ラリーの安全な運営に寄与する、安全訓練講習が京都府南丹市で開催

レポート ラリー

2021年8月6日

近畿地方の梅雨明けが宣言されたばかりの7月18日、京都府南丹市の園部にて「2021年 第2回FIA基金助成によるJAF EVENT SAFETY TRAINING PROGRAMME(実技編)」が開催された。近畿地方を中心に競技会運営に携わるクラブ員をはじめ、全日本ラリー選手権を戦う選手など約50人が参加し、競技車両からの救出訓練を中心に講習が行われた。

2021年 第2回FIA基金助成によるJAF EVENT SAFETY TRAINING PROGRAMME(実技編)
開催日:2021年7月18日
開催地:園部文化会館アスエル園部(京都府南丹市)
主催:JAF 運営:AG.MSC北海道 現地対応:JMRC近畿ラリー部会

 京都府南丹市はかつて「KYOTO南丹ラリー」が全日本ラリー選手権の1戦として開催されていたなど、ラリーとは縁がある地だ。その南丹市内で、5月9日にオンラインで開催されたセミナーに続く、実技編が開催された。会場は南丹市役所所在地の園部に建つ、園部文化会館アスエル園部だ。

この日最後の訓練となった車両切開訓練に臨む参加者たちと会場のアスエル園部。かつてあったという園部城を想起させる外観が特徴的だ。
受付では北海道コロナ通報システムへの登録に検温、手指と靴裏の消毒、マスクと手袋着用の徹底とフェイスカバーの配布や問診票への記入・提出など、感染拡大防止策が徹底されていた。

 午前中は室内での訓練。先ずはメディカル部会の紙谷孝則医師によるラリーにおける救急救命とCOVID-19対策の講義、そして実技訓練に向けた映像の視聴とAG.MSC北海道による実演が行われた。

紙谷孝則医師による、COVID-19について最新の状況や対策、それを踏まえたラリーでの救命救急についての講義を実施した。
ラリーでの救命救急についての映像を視聴した後は、これから体験する実技訓練をAG.MSC北海道のクラブ員と紙谷医師が模範実演した。

 いよいよ午前中最後の訓練となる実技訓練。ヘルメットを被り、椅子に着座して被救助者役を演じる参加者を、KEDという救出器具で上半身を固定したうえで、バキュームスプリントと呼ばれる固定具に移す訓練を行った。

 さらに、AEDを用いた蘇生訓練も実施。最新の蘇生法はCOVID-19感染への対策で、人工呼吸を行わない、というところも印象的だった。

被救助者役にKEDを装着させる参加者。正面の赤・黄・緑のストラップは、下の緑から黄、赤の順で締めていく。
KEDを装着させた被救助者役を用意したバキュームスプリントに固定する。固定されたままレントゲン撮影などの診察も行えるという、スグレモノだそうだ。
1回の訓練が終わる都度、全ての器具を除菌。午後の実技訓練でも同じく、感染拡大防止策を徹底して行っていた。

 午後からは屋外での実技訓練。午前中に行った救出訓練を、実際のラリー競技車両に被救助者役が座った状態から行う訓練を実施した。天地左右に制限がある車内、さらに張り巡らされたロールケージなどによって午前中の救出訓練とは打って変わって制約が多い状況に、参加者たちは苦労しながらも協力して訓練を行った。

 被救助者の意識の確認からKEDの装着、車外に用意したバキュームスプリントに固定するまでを7分以内で行うことが理想的とのことだが、迅速に救出できるようになるには訓練を重ねることが重要になりそうだ。

運転席に座る被救助者役にKEDを装着させる。狭い車内やロールケージの存在によって、午前中の訓練のようにはいかなかったことはもちろんだが、身体を包み込むような形状のバケットシートが、特に訓練を難しくしていた様子であった。
苦労を重ねて車外に搬出した被救助者役をバキュームスプリントに固定し、隣の担架に乗せたら訓練完了。実際の現場では林中の傾斜地や車両の横転など、多様な状況が考えられる。それらの状況に合わせて、使用する器具や救助方法などを臨機応変に対応しなくてはいけないそうだ。

 最後の訓練は、医療スタッフが乗り込むMIV(Medical Intervention Vehicle)とともに配備されるTIV(Technical Intervention Vehicle)に備えられている、油圧式カッターなどの救助器具を用いて、実際の車両のフロントガラス除去、Aピラー切断からルーフ解放までの訓練を行った。これまでの訓練の内容では被救助者を車外に救出できない場合に行う救助方法のひとつだそうだ。

先ずはフロントガラスの除去。養生を施し、レシプロソーで切断していく。被救助者に飛散したガラス粉が降りかからないよう、毛布などで覆うことも重要だ。また、除去したフロントガラスは車両の下に置く。
ルーフを開放するために、油圧式カッターで左右のAピラーの切断、そして左右のBピラー手前に切れ目を入れる。カッターは二人一組で使用する。
ルーフの開放では、切断した左右のAピラーにロープを結び、車両後方から引っ張ると開放しやすいそうだ。そのロープを車両後部に結べば、解放したルーフが前方に戻ってしまうことを防ぐこともできる。
当講習には、ラリー部会から松本洋部会長(写真上)が、全日本ラリー選手権審査委員グループから仲野次郎委員(写真下)が評価委員として出席された。

 2020年から各地で開催している当訓練をはじめ、全日本ラリー選手権のツール・ド・九州での救急活動セミナーなど、より安全なラリー運営を広める事を目指す施策の実施が近年、日本各地に広がっている。

 今回、講師を務めた紙谷医師は「繰り返し繰り返しやっていくことで頭に残ります。自分自身がそうですから。繰り返し(講習などを)やっていることで、パッと動けるようになったんです」と1回の受講だけではなく、その後も繰り返し訓練を行うことの重要性を語ってくれた。

 当講習を運営するAG.MSC北海道の田畑邦博代表も「ウチ(AG.MSC北海道)はメンバーの身体に覚え込ませるようにメニューを組んでやっているよ」と紙谷医師と同じく訓練を続けることの重要性を語り、また「競技会の規模は関係ないよ。全日本でも地区戦でも、みんなができるようになってくれば、全体の質が上がるんじゃないかな」とも語ってくれた。

 参加者からも「何度もやって身体が動くようにならなきゃダメですね。機会があればまた受けたい」や「これはオフィシャルみんなが分かっていて動けないと。クラブ員全員に受けてほしい」、「多くの人に受けてほしい。もっと開催して広めてほしい」という感想や、「競技会をやる以上、カテゴリーに関係なく危険はあるんやから参加しました」とコスモスパークを中心に、ダートトライアルのオフィシャルを主に務めている参加者もいたなど、積極的な反応が多く見られた。

 参加者の積極的な感想や行動と、紙谷医師と田畑代表が語ってくれた内容が、表現こそ違うが同じ内容に感じたことからも、参加者にとって有意義な講習であったことが伺えた。当講習をはじめとした活動の内容が全国に広まっていくことによって、モータースポーツ全体が、より高い安全への意識向上につながっていくことに期待できそうだ。

フォト/中島正義、JAFスポーツ編集部 レポート/JAFスポーツ編集部

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