超高速サーキットが舞台のWRC第12戦、チームメイトとの最終決戦を制したオジエ組が8度目の王者に、TGR WRTは三冠達成でWRカー時代を締める!

レポート ラリー

2021年12月9日

2021年の世界ラリー選手権(WRC)は11月19日~21日、イタリアの北部に建つF1イタリアGPの舞台、モンツァ・サーキットとその周辺で最終戦となる第12戦「ラリー・モンツァ」を開催。現行WRカーでは最後の一戦となるターマックラリーを制したのは、ポイントランキング首位のセバスチャン・オジエ / ジュリアン・イングラシア組。今季5勝目を挙げて、それぞれ8回目のドライバーズ&コ・ドライバーズチャンピオンを獲得した。同時にTOYOTA Gazoo Racingワールドラリーチーム(TGR WRT)は今季9勝目を挙げて、マニュファクチャラーズチャンピオンに輝き“三冠”を達成した。

2021年FIA世界ラリー選手権(WRC)第12戦ラリー・モンツァ
2021 FIA World Rally Championship Round 12 FORUM8 ACI Rally Monza

開催日:2021年11月19日~21日
開催地:イタリア・モンツァ・サーキット周辺

 今季のWRCはTGR WRTに加えてヒュンダイ・シェル・モビス・ワールドラリーチーム(ヒュンダイWRT)、Mスポーツ・フォード・ワールドラリーチーム、ヒュンダイ2Cコンペティションのクルーたちが最高峰クラスのチャンピオンを争ったが、主導権を握ったのはTGR WRTだった。

 開幕戦「ラリー・モンテカルロ」は地元のオジエ組が制すると、第3戦「クロアチア・ラリー」で今季2勝目を獲得。その勢いは中盤戦でも衰えることなく、第5戦「ラリー・イタリア・サルディニア」、第6戦「サファリ・ラリー・ケニア」で連勝を果たした。

 オジエ組のチームメイト、エルフィン・エバンス / スコット・マーティン組も第4戦「ラリー・ポルトガル」、そして第10戦「ラリー・フィンランド」を制覇。さらに3台目のヤリスWRCを駆るカッレ・ロバンペラ / ヨンネ・ハルットゥネン組も第7戦「ラリー・エストニア」でWRC初優勝を獲得すると第9戦「アクロポリス・ラリー・ギリシャ」で2勝目をマークし、TGR WRTは最終戦までに8勝を挙げていた。

 ドライバーズ&コ・ドライバーズチャンピオンの争いは207ポイントでランキング首位につけるオジェ組と、17ポイント差で2位につけるエバンス組、チームメイトによる一騎討ち。

 マニュファクチャラーズチャンピオン争いでも474ポイントでランキング首位のTGR WRTが、2位につけるヒュンダイWRTに対して49ポイントのリードを築いてリード。今季のWRCは3部門ともにTGR WRTがチャンピオン争いの主導権を握る中、最終戦のモンツァでも優勝争いを披露したのはその争いの渦中にあるオジエ組とエバンス組だった。

2021年シーズンのWRCに挑んだWRカーたち。左上からTOYOTA Gazoo Racingワールドラリーチーム(TGR WRT)のヤリスWRC、Mスポーツ・フォード・ワールドラリーチームのフィエスタWRC(右上)、ヒュンダイ2Cコンペティションのi20クーペWRC(左下、写真は第3戦)、ヒュンダイ・シェル・モビス・ワールドラリーチームのi20クーペWRC(右下)。

 デイ1、オープニングステージのSS1を制したのはオジエ組だったが、SS2はエバンス組がSSウィン。続くSS3、SS4はオジェ組が連続ベストタイムを叩き出すとSS5ではエバンス組がベストタイムをマークした。

「今朝は路面のグリップレベルが常に変化する難しいコンディションでセブ(オジェ選手)に遅れをとり、フラストレーションがたまりましたが、午後のステージは良かったです」と語ったとおり、午後に巻き返したエバンス組がデイ1をトップフィニッシュ。

 一方、「今朝の山岳ステージはとてもフィーリングが良く、それがタイムにも現れて良かった。午後のサーキットのステージは安全性を重視して走っていました」と語るオジエ組も1.4秒差の2番手でデイ1を走破。

 i20クーペWRCを武器に3番手につけたヒュンダイWRTのティエリー・ヌービル / マーティン・ヴィーデガ組はすでにトップのエバンス組から21.6秒も引き離されたことから、優勝争い、そして、ドライバーズ&コ・ドライバーズのチャンピオン争いはTGR WRT内で一騎討ちの様相となった。

最終戦らしく、チャンピオンを争う2クルーによる一騎討ちの優勝争いが展開された第12戦ラリー・モンツァ。デイ1は2本のSSを制したエルフィン・エバンス(奥)/ スコット・マーティン(手前)組が首位に立った。

 デイ2でもオジエ組とエバンス組のバトルは続いた。SS9でエバンス組がベストタイムを叩き出すと、SS10をオジェ組が奪取して逆転。オジエ組はSS11も続けてベストタイムをマークしたものの、SS12はエバンス組が奪い、再びトップに浮上と、熾烈なシーソーゲームを繰り広げた。

「エルフィンと何度も順位を入れ替える大接戦で、ファンの皆さんはエキサイティングしたと思います。明日はまずタイトル獲得に集中して戦いますが、もし優勝することができたら、それはおまけのようなものです」と語ったオジエ選手がSS13で3番手タイムをマークし、4番手タイムだったエバンス組からトップの座を奪還して、デイ2は終了。

「今日もセブは山岳ステージで強力でした。それでも明日に向けてはしっかり準備ができているので、このまま最後まで戦いたいと思います」と語ったエバンス選手は、0.5秒差の2番手からデイ3で逆転して優勝、そしてチャンピオン獲得を虎視眈々と狙った。

デイ2はオジエ組とエバンス組で目まぐるしく首位の座が入れ替わる大接戦。この日最後のSS13を、エバンス組より速く駆け抜けたオジエ組が首位を取り返して、最終日を迎えた。

 オジエ組はエバンス組と17ポイントの差があることから、3位以内でフィニッシュすればチャンピオンを獲得できたが、デイ3でもコンスタントな走りを披露した。エバンス組も必死に食らいついていくが、SS15でエンジンストールを喫してタイムロス。オジェ組は今季5勝目、WRC通算54勝を挙げて、8回目のドライバーズ&コ・ドライバーズチャンピオンも獲得。今季限りでコ・ドライバーを引退するイングラシア選手にとっては有終の美となった。

「エルフィン(エバンス選手)に勝つ必要こそありませんでしたが、順位を落とすわけにはいきませんでした。最終的に優勝でき、パーフェクトな週末となりました。チームのメンバー全員に感謝しています。また、ジュリアンとの旅が終わりになるのかと思うと感慨もひとしおです。これ以上の良い終わり方はなかったと思います」と、オジエ選手は喜びを噛みしめていた。

 そして「今年はクルマが良かったので、限界まで攻めることができました。キャリアをスタートさせた頃は、8回もタイトルを獲得できるとは思わなかったので夢のような気持ちです。それに昨年、チームはマニュファクチャラーズタイトルを獲得できなかったけれど、今年はトリプルでタイトルを獲得できたのでいい結果が達成できた思います」と続けた。

 一方、エバンス選手は「ドライバーズタイトルの獲得は難しい状況でしたが、優勝は目指していたので複雑な心境です。でも、セブとジュリアンがタイトルを獲得したことは祝福したいと思います。運転を楽しませてくれたヤリスWRCには惜別の意を表したいと思います」と語った。

 エバンス組は2位と惜敗したものの、TGR WRTが1-2フィニッシュを達成。更にマニュファクチャラーズポイントを獲得するために、手堅い走りに徹したロバンペラ組も9位入賞。そして、TOYOTA Gazoo Racing WRCチャレンジプログラムの勝田貴元 / アーロン・ジョンストン組も7位入賞を果たすなど、WRカー最後のラリーでヤリスWRCは4台揃って完走を果たした。

ドライバーズ&コ・ドライバーズランキングでは4番手だったカッレ・ロバンペラ / ヨンネ・ハルットゥネン組はマニュファクチャラーズチャンピオン獲得のために、完走重視のチームプレイに徹底。9位で見事、任務を遂行した。

 なお、今シーズン最多の9勝を獲得したTGR WRTはマニュファクチャラーズチャンピオンも獲得し、念願の三冠を達成。

 チームオーナーの豊田章男氏も「我々トヨタにとっては本当に夢のような話です。セブ、ジュリアン、チャンピオンおめでとう。8度のチャンピオン獲得は偉大な記録です。そのうち、2回がトヨタでのチャンピオンであることも我々も誇りに思います」

 更に「同時にマニュファクチャラーズタイトルを獲得することができました。カッレの走りがこのことを示していたましたが、このような采配でチームが笑顔になれたのはチーム代表のヤリ-マティ(・ラトバラ)がいてくれたおかげです」と祝福した。

 そして、ヤリ-マティ・ラトバラ代表も「昨年までトミ・マキネン氏がチーム代表を務めていて、ハイレベルで機能するなか、セブがチャンピオンに輝いていたのでクルマがいい状態にあることは分かっていました。その結果、12戦中9勝を挙げることができたのでパーフェクトなシーズンだったと思います」と語るように、2021年のWRCはTGR WRCのヤリスWRCによる独壇場、とも言えるシーズンだった。

TGR WRTの初年度からヤリスWRCのステアリングを握ったヤリ-マティ・ラトバラ氏は、レジェンドドライバーでもあるトミ・マキネン氏からTGR WRT代表を引き継ぎ、代表就任1年目で、チームを三冠の偉業達成に導く手腕を発揮した。

 ちなみに2021年のWRCで最も印象に残ったラリーを尋ねられたオジエ選手は「たくさんのファンが応援してくれるので、ラリー・ジャパンがキャンセルされたのは残念でした。そういった意味では、やっぱりサファリ・ラリーが印象に残っています。勝ったこともそうですが、アフリカのラリーは冒険のようなラリーでした」とのことだった。

 同じ質問にラトバラ代表も「デイ1からトラブルが連発していたので、優勝は厳しいだろうと覚悟したなか、セブが勝って、タカ(勝田選手)が2位で1-2フィニッシュすることができたので私もサファリ・ラリーが印象に残っています」と語った。

 そして、スポット参戦となる2022年のWRCについてオジェ選手は「まだ、どこのイベントに参戦するのか、決まっていません。たしかにフル参戦のほうがリズムは掴みやすいと思いますが、これまでの15年間の経験を活かせば競争力を維持できると思います」と心強い一言。

 また、ラトバラ代表も「2021年の勢いのまま2022年のモナコはセブに走ってもらいます。戦略的にはサルディニアやアクロポリス、ポルトガルなどはフル参戦のエルフィン、カッレはランキングによっては厳しい出走順になる可能性もあるので、そんな時に後方からスタートできるセブに優勝争いに絡んでほしいところですが、彼と一緒に考えたいと思います」と、語っているだけに、2022年のWRCでもTGR WRCがチャンピオン争いの中心になることに、大いに期待したい。

2021年シーズンで、一時代を築いた“WRカー”の車両規則は終了。来シーズンからはハイブリッドシステムを搭載した、新たな『ラリー1』による、新時代のWRCが始まる。写真はTGR WRCのGRヤリス・ラリー1のテスト車両。

フォト/TOYOTA GAZOO Racing、Red Bull Content Pool、JAFスポーツ編集部 レポート/廣本泉、JAFスポーツ編集部

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