ルーキードライバーたちの2022年全日本スーパーフォーミュラ・ライツ選手権にかける想い
2022年4月21日
2022年の全日本スーパーフォーミュラ・ライツ選手権には13名のエントリーがあり、そのうちマスタークラスのジェントルマンドライバー3名を除く7名がルーキー。例年以上にフレッシュなドライバーラインアップとなっている。彼らに共通することはレーシングカートを原点としていることだが、このスーパーフォーミュラ・ライツにたどり着くまでの道のりは三者三様だ。どれだけの時間を要したかの違いはあるにせよ、同じ時期に同じフィールドに立ったのは紛れもない事実。そんな7名のルーキーたちに、開幕戦に臨んだ心象を聞いてみた。
■B-MAX RACING TEAM 木村偉織選手
B-MAX RACING TEAMからゼッケン1を誇らしげにつけて臨む木村偉織選手は、レーシングカートを卒業後、2年間にわたってアジアのレースを戦い、2019年からはFIA-F4にプライベートで参戦。本来なら2020年からHondaフォーミュラ・ドリーム・プロジェクト(HFDP)よりホンダの育成ドライバーとして継続参戦の予定が、コロナ禍によって1年の活動休止を余儀なくされた。そして2021年には晴れて参戦の機会を与えられ、4勝を挙げてランキング3位となった実績を持つ。なお、所属するB-MAX RACING TEAMは、今年から新たにホンダの育成を担うこととなった。
「初めてのマシンでのレースということもあって、手応えはあんまりないですね。何が良くて何がダメなのか、自分自身がよく理解できていなくて……。いいときの理由と悪いときの理由が分からない状態のまま走り込んでいる感じなんです。そこは徐々に仕上げていかなければいけない部分です」
「自信はあるものの、手応えという部分では分からないという意味で『ない』感じですね、正直言って。だから予選や決勝に向けて、それが手応えにつながるようにひとつひとつを分析し、走りを研究しながら挑みたいなという考えです」
自己分析は至って辛口ながら、自信があるというのが印象的である。実際、第1大会の富士ではルーキーの中でただひとり表彰台に2度上がって、ランキングもルーキー最上位となる4番手につけているのだから、少しのブラフがなかったのは間違いない。
「ここまでの流れは望んだとおりです。チャンピオンチームで走らせていただけるのは本当にチャンスだと思っています。その分、すごく期待されているとも思っていますし、ここにいるのはやはり結果を出すためなので、貪欲に行きたいと思っています!」
そんな木村選手の先々の目標は、HFDPの先輩たちと同じ想いであることは想像に難くない。
■TODA RACING 太田格之進選手
第1戦の予選でいきなりフロントローに並ぶ2番手を獲得し、決勝ではスタート直後の接触で無念のリタイアを喫したTODA RACINGの太田格之進選手。続く第2戦では2位を獲得、そして第3戦はほぼ最後尾からのスタートだったにも関わらず5位入賞を果たし、木村選手に続くランキング5番手につけている。その太田選手のフォーミュラデビューは2018年のJAF-F4で、2019年から3年間にわたってホンダの育成ドライバーとしてFIA-F4に参戦していた。
「公式テストでは2回とも総合トップなので、速さは発揮できていると思います。ただ、そのテストでの差は僅差なので、メンタル的にしっかりまとめ上げるというのは、2年目の選手の方が長けているかもしれません。チームからは『とにかく落ち着いて普通にやればポールポジションが獲れるからね』と常に言われています。テストでのトップ獲得で自信もついてきているから、いい流れできている思います」
自己評価は上々である。その理由として挙げられるのは、これまで自身がたどってきた道のりが大きいと太田選手は言う。
「長かったですよね……普通に。でも、その間に積み重ねてきたものは本当に多くて、昨年はとくに自分が思ったような成績を残せなくて、本当につらいシーズンでした」
「オフシーズンの間に身体づくりやメンタル面をいろいろ対策したうえでシーズンに入れたので、それがテストの結果にも表れたんだと思います。あとは運でしょうか? 運を味方につけて頑張っていきたいと思っています。先々のことは分からないですけど、今年の目標はチャンピオンですね」
最後に語った目標を叶えることができたのなら、また道は自ずと続いていくということなのだろう。
■ルーニースポーツ 川合孝汰選手
第1戦の予選でいきなりポールポジションを獲得し、レースウィーク最初の主役となり得たのが、ルーニースポーツの川合孝汰選手だ。残念ながらスタート直後の接触で大きく順位を落としたばかりか、その後リタイアを喫し、この大会でのリザルトは第2戦の4位が最上位であった。
川合選手のフォーミュラデビューは2015年で、スーパーFJのもてぎシリーズでチャンピオンを獲得。2016年からFIA-F4に4年間出場し、2019年には佐藤蓮選手と三宅淳詞選手に次ぐランキング3位につけていた。フォーミュラは3年ぶりとなるが、その間にスーパーGTやスーパー耐久、86/BRZレースで多忙な日々を過ごしていた。
「本当はF4を卒業したタイミングでフォーミュラを続けたかったんですが、資金的な問題もあって……。そこからいろいろあってスーパーGTに乗れることになったんですけど、やっぱりフォーミュラへの想いは断ち切れなくて」
「海外でフォーミュラをやることが僕にとっての最終的な目標なので、そのためにもメーカーともつながっていた方が有利と考えていました。スーパーフォーミュラ・ライツとGT300での結果が、メーカーとの関係を生む可能性もある、という話を聞いたのが大きかったですね」
おそらく昨年までの活動は、川合選手にとってレーシングドライバーという職業としては成り立っていたはずだ。しかし安定ではなく、さらに先を拓いていきたいという高揚感が優ったのは間違いない。
「前回の公式テストでは全然乗れていなくてすごく離されていたんですが、レースウィークに入ってからはだいぶ差も縮まりました。練習では区間ベストやトップタイムだったりと、好調の兆しが見えてきています。ただ、如何せんまとまっていないのと、走り方もまだ探り探りなので」と語っていたのが予選前。上昇ムードにあったのは事実なのだが……。
実は川合選手、スーパーフォーミュラ・ライツはフル参戦ではなくてスポット参戦の予定とのこと。少なくとも第2大会の鈴鹿には出場しないようで、「出させてもらえることになった以上、何としても目立ちたいなと思っています」と語っていたが、目立った=評価されたかどうかは、今後の参戦機会が与えられるか否かで、明らかにされることだろう。
■B-MAX RACING TEAM 菅波冬悟選手
木村選手と同じB-MAX RACING TEAMからエントリーの菅波冬悟選手もまた、川合選手とほぼ同様の環境で昨シーズンを戦っていた。2017年からの3年間はスカラシップでFIA-F4を戦い、3年ぶりのフォーミュラという点でも共通する。だが、ラストイヤーとなった2019年の途中からGT300クラスのシートを得たことが、思い描いていた未来とは違った道を歩ませた可能性もあった。
「自分からお願いしてテストさせてください、と。GT300から先というのは、スーパーフォーミュラ・ライツってカテゴリーを通らずして行くことはできないと思うので、ここで結果を出すことによって、これより上の関係者にアピールできるんじゃないかと。スーパーフォーミュラやGT500を目指したいので、出ることにしました」と、参戦のきっかけはごく単純であった。
公式テストでは好調ぶりを発揮する。そしてレースウィークの専有走行初日もトップタイムを出すなど、菅波選手も自信を持って予選と決勝に挑んだはずだった。
「テストを重ねる間、エンジニアさんともよく話をして、いろいろ理解し合いながらやってきました。でも、まだしっかりまとめきれなかったり、『もっと行けるはずなのに』っていう感じもあります。今のところ好調を維持できていますが、路面とか気温とか変わった際にどれだけ合わせていけるか、自分がどれだけパフォーマンスを発揮できるかで順位は変わると思うので、とにかく集中して挑みたいですね」と語っていた。
しかし、他のカテゴリーが走行して著しく変化したコンディションに、予選では対応しきれたとは言えず、中団に沈んでしまう。まさにルーキーに課された試練ではあったが、決勝で順位を上げるなど、少なからず見せ場をつくれていた。テストでスピードは証明していただけに、今後のアジャスト能力によって評価はいかようにも変わってくるだろう。
■HELM MOTORSPORTS 平木湧也選手/平木玲次選手
平木湧也選手と平木玲次選手が兄弟で立ち上げたHELM MOTORSPORTSは3シーズン目を迎え、それまでのFIA-F4、スーパー耐久に加え、スーパーフォーミュラ・ライツにもチャレンジすることとなった。兄の湧也選手は25歳、弟の玲次選手も24歳という若さでチーム運営に携わり、さらに現在はFIA-F4でドライバー育成も行うという、そのバイタリティには感服する次第でもある。
湧也選手は2014年にJAF-F4西日本シリーズでチャンピオンを獲得した後、FIA-F4には初年度の翌年から参戦。3年戦い、2016年には2勝を挙げている。一方、玲次選手は2015年にスーパーFJ鈴鹿シリーズでチャンピオンを獲得し、FIA-F4には2016年から参戦。2020年には2勝を挙げてランキング2位となっている。
フォーミュラのブランクが1年だけの玲次選手は、公式テストでは好調。富士テストでは初日にトップで、総合でも2番手につけていたこともあり、その勢いが保たれることが期待されていた。
「スーパーフォーミュラ・ライツはひとつの目標でもあり、2020年の年末にテストさせてもらいました。スーパーフォーミュラや上のカテゴリーに行くためには必要不可欠なカテゴリーなので、そこでの成績がすごく欲しくて、兄弟でステップアップするための機会をずっと探していたんです」
「今回、スリーボンドさんのバックアップもあり、参戦することできたので、今年としては目標は優勝で、まず1勝を挙げたいです」と語っていた。だが、不安もポツリと口にした。
「他のチームはF3を含めて長い間このカテゴリーをやってきて、勝つのは簡単ではないと思っています。今はちょっとセットアップに苦しんでいますけど、光は見えてきています」
一方、湧也選手には5年のフォーミュラでのブランクがあったが、「FIA-F4を卒業してすぐF3をやりたかったんですけど、チャンスがなかなかなくて。逆に言えば、そのチャンスを5年間ずっと探っていました。チームをつくったのも、そういう目標があったからで、やっと今年からやらせてもらえることになりました。一時は諦めかけていましたけどね」
「GT300をやらせてもらえて、お客さんはいっぱい入るんですけど、やっぱりフォーミュラでチャレンジして、自分がどこまで行けるかっていうのを、はっきりさせたいという想いでずっといました」
ある意味で執念を実らせた格好ではあったが、いざ突きつけられた現実は正直厳しいものだった。
「テストはあまりうまくいかなかったですね。メカニックさんは経験はありますけど、やっぱりゼロからチームとしてはスタートしているので、データもゼロだし。長くやっているチームに、いかに最短期間で勝負できるようになるかっていう厳しさもある一方で、やりがいもあるんですけど」と、本音で語る湧也選手。
「FIA-F4より上のフォーミュラって、メーカー系じゃないとハードル高いじゃないですか。でも、そこで僕たちがチャレンジするチャンスをもらえたので、『メーカー系じゃないドライバーじゃなくても、そこまでできるんだ!』っていうのをアピールしたいっていうのもあります」と、あえて茨の道を歩んだことをアピールしていた。そうは言えど、「勝って、スーパーフォーミュラを目指したいです」とも強く語っていた。この思いは、玲次選手も一緒だった。
第1大会において残されたリザルトは第1戦の玲次選手の6位のみで、兄弟ともにほろ苦デビューとなってしまった。「テストがどうして良かったか改めて振り返ってみると、スーパーフォーミュラ・ライツだけが走って、他の車は走っていなかったんですよね。だから、比較的コンディションは安定していた。逆に今回はそういう変化が激しく、アジャストがしっかりできかったというところにあると思うんですけど、そう言ってもテストで上の方にいられたということは、可能性はあるということだと思って、一歩一歩ライバルに近づいていけるよう、しっかり準備していきます」と玲次選手は、あくまで前向きだった。
■TOM'S 古谷悠河選手
昨年のフォーミュラリージョナル王者の古谷悠河選手は、名門TOM'Sからの参戦。レーシングカートレースを卒業してから、スーパーFJはもちろん、FIA-F4も経ず、わずか3年でスーパーフォーミュラ・ライツのシートをつかんだ稀有な存在でもある。
「やっぱり自分としてはリージョナルに出たことで、キャリアの面でも四輪の走らせ方や、車の理解度など、すごく勉強になって、役立っているので、良いステップだったんじゃないかと思っています。こういうやり方もあり、ということですよね」と、早道すぎたのではという外からの声をキッパリ否定した。
そう断言できるのは、TOM'Sというチームから参戦できているのも大きいのではないだろうか。
「長い経験があってデータも豊富。そのデータに合わせたり、オンボードを見たりすることで、すごく勉強になって、少しずつ前進している手応えはあります。でも、だからこそ難しいというか、あと一歩を詰めていく難しさも感じています」
「乗り初めはクルマ的にも、自分のドライビングにもちょっと足りていないところが多くて、それはこのレースウィークでも感じていて、あまり良い状況ではなかったんですが、走るたびに前進しているとも思っているところです」と古谷選手。
今年のTOM'Sは4台体制で、そのうち古谷選手だけがルーキーで、チームメイトはいずれも経験豊富。しかも第1大会では3人で優勝を分け合う形となったが、それに対してプレッシャーはないのかと聞いてみた。
「いや、そこのプレッシャーはあんまり感じてはいないです。とにかく自分ができることをやるしかないので、まわりがどうであろうと自分が頑張っていけば、結果はついてくると思うので、焦らず一歩を踏んでいこうと思っています」と古谷選手。
結果の如何に関わらず、7人のルーキーたちの言葉からは、現実をしっかり見据えている印象が感じられた。決して背伸びすることなく、今できることでベストを尽くそうという。ある意味、今の時代の若者なのだな、と思いもしたが、そのまままっすぐな姿勢を貫いてほしいと願わずにはいられなかった。
フォト/石原康、SFLアソシエーション レポート/はた☆なおゆき、JAFスポーツ編集部