次世代を予感させるEVレーシングカート「TOM'S EVK22」が初お披露目!

レポート カート

2022年8月5日

7月31日、静岡県小山町のオートパラダイス御殿場(APG)でEVレーシングカートのデモンストレーションランが行われ、株式会社トムスが製作した「TOM'S EVK22」が、衆目の下に初めてその姿を現した。

競技用EVレーシングカート「TOM'S EVK22」お披露目会
(2022年JAF全日本カート選手権OK部門 第5戦/第6戦内)

開催日:2022年7月31日
開催地:オートパラダイス御殿場(静岡県小山町)

 競技用EVレーシングカート「TOM'S EVK22」のお披露目会と銘打たれたこの催しは、同日にAPGで決勝日が行われた全日本カート選手権OK部門第5戦/第6戦、および全日本/ジュニアカート選手権西地域第3戦の昼休みを利用して実施されたものだ。

 昼休みを迎えたサーキットのピットレーンには、黒いフェアリングをまとった1台のEVカートが登場し、多くの人々の注目を集めていた。まだ開発途上というEVK22は、CRGロードレベルのフロントブレーキ付きシフターカート用シャシーを使用。そのリアセクションには、シートの右側にコントロールユニットとモーターを搭載し、左側にはバッテリーケースが据えられている。

 現時点で使用されているバッテリーは46V×2のリチウムイオン製で、これを収めた専用ケースごと交換する方式だ。タイヤはダンロップ製CIK/FIA公認ハイグリップモデルのオプション(ハード)タイプを装着。従来の手づくりEVカートによく見られる後付け溶接のステーもなく、暫定仕様ながら各部のフィニッシュは非常にクオリティが高い。

 EVK22初の公式走行のドライバーを務めるのは、ARTA Projectプロデューサー/総監督の鈴木亜久里氏、衆議院議員で自由民主党モータースポーツ振興議員連盟事務局長の元レーシングドライバー山本左近氏、チームオーナーとして全日本カート選手権にも参戦中のレーシングドライバー井出有治氏。

 かつてスーパーアグリF1チームで苦楽を共にした3名の再結集に、場内のギャラリーたちの表情はにわかに熱を帯びた。これに加えて、全日本カート選手権OK部門のトップドライバーである朝日ターボ選手もステアリングを握った。

オートパラダイス御殿場のコース上に運び込まれたTOM'S EVK22。通常のレーシングカートは異なる、独特の存在感を醸し出していた。
シートの右側にはモーターとコントロールユニット、左側にはバッテリーを搭載。全体的にスッキリとした造形となっている。
EVK22のドライブを担当する山本左近氏、鈴木亜久里氏、朝日ターボ選手、井出有治氏。EVカートを目前に、それぞれが期待に胸を膨らませていた。

 まずは鈴木氏がシートに腰を下ろしてアクセルペダルを踏み込むと、EVK22は音もなくコースイン。そして、株式会社トムス代表取締役社長の谷本勲氏も見守る中で、単なるデモ走行ではない本気のタイムアタックを披露した。EKV22は、マシン単体で120kg程度という重さを感じさせないような鋭い加速を見せ、無音ながら迫力のある走りでコースを駆け抜ける。

 周回を重ねるごとにタイムを縮めて45秒台前半のタイムを記録した鈴木氏は、走行を終えてピットレーンに戻りヘルメットを脱ぐと、興奮の表情で「すっごいオーバーステア。でも面白い。よくできてるね」とさっそくインプレッションを語り始めたほど。

 続いてコースインした山本氏は、真夏の暑さの中で10周近くもラップを重ね、42秒台後半のタイムを記録してピットイン。マシンを降りると汗をぬぐう間も惜しむように、鈴木氏とドライビング談義を交わし始めた。その生き生きとした表情は、まるで現役時代を彷彿とさせるレーシングドライバーの顔だ。

 2人の走りに刺激されてか、3番目に搭乗した井出氏もたっぷり周回を重ねて42秒台半ばまでタイムを短縮。最終的には現役カートドライバーの朝日選手が41秒76の最速タイムを記録してEVK22の実力を見せつけ、“お披露目会”を締めくくった。

最初に搭乗した鈴木氏は、興奮冷めやらぬ表情で「未来はコレだね。環境のこともそうだし、音のこともそうだし、近い将来はすべてにおいて絶対こちらの方向に進んでいくと思う。その先駆けのクルマがこうやってできて、これから全日本選手権をやっていく道が見えてきているんで、その第一歩の場にいられたことがうれしいですね」と語った。
「音がないことを除いて、速さの面ではエンジンのカートとぜんぜん遜色ないし、ピックアップもすごくいい。エンジンのカートに比べてトルクがあって、でもトルクバンドから落ちることもなくて、どこからでもピックアップしていくから、初心者が乗っても面白いと思う。音がないことの違和感はまったくなくて、それよりカートがよくできているから、乗ることの楽しみが大きかったですね」(鈴木氏)
1年半ぶりにカートに乗ったという山本氏は2番目にEKV22に搭乗した。「とにかく楽しかったですよ。ちゃんとレースができるクルマとして仕上がっていると思うし、この動きの感覚は、四輪を目指すドライバーのワンステップとして、いいトレーニングになるクルマだと思いますよ」とインプレッション。
「まずトルクの出方がエンジンとはぜんぜん違うし、ブレーキングからターンインの感じがカートよりもっとフォーミュラ寄りだなと思いました。振り回して走るというよりは、しっかり止めて、曲げてからアクセルを踏んでいかないと、このカートの良さが出ないですね。荷重移動が普通のカートより大きいのかな、という感触がありました」(山本氏)
「コースに出て行った左近さんがなかなか帰ってこないから、なんであんなに走るんだろう? と思っていたら……、自分が乗ってみてその理由が分かりました。すごく楽しい乗りものでしたね。1周走るともう1周、さらに1周って走りたくなってきて、事前にイメージしていた以上にサーキットを攻めたくなる楽しさがあるEVでした」と楽しそうに語る井出氏。
「もっとスロットルの反応がラフでコントロールしづらいかなと思っていたけれど、コーナーに入ってパーシャルでスロットルを開けていくところとか、出力がちゃんとコントロールできて、すごくよくできていました。レースの道具としてのポテンシャルは十分にあると思います。バッテリーも、亜久里さんと左近さんが全開で走った後で60%以上残っていたから、レースで使うことも十分に可能だと思います」(井出氏)
元F1ドライバー3人に続いて、現役ドライバーを代表して走行した朝日選手は「EVカートのレースには、興味を覚えますね。どのタイムレンジを狙ってつくられたカートなのか聞かされていなかったんですが、ピットロードを出ていく時から加速感があって、最初からアクセルを開けた時のブワッていうツキがあったので、まずそこが凄いなと思いました」とコメント。
「クルマの重量がエンジンのカートとはかなり違うので、それはブレーキの時にも感じますし、ターンインでタイヤが重量に負けている部分もあります。この重量に合うタイヤはまだ検討の余地があるでしょうね。タイムのわりにタイヤのグリップが(エンジンのカート以上に)必要になってくるのかな、と思います。またモーターのコントロール性は、想像していたよりずっと良かったですね」(朝日選手)

 この最速タイムは、同日の全日本カート選手権のタイムトライアルに当てはめると、水冷125ccリードバルブ吸気エンジン(イアメ・パリラX30)使用のFS-125部門と、空冷100ccピストンポート吸気エンジン(ヤマハKT100S)使用のFP-3部門の中間に位置するもの。

 セッティングなしの“吊るし状態”で記録したタイムは、当然ながら短縮の余地が大いにあるもので、EVK22は公式リリースにある「競技用EVレーシングカート」との謳い文句どおり、レーシングユースとして非常に高いポテンシャルを実証したと言えよう。

 トムスでは今後EVカートシリーズとして、大人用のレンタルカート、子供用のジュニアカート、2人乗りのタンデムカートの年内発売も予定しているという。今季の全日本カート選手権にEV部門が新設されるなど、新時代のパワーソースとして電気モーターに注目が集まる今、トムス製EVカートの動向は目の離せないものになりそうだ。

株式会社トムスの谷本勲代表取締役社長(左)を筆頭に、今回のお披露目会に尽力したスタッフの皆さん。競技車両は2022年9月に正式発売されるとのことだ。

フォト/長谷川拓司、JAFスポーツ編集部 レポート/水谷一夫、JAFスポーツ編集部

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