Team一心の「海外ヒストリックラリー参戦プロジェクト2021」進行中!! “レジェンド”篠塚建次郎氏から雪道走行を学ぶ
2021年3月4日
現役の学生たちが自らの手で旧車のレストアを行い、そして競技出場のための改造を施し、海外のヒストリックカー・ラリー参戦を目標に活動を行う「海外ヒストリックラリー参戦プロジェクト2021」。昨今のコロナ禍によって海外参戦は断念せざるを得ない状況となったが、新たな目標を据えた東京大学の学生らによる「Team一心」の奮闘ぶりをレポートする。
海外ヒストリックラリー参戦プロジェクト2021
雪道走行レッスン
開催日:2021年2月24日
開催地:八ヶ岳グレイスホテル(長野県南牧村)
東京大学とホンダ学園ホンダテクニカルカレッジ関東の学生が共同で行っている「海外ヒストリックラリー参戦プロジェクト」。これは単なるサークル活動ではなく、れっきとした授業として行われているプロジェクトで、参戦の条件となる古いクルマをフルレストアすることからスタートし、ラリー車としてのレギュレーションに合致した改造を行ったり、海外渡航の手続きから資金集めまで、そのすべてを学生たちが担う。
数えること本年度で11年目となる本プロジェクトだが、猛威を振るう新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を受け、大幅に活動が制限されてしまった。当初、2021年度はラリー・モンテカルロ・ヒストリックへの参戦を目標に掲げ、コロナウイルスの感染対策を最大限に配慮しながら、わずか7か月の期間で精力的に活動を行っていたものの、各方面への調整や検討むなしくラリー・モンテカルロは断念する形となった。
その後は他の海外ラリー参戦を目指すも、やはりコロナ禍で阻まれてしまい、海外参戦は厳しいと判断。目標が二転三転するほど慌ただしい状況下、ようやく巡ってきたチャンスが、3月に無観客で開催される全日本ラリー選手権第2戦「新城ラリー2021」だ。オープンクラスでの参戦を新たな目標とし、心機一転、出場のための準備を鋭意進めている。
このプロジェクトを取りまとめているのが、全日本ラリー選手権でナビゲーターとして活躍している草加浩平氏だ。草加氏は東京大学の工学系研究科で「自動車の設計教育」寄附講座で教鞭を執る、特別専門員兼非常勤講師でもある。そもそもなぜ東大で“ラリー”を正式な授業としたのだろうか?
「最近の学校教育、もっと言うと普段の生活からしても、大学生になるまでにものに触る機会がすごく少ないんですよ。僕らの世代だったら、例えば掃除機や時計が壊れたら分解していたけれど、今は分解しても中身は何もないじゃないですか。みんな使い捨てになっちゃって。子供たちが何かを分解して中身を見ようとする機会がないまま、大学生になっています」
「(機械工学の学生たちは)何も知らないまま学科の授業に来ていて、例えばネジをどちらに回せば締まるかすら知らないんです。昔の人はネジの方向だよって言えば分かることでも、右ネジ左ネジを経験していない世代はそうじゃない。そんな時代になっているんですよ。そこで、現物に触って体験させることがとても大事だなと思いました」と、ものづくり教育の重要性を説く草加氏。
続けて「10年ほど前に日本のものづくりが世界に通用していない事例が顕著に現れたできごとがあったんです。それまで東大の工学部ってものづくり教育や英語教育、シラバス(講義要項)の体系化って全体の教育体系をつくることを一生懸命やっていたんですけど、これが違うんじゃないかって話になって」
「英語教育をいくらやれど、言ってることは理解できても言いたいことが通じない……。要はその国の文化の背景を知らないからだと思います。そこでこれから先は語学教育よりも国際化教育をしなければいけないという考えに至ったんです。諸外国の人と何かひとつのプロジェクトをやらせること、そして同じ土俵で勝負する機会を与えてあげようじゃないかと」
「ものづくりでつくったものを海外に持って行って、海外で真剣勝負させると、それを通して諸外国との文化や考え方の違いが理解できるんじゃないか」と、国際化教育の必要性も唱えた。こうしてヒストリックカーをレストアしてラリー車としてつくりあげ、海外ラリーへ参加して異国の文化に触れるためのプロジェクトが立ち上がったというわけだ。
またホンダ学園テクニカルカレッジ関東との協力体制については「東京大学の学生は、身の回りが優秀な“東大”というフィルターがかけられた学生の集まりなんです。その中で4年間を共に過ごすわけじゃないですか。他からの刺激を受けないまま、ひとつの考え方に固まってしまうのです」
「東大生って考えるのは得意なんだけど、割と手が動かないんですよ。逆に考えるのは苦手だけど、手を動かすのが得意な人たちもいるわけで。そういう特性を持つ人たちの存在を知ること、一緒になってやることで、より良い成果を上げられることって世の中にたくさんありますよね。それを体験させてあげたいんです」という、ダイバーシティ(多様性)教育の側面も付け加えた。
今回、新城ラリーを目前に控えてTeam一心が取り組んだのは、ラリーについての造詣をより深めることと、レストアした車両の性能を実証するための走行を行うこと。参戦こそ叶わなかったが、モンテカルロを走る想定で雪道ラリーがどんなものなのかを経験してもらうことが目的だ。
とは言っても競技経験はおろか、免許すら持っていないメンバーもいるほどで、講師として“レジェンド”ラリードライバーの篠塚建次郎氏を招聘し、レクチャーを受けることとなった。その篠塚氏が行っている「シノケンスノードライビングスクール」の開催地である八ヶ岳がレッスンの舞台だ。
2月24日、目の前に八ヶ岳連峰が広がる長野県南牧村の八ヶ岳グレイスホテル周辺で実施された雪道走行レッスン。この開催数日前からの暖かな陽気で雪はほとんど解けてしまったが、特別に用意されたクローズドコースの日陰にはかろうじて残雪もあり、集まったTeam一心のメンバーは期待に胸を高めていた。
持ち込んだ車両はそれぞれスタッドレスタイヤを装着したトヨタ・TE27カローラレビン、ダイハツ・G10シャレード、トヨタ・シエンタの3台。マニュアル車とオートマ車、そしてFFやFRの駆動方式の違いを雪道で体感してもらうのが狙い。各車両には篠塚氏を始め、ラリー経験の豊富な萌木の村ROCKの舩木良氏や、全日本ラリー選手権にも参戦経験のある小林剛氏が同乗して、ドライビングのサポートに入った。
雪道走行前にレッスンの概要やポイントの説明が座学の時間として設けられ、篠塚氏の膨大な経験談の元、特に瞬時の判断力の大切さが説かれた。午前中の走行メニューとしては急発進/急制動といった非日常の操作と、それによるクルマの挙動を実際に体験することに主眼が置かれた。
講師の篠塚氏によると「ヒストリックカーのラリーに参戦するというプロジェクトの元、毎年学生を集めて(レッスンを)やっているんだけど、皆、頭が良い子たちばかりです。でも頭の中だけで考えるのではなく、実際にいろんなことを経験させてやりたい、というのが大きな目的です」と、プロジェクトに賛同する理由を語る。
「残念ながら今回はラリー・モンテカルロ・ヒストリックには出られませんが、クルマ選びに始まり、レストアの方法、レギュレーションに合わせたクルマづくりはもちろん、今時のコンピュータ化されたクルマとは違うヒストリックカーの動きをひとまとめで勉強できるのがプロジェクトの面白い点だと思います」
さらに「昨年72歳になったけど、ハタチ前後の学生さんたちと時代を超えた世代同士が、ラリーという同じ目標に向かって突き進んでいくっていうのも、個人的にはこのプロジェクト最大の魅力だろうなぁ」と付け加え、厳しくも温かな目で学生たちを指導する篠塚氏。
一方、このTeam一心のメンバーはプロジェクトをどう捉えているのだろうか? リーダー及びものづくり部門長としてメンバーをけん引する、東京大学の森映樹さんに話を聞いてみた。
「本年度で11年目となりますが、実はプロジェクトは年度ごとに一新して行われています。皆が何も分からないところから始めたので、まさに手探り状態でした。加えて新型コロナウイルスの影響もあって序盤の活動がほとんどできず、ミーティングは全部オンラインで、さまざまな局面で歯がゆさもありました」
「プロジェクトのメンバーそれぞれ、参加した理由は異なりますが、僕は海外ヒストリックラリーの募集をオンラインで見つけて面白そうだなと思ったのがきっかけです。大きなプロジェクトに携わって達成するという経験が一度もなかったので、学生のうちに一度はやっておきたいなと思うようになりました。これを機に自分たちの成長にもつながればいいなと思います」
「東大は周りに似た人が多い狭い世界になっていて、今回のメンバーは特に理系が集まっていることもあって意見がとても似通っているんです。ホンダ学園ホンダテクニカルカレッジ関東という技能を学ぶ専門学校の存在も正直なところ知らなくて、一緒にプロジェクトを進めていく中で、行動力のある彼らから見習うべきところをたくさん発見できました」と、草加氏が提唱したダイバーシティ教育にも刺激を受けている様子だ。
この雪道走行レッスンで実際にハンドルを握ってみた感想を聞くと、「滑ったときは対応できるかなって頭の中で思い描いていたのですが、実際はハンドルをどっちに切ればいいのかわからなくなったり、ブレーキを踏んでいいいのかもわからなくて難しかったです」
「ウィンドーが曇りやすいとか、ここが少し汚いとか、ネジが緩いとか、実際に乗って走るといろいろ気がつくことが多かったです。タイヤとかしっかりボルトを増し締めしていないと不安だとか。細かいところを煮詰めていく必要を感じました。これらが事前に体験できたのは大きな収穫でした。またモチベーションも上がりました」
そして体験同乗した篠塚氏の運転については「走行スピードがすごく速いのは当然ですが、雪道の手前になった瞬間にしっかり減速したり、曲がるときは周囲に気を付けていたり、経験の上でドライビングが成り立っているんだなと感じました。すごいのひとことです」と、興奮冷めやらぬ様子で語っていた。
この雪道走行レッスンは半日に渡って行われたが、最後に篠塚氏が学生たちに贈った言葉は「モータースポーツの中でも、レース等にはないたくさんの面白さが詰まっているのがラリーです。自己満足の世界ですが、思っている通りにクルマが操れた時の満足感は高かったのではないでしょうか?」
「私がラリーをやっていて学んだことは、何かひとつの目標に向かう時にそれぞれの役割をみんなが正しく理解しておく、ということです。いろんな予測しないことが次々と起こると思います。路面コンディションもそうだし、天気もそうだし……、皆がうまく仕事をこなせば結果はおのずとついてくる競技なんです。これが皆さんのプロジェクトを成功させる秘訣だと思います」
「今日は短い時間でしたが、皆さんはラリー魅力のほんのちょっとの部分を味わえたと思います。これを機会にラリーをもっと好きになってくれると嬉しいです」と締めた。
このレッスンを通してさまざまな経験や刺激を受けたTeam一心。これから参戦する新城ラリーではチームのサポート業務に携わっていくが、若い彼らのつくりあげたクルマや挑戦にもぜひ注目してみてもらいたい。
フォト/小竹充、JAFスポーツ編集部 レポート/JAFスポーツ編集部
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