苦境の連鎖。FIA F2で孤軍奮闘する宮田莉朋選手の「歯がゆさ」
2025年7月10日

2023年に全日本スーパーフォーミュラ選手権とスーパーGT GT500クラスでチャンピオンを獲得した宮田莉朋選手。2024年からはFIA F2選手権を戦っており、初年度となる2024シーズンはあらゆる経験を積む一年となった。そして迎えた2年目の2025シーズンは、結果を出すために挑んだはずが、まさかの展開が続いている……。
2025 FIA Fomula2 Championship Round 8 Silverstone/2025年FIA F2選手権第8戦シルバーストン
開催日:2025年7月4~6日
開催地:シルバーストン・サーキット(イギリス・ノーザンプトンシャー)



2024シーズンの宮田莉朋選手は、名門「ARTグランプリ」に移籍した。自身も生活拠点をイギリスへ移し、チームのファクトリーがあるフランスにシーズン前から通い詰め、スタッフと密接にコミュニケーションをとっている。さらに今年は参戦カテゴリーをFIA F2選手権に絞っており、とにかく結果を求める姿勢を見せている。実際、開幕前のバルセロナテストでは上位につけるタイムを記録して、宮田選手への期待は高まる一方だった。
FIA F2は、FIAフォーミュラ1世界選手権(F1)に直結するシリーズとしてF1に併催されている。2025シーズンは、3月14~15日のオーストラリア・メルボルン大会を皮切りに全14戦がスケジュールされ、12月5~7日にアラブ首長国連邦のヤス・アイランドで開催される、ヤス・マリーナ・サーキットでの大会で最終戦を迎える。
しかし、いざシーズンが始まると、予想外の展開が待ち受けていた。
開幕戦メルボルンの宮田選手は、走行中にエンジンカットが起きるトラブルに見舞われてタイムを上げられない。この影響で予選ではトップ10圏内に入ることができず、スプリントレースでは一時ポイント圏内に順位を上げるも、最終的に12位でチェッカー。そして、翌日のフィーチャーレースは悪天候のため中止となった。
トラブルを対策して臨んだはずの第2戦バーレーン・サヒール大会。宮田選手にとって走行経験が多いサーキットの一つだったが、予選ではまさかの失速となってしまう。19番グリッドから追い上げてスプリントレースでは9位を獲得、フィーチャーレースで14位となったが、本人としては悔しい一戦になったことは間違いない。
そんな彼にチャンスが回ってきたのは第4戦イタリア・イモラ大会だった。FIA F2は土曜のスプリントレースが予選トップ10のリバースグリッドとなっているが、そこで宮田選手は、他車のグリッド降格ペナルティの影響もあり、リバースグリッドでのポールポジションを手にすることとなった。
宮田選手はスタートでは1台の先行を許しつつも、レース序盤は積極的に食らい付く走りを見せた。しかし、途中からペースダウンに陥って、最終的にはスプリントレースを6位でフィニッシュ。翌日のフィーチャーレースもタイヤのデグラデーションに苦しみ16位に沈んだ。


シーズン前半の戦宮田選手は、チームと共にトライ&エラーを繰り返す日々が続いたという。
「信じてもらえないでしょうけど、僕たちのクルマは(美味しいところが)1周で終わっちゃうんです。そうならないためにどうしたらいいか……。チームもクルマを良くするために考えてくれました」。
「速いクルマは、スタートからパフォーマンスを落とすことなく安定して速く走れています。デグラデーションはみんな起きるんですけど、その起き方や加減が違うというか……。僕たちは起きてから、さらに落ちる感じがあるんです。そこが課題でしたね」。
FIA F2の現場には、日本で行われるような車両のセッティング変更で状況を変えられるほどの時間がない。宮田選手はこう続ける。
「とにかく日本とは文化が違って、クルマ側で何とかしようにも、フリー走行で45分しかない。その中でできることは限られるんです。そういう部分も含めて、フリー走行、予選、決勝を、どうアジャストすべきかをみんなで考えて至ったのが、バルセロナで得られたレースペースだったんです」。
その言葉通り、第6戦スペイン・バルセロナ大会では、僅差で予選14番手となったものの、スプリントレースでは素晴らしい追い上げの走りを披露。一時は表彰台も狙える5番手につけてみせた。終盤のセーフティカー導入時には後続がオプションタイヤに交換して、追い上げられる形になってしまったが、最終的にはポイント獲得を逃したものの、レースの内容としては今シーズン一番の戦いだったといえるだろう。
「スタートから順位を上げることができなかったのが今までのARTでしたが、そこをみんなで考えたことがうまく行ったと思います。少しずつ良くなっています。あとは予選ですね」と宮田選手は語る。
そして、今回も「日本だと予選アタックでタイヤが丸々1周もってくれて、場合によっては2周プッシュできちゃうところもあります。それがもたないので……」と、ピレリタイヤへの対応について改めて語っていたが、今シーズンは新たに「トラブルの頻度」という課題も生じているという。
それが顕著に現れたのが第7戦オーストリア・シュピールベルク大会と第8戦イギリス・シルバーストン大会だろう。第6戦バルセロナ大会でセットアップの方向性に手応えを掴めた宮田選手は、あとは上位を目指して流れを掴んでいきたいところだった。しかし、2戦連続でエンジン系のトラブルに見舞われてしまった。
第7戦シュピールベルクでは、フィーチャーレースのフォーメーションラップでエンジンが壊れて戦線離脱。エンジン本体を交換して第8戦シルバーストンに臨んだものの、予選セッションでエンジン系の別の部分で不具合が生じてしまい、タイムアタックができないままセッションを終えることとなった。
「今年はトラブルが多すぎて、まったく結果につながらないんです。開幕戦のメルボルンでは肝心な時にエンジンカットが起きてしまったし、その後も、フルプッシュしようとした時にタイヤのピークが終わっていたり……。昨年の経験があったなかで、それが結果にうまく繋がらなくて、かなり歯がゆい思いをしました」。
「昨年はコースを知らないけれど、クルマは良かったから、もう少しこうしたらこうなるなというのがありました。でも、チームを移籍した今年は、そこが上手くリンクできていないのも歯がゆいですね。もちろんドライバーの部分で力をつけないといけないところはありますが、それ以外の要素が今年は多すぎるんですよ……」。
第8戦シルバーストンでは、後方からのスタートが響き、両レースとも上位に食い込むことはできなかった。さらにスプリントレースでは10秒ペナルティを受けるなど、流れの悪さに拍車がかかってしまう結果となった。
シルバーストンではフィーチャーレースの後に宮田選手に取材をしたが、「悔しい」とか「苦しい」という言葉では収まらないくらい、やり場のない想いが溢れ出さないように耐えていた。



これらの状況を受けて、チームも宮田選手のためにできる限りのサポートをしている。
トラブルが起きたシルバーストンの金曜も、ほかのチームが整備を終えてサーキットを後にするなか、チームは遅くまで残って作業を続けていた。それでも、2戦連続でトラブルが起きたのはFIA F2にワンメイク供給されているメカクローム製エンジン周りということで、ここについては、チームも対処できない領域となっていた。
今シーズンのFIA F2では、宮田選手以外にもエンジン周りの不具合が起きているようで、エンジンカットの症状など、ほかの車両にも同じようなトラブルが大なり小なり出ていた模様。第7戦シュピールベルクでは、宮田選手を含め、複数台の車両がエンジントラブルでリタイアを余儀なくされていた。
ハイレベルな戦いを要求される選手権レースに車両トラブルは付きものではあるが、スーパーフォーミュラをはじめとした日本のレースでは、トラブルフリーではないものの、その頻度は少ない印象がある。特にスーパーフォーミュラについては、いわゆる”エンジンの個体差”に関しても、最小限に抑えられている感がある。
その状況と比較すると、現在のFIA F2にはややムラがあるという印象を受けた。しかも、宮田選手とは真逆で、トラブルが出ない車両も存在しているようだ。この差については、どうしても気になるところではある。
「チームは一生懸命やってくれています。だけど、第7戦のレッドブルリンクでもフォーメーションラップでエンジンが壊れましたし、シルバーストンもトラブルで予選を走ることができませんでした。とにかく歯がゆいです……」と宮田選手は繰り返した。
取材者としてシルバーストンで痛感したことは、やはり、現場でしか見えないものが多かったということだ。
昨年のカタール大会で知り得た、宮田選手が置かれた状況、そして、彼が語った翌シーズンの取り組み方や意気込みを思い返すと、今シーズンの戦いぶりには、正直、疑問を呈さざるを得ない部分があった。
しかし、このたびシルバーストンで宮田選手本人や周辺の関係者から話を聞いたことで、宮田選手は自分ができるあらゆることに愚直に取り組んでいて、その姿をチーム関係者も認めていることがわかった。
実際に宮田選手も「現場のみんなは僕のことを分かってくれていますし、僕のタレント性を評価してくれるような機会も作ってくれています」と語っており、現場では周囲が真剣に応援してくれていることもうかがえた。
FIA F2からF1にステップアップできるドライバーは、ほんのひと握りであることは誰もが知るところだ。
ただし、その狭き門をくぐるためには、コース上での駆け引きはもちろんのこと、パドックでの駆け引き、そして、サーキットに入る前段階での”駆け引き”についても、上手く立ち回る必要があることを直感した。
日本人の海外参戦は、かつては「ドライバーが一人でなんとかするものだ」と言われていた。しかし、現在のFIA F2は、F1へのフィーダーシリーズとして、日本では想像がつかないような複雑な事象が絡み合っている。
それゆえに、現場がどれだけ奮闘しても限界があるということだろう。宮田選手は、かねてから「現場に来て、見てほしい」と語っていた。そして今回も、宮田選手は同じ言葉を発していた。
第8戦を終えたFIA F2シリーズは6ラウンドを残している。シルバーストンでの現状を踏まえると、宮田選手自身とチームの力だけで急浮上することは一筋縄ではないかないだろう。しかし、それでも宮田選手とチームは、この状況を改善するべく奮闘を続けている。
取材の最後に「本当、諦めずにやるしかないです」と、苦しい状況でも自身を鼓舞するかのように語った宮田選手は、チームとのデ・ブリーフィングのため足早にトランスポーターへと入っていった。
日本で応援するファンからすれば、もどかしい日々が続いているだろう。しかし、その気持ちは宮田選手本人も一緒だ。もし、日本にいる我々にできることがあるならば、彼らを信じて、応援し続けるしかない。
そう感じながら、宮田選手の背中を見送った。




PHOTO/遠藤樹弥[Tatsuya ENDOU]、吉田知弘[Tomohiro YOSHITA] REPORT/吉田知弘[Tomohiro YOSHITA]、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS]
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