期待、挫折、苦戦、努力、歓喜……角田裕毅選手の濃密なF1参戦1年目。
2022年3月2日

2021年、FIAフォーミュラ1世界選手権(F1)に初挑戦した角田裕毅選手。そのデビューイヤーは彼にとって濃密すぎる1年だった。2022年の1月初旬にオンラインで記者会見を開き、昨年の振り返りと今季に向けた意気込みを語った。
F1世界選手権に7年ぶりの日本人レギュラー参戦ドライバーということで、開幕前から大きな注目を集めていた角田裕毅選手(アルファタウリ・ホンダ)。2021年開幕戦のバーレーンGPではフェルナンド・アロンソ選手(アルピーヌ)、キミ・ライコネン選手(アルファロメオ)、セバスチャン・ベッテル選手(アストンマーティン)といった歴代ワールドチャンピオンを次々とオーバーテイクする活躍を見せ、9位入賞を果たした。
この活躍ぶりで世界中のファンやメディアが角田選手に注目するようになり、期待度も一気に跳ね上がっていった。だが、そう簡単に好調を維持できないのがF1という最高峰フォーミュラの世界。自信が過信につながり、負のスパイラルに陥っていった。
「開幕戦で自信が持てたこともあって、常に表彰台を狙っていましたし、自信満々な部分もありました。逆にそこで自信を持ちすぎてしまったところもあり、(第2戦の)予選でミスをしてしまいました。そこから大きく流れが崩れ始めて、クラッシュも重なってしまい、開幕戦で持っていた自信というのがどんどん失われていきました」
ちょうどクラッシュが重なったタイミングで、無線でのいき過ぎた発言に対してバッシングを受けるなど、一気に角田選手への風向きが変わってしまった。またクラッシュが続いていたこともあり、序盤戦は“守り”に入るレース運びも少なくなかったという。
「周りからもクラッシュしないようにと言われましたし、やはりクラッシュするたびに、自分が走行できる時間が削られていくということで、クラッシュしないことを心がけて少しペースダウンして走っていました」
「代わりにクラッシュはしなくなりましたけど、その分ペースは遅くなりましたし、なかなかチームにとって良い結果を出せなかったレースが続いてしまいました」

予選ではなかなかQ2に進めず、決勝でもポイント圏外でのフィニッシュが続いていた角田選手。その悪い流れを断ち切るために、チームも対策を打ち始める。シーズン途中にモノコックの変更を決めたほか、角田選手の生活拠点もチームの本拠地があるイタリアに変更となった。
「今まではイギリスに住んでいたんですけど、食生活も含めてだらしなかったです。結果が振るわなかったこともあり、チームの拠点があるイタリアに移ることになり、そこで色々変わることができました」
「レースが終われば、ファクトリーに行ってエンジニアと話したり、毎回どこが悪かったのか、次のレースに向けてどうするべきなのか、という色々な準備もできました。フィジカル面でも、チームが自分のトレーナーを用意してくださいましたし、チーム代表のフランツ・トストさんから1日のスケジュールが送られてきて、それに沿って午前と午後にトレーニングをこなしていました。それで自分のフィジカル面もだいぶ変わったと思います」
そしてレース参戦において一番大きな効果をもたらしたと言えるのが、レッドブル・ホンダでF1参戦経験のあるアレクサンダー・アルボン選手が角田選手のコーチ役になったことだ。これはレッドブルのドライバー育成を担当するヘルムート・マルコ氏の判断だったようだ。
「アルボン選手が自分のコーチ役になってくれて、F1のレースウィークに対する考え方も少しずつ変わっていき、結果も少しずつ良くなっていきました」
「僕がハイライトとしているのがサンパウロGPです。成績的には良くなかったですけど、プラクティスが1回のみですぐに予選というスケジュールの中で、最初からペースを上げていくことができました。惜しくもQ3には行けなかったでしたが、自分が今まで感じていた“負のスパイラル”が少しずつ消えていった印象はありました」

こうした小さな積み重ねが形になったのが終盤の中東2連戦。特に最終戦のアブダビGPでは予選から上位につけ、決勝レースでは最終ラップにメルセデスのバルテリ・ボッタス選手を追い抜く快進撃を見せ、自己最高位の4位を手に入れた。シーズン序盤に垣間見えた不安な表情から一転し、最終戦を終えたころには再び彼の表情に笑顔が戻っていた。
「最後の2戦は良い結果を残すことができました。特にアブダビGPではホンダが最後のレースということで、どうしても結果を出したかったですし、何よりホンダへの感謝を胸に走らせていたので、4位で終わることができて本当に良かったなと思います」
「さらに自分の自信という意味でも、開幕戦で持っていた自信をさらに超えることができましたし、クルマへの理解も苦戦することはありましたが、負のスパイラルから抜け出せたことで、2022年に向けても良い感触で終えられた最終戦だったと思います」
「(シーズンを振り返って)アップダウンもあってかなりキツかったですけど、色んな経験ができたと思うので、良かったなと思います」

角田選手にとっては学びの多かったデビューイヤーが終了し、今年はより結果が求められる参戦2シーズン目を迎える。このタイミングで車両のレギュレーションやタイヤ・ホイールのサイズが大幅に変更されるなど、昨年までとは全く別物のマシンで戦うことになるのだが、この1年で経験が自信につながっているのか、かなり前向きに捉えている様子が伺えた。
「今年のマシンで一番大きく変わったのはタイヤのサイズ変更だと思います。18インチのタイヤになったことで動きがシャープになって、ハンドルを曲げた瞬間にクルマがもっと動くようになりました。あとはオーバーテイクを増やすように設計されたクルマなので、ダウンフォースは昨年よりは低いです。特に高速コーナーでは昨年のクルマよりグリップは少ないなと感じました」
「リアが滑りやすいという印象はありますが、18インチタイヤはコントロールしやすいと思ったので、タイム的には(昨年と比べると)遅くなると思いますが、感覚としては僕が乗っていた時のF2に近いのかなというふうに感じました」
「2022年は、特に自分にとっては大きくチャレンジするシーズンになると思います。もうルーキーではないですし、言いわけは通用しませんので、今年は結果を求めて毎戦毎戦を全力で戦っていきたいなと思っています。他チームと比べて競争力がどうなっているのかはまだ分からないですが、とにかくポイントを獲って、自分たちが持っているパフォーマンスを最大限に引き出して、毎戦を戦えるようなクルマにしていきたいと思います」

注目の2022年F1世界選手権は3月18日にバーレーンで開幕を迎える。勝負の年を迎える角田選手だが、間違いなく彼がルーキーだった1年前より進化し、成長を遂げている。その成果が発揮される開幕戦になるのか、目が離せない。

フォト/Red Bull Content Pool レポート/吉田知弘、JAFスポーツ編集部
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