冬の東北の風物詩、安比高原スノートライアルが6年ぶりに復活!
2022年2月10日

1月23日、岩手県安比高原スキー場を舞台とするスノートライアルが6年ぶりに開催され、多くのエントラントで賑わいを見せた。
2022 CMSC岩手ダイナミックスノートライアル
開催日:2022年1月23日
開催場所:安比高原スキー場(岩手県八幡平市)
主催:CMSC岩手
日帰りでスキーが楽しめるスポットとして東北各地からスキーヤーが駆けつける安比高原スキー場は、東北を代表するスキー場のひとつ。その広大な駐車場ではスキーシーズン真っ只中の冬期に2011年からスノートライアルが開催されてきた。主催を担当するのは地元のコルトモータースポーツクラブ岩手(CMSC岩手)。グラベルシーズンに入ると、青森県のサーキットパーク切谷内でJAF東北ダートトライアル選手権も開催している、盛岡市に拠点を置くJAF加盟クラブだ。
実は安比高原でのスノートライアルは2016年の開催を以て一旦、中断されていた。しかしCMSC岩手は翌年以降も代替地を探して毎年、スノートライアルの開催を続け、今回は6年ぶりに、原点とも言える安比高原での開催を再び実現した。2017年以降の5年間は、やはり安比高原ほどのスケールを持つ場所を見つけ出すことができなかっただけに、安比高原スノートライアル復活のニュースは、東北のスノートライアルドライバーにとっては大きな朗報となった。
コースは広大なスキー場の駐車場に隣り合う長方形のスペースに設定される。これまではこのスペースをフルに使い切って中高速のコーナーもレイアウトしてきたが、今回は工事用の盛り土があったため、ややスペースを縮小してのコースとなった。しかし豪快なコーナリングも楽しめる安比高原本来の持ち味は復活した設定となっている。またスパイクタイヤの装着が認められているのも特徴で、安比高原復活に伴って、しばらく車庫で眠っていたスパイクタイヤを甦らせたという参加者も見受けられた。




お楽しみクラスは、ラリースタッドレス等の競技用のタイヤは不可で一般用のスタッドレスタイヤ限定のクラス。まずは街乗りのクルマでスノートライアルを体験してみたいというドライバーにオススメのクラスとあってノーマルの車両が集ったが、その中、第1ヒートはマツダ3を駆った沼田龍弥選手がトップに立つ。
沼田選手は第2ヒートでも自らの暫定ベストを3秒以上も更新するが、ノートのAT車をドライブした高橋広和選手が小数点以下2桁まで同秒のタイムでゴールし、首位に並ぶ。しかし最終ゼッケン、エヴリィの花田圭一選手が2人のタイムを1秒以上も詰めるタイムでゴールし、土壇場で逆転した。
CMSC岩手が主催するスノートライアルは初めて参加したという花田選手は、「1本目でペナルティを受けてしまったので、1本くらいタイムをちゃんと残して帰ろうと思って丁寧に走ったのが良かったんでしょうね。今日は慣熟歩行から本番走行まで何から何まで楽しかったです(笑)」と、すっかりスノートライアルにハマった様子だった。





20台を超えるエントリーがあったFFクラスは、ラリースタッドレスの装着が認められるクラス。ダートトライアルの東北地区戦を戦うドライバー達も参戦し、接戦が予想された。第1ヒートのベストを奪ったのは、青森のサーキットパーク切谷内をホームコースとするダートラドライバーの佐々木健一選手。EP91スターレットを駆るドライバーとして知られてきたが、今回はトヨタ・サイノスというモータースポーツの世界では稀少な車種を巧みに操り、見事にトップタイムをマークする。
しかし第2ヒートに入ると、3番ゼッケンで走った小野寺雄治選手がDC5インテグラで佐々木選手の暫定ベストを5秒も縮める1分10秒53をマークして首位に立つ。すかさず再逆転を狙った佐々木選手だったが、僅か0.02秒届かない。佐々木選手の後続のドライバーも何名かは1分10秒台に乗せてくるが、逆転は叶わず。小野寺選手が最後の安比高原開催となった2016年以来となる優勝を獲得した。
CMSC岩手主催のスノートライアルでは常連の一人である小野寺選手は30年を超えるキャリアを持つダートラドライバーだが、途中、何度もブランクがあり、ダートラはこの3年ほどは活動休止中だ。「1本目は2か所ほどクルマを滑らせすぎて失敗したので、その辺も含め修正できれば何とかなるんじゃないかと思って走りました」と小野寺選手。
「スノートライアルはやっぱり最短距離が基本だと思うので、2本目は結構、小回りしました。ポイントと踏んでいた最初のパイロンまでのアプローチと、ゴール前のスラロームも何とかこなせました。今日は息子もエントリーしていたので、その前で勝てて良かったです(笑)」と、父親の威厳を保てた(!)ことに、笑顔を見せていた。




RWDクラスでは、1週間前に行われた秋田でのスノートライアルにも参戦した鈴木聡太郎選手のMR-Sが第1ヒートのベストタイムを奪う。鈴木選手は第2ヒートでも大きくタイムを詰めてゴールするが、痛恨のパイロンペナルティを喫して直後に走った工藤清美選手のS660に逆転を許してしまう。鈴木選手同様、秋田の大会に全日本ダートラを戦う本番車のフィットで出場し、優勝した工藤選手がクルマをスイッチしての2連勝達成という気配が濃厚になるが、最終ゼッケン、松岡司選手のMR-Sが工藤選手を0.5秒凌ぐ1分15秒64をマーク。昨年に続いてこの大会を制した。
松岡選手はスポーツランドSUGOや仙台ハイランドでレース、ジムカーナの参戦歴のあるモータースポーツ経験者だが、スノートライアルは昨年、初めて参加した。実は松岡選手も前週の秋田の大会に参加したが、「あまりに不甲斐ない成績だったので、今日はリベンジしようと本気出して走りました(笑)」と秘かに必勝を期していたことを明かした。タイヤはラリースタッドレスではなく、一般用のスタッドレスを履いた。
「タイヤのこともあって今日は我慢の走りになるかなと思ったんですが、意外とグリップしてくれました。1本目はドリフトして遊んでしまいましたが(笑)、2本目はタイムを狙う走りに徹して、特にゴール前のパイロンセクションが、たまたまうまく行ったのが大きかった。あそこでコンマ5秒は稼げたと思います」と松岡選手。最後の最後で工藤選手を突き離せたことが勝利に繋がった形だ。




4WDクラスは29台がエントリーと今回最大の激戦区となった。排気量による区分はないため、最新のGRヤリスからランサー、インプレッサは勿論、ストーリアX4、アルトワークスさらにはジムニーといった多彩な顔触れが揃った。この中、ダートラの東北地区戦に参戦する四戸岳也選手のランサーが1分10秒25を叩き出して第1ヒートのトップタイムを奪うが、2~4位はヴィヴィオ、アルトワークスといった軽自動車勢が続いて、侮れない速さを見せつけた。
第2ヒートに入って最初に1分10秒の壁を破ったのは、自宅が安比高原からクルマで数分という“超地元”の村上哲選手で、ランサー・エボリューションXは一気に1分5秒台をマークして、優勝を勝ち取るためのハードルを大きく吊り上げた。この時点では後続が20台近くも控えるとあって、さらなるタイム合戦が予想されたが、5秒台はおろか、6秒台に乗せるドライバーも現れない状態が続く。四戸選手がようやく5秒台でゴールするが、村上選手のタイムには届かず。加えてペナルティを喫したため上位入賞も逃してしまう。結果、村上選手が安比高原初制覇を達成した。
モータースポーツのオンシーズンはジムカーナに参加しているという村上選手だが、「パイロンはジムカーナの時のようにギリギリは狙わず、あまり考えすぎないように回りました」と、スノートライアルに向けての戦術転換が好タイムをもたらしたようだ。「2本目は、奥の右回りを、本当は豪快に行きたい所を我慢してインベタで回りました。抑える所はしっかり抑えて、直線で長くアクセルを踏める走り方を心がけたのが良かったと思います」と、最激戦区を制しての勝利に会心の笑顔を見せていた。




スパイク2WDクラスは参加5台にとどまったが、レベルの高いバトルが展開された。第1ヒートで首位に立ったのは地元岩手在住の元全日本ジムカーナチャンピオンの菊池巧悦選手。ここ数年は東北地区戦で改造車の180SXをドライブしているが、今回はほぼノーマルのロードスターで参戦してきた。4WDクラスの第1ヒートのベストを5秒以上も上回る1分4秒台のタイムを叩き出して、スパイクタイヤのポテンシャルをまざまざと見せつける。
第2ヒートでも、1本目同様のアグレッシブな走りを見せた菊池選手だったが、ミスがあったか5秒台にとどまってタイムアップはならず。すると第1ヒートは0.6秒差で2位につけていた越川善正選手のミラージュが1分3秒台に入れて一気に菊池選手を抜き去る。ダートラドライバーの底力を見せつけた越川選手のスーパーベストに迫るドライバーはその後も現れず、越川選手が優勝をさらった。
1990年代に十和田湖畔で開催されていたスノートライアルを見たのがきっかけでモータースポーツの門を叩いた越川選手は、30年近いキャリアを誇るベテランドライバー。今回は前後、銘柄の違うスパイクタイヤを履いてのドライブとなったが、経験でねじ伏せた。「今日はやっぱり、スタート直後のスラロームをどれだけ直線的に抜けられるか、がポイントだったと思います。2本目はともかくスパイクが刺さる所を狙って走りました。3秒台を出せれば勝てるかなと思っていたので、狙い通りの走りができて良かったです」と振り返った。




最後のクラスとなったスパイク4WDクラスは11台がエントリー。腕に自信の強者達が豪快な走りを披露し、オーバーオールウィンを狙ったバトルが白熱した。第1ヒートのベストを奪ったのはGRBインプレッサを駆った橋本奨選手で、52秒76という圧巻のタイムをマークする。ダートラの東北地区戦のトップドライバーである浅沼賢志選手が1秒遅れで続いた。
注目の第2ヒートでは、橋本選手は、「タイムの稼ぎ所と踏んでいた場所の路面がちょっと波打ってる感じに変わっていて、ギア抜けもしたので無理はしませんでした」とタイムを大きく落としてゴール。対する浅沼選手は、ジャンピングポイントも果敢に踏み抜く走りを見せたが、0.2秒のタイムアップにとどまり、逆転はならず。橋本選手がCMSC岩手のトライアルでは初となる優勝をもぎ取った。
今回、新品のスバイクで臨んだ橋本選手は、「きっちり止まるし、曲がるしと、スパイクタイヤの良さを使い切った走りができたのが勝因ですね。ほぼ満足の走りができたと思います」と1本目の走りを振り返った。「思った以上にグリップしたので、振ろうと思っていた所も何箇所かはグリップで回りました。足回りもしっかり動いてくれたと思います」と、年イチで体験できるスパイクタイヤでの貴重なスノードライビングを存分に楽しんだ様子だった。



