29回目のソーラーカーレース鈴鹿、30年の歴史に幕。5時間耐久レースはTEAM RED ZONEが66周で制し、4時間耐久レースはMTHS松工ソーラーカーチームが悲願の初優勝!
2021年8月13日
昨年は新型コロナウイルス感染症感染拡大の影響で中止となり、2年ぶりの開催となったソーラーカーレース鈴鹿。毎年恒例の”暑く熱い”戦いは最終章を迎えることとなり、長年ソーラーカーで戦ってきた選手たちは、様々な想いを胸に秘め、最後の大会に挑んだ。
FIA Electric & New Energy Championship
ソーラーカーレース鈴鹿2021 5時間耐久レース/4時間耐久レース
開催日:2021年7月30~31日
開催地:鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)
主催:JAF、株式会社モビリティランド
2021年7月30~31日、三重県鈴鹿市の鈴鹿サーキット国際レーシングコースにて「ソーラーカーレース鈴鹿2021」が開催された。1992年に第1回大会が開催されて以来30年。昨年は新型コロナウイルス感染症感染拡大の影響で中止となっており、今年で開催29回目を迎えた伝統のレースも、今大会で最後というアナウンスが事前になされていた。
本大会では5時間耐久レースと4時間耐久レースが行われ、日曜には別の大会が行われる影響で、金曜に予選を兼ねたフリー走行、土曜に両レースの決勝が行われる。4時間耐久レースはエンジョイⅠ、エンジョイⅡクラスが混走し、5時間耐久レースはFIAのタイトルが掛けられたオリンピアクラスのほか、ドリームやチャレンジの3クラスが混走する。
金曜には両レースの計時予選を兼ねた90分のフリー走行が行われるが、大会期間中の決勝スタートまでの走行機会は、車検時のチェック走行を除いてこのフリー走行のみ。6月7日には鈴鹿サーキットで「試走会」が行われたが、この試走会の後に補修やアップデートが入った場合は、フリー走行がぶっつけ本番となってしまう。2年ぶりであり、年に一度のレースとなると、多くのチームが少ない走行機会の中で戦っているのが実情だ。
金曜のフリー走行では、土曜の決勝へ向けたテストとして、発電や充電量、放電量とラップペースの関係を最終確認するのが基本と言えるが、異なる目標を持って臨んでいたチームもあった。オリンピアクラスの有力コンテンダー、TEAM RED ZONEである。
同チームはレコードブレイクをターゲットに据えていた。チームを率いるエースドライバーの野村圭佑選手曰く「最後だから、ウチはお祭り」ということで、コースイン早々にアタックを開始。いきなり3分24秒295を叩き出してコースレコードを更新してみせた。
そして、セッション残り8分では驚愕の3分19秒982を計測。名古屋工業大学ソーラーカー部が持っていたオリンピアクラスの3分34秒252だけでなく、OSU大阪産業大学がドリームクラスで持つ最速の3分32秒100をも大きく上回るコースレコードを刻むことになった。
5時間耐久レースのフリー走行では、ポールポジションを獲得したTEAM RED ZONEメンバーの母校チームである、芦屋大学ソーラーカープロジェクトが4分10秒199で総合2番手を獲得してフロントローを形成した。総合3番手は4分11秒298を計測したドリームクラスのJTEKTソーラーカーチームが獲得。チャレンジクラスのトップは堺市立堺高等学校科学部で、4分26秒734を記録して総合10番手というグリッドを獲得した。
金曜午後には続いて4時間耐久レースのフリー走行が行われ、エンジョイⅠとエンジョイⅡクラスは学生チームが多いこともあり、決勝へ向けたパフォーマンスチェックが主流であった。そこで気を吐いたのがエンジョイⅠのMTHS松工ソーラーカーチームだった。
松工(三重県立松阪工業高校)のOBであり、スーパーFJを始めとしたフォーミュラ経験者の森准平選手が4分10秒689という驚異的なタイムを記録。これは同校が持つエンジョイⅠクラスのコースレコードを約11.5秒上回るもので、オリンピアクラスのTEAM RED ZONEに続く、最後のソーラーカーレース鈴鹿でのコースレコード更新劇となった。
社会人チームが主体となるエンジョイⅡクラスは、STEP江東が4分28秒041でクラストップ、強豪のオリンパスRSは4分30秒618という好タイムでクラス2番手に付けた。そして、昨年の優勝チーム「JAGつくばソーラーカーチーム」は体制を変更して「池田技研」としてエントリー。今回は原点回帰をテーマに往年のマシンを持ち込んでの参加となっていた。
決勝日となる土曜の午前7時。鈴鹿サーキットの天候は薄曇り。エンジョイⅠとエンジョイⅡクラスが混走する4時間耐久レースがスタートした。
ポールポジションのMTHS松工ソーラーカーチームは、ホールショットこそ逃したものの、ダンロップ下で首位を奪還。そのままハイペースなレース展開を見せるかと思われた。しかし、スプーン出口で失速してオリンパスRSにトップを譲り、その後はSTEP江東も絡んだ三つ巴の激しいバトルとなった……。
……ように見えたが、それぞれのチームの理想とするペースがぴたりと重なってしまい、結果的にバトルの様相となってしまったとのこと。そして、9周付近でサーキットのタイミングモニタが一瞬動かなくなるハプニングも発生。正しいペースを見失ったSTEP江東が誤スパートを決めて一気にトップに躍り出るというアクシデントもあった。
中盤まではMTHS松工とオリンパスRS、STEP江東という3チームが総合トップを争う展開。昨年のエンジョイⅠウィナーで、常勝チームである平塚工科高校社会部は、例年通りトップ争いには加わらず、理想のペースを守って淡々と総合4番手周辺を走っていた。
スタート時の天気はやや雲が多く、後半に向けて日照が回復してゆく方向にあった。そのためレース終盤に向けて各チームのエネルギーマネジメントが物を言う展開が予想された。また、今年から最大連続乗車時間が120分から90分へと短縮されたため、エースドライバーの乗車スティントをどう取るかという部分でも、例年とは異なる戦略が要求されていた。
各チームともほぼ90分を使い切る形で最初のピット時期を迎え、第2ドライバーがペースをキープする展開かと思われた。上位を走るチームが5分前半のペースを守っている中で、MTHS松工が5分10秒、5分05秒といったタイムで2番手以降にプレッシャーを掛け始めた。それは、MTHS松工のドライバーである、6月の試走会で鈴鹿初走行となった高校生ドライバー・黒坂昇吾選手が、チーム戦略を忠実に反映した走りを見せたのだ。
この時点ではMTHS松工はエンジョイⅠ、オリンパスはエンジョイⅡのクラス首位を堅守している状態だ。「最後まで行けます(森選手)」というMTHS松工に対し、2番手のオリンパスRSの山本武監督は「正直、今は少し無理をしてます」という状態だったので、エネルギーマネジメントとしてはレース半ばで総合の勝敗は既に決していたと言えそうだ。
中盤以降、エンジョイⅡのSTEP江東と総合3番手争いをしていたエンジョイⅠの平塚工科は、レース終盤で何とタイヤトラブルに見舞われ、緊急ピットインを余儀なくされた。これで総合3位の夢は潰えたが、同クラスの後続車に対しては十分なギャップを築いていたためクラス2位を守ってフィニッシュ。平塚工科高校の菅野忠一氏曰く「10年やって初めて見た」というタイヤトラブルだそうで、レースの厳しさを痛感させられたとのことだ。
レース後半はやや膠着状況となっていたが、ラスト3周では「少し電気が余ったので(山本監督)」と語るオリンパスRSが最後の最後でアタックを仕掛け、レース中盤で千葉黎明高等学校工学部が記録していた5分1秒台のファステストを大きく上回る4分39秒989を計測。場内実況もピットも大いに盛り上がる4時間耐久レースのフィナーレとなった。
最終的に中盤以降の順位がそのまま結果へと繋がり、総合優勝は44周を周回したMTHS松工ソーラーカーチームが獲得。総合2位は44周のオリンパスRS、総合3位は41周のSTEP江東、総合4位は41周の近大高専ソーラーカー・EV部、総合5位は41周の平塚工科高校社会部、総合6位は40周の神戸高専ソーラーカーチームとなった。
また、エンジョイⅠクラス優勝はMTHS松工ソーラーカーチーム、クラス2位は平塚工科高校社会部、クラス3位は神戸高専ソーラーカーチームが獲得。エンジョイⅡ優勝はオリンパスRS、クラス2位はSTEP江東、クラス3位は近大高専ソーラーカー・EV部となった。
4時間耐久レース総合優勝を成し遂げ、エンジョイⅠクラス優勝も果たしたMTHS松工ソーラーカーチームは、参戦23回目にして悲願の初優勝を獲得。そして、三重県チームのエンジョイクラスでの優勝はこれが初という記録も打ち立てることになった。
4時間耐久レースがフィニッシュして1時間のインターバルを経て、オリンピアとドリーム、チャレンジの3クラス混走による5時間耐久レースが正午ジャストにスタートした。当日の天気予報は午後から雨マークを指していた。気温は高く、多少の日照が得られていたものの、サーキット北西の空には重たい曇を背負った天候でのスタートとなった。
金曜のフリー走行を圧倒的なタイムで制したTEAM RED ZONEは、決勝もオープニングラップから4分01秒台というハイペースで走り始めたが、8周を終えたところで左リアタイヤのスローパンクチャーで緊急ピットイン。これで下位に沈むかと思いきや、2位の芦屋大学に対して十分なギャップを築いていたため、順位変動もなくレースに復帰した。
レース中盤までは、三重県北部に溜まった曇天により、各チームとも発電量が性能を大幅に下回る状況にあった。レースが1時間を経過する辺りには、最終コーナー側が黒雲に覆われ、「激しい降雨」に対する注意喚起の場内アナウンスも流れていた。この日照が足りないという状況は、ソーラーカーレースでは全チームに対して公平に降りかかる悪条件であり、天候の読みも含めたエネルギーマネジメントが問われることになる。
TEAM RED ZONEに至っては「経験したことがない遅いペース」だったそうで、過去のマネジメントデータがなく、総合トップを走りながらも手探り状態となっていた。THE BLUE STARSの山本晴彦氏は、早々にドリームクラスのトップに立ち、一時は総合3位を走っていたものの、レース前半は「本来の発電量の1/3も出ていなかった」、「600Wの発電能力がある中で、ひどい時は100Wあるかないか」という苦しい走行だったという。
また、チャレンジクラスのトップ、Team MAXSPEEDの代表・蔵城剛憲氏は、この苦しい状況を「借金生活です」と表現してくれた。つまり、レース後半での日照の回復に賭け、レース中盤まではエネルギーマネジメント的に無理をしているということだ。チャレンジクラスの2番手、和歌山大学ソーラーカープロジェクトのOBチームであるCabreoは、エントラントの谷口祐太氏によれば「前走車、後続車のどちらともギャップが大きいため、無理に追いかけず、冷静にマネジメントしてゴールまで運ぶ」というプランを採っていた。
結局、予想された「激しい雨」に見舞われることはなく、天候は曇りベースで時折日照を得られるという難しいコンディションで5時間耐久レースは進行。各クラスのトップは中盤以降の大きな変動がなく、ゴールまで安定したペースでラップを重ねていくことになる。
5番グリッドからスタートしてスルスルッと総合2番手、オリンピアクラス2番手に浮上していた柏会は、前後ともにギャップがあるため、こちらも安定したギャップを維持したままレースを続けていた。熱かったのは総合3番手争い、オリンピアクラスの表彰台争いだ。
前半では総合トップを伺う走りをしていたKAIT(神奈川工科大学)ソーラーカープロジェクトだが、ピットの度にタイムロスを喫して、トップ争いそして2番手争いから脱落。最終的に芦屋大学と表彰台を巡る激しいバトルを展開するが、芦屋大学がタイヤトラブルで後退。これにより総合上位の順位が固まり、5時間耐久のゴールを迎えることとなった。
総合優勝とオリンピアクラスの優勝は、オリンピア連覇、6大会連続6勝目を挙げたTEAM RED ZONE。周回数は2019年大会の70周、2018年大会の71周には及ばず66周に留まった。ドリームクラス優勝は、最終的に電気は余裕があるがタイヤが厳しい状態だったため敢えて上を追わなかったTHE BLUE STARS。チャレンジクラスは、1992年の初参戦から30年、29回を走り切った地元・鈴鹿高専のOBチームであるTeam MAXSPEEDが、後半の日照の読みが当たってクラストップでゴールを飾った。
クラス別順位は、オリンピア優勝はTEAM RED ZONE、クラス2位は柏会、クラス3位はKAITソーラーカープロジェクト。ドリーム優勝はTHE BLUE STARS、クラス2位はTeam宮工(宮崎工業高校)、クラス3位は愛知工業大学チャレンジプロジェクト。チャレンジ優勝はTeam MAXSPEED、クラス2位はCabreo、クラス3位は堺市立堺高等学校科学部となった。
最後のソーラーカーレース鈴鹿ということで、決勝レースの周回数という記録においてもレコードブレイクをイメージしていたチームも少なからずあったようだが、4時間耐久、5時間耐久レースのどちらもスタート時点での日照が弱かったこともあり、レース序盤の段階でその夢が潰えてしまったのが実に残念であった。
鈴鹿サーキットを舞台に29回開催された伝統のソーラーカーレース鈴鹿が幕を閉じ、ベテランだけではなく、若い参加者たちの活躍の場が失われてしまったことは実に残念である。しかし、別のフィールドで新たなソーラーカーのイベントが有志により計画されているという話もあるため、今後のソーラーカーレースの動向を注視していきたいところだ。
どうしても出たかった最後の鈴鹿大会
フォト/小竹充、JAFスポーツ編集部 レポート/深澤誠人、JAFスポーツ編集部
※夏季開催のイベントにあたり、会場では熱中症対策を講じている場合があります。
*一部誤りがございましたので、修正を施して再公開いたしました。