまで進化するのか。今から楽しみで仕方がない。
PHOTO/石原康[Yasushi ISHIHARA]、遠藤樹弥[Tatsuya ENDOU]、Formula E Operations Limited、VICIC、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS] REPORT/三家香奈子[Kanako SANGA]、吉田知弘[Tomohiro YOSHITA]、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS]
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