全日本/ジュニアカート選手権チャンピオン争いプレビュー
2022年11月8日

2022年の全日本カート選手権とジュニアカート選手権は大詰めを迎え、どの部門もいよいよ今季最後の大会を残すのみとなった。全日本カート選手権OK部門/FS-125部門/FP-3部門とジュニアカート選手権FP-Jr部門/FP-Jr Cadets部門は11月12~13日に行われる三重県・鈴鹿サーキット南コースでの大会が、EV部門は11月19日に行われるモータースポーツジャパン内・お台場特設コースでの大会が、2022シリーズの決着の場だ。そこで、最終決戦を目前にしたチャンピオン争いの状況を、部門ごとにお伝えしよう。
全日本カート選手権OK部門
1大会2レース制で行われるOK部門は、全10戦中8戦までが終了。目下ポイントレースをリードしているのは、3勝を挙げて198点を獲得したルーキーの小田優選手(Drago CORSE)だ。それに続くのは191点の佐野雄城選手(BirelART Access Racing)となっている。
だが有効得点制(有効8戦)を勘案した第9戦/第10戦・鈴鹿大会での得点の伸び代は小田選手の方が大きく、実質的な両者の差は現在の合計得点以上に大きくなる。とは言え、鈴鹿大会では予選(1位10点)・決勝(1位25点)各2回の得点機会があり、最大で70点を獲得できるので、まだ予断の許される状況ではない。
このふたりの他にチャンピオン獲得の権利を有しているのは、172点の金子修選手(TONYKART RACING TEAM JAPAN)、140点の三村壮太郎(RosaDragoCORSE)、138点の堂園鷲選手(ENERGY JAPAN)の3名だ。
タイヤメーカー3社が各大会に特化した超ハイグリップのスペシャルタイヤを投入して開発競争を繰り広げてきたOK部門だが、ブリヂストンとヨコハマが2022年限りでのカートタイヤ事業からの撤退を発表し、この戦いは今季限りで幕を閉じることとなる。
そのラストイヤーのタイトル争いに生き残った5名は、すべてブリヂストン・ユーザー。加えてここまでの8戦は全部ブリヂストン・ユーザーが勝利を飾っている。
そんな状況に一石を投じるべく、ヨコハマから強力な刺客が送り込まれた。2018年にヨコハマタイヤ・ユーザーとしてOK部門の王座に就き、現在は自動車レースのトップカテゴリーで活躍する佐藤蓮選手(Drago CORSE)が、鈴鹿大会にスポット参戦してくるのだ。現在もカートドライバーとして日本屈指の実力を維持する佐藤選手の参入は、チャンピオン争いにも少なからぬ影響を及ぼしそうだ。





全日本カート選手権FS-125部門
全日本カート選手権FS-125部門/FP-3部門とジュニアカート選手権の2部門は、ここまで東西各地域での5戦を終了し、残すは両地域のドライバーたちが一堂に会して直接対決する東西統一競技会のみ。重要度の高いこの一戦では、決勝の結果に通常の1.5倍のポイントが与えられる。
そのFS-125部門では、西地域の5戦で4度のポール・トゥ・ウィンを果たした百瀬翔選手(HRS JAPAN)がタイトル争いを圧倒的にリード。他に戴冠の可能性を有しているのは、東地域で2勝の落合蓮音選手(Formula Blue Ash)のみだ。
百瀬選手は有効得点(全6戦中有効5戦)に2点を上積みすれば、落合選手の結果に関わらずチャンピオン確定。もし予選が無得点でも、決勝で4位以内に入ればいい。対して落合選手は予選で2位以内、決勝で優勝することが逆転タイトルへの最低条件だ。
ただし、落合選手は昨年の地方カート選手権・鈴鹿選手権シリーズのチャンピオンだ。2020年のFP-Jr部門、2021年の地方選手権に続く3年連続の日本選手権王座がかかっている。落合選手はその2020年も2021年も、絶体絶命の状況からまさかのハプニングに助けられてタイトルをつかみ取ってきた“持ってる男”。そう簡単に白旗を挙げることはないはずだ。
一方の百瀬選手も、鈴鹿では王座獲得以外に重要な使命がある。今季のFS-125部門の平均出走台数は、東地域が16.8台であるのに対して西地域は6.4台と大幅な“東高西低”状態になっていて、西地域のレースの方がイージーだとの評もある。西地域代表として東西統一競技会に挑む百瀬選手には、いい結果を残してその評を覆す役目が期待されているのだ。
また、四輪カテゴリーへのステップアップを目指す若手ドライバーにとっては、鈴鹿大会は限定Aライセンス取得の権利を得るための重要な一戦にもなる。タイトル獲得の権利の有無に関わらず、鈴鹿では熱い戦いが繰り広げられそうだ。


全日本カート選手権FP-3部門
FP-3部門では東地域で2勝を挙げた春日龍之介選手(SPS川口)が143点を獲得して東西統一ランキングの首位に立ち、タイトル争いをかなり有利に進めている。自力チャンピオンの可能性を持つのは春日選手ただひとりだ。
ただし、春日選手はまだ気を緩めることはできなさそうだ。東西統一競技会のエントリーは、レースの最大出走台数を大きく超える39台。この状況では、ひとつのミスやトラブルが大きなポジションダウンに直結する。加えて、スポット参戦組の中には経験豊富な鈴鹿スペシャリストもいる。春日選手にとっては、まず持ち前の速さをきっちりと発揮することが第一のミッションとなるだろう。
2番手は東地域で141点を獲得した富下李央菜選手(Formula Blue TKC)、3番手は西地域で133点を稼いだ鈴木恵武選手(Formula Blue 増田スピード)。このふたりは安定して上位入賞を果たしてはいるのだが、まだ優勝がなく、鈴鹿大会には逆転チャンピオンとともに悲願の初勝利をかけて挑むことになる。
また、東地域で114点の大越武選手(BEMAX RACING)、西地域で112点の内海陽翔選手(シナジーリンクス)、西地域で103点の中村海斗選手(TEAM NAGAO)も逆転タイトル獲得の可能性を残している。東西各5戦のレースを見ても、各者の実力は紙一重。ドラマの結末は、まだ見えない。






ジュニアカート選手権FP-Jr部門
FP-Jr部門では西地域の伊藤聖七選手(かあと小僧with Ash)と東地域の酒井龍太郎選手(ミツサダ PWG RACING)が、ともに4勝と2位1回を挙げ、合計122点でまったくの横一線に並んでいる。両者ともに鈴鹿の経験は十分。ふたりが本来の実力をきちんと発揮できれば、決着は前でゴールした方がチャンピオンというシンプルな状況だ。
また、東地域の開幕戦を制してここまで89点を獲得した松井沙麗選手(BEMAX RACING)も、わずかながら逆転チャンピオンの可能性を残している。タイトル戦線からは脱落したものの、東地域で酒井選手や松井選手に匹敵するスピードを披露してきた岡澤圭吾選手(HRT with カローラ新茨城CSI Racing)も、戦いのカギを握る存在となりそうだ。



ジュニアカート選手権FP-Jr Cadets部門
FP-Jr Cadets部門でチャンピオン獲得の可能性を有しているのは西地域の横山輝翔選手(Energy JAPAN)、元田心絆選手(APSPEED with SOVLA)、澤田龍征選手(LUCE MOTOR SPORTS)、東地域の関口瞬選手(TECORSA)の4名。現ランキングでは2勝で合計114点を獲得した横山選手が首位に立っているのだが、有効得点制(6戦中有効5戦)を考慮すると、3勝で97点の澤田選手の方がやや優位に立っている。
東西統一競技会のエントリーは、これまでの東西5戦を大幅に上回る21台。もしニューヒーローが現れれば、チャンピオン争いがにわかに混迷状態に陥ることもありそうだ。




全日本カート選手権EV部門
今年スタートしたEVカートによる全日本選手権は、第1戦から第4戦まで不成立に終わっていたのだが、株式会社トムスが自社開発のEVレーシングカート『TOM'S EVK22』を参加者全員に貸与する形で第5戦のレースが実現。シリーズには第6戦も追加開催されることになり、第5戦の2レースと合わせた全3戦で選手権が成立する運びとなった。
第5戦の2レースを終えてチャンピオン候補に名を連ねたのは、47点の小高一斗選手(TOM’S)、45点の梅垣清選手(ULS)、42点の佐野雄城選手(アステック)の3名だ。興味深いのは、3名が1位1回、2位1回、3位1回の67点でポイントも獲得順位もまったく同じ状況に並ぶ可能性があること。この場合は規定により、最終戦で上位の選手がランキングでも上位になる。
第6戦はビッグイベント会場の特設コースが舞台で、加えてナイトレースでの開催が計画されている。未知のシチュエーションで誰が勝利を手にするのか、そして誰が栄冠に輝くのか、興味は尽きない。



フォト/長谷川拓司、JAFスポーツ編集部 レポート/水谷一夫、JAFスポーツ編集部