ナイトレース初開催の全日本カート選手権 EV部門、第5戦と第6戦で勝利した三村壮太郎選手がシリーズ4勝目
2025年9月2日

9月14日、シティサーキット東京ベイ(東京都江東区)で開催された全日本カート選手権 EV部門の第5戦/第6戦。その第5戦ではITOCHU ENEX WECARS TEAM IMPULの三村壮太郎選手がポールから優勝し、続くナイトレースで行われた第6戦でも三村選手がポール・トゥ・ウィンで今季4勝目を挙げた。
2025年JAF全日本カート選手権 EV部門 第5戦/第6戦
開催日:2025年9月14日
開催地:シティサーキット東京ベイ(東京都江東区)
主催:RTA、TOM’S
全日本カート選手権 EV部門はシリーズ後半戦の第5戦/第6戦に突入し、チャンピオン争いは佳境を迎える。そんな今大会には大きな注目点があった。最初の計時セッションである公式練習は12時41分に開始、第5戦決勝は15時40分にスタート、そして第6戦決勝は18時30分のスタート予定となっている。つまり第6戦の決勝は全日本カート選手権史上初めてのナイトレースとして行われるのだ。
会場では、SKY TRACKと呼ばれる屋外コースで行われる全日本の真剣勝負の舞台と並行して、その脇にあるコンパクトな屋内コースのLIGHTNING TRACKにて、今回も人気のキッズEVカート体験走行が実施された。12時の開始前から受付に長蛇の列ができるほどの盛況ぶりを見せていた。
レースの周回数は前大会の第3戦/第4戦と同じで、第5戦/第6戦とも予選が15周、決勝が25周。13時に始まった各車2周アタックのタイムトライアル(TT)では、三村壮太郎選手が1周目に全体のトップタイムをマーク。セカンドタイムでも他の11名を上回り、第5戦/第6戦とも三村選手がポールから予選をスタートすることになった。
0.012秒差の2番手は、前日の土曜に行われたテストセッションと、この日の公式練習で最速タイムを叩き出して好調ぶりをアピールした徳岡大凱選手。3、4番手には豊島里空斗選手と中井陽斗選手がつけた。前大会で2連勝を飾りポイントリーダーとなった寺島知毅選手は、不本意なタイムで10番手に留まっている。




第5戦予選
第5戦の予選では、三村選手が後方の2番手争いに乗じてリードを広げ、トップのままゴールして決勝のポールを獲得した。2番手は豊島選手との競り合いを制した徳岡選手。中井陽斗選手も終盤に豊島選手をパスして3番手でゴールした。その後方では、寺島選手がハイペースで追い上げて豊島選手に続く5番手でこのヒートを終えている。

第5戦決勝
第5戦の決勝は、上位陣がグリッド順をキープしたままスタート。2周目に寺島選手が豊島選手をパスして3番手に上がった。ここから三村選手、徳岡選手、中井陽斗選手、寺島選手の4名が一列に連なって5番手以下を引き離し始める展開となる。
すると6周目、このレースの行方を大きく左右する出来事が起こった。初優勝も期待された徳岡選手が1コーナー先でクラッシュ、戦列を去ったのだ。両手でヘルメットを抱えてうなだれる徳岡選手。これで中井選手が2番手、寺島選手が3番手に上がった。
ここから三村選手は後続を上回るペースで走り、リードを広げていく。三村選手のアドバンテージは9周目には1秒を越え、11周目には約1.7秒に達した。だが、レースは三村選手のワンサイドゲームとはならなかった。その立役者は、予選でこの日のコース攻略法をつかみ復調した寺島選手だ。
10周目に2番手に上がった寺島選手は、背後の中井陽斗選手を周回ごとに引き離し、トップを独走する三村選手のリードをじわじわと削り取っていく。三村選手はその追撃を察知し、全力で逃げる。残り5周、両車の間隔は1秒を切るほどに。
だが、寺島選手が三村選手を捕らえるには周回数が足りなかった。結局、三村選手はポールから一度も先頭の座を譲ることなくチェカーを受け、今季3勝目を挙げた。TT10番手からの見事な挽回でレースを盛り上げた寺島選手は、0.75秒差の2位でフィニッシュ。単独走行となった中井陽斗選手が3位に入った。




第6戦予選
TTのセカンドタイム順で決まる第6戦予選のグリッドは、ポールの三村選手に豊島選手、中井陽斗選手、中井悠斗選手が続く結果に。徳岡選手は5番グリッド、寺島選手は9番グリッドから逆襲を狙う。ところが、第6戦の予選は思わぬ展開となった。
まず、スタート直後に徳岡選手が他車と絡んでストップ、再スタートは切ったが最後尾に後退した。さらに5周目、第5戦の予選・決勝でオーバーテイクが困難とされるタイトなコースをものともせず8ポジションアップを果たした寺島選手が、モーターの停止でリタイアしてしまった。
このヒートは、三村選手が1周目から大きなリードを築いてトップのままゴール。前半戦のホットなバトルを制した中井陽斗選手が2番手で走り終えたのだが、フロントフェアリングのペナルティで5秒加算の裁定を受けて4番手に下がり、中井悠斗選手が2番手、豊島選手が3番手となった。徳岡選手は懸命に追い上げるもゴールは8番手だった。

第6戦決勝
大会最後のヒート、第6戦決勝は日没の後にスタートの時を迎えた。空はほぼ闇に包まれ、コースは全域が照明に照らされていつもと異なる景色を見せている。34度に達した暑さはかなり収まり、湿気は残るものの体力面ではかなり楽な気温になった。ポールの三村選手ら数名はヘルメットシールドをクリアのものに換装してこのレースに臨んでいる。
信号灯のレッドライトが消灯し、12台のマシンがスタート。三村選手は先頭のまま発進してひとつミッションをクリアすると、1周目から後続を引き離していく。2番手は中井悠斗選手、3番手はオープニングラップで豊島選手の前に出た中井陽斗選手、6番グリッドから浮上の野澤勇翔選手が4番手に。そのセカンドグループを三村選手は周回ごとに置き去りにして、25周レースの折り返し点では2秒弱ものリードを築き上げた。
一方、下位グループではもうひとつのドラマが展開されていた。最後尾からスタートした寺島選手が3周で7台をパスして5番手に上がり、セカンドグループにぐいぐいと接近きたのだ。ひとり別次元のスピードで周回を続ける寺島選手は、7周でセカンドグループに追いつくと、9周目に野澤選手を、14周目に中井陽斗選手を一発でかわしていく。その見事なオーバーテイクに、ギャラリーから大きな歓声が湧く。18周目、寺島選手はついに中井悠斗選手をパスして2番手に浮上、2秒前を行く三村選手の追撃に取りかかった。
三村選手と寺島選手のギャップは、周回のたび目に見えて縮まっていく。残り4周、両者の差が1秒を切った。最終ラップ、その差は約0.5秒に。しかし、寺島選手が三村選手のテールを捕らえるにはあと1周足らなかった。辛くも逃げ切った三村選手は、右拳を握ってチェッカーを通過。これで今季4勝目だ。そこから0.356秒遅れてフィニッシュした寺島選手は、残念そうに首を傾げた。
ただし寺島選手は、車検場でフロントフェアリングが落ちていることを告げられ5秒加算のペナルティに。これで中井悠斗選手が自己最上位を更新する2位に、中井陽斗選手が4戦連続の3位に、野澤選手が4位になった。寺島選手の結果は5位だった。
最年長34歳の三村選手は寺島選手に追い詰められたレースを振り返って、「(昼間より暗いコースで)視界に不安があったのでマージンを取っていたけれど、プッシュしておけばよかったと後悔しています」と語っている。これも未体験のナイトレースならではのことだったといえよう。




大会組織委員長を務めた株式会社トムス代表取締役社長の谷本勲氏は、全日本カート史上初のナイトレースを振り返って、「今の気持ちは無事に終わって安心したのが半分、新しい観戦の形を見せることができた喜びが半分です」とコメント。
「ナイトレースの実施が決まった時には安全面の不安もあったんですが、事前に走行確認を行ったり前日の夕刻にテスト走行の機会を設けたりして、安全にしっかり配慮した上でレースを行いました。観戦していた方からは『いいじゃない、毎年ナイトレースをやったらどう?』といった言葉をいただけました」と安堵の笑顔で語っていた。

ポイントスタンディングは、三村選手が122点で首位に復帰。寺島選手が120点で2番手、中井陽斗選手が112点で3番手に続いている。残すは12月21日の第7戦/第8戦のみ。ポイントシステムは全8戦中6戦有効だ。34歳の三村選手が初の全日本タイトルを手にするのか、若手が栄冠を勝ち取って来季のFIA-F4参戦権を手にするのか。その結末に注目が集まる。
ドライバー育成講習

このシリーズ独自の試みとして行われている「ドライバー育成講習」が、この大会でも実施された。四輪レースのトップレベルで活躍する面々に、カートドライバーたちが四輪のプロドライバーを目指す上での心構えなどを語ってもらうこの講習会は、前大会で初めて行われ、今回が2回目となる。前大会では全ヒートが終わった後に行われたのだが、遅めの時間帯でスケジュールが進行した今回は第5戦決勝と第6戦予選の間に行われた。
今回の講師は、全日本スーパーフォーミュラ・ライツ選手権などで活躍する18歳の佐野雄城選手。カート時代には2022年の全日本EV部門初年度に参加してランキング2位を獲得している。講師役はまだ不慣れとあって、講習会は佐野選手が司会者の質問に答える形で進行した。
自分の背中を追うカートドライバーたちに対して佐野選手が特に熱をこめて語ったのは、気持ちを何にフォーカスするのか、ということの重要性だった。
「自分のように育成ドライバーとしてサポートを受けている人間は、結果を出さなければクビになってしまうという不安で焦って空回りしてしまう場合があることを、メンタルトレーナーの方に教わりました。それから自分は結果を残すこと以上に自分のパフォーマンスを最大限に発揮することに気持ちをフォーカスするようにしました」
また、カート出身ドライバーとして気づいたこともレクチャーしている。
「カートはある程度勢いで走れるし、自分で動かせるのでセンスでタイムを出すこともできます。それに対して四輪はフロントブレーキがついていることもあって、マシンバランスが崩れた時にどうするかを考えることが重要になります。その一方で、タイヤのマネジメントの仕方とか一発のタイムの出し方、雑に走るとダメなところなどはカートも四輪も同じです」
「カート時代にセッティングをしっかり考えてやっていれば、それは四輪にも生かせるし、チームのスタッフさんたちとのコミュニケーションの取り方もカートと四輪で共通です。ただ、触るところは四輪の方が多くなります。僕を担当してくださっているエンジニアはカテゴリーごとに違う方だし、それぞれのエンジニアで考え方も違うので、自分の考えを的確に伝えられることが重要だと思います」
慣れない講師役に少し緊張の表情を浮かべながらも、明瞭な口調で自らの経験を語った佐野選手。まだあまり歳の離れていない先輩の言葉に、カートドライバーたちは真剣な表情で聞き入っていた。
PHOTO/長谷川拓司[Takuji HASEGAWA]、JAPANKART、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS] REPORT/水谷一夫[Kazuo MIZUTANI]、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS]