ラリー関係者に向けたレスキュー講習会が相次いで開催

その他 ラリー

2021年10月6日

競技会の現場で、またともに安全に携わる関係者と連携する形で、ラリー競技の救急救命活動に向けた取り組みが行われた。

 先日の「RALLY HOKKAIDO」のレポートでも紹介したが、今回のラリーでは、競技がスタートする前日の金曜日に、参加者全員を対象とした講習会が開催された。「2021年FIA基金助成によるJAFイベント セーフティトレーニング プログラム」というのが、その正式名称だが、今回は敢えて、「選手向け」という4文字が、このタイトルに付け加えられた。主催はJAFで、RALLY HOKKAIDOのオーガナイザーであるJAF公認クラブのAG.MSC北海道が、このブログラムの運営を担った。

 JAFは毎年、全日本ラリー選手権の競技会の際に、参加者を対象としたラリーのレスキュー活動の講習会を行っている。シーズン初め、4月に行われることの多いツール・ド・九州in唐津で開催される講習会では、毎年、FIAからアドバイザーを招いて評価をその都度求めるなど、講習会全般のレベルアップにも務めている。これまでレスキュー講習会のメインプログラムは、実車を用いて、アクシデントに遭った乗員を車外へ救出する訓練を体験するというものが主だったが、今回は実地の講習はなし。約2時間にわたって座学のレクチャーを受けた。

 講習会は、昨今のコロナ禍を受けて、「救命救急とCOVID19感染対策」のテーマから始まり、「事故が起きたら」、「現場での救助技術」と続き、これまで講習会で体験してきた救助技術を再確認する項目が続いた。特に「事故が起きたら」の項目では、事故の当事者になった場合に取るべき行動について周知徹底が行われたほか、後続車のドライバーの取るべき行動についても、1台目、2台目そして3台目と、到着順に詳細な解説が行われた。

 また講習会の後半では、「赤旗対応とラリーコントロール」、「予防安全」、「安全装備と正しい装着」のテーマの下、レクチャーが続いたが、特に「赤旗対応とラリーコントロール」については、ラジオポイントで赤旗が提示された場合の競技車の対応についての再確認が行われたほか、事故が発生した際のオーガナイザー側の一連の対応の流れについても説明がなされた。

 JAFは9月3日付けで、「ラリー競技開催規定」の一部改正に関する公示を出した。その中では全日本ラリー選手権に適用される「スペシャルステージラリー開催規定」についても一部改正が行われ、特に「第25条スペシャルステージ(SS)」の項では重要な改定がいくつか行われた。今回の講習で触れられた前述の「事故が起きたら」、「赤旗対応とラリーコントロール」の項目では、まさにその改定点を噛み砕いて説明する内容となっている。この公示は来年1月から施行されるが、第25条15.の「競技クルーの安全」に関する条文は即日施行とされたため、その適用第1号となるRALLY HOKKAIDOに臨む選手達に、まず周知が行われたという形となった。

 講習会の終盤には、「安全性向上策について」についてのレクチャーも行われた。これは上記の開催要項改定に先立って公示された「2021年全日本ラリー選手権第2戦『新城ラリー2021』における重篤事象に基づく安全性向上策について」を改めて解説するもので、同ラリー開催時に、急激に雨量が増したSSでハイドロプレーニングを起こして横転した車両の処理の事案を巡って検討された安全向上策が、前述のラリー開催規定の改定に反映されたことなどが、説明された。

RALLY HOKKAIDOのレッキが行われた9月10日の金曜日にラリー参加選手を対象とした講習会が開催された。
RALLY HOKKAIDOのオーガナイザーでもあるAG.MSC北海道が講習会の運営を担当した。
事故発生時における選手の取るべき行動については、当該車両の乗員、また後続車の乗員それぞれの立場ごとに周知徹底が図られた。

 こうした「選手のための」講習会が開催される一方で、ラリーのオーガナイザー関係者を対象としたレスキュー講習会も行われている。7月21日には福岡県福津市で、JAFと宗像地区消防本部福津消防署が連携して救急活動訓練を行った。福津市と言えば九州のBライセンスモータースポーツのメッカとして知られるスピードパーク恋の浦を擁する街。九州モータースポーツのお膝元で、その安全な運営に向けての試みが行われた形だ。

 この訓練は昨年に続いて2回目の開催。きっかけはツール・ド・九州in唐津のオーガナイザーであるグラベルモータースポーツクラブ(GRAVEL)が昨年、宗像地区消防本部と合同で行った救急活動訓練だ。GRAVELには、同消防本部に勤務する吉田恵助氏がクラブ員として在籍しており、ツール・ド・九州in唐津の開催の際には救急救命士として任務に当たっているが、その吉田氏が仲介役となって実現したのが昨年の救急活動訓練だった。今年は、RALLY JAPANでレスキュー活動を担う予定だった国内のラリー関係者達がJAF側から参加し、福津消防署の署員と合同で実車を使用しての救急活動訓練を行った。

 今回の訓練でメインとなったのは専用の救助器具を使用しての乗員の救出訓練で、事故で車両が損傷してドアが開かない場合を想定して、ピラーをはじめとするボディの切断作業等をラリー関係者・消防関係者双方が実際に体験した。今年はロールケージを装備した競技車が複数、用意されるなど本格的な内容となり、救助器具メーカーの関係者も立ち会うなど、乗員が脱出できない場合のアクシデントに対応した実践的な技術と知識の習得が図られた。

 加えて今回の訓練では、事故発生時のレスキュー活動に関する指揮系統について、吉田氏が宗像地区消防本部の場合を例に取りながら、その要点をラリー関係者に対して解説した。「実車を使用してのレスキュー活動訓練は、ツール・ド・九州in唐津の際に選手に体験してもらっていますが、ラリーのオーガナイザー関係者が救助器具を実際に使用してのレスキュー活動というのはまだあまり例はないと思います」というのはGRAVEL代表で全日本ラリー選手権審査委員グループのメンバーでもある七田定明氏だ。「その際に、チームとしてどのように現場で連携するのがベストなのかということを学ぶためにも、今回は敢えて指揮系統について座学と実地での訓練も入れました。今回の訓練をきっかけに、またラリー関係者のレベルアップが図られると思っています」と七田氏は今回の訓練の意義を語った。

 RALLY JAPANは今年も残念ながら開催が見送られてしまったが、代替として開催されるセントラルラリーでは、今回の参加者達の経験が、早速フィードバックされる予定とも聞く。国際格式ラリーの開催も最早珍しくはない国内ラリー界だが、今後もスケールアップが進むであろうラリー競技に対するレスキュー活動への対応も、地道ながら日々、進められている。

7月21日には、福岡県の福津市でラリーオーガナイザー関係者と宗像地区消防本部福津消防署合同による救急活動訓練が行われた。
実車を使用しての救急活動訓練は消防関係者にとっても貴重な機会とのこと。真摯な表情で訓練に当たっていた。
ラリーオーガナイザー関係者も、実際に救助器具を使用して連携を図りながら訓練を重ね、より実践的な知識と技術を身に着ける一日となった。

フォト&レポート/JAFスポーツ編集部

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