全日本カート選手権EV部門がついに開催! オートパラダイス御殿場のハイスピードコースをEVカートが駆け抜けた
2022年11月4日
バッテリーと電気モーターで駆動する、史上初の競技用EVレーシングカートによる全日本選手権がついに実現。静岡県小山町のオートパラダイス御殿場で、決勝2レース制による大会が行われ、第1レースでは小高一斗選手(TOM'S)が、第2レースでは梅垣清選手(ULS)が優勝を飾った。
2022年JAF全日本カート選手権 EV部門 第5戦
開催日:2022年10月22~23日
開催地:オートパラダイス御殿場(静岡県小山町)
主催:RTA
2022年より全日本カート選手権に新たに加わった“EV部門”は、第1戦が4月9~10日の琵琶湖スポーツランド、第2戦が4月23~24日のモビリティリゾートもてぎ北ショートコース、第3戦が5月14~15日のGOLDEX本庄モーターパーク、第4戦が6月24~25日のスポーツランドSUGO西コース、という開催スケジュールとなっていたが、この4戦すべてが不成立となった。
そして迎えた第5戦、10月22~23日のオートパラダイス御殿場でついにEV部門の初開催が決まる。株式会社トムスが競技用EVレーシングカート『TOM'S EVK22』を開発し、同選手権用のパワーユニットとしてバッテリー/電動モーター/コントローラーをJAFに登録申請、8月3日に承認されたことで、レースの開催が可能となったからだ。
トムスが参加者全員にコンプリート状態のTOM'S EVK22を貸与することで、今回の大会が実現している。ちなみに、EV部門のエントリーフィーは2万8000円/1レース。コンプリート状態のTOM'S EVK22貸与の費用が含まれ、さらにマシンのサービスもすべてトムスにお任せということを考えると、これは相当なバーゲンプライスだと言える。
カートのカテゴリーに限らず、過去に内燃機関以外の動力で規定された全日本選手権が開催された例はなく、今回の大会は日本のモータースポーツ史に刻まれる大きな一歩だ。なお、全日本カート選手権EV部門は第5戦を2レース制とし、11月19日のJAFモータースポーツジャパン2022内・お台場特設会場で第6戦が追加開催され、3戦でシリーズが成立する運びとなった。
TOM'S EVK22の車両スペックについて、初めて一般の目の前に姿を見せた7月31日のお披露目会と基本的に同一ながら、シャシーを2022モデルに一新している。このイタリア・CRG社製シャシーは、EVのパワーユニット搭載のための改造がメーカーで施された、言わばTOM'S EVK22専用モデルだ。
また、フェアリングは近未来的なグラフィックが施されたパープルのカラーリングに一新されている。これはトムスのスタッフたちが、新時代のモータースポーツを表現すべくアイデアを凝らした、こだわりのデザインなのだという。
ブレーキは通常のカートの“リアに1個のみ”とは異なり、左右のフロントハブにも装備。これはブレーキペダルの操作で前後一緒に制動がかかるタイプで、マスターシリンダーの前には前後のブレーキ配分を調整するダイヤルがついている。
シャシーには燃料タンクを新たに装備。これは水を入れてウェイト調整を行うためものだ。正確なウェイト調整が容易にできる上、シートなどに穴をあけて鉛のウェイトを積まなくても良いこのやり方は、メカニックにも好評だった。ガソリンを積む必要のないEVカートだからこそ実現した優れたアイデアだ。
車両とドライバーを合わせた最低重量は190kg。全日本選手権のトップカテゴリーであるOK部門の最低重量は145kgで、それより45kgも重い値だ。この重さは、EV部門のドライビングを大きく特徴づけるファクターとなっていた。
全参加者に貸与されるTOM'S EVK22は、各ドライバーに合わせてドライビングポジションの調整やセッティングが済ませてあり、参加者個人による加工や調整は一切禁止されている。ドライバーが調整できるのはブレーキバランスのみ。大会期間中の整備は運営のトムスがすべて担当し、ドライバーは基本的に走ることだけに専念する。ゆえに各セッションが終わるたびにドライバーとメカニックが顔を突き合わせてセッティングを協議していた光景は、この部門に関しては見られないのだ。
従来のカートレースと異なるのは、コース内で見られる光景も同様だ。もしコース上でストップした場合、万が一の感電事故を避けるため、シートを降りたドライバーがマシンを押して移動させることは一切なく、マシンの移動はすべてコースマーシャルが担う。
この際、コースマーシャルはゴム製の手袋を着け、まずパワーユニットの電源を切った後にマシンに触れる、といった作業手順が決められ、そのマニュアルもつくられた。これらの手順は大会前のオフィシャルブリーフィングで全担当者に通知され、その後はトムスのエンジニアリングスタッフから実際のマシンを使用した講習会も行われていた。
競技長 安達良三氏
今回の大会フォーマットは2デイ制。まず初日に10分間の公式練習と、予選に相当するタイムアタックを実施。この結果をスターティンググリッドとして、2日目の午前に決勝第1レースが、午後に同じグリッド順から決勝第2レースが行われ、それぞれのレースにシリーズポイントが与えられる。タイヤはダンロップ製FIA-CIK公認ハイグリップタイヤ(プライムタイプ)で、タイムトライアルから第2レースまでを1セットでまかなう。
この大会のために設けられた特別スポーツ走行は、15分の枠が1本のみ。ドライバーたちはこの15分間の特別スポーツ走行と10分間の公式練習で、初めて乗るTOM'S EKV22の感触をつかんだ後、いきなり大会本番を迎えることとなる。そして10分間の公式練習に続いて行われるタイムアタックは1周計測。抽選で出走順を決めた上で、2台ずつが間隔を空けてコースインしてタイムアタックを行う方式だ。
記念すべき史上初の全日本EV部門に参加したのは8名のドライバー。全員が全日本カート選手権の出場経験者で、四輪のトップカテゴリーで活躍する佐々木大樹選手(D-WOLF)や小高選手を始め、OK部門で目下チャンピオン争いを展開中の佐野雄城選手(アステック)など、そうそうたる面々がエントリーリストに名を連ねている。
TOM'S EVK22 ファーストインプレッション
#1 小高一斗選手(TOM'S)
#2 佐々木大樹選手(D-WOLF)
#3 佐野雄城選手(アステック)
#4 富下李央菜選手(チームTKC)
#5 渡邉カレラ選手(EIKO)
#6 大槻聖征選手(Sigma Racing)
#7 諏訪百翔選手(Tommy Sports Racing)
#8 梅垣清選手(ULS)
大会初日のタイムアタックでは、プロドライバーやOKドライバーたちを差し置いて大槻聖征選手(Sigma Racing)が41秒139のトップタイムをマーク。これは、同時開催された全日本カート選手権東地域のFP-3部門(100cc空冷エンジン)のタイムトライアルで記録されたトップタイム42秒660より約1.5秒速く、同FS-125部門(125cc水冷エンジン)のトップタイム38秒798に約2.3秒差と迫るものだ。
TOM'S EVK22はレーシングマシンとしてのポテンシャルをタイムでしっかりと実証したと言えよう。つけ加えれば、公式練習の前に行われた特別スポーツ走行では39秒台のタイムも出ており、タイムアップの余地はまだまだありそうだ。
続けて行われる公式練習→タイムアタックの間を除き、各セッションの終了後にはすべてのマシンからバッテリーが外され、サービステント内に設けられた充電スペースで一斉に充電が行われる。この充電のための電力は、サービステントの横に停められた移動電源車から供給されていた。
一夜明けて大会2日目。朝一番の公式練習では、小高選手と佐々木選手が1000分の1秒までイーブンの40秒097のトップタイムを刻んだ。この際、コースサイドに設けられた凹凸に乗ったマシンから取り外し式のバッテリーが外れる予想外のアクシデントが発生する。
このセッション後のパドックでは、大会スタッフたちがその防止対策に奔走していた。いろいろな対応策を模索した結果、バッテリーパックは太めの結束バンドで前後を強固に固定してレースに臨むことに。誕生したばかりで前例のないレースは、このように実戦経験を積み重ねて問題の洗い出しと改善を繰り返しながら、より安全で楽しいレースへと育っていくのだろう。
10時25分、決勝第1レースがスタートの時を迎えた。全日本EV部門がいよいよ戦いの火蓋を切る瞬間だ。サーキット上空は快晴。日差しはまぶしく、10月末なのに夏を思わせる暑さだ。ここまでの走行セッションでブレーキにベーパーロックの徴候を示すマシンが何台かあったため、安全を考慮して第1/第2レースとも周回数は予定されていた20周から15周に短縮された。
諏訪百翔選手(Tommy Sports Racing)が公式練習中のアクシデントによって以降のセッションを欠場したため、レースに参加するのは7台となった。ただし、諏訪選手は予選(タイムアタック)を走っているので、記録上の出走台数は8台となる。
メインストレートのスターティンググリッドに並べられた全車は、1周のフォーメーションラップの後、再度グリッドに停止。全車の停止が確認されると、ポールの脇で赤旗を頭上に掲げたオフィシャルがコース外に退去し、その赤旗が下ろされるとスタートライン先のシグナルが赤に点灯。シグナルのブラックアウトを合図として、スタンディングスタートでレースが始まった。
日本のモータースポーツ史に名を刻む最初のウィナーとなったのは小高選手だった。2番グリッドから発進するとオープニングラップでトップに立ち、競り合う後続を一気に引き離しての独走劇。リードを5秒弱にまで広げてチェッカーをくぐった。
終盤まで2番手を走っていた佐々木選手は、残り3周で急なパワー低下のためポジションダウン。渡邉カレラ選手(EIKO)がセカンドグループの戦いを制して2番手でゴールしたのだが、渡邉選手はプッシングで10秒のペナルティを課され、代わってスタート直後の最後尾への後退から挽回してきた佐野選手が2位に。その真後ろにいた梅垣選手は、ゴール間際の最終コーナーで突如パワーを失って1コーナーで止まったのだが、辛くも3位フィニッシュに成功した。
かすかなモーター音と風切り音、タイヤのスキール音しか聞こえない静かなサーキットの中で、見応えのあるバトルが繰り広げられる光景は、従来のカートレースとはまったく異なるものだった。一方、コース内で写真を撮影するメディアのカメラマンからは、マシンの接近になかなか気づかず、アクシデントの回避にやや不安を感じるとの声が出ていた。
13時15分に始まった決勝第2レースでは、小高選手、佐野選手、梅垣選手、再び小高選手とトップが移り変わった末、最終ラップの逆転で梅垣選手が勝利をつかんだ。これは梅垣選手のカートレース初優勝だった。
小高選手は終盤にブレーキが効かなくなり、梅垣選手を抜き返せず2位に。3位には佐野選手が入り、第1レースと同じ顔触れが順位を入れ替えて表彰台に立つこととなった。コース上ではギャラリーを沸かせる好バトルが繰り広げられた一方で、レースの途中で明らかに本来のペースを失ったマシンも何台か見受けられた。
ポイントランキングは、小高選手が47点で首位。これに45点の梅垣選手と42点の佐野選手が続いている。チャンピオン獲得の可能性を有しているのは、この3名だ。
大きな可能性と多くの話題、そしていくつかの課題を衆目の下で披露して、全日本EV部門の大会は幕を閉じた。シリーズ最終戦となる第6戦は11月19日(土)、モータースポーツジャパン内・お台場特設会場で開催予定。そこではナイトレースを実施する案もあるのだという。初代EV部門チャンピオンが決まるこの一戦、従来のカートレースの常識を覆す光景が再び展開されそうだ。
全日本カート選手権“EV部門”開催について
大会組織委員 谷本勲氏(株式会社トムス代表取締役社長)
カート部会 植田敏明部会長
フォト/長谷川拓司、JAPANKART、JAFスポーツ編集部 レポート/水谷一夫、JAFスポーツ編集部