新井大輝WRX、奴田原文雄ランサーとの激闘を制して初の全日本王座を確定!
2020年12月16日
全日本ラリー選手権は今季の事実上の最終戦となる第3戦ツール・ド九州in唐津が、11月27~28日に開催された。
2020JAF全日本ラリー選手権第3戦
Sammyツール・ド・九州2020in唐津
開催日:2020年11月27~28日
開催場所:佐賀
主催:GRAVEL
今回の大会は、当初は例年通り、4月に開催が予定されていたが、新型コロナウイルス感染拡大を受けて、これまで開催されたことのなかった11月末に延期された。競技の内容も従来の形から変更を受け、27日金曜午前にレッキを行い、同日午後からLEG1がスタート、翌28日土曜にLEG2を行ってゴールという実質2日間のコンパクトなラリーとなった。
ラリーは27日15時に唐津市内のボートレースからつ駐車場をスタート。この日はお馴染みの「SANPOU」ステージ10.28kmを2度走行する。2本目のSANPOUは17時過ぎのスタートとなり、全日本ラリーでは今年初のナイトステージとなった。
翌28日のLEG2は「BIZAN」6.89km、「UCHIURA」4.28km、「HACHIMAN」6.06kmという3つのステージを、3回走る。サービスは2ループ目と3ループ目に間に1回だけ置かれるという設定だ。BIZANはツール・ド・九州で初めて設定されるステージで、コースの特徴も、これまでこのラリーで使用されてきた林道とは異なり、アップダウンに富み、クレストが多い日本離れしたステージだ。距離も7km弱とLEG2の中では最長ということもあって、勝負所のひとつになると見られていた。
4人のドライバーがチャンピオンの権利を持って臨んだJN1クラス。LEG1で飛び出したのは昨年のこのラリーでも圧倒的な速さを見せた奴田原文雄/佐藤忠宜組のランサー・エボリューションXだった。まずSS1で2番手の新井大輝/小坂典嵩組WRXに3.4秒の差をつけてベストを奪うと、ナイトステージとなったSS2では3番手にとどまるも、SS1で得たマージンが効いて2番手の新井大輝組に4.2秒差をつけて折り返す。
SS2でベストを奪い3番手に上がった勝田範彦/石田裕一組は6.9秒差で喰らいつくも、チャンピオンの権利を有する鎌田卓麻/鈴木裕組は12.4秒そして3連覇を狙う新井敏弘/田中直哉組は16.6秒もの遅れを取り、早くも厳しい展開に追い込まれた。
明けた28日。LEG2の最初のSSとなるSS3は注目のBIZAN。ここでもベストは奴田原組が獲り、0.4秒差で新井大輝組が続いたが、勝田組は1.8秒遅れて3番手。初見の道には強い新井敏弘組も3.6秒遅れて4番手と、次第にラリーは奴田原、新井大輝の2クルーによるマッチレースの展開を見せ始める。
「LEG1から攻めていきましたが、様子見の部分もあって、それを考えると奴田原さんの4.2秒落ちで折り返せたのは想定内のタイム差ではあったんです。BIZANはペースノートを作るのが難しい道だったので、その点では自分達に分があると思って全開で行ったんですが、それでも奴田原さんに負けた。あれだけ走っても勝てないのか、大変な一日になるな、と思いました」と新井大輝選手。
しかしその後もフルアタックを続けた新井大輝組は、SS3、SS4と立て続けにベストを奪って逆襲に転じて1.6秒差まで詰め寄る。さらに2度目のBIZANとなるSS6では1ループ目のSS3を4.6秒も上回るスーパーベストをマーク。一方、奴田原組はこのステージで痛恨のスピン。新井大輝組に15秒差をつけられてゴールし、首位の座を譲り渡してしまう。
だが奴田原組もあきらめない。その後の5本のSS中4本でベストを奪う激走を見せたが、スピンによるタイムロスを埋めることは叶わず、逃げ切った新井大輝組が前戦ラリー北海道に続く、今季2勝目を獲得。初の全日本チャンピオンを確定させた。
「リードした後も、気を緩めることなく全開でしたが、今までにないくらい限界で踏み切った今日の1ループ目で耐えられたのが一番の勝因ですね。正直、舗装は今年、結果が出せてなかったので自信はなかったのですが、試行錯誤を重ねてガラっと変えたセットで臨んだので、自分の中でも、どうなるか分からないという所でスタートしたラリーでした。どこでリタイヤしてもおかしくないくらいのペースで攻め続けたラリーでしたが、そこで走り切れたのは、クルマのお陰です。このクルマに携わってくれたすべての人達に感謝したいと思います」と新井大輝選手は前回のラリー北海道に勝るとも劣らない白熱のバトルを振り返った。父親である新井敏弘選手と奴田原文雄選手という全日本のトップドライバーを連破した末の王座。世代交代を印象付ける一戦となった。
JN2クラスは前戦ラリー北海道で全日本初優勝を達成した中平勝也/行徳聡組がLEG1をトップで折り返すが、LEG2では8月のラリー丹後で舗装での速さを見せつけた上原淳/漆戸あゆみ組がSS3から3連続ベストを叩き出して一気に首位に立つ。しかし、上原組はSS8でマシントラブルに見舞われて戦線を離脱。中平組がそのまま逃げ切り、中平選手は初の全日本チャンピオンを確定した。またナビゲーター部門のタイトルは中村英一選手のコ・ドライバーを務めた大矢啓太選手が、こちらも初のチャンピオンを獲得した。
JN3クラスでは山本悠太/山本磨美組がナイトのSS2でベストを奪って首位で折り返す。この最終戦で大逆転を期した山本組だったが、LEG2最初のステージとなるSS3でコースアウトでリタイヤ。タイトル防衛は潰えてしまった。シリーズリーダーの竹内源樹/木村悟士組が代わって首位に立つが、その後、SS4から5連続ベストと驚異的な追い上げを見せた曽根崇仁/竹原静香組が一気にトップに躍り出る。竹内組もSS9BIZANで曽根組を4秒差に下すベストで首位を奪還するが、最終のSS11では曽根組が今度は6秒差で竹内組を下す圧巻のベストタイムをマーク。土壇場で竹内組を再逆転した曽根、竹原の2人がチャンピオンをもぎ取った。
「昨日のナイトのSS2で大きくタイムダウンして、“いよいよ目が見えなくなったのか”と落ち込んだんですが、後でスローパンクチャーしていたことが分かったので、今日は気を取り直してアタックできました。走りながら細かくセッティングを変えて、その都度、タイムに反映されたので、最後の勝負に持ち込めたと思います。乗りやすいというセットの方向性は変えなかったことが最後の大一番でも走り切れたことに繋がりました」と曽根選手。全日本ラリー2輪駆動部門時代からこのラリーを知る唐津マイスターだけに、経験値の豊富さが大逆転を手繰り寄せたと言えそうだ。
JN4クラスは、シリーズリーダーとして今回のラリーに臨んだ古川寛選手のスイフトがSS1でコースオフ、マシンを痛めてスロー走行を強いられるという波乱の展開で始まった。LEG1の2本を完全制圧したのは高橋悟志/立久井和子組のスイフトスポーツ。2WDトップの総合7位で折り返した高橋組は、28秒という大量マージンをしっかり守り切って、ラリー丹後に続く今季2勝目をマークした。
「タイヤが6本しか使えないという規定だったので、LEG1で先行してLEG2をタイヤをマネジメントして走る、という作戦通りの展開に持ち込めました。(2番手を15秒引き離したベストを獲得した)SS1はタイヤが暖まらない所で敢えて勝負を賭けましたが、このラリーで走り慣れたSANPOUステージだったのが助かりました。他の道だったら、こんなにうまく行ったかどうかは分かりません」と振り返った高橋選手だが、ラリー北海道をパスしたため、チャンピオン獲得はならず。6位完走を果たした古川選手がドライバー部門で2年ぶりの王座に返り咲き、ナビゲーター部門は、LEG2での追撃で2位までジャンプアップした内藤学武選手のコ・ドライバーを務めた小藤桂一選手が獲得した。
JN5クラスでは、タイトルを争う2台のヴィッツを横目にSS1からトップを快走した小濱勇希/東駿吾組が、2日間、UCHIURAステージを除くすべてのSS8本を完全制覇し、1分を超える大差で優勝。ヤリス投入3戦目で初の勝利をゲットした。注目の天野智之/井上裕紀子組と大倉聡/豊田耕司組によるチャンピオン争いは、SS1で大倉組がマシントラブルで1分近くをロスするという予想外の展開となり、その後はペースコントロールに徹した天野組が今年もタイトル防衛に成功した。
チャンピオン確定の明治慎太郎/里中謙太組が新たに投入したヤリスCVTの熟成のため、オープンクラスに今回は参戦したJN6クラスは海老原孝敬/遠藤彰組アクアがLEG1は首位で折り返し、本命不在となった戦いで先行した。しかしLEG2に入ると、ヤリスで3戦目のラリーとなった水原亜利沙/高橋芙悠組が徐々にペースアップ。SS3、SS5、SS6と海老原組を大きく引き離すベストを奪取したことが効いて、SS9で遂に首位に立つ。水原組はその後も海老原組の追撃を許さず、トップをキープしてフィニッシュした。高橋選手とともに嬉しい全日本初優勝を達成した水原選手は、「ドライバーとマシンが、ステージによって得意不得意が分かれるラリーでしたが、得意な道で頑張って何とか差を縮めようとしたのが最後に報われました。嬉しくて泣きそうです(笑)」と感激に浸っていた。
フォト/中島正義、山口貴利、小竹充、JAFスポーツ編集部 レポート/JAFスポーツ編集部
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