トヨタ、カーボンニュートラルなモビリティ社会実現に向けて、モータースポーツを通じた技術開発に挑戦

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2021年5月6日

トヨタ自動車株式会社は、カローラ スポーツをベースとした競技車両に水素エンジンを搭載し、スーパー耐久シリーズ2021 Powered by Hankookの参戦車両として投入することを発表した。

 トヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ)は、カーボンニュートラルなモビリティ社会実現に向けて、「水素エンジン」の技術開発に取り組むことを明かした。カローラ スポーツをベースとした競技車両に水素エンジンを搭載し、5月21日から23日に行われるスーパー耐久シリーズ2021 Powered by Hankook(以下、S耐)第3戦NAPAC富士SUPER TEC 24時間レースから、「ORC ROOKIE Racing」(以下、ルーキーレーシング)の参戦車両として投入するという。モータースポーツの厳しい環境で水素エンジンを鍛えていくことで、サスティナブルで豊かなモビリティ社会を実現すべく、貢献していくそうだ。

 トヨタイムズによると、4月22日に行われた発表会に出席したトヨタの代表取締役社長であり、ルーキーレーシングのチームオーナー兼ドライバーでもある豊田章男氏は「今後、トヨタから(開発を)委託されるルーキーレーシングは、この先のモータースポーツの可能性を秘めた水素エンジンにチャレンジしていきたいと思っております。なぜ、24時間耐久レースなのかというと、3時間、5時間持つだけではダメだからです。24時間持たせるような準備ができていないといけない。しかも、参戦ドライバーが私自身です。水素というと爆発のイメージを多くの国民の方が持たれていますので、安全を証明するためにも私がドライバーとして参戦していきたいと思っております。」と力強く語ったとのことだ。

ルーキーレーシングは先頭を走るST-2クラスのGRヤリスと、ST-QクラスのGRスープラでS耐に参戦中だ。

水素エンジンは、環境性能とクルマの楽しさを両立できる可能性を秘めている

 トヨタの「MIRAI」等に使用されている燃料電池(以下、FC)が、水素を空気中の酸素と化学反応させて電気を発生させモーターを駆動させるのに対し、水素エンジンは、ガソリンエンジンから燃料供給系と噴射系を変更し、水素を燃焼させることで動力を発生させるものだそうだ。ガソリンエンジンでも発生するごく微量のエンジンオイル燃焼分を除き、走行時に二酸化炭素は発生しない、とのことだ。

 豊田氏とともに会見に出席したGazoo Racingカンパニープレジデントの佐藤恒治氏は「水素の特性として、燃焼速度がガソリンの8倍なので、応答が早くなります。なので、低速トルクの立ち上がりも早く、トルクフルでレスポンスがいいというのが水素エンジンのいいところだと思います。ただ、燃焼が早いがゆえに、高圧・高温になるため、熱のコントロールが技術的課題になっており、最高出力をどこでバランスさせるかにつながってきます。今回のレース参戦では、最高出力をどこまでだして、燃焼をどこまで安定させるかバランスを確認するので、水素エンジンのポテンシャルがすべて見えるとは思っておりません。」と語ったとのこと。優れた環境性能を持つと同時に、クルマが持つ、音や振動を含めた「クルマを操る楽しさ」も実現する可能性を秘めているそうだ。

 搭載する水素エンジンの概要は、総排気量1,618ccの直列3気筒インタークーラーターボ、使用燃料は圧縮気体水素であることが明かされた。市販されているカローラ スポーツに搭載している総排気量1,196cc、直列4気筒ターボとは異なるエンジンのようだ。

4月28日のテストに登場した競技車両のリヤビュー。ルーフに追加されたエアインレットとエアアウトレットやオーバーフェンダー、中央一本出しのマフラー等が市販車と異なる。

モータースポーツ等で鍛えた技術も活かしつつ、経済復興・地域活性化に向けても取り組む

 今回の水素エンジンには、2020年9月に販売を開始したGRヤリスなど、モータースポーツで鍛え続けてきた技術も活かしているそうだ。安全性については燃料電池車(以下、FCV)の開発やMIRAIの市販を通して、積み重ねてきた技術・ノウハウを活用する、とのことだ。

 競技中には福島県浪江町の「福島水素エネルギー研究フィールド」にて製造された水素(※注)を使用する予定だという。水素活用の促進によりインフラ拡大を目指すとともに、引き続き経済復興・地域の活性化に向けた取り組みも関係者の皆様とともに進めるそうだ。

 トヨタはこれまでもカーボンニュートラルの実現に向けて、FCVのみならず多くのFC製品の普及による水素活用の促進を目指し、取り組みを強化してきたという。水素エンジン技術をモータースポーツでさらに鍛えることで、より良い水素社会の実現を目指す、とのことだ。

(※注)国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)および経済産業省との連携のもと、復興の地・福島県の「福島水素エネルギー研究フィールド」(福島県浪江町)において、製造されたもの。

4月28日にはテスト走行も達成。モータースポーツの未来も背負い、実戦デビューを待つ

 豊田氏は「HV(ハイブリッド)はルマン24時間レースなど、様々なモータースポーツの世界でプロモートしてきましたが、どうしても、燃費のイメージが先行していたと思います。そのため、水素エンジンの場合は、初めからモータースポーツの中に組み込み、「走る・曲がる・止まる」の楽しさを訴求していきたい。」と語り、さらに「そして、なにより、カーボンニュートラルというと、どうしてもEVの話になってしまいます。長年レースの分野で戦ってきた(自動車産業)550万人の中には、エンジンチューニングなどのノウハウを積み上げてきた方々がいます。今回の水素エンジンは、エンジンもカーボンニュートラルの役に立てること、そして、モータースポーツを支えるメカニックやプライベートガレージの方が将来使えるプラットフォームにできるよう、まずはルーキーレーシングがトライさせていただきたいと思い、このタイミングになりました。」と発表の時期について語ったそうだ。

 そして4月28日、水素エンジンを搭載したカローラ スポーツは富士スピードウェイで行われたS耐のテストに参加し、他の参戦車両とともに走行を果たした。さらに実戦デビューが成功すれば、モータースポーツの未来に向けても大きな一歩となることは間違いないであろう。今シーズンのS耐から、ますます目が離せなくなりそうだ。

フォト/トヨタ自動車 レポート/JAFスポーツ編集部

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