バッテリーEVとソーラーカーが和歌山・白浜町で激戦! 新イベント「白浜ECO-CARチャレンジ」が1年越しでついに開催!!
2022年10月28日
秋の連休の週末、南紀白浜空港旧滑走路にて"エコカー"のレースが開催された。2021年7月開催をもって終了となった「ソーラーカーレース鈴鹿」に代わるイベントして同年秋の開催が企画されていたものが、コロナ禍による延期を経て1年越しにようやく実現した。
白浜ECO-CARチャレンジ2022(WEM部門/ソーラーカー部門)
Econo Move 関西大会 in 白浜ECO-CARチャレンジ2022
開催日:2022年9月23~24日
開催地:旧白浜空港特設会場(和歌山県白浜町)
主催:白浜ECO-CARチャレンジ大会実行委員会
日本のソーラーカーレースを担う人材を数多く輩出してきた「ソーラーカーレース鈴鹿」が2021年7月の開催をもって29回、30年の歴史に幕を閉じた。日本には鈴鹿と秋田の大潟村で二大ソーラーカーイベントがあったが、その一つが終焉を迎えることになった。
日本のソーラーカーレースそのものの灯が消えてしまうという危機感が共有される中、有力エントラント代表兼ドライバーである野村圭佑氏が新たなイベントの主催を計画。当初は2021年10月開催を予定していたものの、コロナ禍により開催を断念していた。
そして2022年9月、ソーラーカーレースに留まらず、筒井貴広氏による「Econo Move関西大会2022」を「ワールドエコノムーブ(WEM)」部門として併催し、さらにパワーアップした「白浜ECO-CARチャレンジ2022」として開催される運びとなった。
会場は、全長1200mの南紀白浜空港・旧滑走路を往復コースとして利用するもので、途中にシケインなどは設けない、細長いオーバルコース形状となった。フラットで長い直線が取れる、オーバーテイクに十分なコース幅が確保できる場所として選ばれたという。
白浜ECO-CARチャレンジは、二種類の”エコカー”を使ったレースが併催されるスタイルで、バッテリーEVで戦う白浜ECO-CARチャレンジWEM部門(EconoMove関西大会2022)と、ソーラーカーで戦う白浜ECO-CARチャレンジソーラーカー部門がある。
主催者より配布されるバッテリーのみで走行するワールドエコノムーブ(WEM)車両によるWEM部門は、ドライバーの年齢でクラス分けが行われ、大会当日に19歳以上の「オープンクラス」、同16~18歳のを「ジュニアクラス」とする2クラス構成となっている。
ソーラーカー部門については、ソーラーカーレース鈴鹿におけるオリンピアクラスを中心とした「エキスパートクラス」と「アドバンスクラス」、そしてエンジョイI、エンジョイIIクラスに相当する「ビギナー・クラス」の3クラス構成となっている。
イベントは祝日を利用した23日(金)と24日(土)の2デイによるスケジュールとなっており、初日は午前にWEM部門のフリー走行兼予選(90分)、昼にはソーラーカー部門の2時間耐久レース、午後にはWEM部門の決勝レース(90分)が予定されていた。
しかし、折悪しく台風15号の接近と重なり、金曜に関しては、強風や豪雨に見舞われてしまった。滑走路ということで路面には水捌け用の溝が入っているが、それでも水しぶきが上がるほどのヘビーウェット路面での走行を強いられることになった。
金曜午前に行われたWEM部門のフリー走行兼予選は、タイムトライアルよりも電装系への浸水対策とスクリーンの曇り対策をする光景が見られた。そして最もチームを悩ませたのはタイヤのパンク問題だった。各チームは滑走路に刻まれた溝に溜まった小石がこの豪雨で浮き出し、トレッド面にダメージを与えることを懸念しており、ソーラーカーレース用タイヤでは対応が難しい状況だった。
金曜午後のWEM部門の決勝レースは13時30分にスタートすることとなった。午前の走行をキャンセルした東郷アヒルエコパレーシングが、降りしきる雨をものともせずに、スタート直後からぐんぐんリードを広げてゆく。その秘密はフロントスクリーンのデフォッガーファン。空調服のファンとバッテリーを流用したこのシステムは、ドライバーによると「めっちゃ前が見えた」とのこと。
一方、視界の曇りに苦しんだのは堺市立堺高等学校Aチーム。1年生を中心したこのチームは第2ドライバーに交代した際に視界を失いコース逆走が続いたことから、安全面への懸念により失格を宣告されてしまった。経験の浅い1年生ドライバーにとってこの厳しいコンディションは酷だったと、主催者側からもねぎらいの言葉がかけられていた。
レースが進むにつれ、懸念通りにほぼ全チームがパンクに見舞われる中、淡々と上位をキープしていたTeam Kはバイク用のタイヤを装着してパンクの抑止に成功していた。他が脱落してゆく中、自分のペースをきっちり守っての総合2位を獲得した。
WEM部門の総合優勝は、序盤からクリアな視界で逃げ切った東郷アヒルエコパレーシング。総合3位にはこちらも有力チーム404ecorunが滑り込んだ。19歳以下のドライバーによるジュニアクラスは、3年生を主体とした堺市立堺高等学校Bチームが優勝を果たした。
そして、14台のエントリーを数えたソーラーカー部門は、悪天候により金曜午前の時点で1台が撤収、実質13台でのレースとなった。残念ながら初日に金曜されていた2時間耐久レースは強風の影響でキャンセル。土曜の3時間耐久レースの2ヒートへと集約された。
金曜から土曜にかけて各チームは雨対策を講じていたが、大会2日目の24日(土)台風一過の快晴に恵まれ、ソーラーカーレース日和と言える日照を得られる天候となった。この日は白浜町の井澗誠町長も激励と挨拶に訪れ、レースカーを前に記念撮影も行われた。
ソーラーカー部門は、土曜の第1ヒートはビギナークラスを除くクラスの出走が予定されていたが、金曜の2時間耐久レースがキャンセルされたことから、土曜の第1ヒート(3時間耐久)、第2ヒート(3時間耐久)ともに全クラスが出走する形へと変更された。
土曜午前の第1ヒートは定刻通り8時30分にスタート。最有力候補のTeam REDZONEが独走体制を築くものの、ドライでも滑走路の路面ではパンクが発生し、築いたマージンをパンクで削られるという展開となった。これは前日同様に各チームもそれぞれ苦しめられたが、結果的にはそれぞれの実力が反映される、ソーラーカーレースらしい結果となった。
なかでも第1ヒートの総合2位、そしてエキスパートクラス2位争いは熾烈で、工学院大学附属高等学校と和歌山大学ソーラーカープロジェクト、大阪工業大学TEAM REGALIAの3チームは、3時間を走破してそれぞれ1周差という僅差の展開となっていた。
アドバンスクラスのトップ争いは呉港高等学校が後続に3周差を付けたものの、クラス2位争いTeam MAXSPEEDと芦屋大学ソーラーカープロジェクト、和歌山大学のOBOGチームであるCableoが1周差でひしめき、ビギナークラスのトップである神戸高専ソーラーカーチームが同一周回、ビギナー2番手のSTEP江東が1周遅れで控えるという、エキスパート同様の激戦が展開された。
お昼休みを挟んだ午後の第2ヒートは、計測器トラブルによりスタートディレイとなり、1時間短縮された2時間耐久レースとして争われることとなった。そして、3時間が2時間に短縮されると、ソーラーカーレースではエネルギーマネジメントが大きく変わるため、レースはやや過酷な様相を呈することになった。
そもそもこのコースは、サーキットとは異なり長い加速や強い減速を繰り返すオーバルコースであるため、モーターの熱環境としては加速側と回生側の両方において厳しい。これにより、夢考房ソーラーカープロジェクト(金沢工業大学)は第1ヒートでリタイアを喫し、和歌山大学ソーラーカープロジェクトは、車両のスパッツを対角線で外して空気流路を設け、空気抵抗を度外視した冷却を狙っていた。
第2ヒートでは、エネルギーや熱対策のマネジメントが厳しい中でも、Team REDZONEは圧倒的なスピードで他を圧倒した。モーター温度の上昇を予想し、事前に空気導入ダクトを設定して熱問題をクリアしていた工学院大学附属高等学校は、総合2位をキープしていたが、レース後半でパンクとブレーキの過熱によるピットイン。ドライバーが車体設計の想定より大きかったことでブレーキを足で触り、引きずりが発生したとのことだ。
工学院大学附属高等学校の後退により、エキスパートクラスの2番手争いは、大阪工業大学が和歌山大学ソーラーカープロジェクトをじわりじわりと追い上げる展開となったが、和歌山大学ソーラーカープロジェクトは、バッテリーの過放電によりピットインを余儀なくされてしまう。これで第2ヒートのエキスパートクラス2番手争いの勝負が決まった。
アドバンスクラスは、少数精鋭で乗り込んだ呉港高等学校が危なげなく安定したスピードを維持して優勝。鈴鹿生まれの名門チーム、Team MAXSPEEDは良いところを走っていながらパンクを喫し、タイヤに翻弄される形で1ラップ遅れのクラス2位となった。
総合では3番手争いが接近戦となっていて、ビギナークラスのSTEP江東とアドバンスクラスの呉港高等学校、、同じくアドバンスのTeam MAXSPEEDとCabreoがほぼ同じ周回でひしめき合っており、最終的にSTEP江東が総合3位とビギナークラス優勝を獲得し、ゴール後には「自分たちも自分の順位がよくわからないんですよ」と言いつつも「ああ楽しかった!」と笑顔満面で勝利の喜びを語っていた。
ソーラーカー部門における第1ヒートと第2ヒートの総合結果は、129周を走行したTeam REDZONEが優勝。総合2位は111周を走行した大阪工業大学、総合3位は104周を走行した工学院大学附属高等学校となった。エキスパートクラスはTeam REDZONE、アドバンスクラスは呉港高等学校、ビギナークラスはSTEP江東が優勝している。
レース終了後、大会事務局を務めた野村氏は、参加者や関係者に対し「第1回だからといって甘えたくはないんですが、やってみないとわからないことも多かったので、皆さんには迷惑をかけてしまいました」と反省の弁を述べる。一方でエントラントからは「やってくれて良かったよ」、「続けられるように我々も協力を」という声が多く聞かれた。
そして、競技長の任に当たった筒井貴広氏は「事故がなくてよかった、これに尽きます。細かいことはこれからきっちり見て、やるべきこを当たっていかないと。とりあえずイベントが出来て良かったです」と、胸を撫で下ろしている様子だった。
バッテリーEVとソーラーカーが競う新たなフィールドとして始まった白浜ECO-CARチャレンジ。コロナ禍をはじめ、当日の台風接近など、初開催までには紆余曲折があったものの、ひとまずの成功を得て、今後の継続と発展に期待したいところだ。
白浜ECO-CARチャレンジ2022リザルト
■WEM部門オープンクラス
1位(21周)東郷アヒルエコパレーシング[Pursuiter]
2位(14周)Team-K[Red Star]
3位(13周)404ecorun[15mk-2]
4位(8周)星翔高等学校 電気自動車研究部[顧問's 黒文鳥]
5位(8周)Team Assort[Little Quickie-zoIII]
■WEM部門ジュニアクラス
1位(9周)堺市立堺高等学校科学部B[SCIENCE822]
2位(2周)堺市立堺高等学校科学部A[SCIENCE922]
■ソーラーカー部門エキスパートクラス
1位(74周+55周)Team REDZONE[FREEDOM]
2位(63周+48周)大阪工業大学 TEAM REGALIA[Cielo]
3位(64周+40周)工学院大学附属高等学校[Practice Revive]
4位(63周+33周)和歌山大学ソーラーカープロジェクト[うめ☆号]
ー (ー)愛知工科大学ソーラーカー部[AUT-2016]
■ソーラーカー部門アドバンスクラス
1位(59周+45周)呉港高等学校[夢創心]
2位(55周+44周)Team MAXSPEED[Flat Out]
3位(53周+43周)Cabreo[みかん Gen2]
4位(54周+39周)芦屋大学ソーラーカープロジェクト[Sky-Ace QUAD]
5位(32周+0周)夢考房ソーラーカープロジェクト[Golden Eagle 6]
6位(13周+5周)OECU Solar Team Ku-On[Fortima P2]
■ソーラーカー部門ビギナークラス
1位(52周+45周)STEP江東[えこっくる002]
2位(53周+37周)神戸高専ソーラーカーチーム[Red Hawk]
3位(30周+12周)香川高専次世代自動車研究部[ソーラーカー(NITKC)]
フォト/小竹充 レポート/深澤誠人、JAFスポーツ編集部