筑波 / 富士スーパーFJは眠れる獅子・安田航選手が念願のシリーズ初優勝で、独走する野島遼葵選手を止める!
2021年10月26日
グラスルーツレースの聖地ともいわれる筑波サーキットで、SCCN SEPTEMBER RACE MEETING in TSUKUBAが開催された。JAF地方選手権スーパーFJ筑波 / 富士シリーズや筑波ツーリングカーシリーズTTC1400など、6カテゴリー・5レースが開催されて、熱戦が繰り広げられた。
JAF筑波 / 富士スーパーFJ選手権シリーズ第5戦
筑波ツーリングカーシリーズ第4戦
2021 SCCN SEPTEMBER RACE MEETING in TSUKUBA
開催日:2021年9月19日
開催地:筑波サーキット(茨城県下妻市)
主 催:SCCN
ジュニアフォーミュラの登竜門、S-FJ。更なる飛躍を望む若手ドライバーが凌ぎを削るこのカテゴリーは粗削りながらもドライバーの本質が剝き出しになるレースでもある。ここまで4戦が消化され、JAF地方選手権チャンピオンの争いも残り3戦となった筑波 / 富士シリーズ。
ポイントランキングトップをひた走るのはディープレーシングから参戦する野島遼葵選手。4戦中3勝と圧倒的な強さでリードしている。彼を止めるべく第5戦に臨むのはランキング2位、ファーストガレージの安田航選手。速さこそ見せているが、マシントラブルなどの不運も続き開幕戦から4戦連続で2位。この2人の争いに割って入ろうと追うのは、未だ表彰台が遠いZAPの武者利仁選手とオートルックの本田千啓選手だ。
20分間の公式予選が行われたのは朝方まで降った雨がまだ路面に残る午前中。路面がどんどん出来上がっていく中でリードしたのは、7周目に59秒代に突入した武者選手だった。野島選手も安田選手もなかなか59秒台が見えない状況を、先に安田選手が15周目に59秒859で打破した。
しかし、武者選手の59秒827に僅かに届かず、無念の2番手に。武者選手は開幕戦以来のポールポジションを獲得した。3番手につけたのは本田選手。野島選手はさらに遅れて4番手で予選を終えた。武者選手は「路面は良かったんですが思ったよりもタイムが出ませんでした。グリップが高くないのでタイヤを転がすようなドライビングでタイムを稼ぎにいきました。決勝はこのままの順位で逃げ切れればと思います」と予選を振り返った。
安田選手は「金曜のドライ路面と同じような感触で走ると全然グリップしなくてタイムメイクに苦しみました。朝まで降っていた雨のせいかもしれませんね。前半は良かったんですが最終コーナーをまとめられませんでした。でもアベレージの速さも悪くないし、決勝はフロントローからスタートできるので今日こそは勝ちたいです」と意気込んだ。
午後イチで迎えた決勝は18周で競われた。好スタートを決めたのはランキングトップ、4番手スタートの野島選手。最高の蹴りだし、と自身も評したスタートで一気にPPの武者に襲いかかった。しかし、彼の目の前の安田選手もその好スタートに合わせるようにスタートを切った。一方、PPの武者選手は焦ってしまったのか、3番手にポジションダウン。トップの安田選手は徐々に野島選手と武者選手を突き放すスピードをみせるが、安全マージンといえるほどの差をつけることはならず。
「後ろから見ていて安田選手も徐々にミスが増えてきて差が詰まるときもあったんですが、後ろから襲ってくるマシンがミラーにちょこちょこ映ると気になってタイムを削れなかったですね」と野島選手が振り返ったとおり、2番手争いが激化するほどに、トップとの差は徐々に開いていった。
レース中盤の10周目、野島選手が意地を見せて武者選手を突き放し、徐々に安田選手を追い詰めた。タイヤの消耗が激しく、グリップが落ちてきた終盤は安田選手もミスが徐々に目立つようになってきたが、この状況に冷静に対処。「苦しい状況なのはきっとみんなも一緒だと思っていたので、ミラーで後続との距離を確認しながらマージンをキープできました」と安田選手はこのシリーズで初優勝を飾った。
「やっと勝てました!きょうの勝因はスタートでした!スタートでしっかり差をつけて1コーナーに飛び込めたので、あとは後ろを見ながらきちんと走れました。後半になるほどタイヤもきつくなってオーバーランしかけたところもあったんですが、これだけマージンを築けたのが大きかったですね。セットはなにも変えていなかったんですが、予選ではまともに走れなかった最終コーナーも随分良くなっていました。きょう勝てて本当に嬉しいです!まだランキングも7ポイント差の2位ですが、逆転チャンピオンを狙いたいと思います」と勝利のコメントを残した。
2位の野島選手は「予選から走りにまとまりがなく、安田選手の前に出られなかったのが敗因ですね。ここまでは自分の走りができて勝てていたのに、今回は最終コーナーが良くてもヘアピンがダメだったり、まともに1周をまとめることができなかったのが辛かったですね。じりじり前には追い付いてはいたんですが、決定打に欠けました。特に1コーナーのブレーキングミスが多かったのが悔やまれます」と悔しい表情を浮かべた。
3位の武者選手は今季初の表彰台。安田選手の初優勝でチャンピオン争いはさらに激化。富士スピードウェイでの最終戦までもつれ込みそうな予感だ。またマスターズクラスは中村俊行選手が今季初優勝を飾った。
大ベテランの女王・田中千夏選手がシリーズをリードする筑波ツーリングカーシリーズ第4戦のTTC1400クラス。トヨタEP82型スターレットのワンメイク状態になっているこのクラスには6台が参戦。ランキングトップの田中選手に反撃の狼煙をあげるのは、地元下妻市在住の荒川智弘選手と、徐々に実力を発揮しはじめている山本純一選手だ。
予選では田中選手が、2周目にタイムを出すとすぐにピットイン。ニュータイヤに履き替えてアタックに入ると思われたが、タイムが一向に上がらない。「なんだか、足回りのネジがどこか緩んでいるみたいな状態でクルマが曲がらなかったんです。エンジンの吹けも悪く、トップスピードに乗らなくて全然タイムが削れませんでした」と彼女の予選はここで終わってしまう。
不調に見舞われた田中選手に荒川選手が嚙みついた。彼もいつも乗っているクルマがトラブルで急遽、耐久レース用のクルマを持ち出していた。それにも関わらず、田中選手をコンマ3秒近く上回るタイムでPPを獲得。3番手には山本選手が続いた。荒川選手は「今日を落としたら後がないので、ポールが獲れて良かったです。1コーナーから第1ヘアピンまでの新路面の感触も悪くなく、良い感じに走れました。決勝もこのまま逃げ切って勝ちたいと思います」と振り返った。
15周で競った決勝のスタートで飛び出したのは、5番手スタートの木村洋輝選手。一気にトップを脅かしそうな好スタートを決めるも、田中選手の巧みなブロックに阻まれて3番手止まり。2速が伸びず、4番手に後退した山本選手は木村選手を一気に追い上げた。
トップの2台が先行すると、3位争いは激化。2周目の第2ヘアピンで山本選手が木村選手のインに飛び込むと一瞬接触。2台が弾けるように立ち上がるも、山本選手の加速が上回り3位に浮上。しかし、この時点で前2台は2秒近く前に離れてしまっていた。
トップ2台も熾烈な争いを展開。「予選ではどうにもならなかったんですが、決勝に向け、タイヤの内圧を思い切って高く設定したらグッと動きが良くなりました」という田中選手が虎視眈々と荒川選手の背後につけた。動いたのは13周目の第2ヘアピン。終始左右にクルマを振ってミラーに映り込むように動かす田中選手のプレッシャーに負けたのか、荒川選手はインを開けてしまう。田中選手はそれを見逃さず、レコードラインをトレースして荒川選手をパスした。
田中選手のスピードには、荒川選手の必死の追い上げも届かず、そのままフィニッシュ。「予選ではどうなることかと思ったんですが、決勝になってクルマの調子が戻ってくれて良かったです。無事に勝てて嬉しいです」と田中選手は喜んだ。これで2位に10ポイント差をつけて、最終戦で昨季に続くV2に臨むこととなった。
混走となるP-FR & AE86レースとVitz Race in 筑波の第3戦。AE86クラスには6台、P-FRクラスには3台、Vitzは2台がエントリーした。AE86クラスの予選トップは笠原一将選手。3周目にタイムを出すとタイヤ温存のため、すぐにピットイン。2位の廣田耕司選手にコンマ4秒の差をつけた。3位には荒木雅之選手、ここまで2連勝中の下平明彦選手はタイヤのマッチングが悪く、4番手となった。
「作戦通りです!2周タイヤを温めてからアタックすると決めてコースに出ました。前回もポールポジションを獲得していたんですがインジェクターのトラブルで6位だったので、今日こそは逃げ切りたいです」とはPPの笠原選手。2番手の廣田選手は「ゼッケン6の荒木選手の後をついていったらタイムが出ました。決勝はスタートで笠原選手を抜いて勝ちに行きます」と戦線布告した。
15周の決勝では、笠原選手がスタートの不安を払拭する好ダッシュを決める。廣田選手は、前の失速した他カテゴリーのクルマの処理に一瞬遅れをとって、後塵を拝してしまった。1コーナーと最終コーナーは廣田選手が速く、笠原選手のミスを誘うように、バックミラーに大きく映るように車両を揺さぶる。しかし、ヘアピンでは笠原選手の方が上だった。
「やっぱり笠原選手は速いですね!5月以来の久しぶりのレースだったんで自分の走りはまずまずできたんですが純粋にスピードで負けていました」とはレース後の廣田選手。笠原選手は盤石なレースで見事トップチェッカーを受けた。レースを終えて笠原選手は「苦節6年目で初優勝です!スタート苦手だったんですが、チームメイトに教えてもらったことが役に立ちました。本当に嬉しいです!!」と歓喜のコメントを寄せた。
3位にはランキングトップの下平選手。「予選でエンジンパワーに対してタイヤのグリップが高すぎてバランスが悪くなってしまったのに対し、決勝はタイヤとセットアップを少し変えて流す方向に振ったらいい感じに走れました。21年目の走りでシリーズを考えて3位をとりにいく走りに変えました。上位2台が前でちょっと離れていたのでアタックラインを走れたのも良かったのかもしれません。タイトルは最終戦のお楽しみにとっておくことにします」とチャンピオン獲得に向けて3位でレースをまとめる、ベテランの技も見せた。
P-FRクラスの予選トップ、総合PPを獲得したのは、スーパー耐久にも参戦している浅野レーシングサービスに所属する、大歳岳選手。何よりも走ることが好き、と語る超ベテランドライバーは、予選でも常に全開!「決勝に向けての練習も兼ねて全周アタックです(笑)」と余裕のコメントを残した。2番手にはこれがレースデビューという鈴木恭平選手が、コンマ5秒差で大歳選手を追う。
そして、鈴木選手にレース参戦への道を用意した、ニッサンDR30型スカイラインで参戦する安藤健二選手が3番手で決勝が始まった。不安視していたとおり、2番手の鈴木選手はスタートで大失速。総合でも順位を大きく落としてしまう。彼を尻目に悠々と1コーナーに飛び込んだのは大歳選手。ひとり1分7秒台で周回を重ねていった。
大歳選手のぶっちぎりで総合優勝も決めるだろう、とサーキット全体が見守っていた13周目。最終コーナーで、大歳選手のクルマのリアから白煙が上がった!「ここまでは順調だったんですけどね。新しい舗装にも慣れていい感じだったんですが、突然『パンッ』って音がして…。残念ですね」とレース後に大歳選手が語ったとおり、デファレンシャルブローで力なく1コーナー手前のグラベルにクルマを止めた。
これで息を吹き返したのは3番手スタートの安藤選手。ニッサンS13型シルビアを駆った鈴木選手を向こうに回し、なんとDR30型スカイラインを優勝に導いた。「この車になってからは一番いい走りだったんですが、周りの走りにも助けられた感じですね。僕、スカイラインが好きで、このクラスが4気筒しばりなんで3年前からこの車を作りはじめて、去年から参戦しています。シルビアに比べてかなり重いので、最終戦までにはECUなどもう一度見直して、何も無くても後輩に勝てるようにしたいですね。ボディ補強もしていないので、もうちょっと作りこみたいですね」と最終戦への意気込みを語ってくれた。
Vitzは25年ぶりにサーキットに帰ってきたという、高橋宏選手が優勝。「息子がレースをはじめるというので、親父も負けてられないから先にAライとってレースに出ました。まだまだ体が慣れてきませんが、これからですね。ヴィッツももっと台数が増えたら面白いんですが、とにかくこれからですね」とレース後に安堵の表情を浮かべていた。
P-FRクラスの予選2番手、総合でもフロントロー獲得、という驚きのレースデビューを飾った鈴木選手は若干24歳。「ずっとドリフトでサーキットを走っていたんですが、同じクラスの安藤選手が主催している走行会で声をかけてもらい、レースデビューすることになりました。それで、安藤さんが乗っていたシルビアを借りられることになって、どうせ出るなら勝ちにいくということで今回は本気で勝ちに来ました」とデビューのきっかけを語ってくれた。
決勝では、予選での好調とはうらはらに、“レースの洗礼”を受ける苦しい展開に。「でも、やっぱりレースは厳しかったですね。スタート失敗しちゃいました。更にガス欠で、右コーナーでGがかかるたびに失速しちゃって…悔しいですね。次こそは勝ちたいと思います!」と元気一杯のコメントを残してくれた。来季に向けて自分のクルマもつくりたい、と意気込むヤングドライバーの、今後の活躍に期待したい。
シリーズ上位陣の多くが不参加となってしまったが、それでも8台を集めたVITAトロフィーレースシリーズ第4戦。予選でトップタイムを叩き出したのは2018年のトロフィーレース、そして2019年は富士スピードウェイでFCR-VITAのチャンピオンを獲得している武村和希選手。チームメイトの忍田伸郎選手にコンマ5秒差をつけての余裕のPP獲得。
「前日の雨の影響か、あまりグリップが高くなかったんですが、乗り出しから悪くありませんでした。本当は追い上げる方が得意なんですが、決勝はスタートからぶっちぎりたいと思います」という武村選手を受けて、2番手の忍田選手は「サーキットはドリフトばかりで、今年から初めてレースに参戦し始めました。VITAはこれで4戦目ですが、本当に楽しいですね。予選はブレーキングが安定せず、きちんとタイムをまとめられませんでした。決勝はスタートが重要ですね。1コーナーまでが勝負どころだと思って逃がしません!」と意気込みを見せた。
そんなライバル心剥き出しのふたりがフロントローに並んだ15周で競う決勝。意気込む忍田選手を横目に好スタートを決めた武村選手。出遅れた忍田選手を突き放して1コーナーに飛び込むと、そこからは完全にひとり旅状態。10周目には後続に3秒以上の大差をつけた。
一方、激戦となったのは忍田選手以下の2番手争い。3番手の福地一真選手と4番手の戸谷友規選手が忍田選手に襲い掛かった。福地選手が一瞬インに飛び込むも、忍田選手はこれを被せて抜き返す。忍田選手は1コーナーで両選手にグッと詰められるも、ヘアピンとダンロップアーチまでに、再びその差を広げる、という展開に。
激しいバトルは続いたが忍田選手がしのぎ切って、順位変動が無いままチェッカーとなった。「完成度40点くらいです…。全然ダメでしたね」と振り返った忍田選手。一方、優勝した武村選手は「何秒くらい離れたかは分かりませんが、予定通りの展開でした。自分の中でも合格点です。1年半ぶりのレースだったので、最後の方にやっと体が慣れてきた感じでした。サラリーマンやりながらの参戦なので、またいいお話があったら乗りたいですね」とレースをまとめてくれた。
クラシカルな外観が特徴のケータハム・スーパーセブンのワンメイクレース、ケーターハムカップ スーパーセブンレース第2戦。総合PPとRクラスの予選トップを獲得したのは、中島賢一選手。2番手には宮下聡史選手、3番手には田中太郎選手と、Rクラスのドライバーが続いた。
「まだ雨が残っていたので全開では踏めませんでしたが良い走りができました」と中島選手は満足そう。一方、宮下選手は「縁石も割と乾いていて結構踏めました。でも1周まとめることができませんでした」と悔しい2番手となった。
15周の決勝はスタートから波乱の展開に。PPの中島選手がまさかの失速で、宮下選手がパス。さらに、好スタートを決めた4番手スタート、Eクラストップの伊藤健選手も中島選手をかわした。3番手まで順位を落とした中島選手だったが、2周目に伊藤選手をかわすと、宮下選手との一騎打ちになった。
同じショップに所属するふたりはクリーンなバトルを展開し、8周目の最終コーナーで中島選手が仕掛けた。クリッピングポイントで先にインに飛び込んだ中島選手が、立ち上がりで宮下選手をパス。その後は徐々に2位に差をつける展開に持ち込んで優勝を飾った。
「スタートはクラッチを少し滑らせてスーッといこうと思ったんですが、思い通りにいきませんでした。そのあとはくっついていってミス待ちしかないと思いました。向こうの車も速いのは分かっていたんですが、しかけるなら最終コーナーと決めていたんです。勝てて良かったです」と中島選手は安堵の様子。
2位の宮下選手は「いやぁー、スタートだけでしたね。前の視界は良かったんですが、後ろを見ている時間が長かったですね。とにかく直線スピードを稼ぐ走りをしてみたんですが、後ろの方が速かったですね。でも、経験の差がでちゃいましたね。前行かれてからは後ろばかり気になって、全然ついていけませんでした」と語った。Eクラスの優勝は伊藤選手。総合でも4位と、Rクラス勢に割って入る好走を見せた。
今回はチャンピオンが決まったカテゴリーは無かったが、その争いもいよいよ佳境に突入してきた。2021年を笑って終えるのは誰か?終盤戦のアツいレースも、要注目だ。
フォト/関根健司、鈴木あつし、JAFスポーツ編集部 レポート/鈴木あつし、JAFスポーツ編集部