帰ってきた鈴鹿レースオブアジア2022。「JAPAN CUP」新設の”GTWCアジア”は、大荒れの展開ながらも日本勢が大活躍!

レポート レース

2022年7月22日

2019年に鈴鹿サーキットで開催されたGTワールドチャレンジが帰ってきた。今シーズンは「Fanatec GT World Challenge Asia」と名を変え、初の試みとなる日本ラウンド限定の「JAPAN CUP」を新設して、鈴鹿レースオブアジア2022として7月に開催された。

鈴鹿レースオブアジア2022
Fanatec GT World Challenge Asia Powerd by AWS Round 2/JAPAN CUP Round 1

開催日:2022年7月16~17日
開催地:鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)
主催:GSS、SMSC、(株)モビリティランド(ホンダモビリティランド株式会社)

 7月16〜17日に鈴鹿サーキットで、鈴鹿クラブマンレース第5戦と併催する形で「鈴鹿レースオブアジア2022」が行われ、そのメインレースとして「Fanatec GT World Challenge Asia Powerd by AWS」が開催された。

 このシリーズは、FIA-GT3車両とGT4による60分のスプリントレースを1大会で2回行う形式で、今年はアジア各国を転戦する6大会での開催が予定されている。第2戦から第5戦の日本ラウンド(鈴鹿と富士スピードウェイ、スポーツランドSUGO、岡山国際サーキットが舞台)には「JAPAN CUP」が懸けられ、独自のポイントが与えられることになっている。

 ブランパンGTシリーズの流れを汲む「Fanatec GT World Challenge」は、SROが運営する欧州を中心としたレースシリーズとして知られているが、北米シリーズと豪州シリーズと並ぶ「Fanatec GT World Challenge Asia」は過去2年間、新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって開催が見送られていた。それが今年になって再開され、国内モータースポーツ業界としても、海外のチームを迎えた久々の”国際的なレース”の開催となった。

 レースフォーマットは、60分のスプリントレースを2人のドライバーで戦い、スタートから25〜35分で交代が義務付けられている。そのピットストップの際には「最低ピットストップ時間」が適用されているのも特徴だ。クラスは大きくFIA-GT3車両とGT4によって分けられるが、GT3は細分化されており、ドライバーのカテゴライゼ―ション(FIA Driver Categorisation)によって「Pro-Am」と「Silver」、「Am」にも分けられている。

 Pro-Amはブロンズドライバー1名とシルバーやゴールド、プラチナドライバーの組み合わせで(そのうち1名はアジア人)、Silverはシルバーカテゴリーのコンビで、こちらも1名はアジア人である必要がある。そしてAmはブロンズのコンビで、両方のドライバーがアジアやオーストラリア、ニュージーランド生まれか現在居住している必要がある。GT4には、1名がアジア人ドライバーであることが必要なSilver-Amも設定されている。

 基本的には、プラチナ+プラチナ/ゴールド/シルバーや、ゴールド+ゴールド/シルバーといった上位カテゴリーのドライバー同士による組み合わせによる参戦が認められておらず、シルバー+シルバーの組み合わせについても、ウェイトハンデが課せられている。

 このシリーズは1大会2レースで競われ、参加受付までに第1ドライバーと第2ドライバーを指名する。2名のドライバーカテゴリーが同じ場合はどちらでも構わないが、その他の場合は、第1ドライバーはドライバーカテゴリーが下位のドライバーである必要がある。そしてレース1では、主にジェントルマンドライバーの第1ドライバーが決勝のスタートスティント、レース2では第2ドライバーが決勝のスタートを担当することとなっている。

 今大会にはTC INV(インビテーション)クラスも設けられており、BMW with Studieから、木下隆之選手と砂子塾長選手がBMW M2 CSRでエントリーしている。

2019年はブランパンGTワールドチャレンジアジアが「SUZUKA Race of Asia 2019」として開催。この年は鈴鹿サーキットと富士スピードウェイの日本ラウンド2連戦だった。
2年ぶりに鈴鹿に帰ってきたGTワールドチャレンジアジアは「Fanatec GT World Challenge Asia Powered by AWS」と名を変えて、鈴鹿と富士、スポーツランドSUGO、岡山国際サーキット大会を巡る「JAPAN CUP」も新設したシリーズとなった。

 7月16日(土)に行われたレース1。ポールポジションを獲得したのは、Yogibo Racingのフェラーリ488GT3を駆る横溝直輝選手だった。そのコンビを組むのは現在ノリに乗っている藤波清斗選手とあって、決勝レースでも激走を見せてくることが期待された。

 しかし、悪天候が祟ってそうはいかず、ウェット路面では2番手のポルシェ911GT3Rのトラクションが勝り、横溝選手はカンタディ・クシリ選手に1コーナーで並ばれたばかりか、2コーナーで追突されてコントロールを失いイン側のタイヤバリアに激突。1周目からセーフティカー(SC)が導入され、横溝選手はリタイアを余儀なくされてしまった。

 タイヤバリアの修復を要したためSCランは15分近く続いた。ようやく解除されたと思いきや、今度はデグナーで停止した車両があって再度SC導入となり、解除まで7分を要すること。そのうち規定のピットレーンオープン時刻を迎えることになってしまう。

 トップのクシリ選手はタナート・サティエンティラクル選手への交代をギリギリまで遅らせ、トップでレース復帰に成功。しかし、そのまま逃げることは許されなかった。永井宏明選手から4番手でバトンを託された、ポルシェセンター岡崎の上村優太選手が次第に順位を上げ続け、20周目のデグナーで逆転。これで決着が付いたかと思われた。

 しかし、その裏ではCar Guy Racingのフェラーリ488GT3を駆るケイ・コッツォリーノ選手が、秒単位で他車を上回るペースで周回を重ねていたのだ。

 最初のSCラン明け直後こそチームメイトの木村武史選手が2番手を走行していたが、ダンロップコーナー先で後続車両に追突されて11番手に後退してしまう。そこで起死回生を狙って、ドライバー交代と併せて、ドライタイヤに交換していたのだ。

 他のドライバーがウェットタイヤのまま濡れた場所を選んで走る中、コッツォリーノ選手だけがレコードラインを快走する。オーバーテイクの連続で、残り4分となった21周目には2台を相次いでパスして2番手に浮上。そして残り1分40秒というタイミングで上村選手をシケインで抜いてトップに躍り出すことに成功した。

 まさに大逆転勝利。「木村さんの判断で、スリックで行けと。最初の1周は心配でしたが、タイヤが温まってからは、いいチョイスだと思いました」とはコッツォリーノ選手。木村選手も「ぶつけられちゃったので、勝つにはスリックに換えるしかないと。ケイを信じていました」というように、チームワークの勝利だったことを明らかにした。

 GT4カテゴリーではメルセデスAMG GT4を駆る、Team Scalaのたしろじゅん選手と谷川達也選手が優勝。TCINVクラスは木下選手と砂子選手が、総合21位でゴールしていた。

悪天候に見舞われた土曜のレース1。ポールポジションを獲得したのはYogibo Racingの横溝直輝/藤波清斗組。今年はGT3が17台、GT4は7台のエントリーがあった。
ウェット路面の影響でレースはまさに大荒れ。スタート直後にYogibo Racingがクラッシュに巻き込まれてリタイアを喫し、SC導入のままレース前半が経過してしまう。
30号車Porsche Center Okazakiがトップに立つも、Car Guy Racingのケイ・コッツォリーノ選手がドライタイヤで下位からの巻き返しに成功し、30号車を逆転する。
SCラン開けの接触により2番手から11番手まで後退していたCar Guy Racing。起死回生を狙ってドライタイヤに交換し、コッツォリーノ選手に後半を託しての逆転勝利だった。
レース1の総合およびGT3 Pro-Am表彰台。優勝は777号車Car Guy Racing、2位は30号車Porsche Center Okazaki、3位は99号車Triple Eight JMR。
レース1のGT3 Am表彰台。優勝は51号車AMAC Motorsport(総合10位)、2位は濱口弘/大蔵峰樹組の19号車Reap Fueling Ambitions、3位は2号車Team Uematsu。
レース1のGT4 SA(Silver-Am)表彰台。優勝はたしろじゅん/谷川達也組の55号車Team Scala(総合16位)。
レース1のGT4 Am表彰台。優勝はGRスープラGT4を駆る大山正芳/植田正幸組の71号車Akiland Racing(総合20位)。

 7月17日(日)に開催されたレース2。晴天に恵まれてドライ路面での戦いとなったが、レース1で優勝したCar Guy Racingは、レース2のピットストップで規定による+15秒の停止が課せられることに。しかし、ポールポジションを獲得したこともあり、第1ドライバーのコッツォリーノ選手はスタートから可能な限りハンデを埋める作戦に討って出る。

 ちなみに、このシリーズには「コンペンセーション・タイムペナルティ」という規則があり、直前のレースで上位入賞した3台に対して、1位+15秒、2位+10秒、3位+5秒というタイムペナルティが、それぞれの最低ピットストップ時間に加算される。

 レース2決勝では順調にリードを築いていくCar Guy Racingだが、コース上に止まった車両があって、開始から10分でSCが入ってしまう。コッツォリーノ選手はそれまでに築いた3秒強のリードを失うも、5分後にSCがピットに戻ると、また再び差を広げる走りを披露した。そんな中、開始から24分経過したところで、2度目のSCが入る事態が発生する。

 折りしもタイミングとしては規定によるピットレーンオープンの直前。そして、ピットオープンの時刻には、上位陣はSCランのままスタンド前を通過する状況となってしまう。逆に、中団以降の車両はピットオープンの時刻にスムーズに入ることが許された。

 その結果、最初にピットアウトすることができたのがComet RacingのNSX GT3 EVO。辻子依旦選手の好判断が功を奏して、チームメイトの山崎裕介選手を暫定トップでコースに戻すことに成功したのだ。その後、間もなくSCランが終了したため、この後でピットに入ったチームは丸々1周、損をした格好となってしまった。

 全車ドライバー交代を済ませると、Car Guy Racingの木村選手は6番手に順位を下げ、最初にピットアウトできた山崎選手は総合首位を維持することになった。交代後のコッツォリーノ選手は「2回もSCが入らなければ、きっと10秒は離せていたでしょう」と悔しがる。

 レース後半では山崎選手に後続が徐々に迫る中、残り22分というタイミングで、ヘアピンでマルチクラッシュが発生する。そのうちの1台がポルシェセンター岡崎の永井選手だったが、完全なもらい事故で無念のリタイアを喫することとなる。

 これによる3度目のSCランは10分近くに及んだが、総合首位の山崎選手は、GT3の2番手との間に周回遅れのGT4を挟んでいたこともあり、リスタートを完璧に決めることに成功した。そしてさらに3分後、その山崎選手を安堵させる光景が訪れる。スプーンで起きた別のアクシデントにより4度目のSC導入となったのだ。これは残り9分での出来事だった。

 果たして、超スプリントのバトル再開なるか……!? 結局、SC先導のままチェッカーが振られ、Comet Racingの山崎選手と辻子選手の優勝となった。「まさかAmクラスで、しかも初めての大きいレースで総合優勝できるなんて! 本当に嬉しいです」と辻子選手が語れば、山崎選手も「こんな経験、なかなかできるじゃないので、チームメイトとチームに感謝しています」と喜びを素直に語っていた。

 GT4カテゴリーではメルセデスAMG GT4をドライブする、Team GMBの羽田野宏明選手と細川慎弥選手が常にレースを有利に運んでGT4カテゴリーを総合で制し、GT4勢の2位にはGRスープラGT4を駆る恒志堂レーシングの佐藤元春選手と平中克幸選手が獲得した。

晴天に恵まれた日曜のレース2。Car Guy Racingがポールを獲得し、レース1で驚異的な逆転劇を見せた777号車ケイ・コッツォリーノ選手がスタートドライバーを務めた。
開始10分でSCが入っても777号車は諦めずにリードを築く。しかし、ピットオープンのタイミングで2度目のSCとなり、先頭集団はストレートを通過せざるを得なくなる……。
その結果、先頭集団は1周分遅れる形となり、中団を走行していたComet Racingの7号車がいち早くピットを済ませて首位に立ち、7号車がトップのままフィニッシュを迎えた。
パルクフェルメに戻った7号車の山崎裕介選手。絶好のタイミングでピットインを果たした辻子依旦選手と共に、鈴鹿のレース2を総合優勝で制することになった。
レース2のオーバーオール表彰台。総合優勝はGT3 Amの山崎/辻子組の7号車Comet Racing。総合2位はGT3 Pro-Am優勝のTriple Eight JMRの99号車、総合3位にはGT3 Pro-Amでは2位の山口智英/荒聖治組が駆る5号車PLUS with BMW Team Studieが入った。
レース2のGT3 Pro-Am表彰台。優勝は総合2位に終わったTriple Eight JMRの99号車。Pro-Amの2位は5号車PLUS with BMW Team Studie。3位はレースを席巻するスピードを持っていたものの総合5番手でレースを終えた777号車Car Guy Racingとなった。
レース2のGT3 Am表彰台。優勝は総合優勝の7号車Comet Racing。2位は濱口弘/大蔵峰樹組の19号車ウラカンGT3 EVO。3位はレース1優勝の51号車AMAC Motorsport。
レース2のGT4 SA(Silver-Am)表彰台。優勝は羽田野宏明/細川慎弥組の33号車Team GMB(総合11位)。
レース2のGT4 Am表彰台。優勝はレース1でも優勝した71号車Akiland Racingの大山正芳/植田正幸組(総合16位)。
特設のTC INVクラス(1台)にはBMW M2 CSRを駆る木下隆之/砂子塾長組が参戦した。

 今シーズンの「Fanatec GT World Challenge Asia」は、5月20~22日にマレーシアのセパン・インターナショナル・サーキットで開幕し、第2戦が今回の鈴鹿で開催。第3戦が7月22~24日の富士スピードウェイ、第4戦が8月19~21日のスポーツランドSUGO、第5戦が9月23~25日の岡山国際サーキット、そして最終戦が10月21~23日にインドネシアのマンダリカ・サーキットで行われる予定となっている(最終戦マンダリカはコース公認の関係で中止が決定。2022年シリーズ最終戦は9月の第5戦岡山国際ラウンドとなる)。

2022年シーズンはYogiboをタイトルスポンサーに迎えたFanatec GT World Challenge Asia Powered by AWS。昨年10月に行われたSROによる体制発表では「アジアシリーズ、そして日本ラウンドの開催を2022年こそは実現させたい」と強く語っていたSROのステファン・ラテル代表も鈴鹿に来日した。左はYogibo事業を取り纏める木村誠司代表。

PHOTO/遠藤樹弥[Tatsuya ENDOU]、SRO Motorsports Group REPORT/松原一生、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS]

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