12年ぶりに復活したWRC日本ラウンドは、HYUNDAIのT・ヌービル選手が優勝。勝田貴元選手は3位表彰台を獲得!

レポート ラリー

2022年11月18日

ついにWRC日本ラウンドの開催が12年ぶりに実現し、11月10~13日、愛知県と岐阜県を舞台に「FORUM 8 RALLY JAPAN」が開催された。WRCでは38台のマシンが日本のターマックロードを駆け抜け、HYUNDAIのヌービル/ウィダグ組がウィナーに輝き、未決だったWRC2選手権のタイトル争いはリンドホルム/ハマライネン組が逆転で戴冠した。

2022 FIA WORLD RALLY CHAMPIONSHIP Rally Japan 2022
2022年FIA世界ラリー選手権(WRC)第13戦「FORUM 8 RALLY JAPAN」

開催日:2022年11月10~13日
開催地:愛知県・岐阜県内
主催:TMSC、Sans、MOSCO

JMRC全国オールスターラリーフェスティバル/アルペンクラシックカーラリー2022
Central Rally 2022(国内格式)

開催日:2022年11月11~13日
開催地:愛知県・岐阜県内
主催:MASC、MOSCO

 新型コロナウイルス感染症感染拡大の影響などにより、2度に渡って開催断念を余儀なくされていたFIA世界ラリー選手権(WRC)の日本ラウンド。その到来がようやく実現することになり、2022年11月10 ~ 13日、愛知県と岐阜県を舞台した「FORUM 8 RALLY JAPAN 2022」が、日本では12年ぶりのWRCとして帰って来ることになった。

 近年のWRCではTOYOTA GAZOO Racing WRTの活躍が目覚ましいが、同チームとしては初のホームラリー参戦で、かつ、WRCで活躍する唯一の日本人である勝田貴元選手の凱旋ラリーでもあったため、トヨタ自動車のお膝元、そして勝田貴元選手の出身地付近で行われるWRC開催を2年待った大勢のギャラリーが詰めかけて声援を送った。

 今大会には、WRCワークス勢のほか、タイトル争いが決していないWRC2選手権が併設され、ポイントリーダーのアンドレアス・ミケルセン選手を除く欧州のタイトルコンテンダーが日本に集結した。このWRC2には、全日本ラリーJN1チャンピオンのヘイキ・コバライネン/北川紗衣組やJN1の福永修/齊田美早子組のほか、今大会限定でシトロエンC3を仕立てた新井敏弘/田中直哉組も参戦している。

 そして、RC4クラスには2019年のセントラルラリーにも参戦した新井大輝/イルカ・ミノール組や、JN2チャンピオン中平勝也/島津雅彦組も参戦し、ナショナルまたは地域選手権参戦者を対象としたナショナルクラスには、勝田範彦/木村裕介組、柳澤宏至/保井隆宏組、山本悠太/立久井和子組ら、全日本ラリーを代表するクルーも挑んでいた。

 ラリーはサービスパークが置かれた豊田スタジアムを拠点として、木曜はセレモニアルスタートの後に豊田市の鞍ヶ池公園でSS1「Kuragaike Park SSS/2.75km」が始まる。

 本格的な競技が始まる金曜には、豊田市と設楽町に6本(「Isegami's Tunnel/23.29km/SS2&SS5」「Inabu Dam/19.38km/SS3&SS6」「Shitara Town R/22.44km/SS4&SS7」)のステージが設けられ、土曜は岡崎市と豊田市、新城市に7本(「Nukata Forest/20.56km/SS8&SS11」「Lake Mikawako/14.74km/SS9&SS12」「Shinshiro City/7.08km/SS10」「Okazaki City SSS/1.40km/SS13&SS14」)、日曜は豊田市と恵那市に5本(「Asahi Kougen/7.52km/SS15&SS19」「Ena City/21.59km/SS16&SS18」「Nenoue Plateau/11.60km/SS17」)のステージが設定され、合計19SS、283.27kmで争われる予定だった。

 ところが、ナイトステージとして行われた木曜のSS1では新井/田中組が激しくクラッシュ。金曜のオープニングステージであるSS2では、HYUNDAIのダニエル・ソルド/キャンディード・カレラ組の車両がステージ上で全焼し、WRC2のカエタン・カエタノヴィッチ/マチェイ・シュシェパニャク組は、別の場所で自走不能なクラッシュに見舞われてしまう。

 さらに、続くSS4ではM-SPORT FORDのクレイグ・ブリーン/ジェームス・フルトン組がバリアに激突するなど、赤旗提示が連続する事態が発生。ステージの安全確保やアイテナリー正常化のために、ラリー序盤からステージキャンセルが相次ぐ事態となった。

 そして、勝負という面においても、TOYOTA GAZOO Racingのセバスチャン・オジエ/ヴァンサン・ランデ組はSS2でパンクを喫し2分半以上の遅れ、M-SPORT FORDのガス・グリーンスミス/ジョナス・アンダーソン組はSS4で車両トラブルにより大きく後退するなど、序盤から波乱含みの展開となっていた。

 その中で、TOYOTA GAZOO Racingのエルフィン・エバンス/スコット・マーティン組とカッレ・ロバンペラ/ヨンネ・ハルットゥネン組が金曜のステージベストを奪い合う激戦を披露する。しかし、土曜のオープニングSS8でロバンペラ/ハルットゥネン組がパンクに見舞われて大きく後退したため、エバンス/マーティン組とHYUNDAIのティエリー・ヌービル/マルティン・ウィダグ組による首位争いとなっていった。

 ベストタイムはオジエ/ランデ組が奪うものの、エバンス/マーティン組とヌービル/ウィダグ組は日本の難しいコンディションに翻弄されながらも一進一退の首位争いを演じ、SS12ではヌービル/ウィダグ組が首位のエバンス/マーティン組をわずか2.0秒差でかわして、ヌービル/ウィダグ組がトップに立った。

 迎えた最終日。午後からは天候の悪化が予想されていたが、日曜のオープニングSS15では、ドライ路面に賭けたエバンス/マーティン組がベストタイムをマーク。ヌービル/ウィダグ組にコンマ6秒差まで迫ったが、続くSS16では、エバンス/マーティン組がまさかのパンクに見舞われてしまう。

 このトラブルにより1分40秒以上遅れたエバンス/マーティン組は4番手にドロップしてしまい、HYUNDAIのオイット・タナック/マルティン・ヤルヴェオヤ組が2番手、勝田貴元/アーロン・ジョンストン組が3番手に上がることになる。

 そして午後には予報通りの雨。上位の各クルーはそれぞれ1分から30秒程度の差があり、タイヤ戦略の違いも影響したことから、上位勢に順位変動はなく、最終SS19パワーステージは、総合24番手のブリーン/フルトン組が制して競技区間が終了した。

 この結果、2位のタナック/ヤルヴェオヤ組に1分11秒1の差をつけたヌービル/ウィダグ組が優勝し、新生ラリージャパンの記念すべき初代ウィナーの座に輝いた。2位はヒョンデのタナック/ヤルヴェオヤ組、3位は勝田貴元/ジョンストン組で正式結果となった。

 優勝したHYUNDAIのヌービル選手は「最高の気分だね! 大変な週末だったし、それどころか大変な一年間だったけど、最後までスピードを保てて、勝利という最高の形でシーズンを飾ることができた。天気への対応についてもチームが素晴らしい仕事をしてくれた。チームの皆、そして助けてくれたすべての人に感謝している」と語る。

「最終的にポディウムに上がることができてよかった。最後のラリーは非常にトリッキーだったね。最後のターマックラリー2戦ではあまりスピードを出せなかったけど、(全体として)いくつかのラリーで優勝を果たせたし、ポディウムにも上がれた。今後のことはまだ決めていなくて、すでに言ったとおり、今のところは来年どこかと契約する話は出ていない。まずは帰国して、数週間はゆっくりしたい」とは2位のタナック選手。

 そして、ホームラリーで表彰台の一角を獲得した勝田貴元選手は「チームの皆、そしてステージや沿道で応援してくれたすべての方々に感謝したい。チームメイトにたくさんのトラブルが起こって残念に思う。言葉が出ないよ。天気はとてもトリッキーだったけど、この順位で終えることができて良かった」とコメントを残している。

 また、大会終了後に行われたTOYOTA GAZOO Racing WRTのシーズンエンド報告会では、勝田貴元選手は以下のように語った。

「今シーズンはチームのサポートがあって感謝しています。チームのみんながラリー中、ラリーの合間も休みなくハードに改善に努めてくれていました。それが今シーズンの成績に繋がったと思っています。自分自身としては、強いチームメイトとの経験を生かして頑張っていきたいと思います」。

「ジャパンでは3位表彰台に上がれたことは本当に良かったですし、難しいコンディションで最後までフィニッシュできたことについては、率直な気持ちとしてはホッとしています。やはり大きなプレッシャーもありましたし。ただ、本当にたくさんの方々が、ステージだけじゃなくて、ロードセクションでも大きな応援をしてくれたので、それは本当に力になりましたし、そういった光景を見ることができたことも良かったと思っています」。

「ラリージャパンを続けていくことも大事だと思いますし、続けていくにつれてより良い大会にしていくこと、そして自分はドライバーとして活躍して、多くの方にラリーというモータースポーツを知ってもらうこと、大会が良くなると同時に自分も成長して、いい結果を持ち帰れるように頑張っていきたいと思います」。

 勝田貴元選手をナビシートから支えたアーロン・ジョンストン選手はこう語る。

「日本とフィンランド、ドイツで仕事をしてくれたチームの皆さんに感謝です。今年は自分と”タカ”にとって信じられないシーズンとなり、ニュージーランドを除いてはしっかりマネージできましたし、シーズンエンドのジャパンではポディウムに上がれました。来年に向けてさらにプッシュしていきたいと思いますので、皆さんのサポートと、我々が学んだことをしっかりいいステップにできるシーズンにしたいと思います」。

 そして、ヤリ-マティ・ラトバラ監督は以下のように2022シーズンを締めくくった。

「2022年シーズンは大変素晴らしい結果になりました。もともと掲げてきた目標をすべて達成できて、マニュファクチャラーズ、ドライバー、コ・ドライバータイトルという三つのチャンピオンシップを獲得できました。そして、勝田貴元選手の目標としていた表彰台に2回上がることも達成できたので、本当に素晴らしいシーズンとなりました」。

「しかし、苦しんだラリーも2つあり、サルディニアとアクロポリスのような路面ではもっとスピードが必要でした。ただ、大事なことは、そういった路面でどこが悪かったのかを確認できたので、将来に向けてしっかり改善して臨みたいと思います。もちろん全部のラリーを勝つことはできませんが、その中でも我々にとって大切なイベントであるフィンランドとジャパンでは勝てなかったので、来年に向けて改善していきます」。

「ジャパンは勝ちたかったですし、勝てたと思います。我々はスピードもあり、一時はイベントをリードすることができましたし、特にセバスチャン・オジエ選手はパンクさえなければジャパンを勝てたドライバーだと思っています。そして、勝田貴元選手が最後にポディウムに上がれたことで、素晴らしいシーズンの締めくくりができました」。

 なお、大会期間中の来場者数については、サービスパーク(11月10~13日豊田スタジアム)には58,931人、11月12日の岡崎スーパースペシャルステージ(イベントエリア)には30,529人を数え、合計89,460人の来場者があったことが公式発表されている。

新生ラリージャパンの初代ウィナーはHYUNDAI SHELL MOBIS WRTのティエリー・ヌービル/マルティン・ウィダグ組。大きなミスもなく序盤から安定して僅差の上位につけていたヌービル選手。最終日のタイヤ戦略も味方した会心の勝利だったと言えよう。
エバンス選手を逆転した三河湖ステージを快走するヌービル選手のHYUNDAI i20 N Rally1 HYBRID。ベストはSS14岡崎市とSS16恵那市のみだったが、貴重な今季2勝目を獲得。
総合2位はHYUNDAI SHELL MOBIS WRTのオイット・タナック/マルティン・ヤルヴェオヤ組。
総合3位でTGR勢の最上位を獲得したTOYOTA GAZOO Racing WRT Next Generationの勝田貴元/アーロン・ジョンストン組。
総合4位は、今大会から急遽コ・ドライバーが変更となったTOYOTA GAZOO Racing WRTのセバスチャン・オジエ/ヴァンサン・ランデ組。
最終日には優勝争いを展開したものの、まさかのパンクに見舞われたTOYOTA GAZOO Racing WRTのエルフィン・エバンス/スコット・マーティン組が総合5位。
総合6位はM-SPORT FORD WRTのガス・グリーンスミス/ジョナス・アンダーソン組が獲得した。
WRC2選手権の優勝は、HYUNDAI i20 N Rally2を駆るグレゴワール・ミュンスター/ルイ・ルーカ組。SS1の後半で左リアタイヤを縁石にヒットする鮮烈な幕開けだったが、SS18では総合6番手タイムを叩き出して大逆転での勝利を飾った。
シリーズはカエタン・カエタノビッチ選手とエミル・リンドホルム選手が次点で並んでいたWRC2選手権。カエタノビッチ選手が早々にリタイアしたこともあり、WRC2を3位でフィニッシュしたリンドホルム選手が新たな王者に輝いた。
全日本ラリー選手権に参戦するヘイキ・コバライネン/北川紗衣組も参戦。総合10位、RC2クラスでは4位を獲得。新井敏弘/田中直哉組はシトロエンC3を仕立ててRC2クラスに参戦したもののSS1の序盤でリタイアを喫する。
アヘッドジャパンレーシングチームからプジョー208 Rally4で参戦した新井大輝/イルカ・ミノール組。RC4クラス優勝で、Rally1勢を除く日本人最上位を獲得。
Rally5車両や2018年までのFIAグループR1車両が走れるRC5クラスは、ヴィッツで参戦したK'sワールドラリーチームの伊豆野康平/東山徹大組がクラス優勝。
RC2クラスにシュコダ・ファビアで参戦した福永修/齊田美早子組は総合16位、シトロエンC3で参戦した今井聡/竹原静香組は総合22位。
RC4クラスにGT86 CS R3で参戦した中平勝也/島津雅彦組は同クラス2位の総合21位、プジョー208で参戦した村田康介/梅本まどか組はRC4クラス3位で総合27位。
FIA基準の安全装備を施したAP4車両やRJ車両が走れるナショナルクラスが設定され、クスコレーシングの柳澤宏至/保井隆宏組が総合20位でJRCar1を制した。
ナショナルクラスに86で参加した山本悠太/立久井和子組は総合26位でJRCar2最上位、コペンで参戦した相原泰祐/萩野司組は総合30位でJRCar3を制した。
GRヤリスGR4ラリーでナショナルクラスに参戦した勝田範彦/木村裕介組はSS12の横転から再出走を果たし総合28位で完走。GRヤリスで参戦したTeam BRIDEの佐々木康行/中嶌杏里組は総合23位でJRCar1の2位を獲得した。
サービスパークが設けられた豊田スタジアムには各種ブース出展やラリー車両の展示、パブリックビューイングなどが行われ、約6万人の観客が詰めかけた。
豊田スタジアムのサービスパークは、東側にワークスチーム、西側にWRC2やナショナルクラスのスペースが設けられ、スタジアム南側と東側の道路は交通規制が敷かれていた。
サーキットレースとは違い、選手たちに近づける機会が多いのがラリーの特徴でもある。ワークスチームのサービステントの前では、運良くドライバーと接触できるチャンスも。
セレモニアルスタートではスポーツ庁の室伏広治長官も祝辞を述べた。また、ボランティアオフィシャルへの感謝を示すFIAボランティア・ウィークエンドの記念撮影も行われた。
本大会の「0カー」にはスペシャルカラーリングを施したGRカローラが投入され、ドライバーは全日本ラリーを戦う奴田原文雄選手と久々の登板となる佐藤忠宜選手が担当した。
距離の長いステージではコースカーも複数台投入される。「00カー」ドライバーを始め、今大会の各種競技役員には国内ラリーで活躍する選手や関係者らも全面協力していた。
ラリー開催前には競技役員やコースマーシャルを対象とした救助訓練を実施。Rally1車両初上陸ということで、高電圧車両に対応する「FIA e-Safety」に基づく内容となった。
山岳地にも観戦エリアが設定された今大会。パーク&ライドやバス利用の移動を駆使してサービスパークには58,931人、岡崎SSSイベントエリアには30,529人の来場者を集めた。
日本の里山を背景とした、ラリージャパンの象徴的なステージとなった「Nukata Forest」周辺では、軒先を走る地元の住民にもラリーが歓待を受けている印象だった。
江戸時代の町並みを保存する恵那市の「岩村町本通り」にはパッセージコントロール(PC)「IWAMURA」が設けられ、こちらも多くのギャラリーを集めた。
日本で行われるラリーでは”リエゾン観戦”も一つの楽しみとして観客の間では定着している。それらの導線ではワークスチームが抱えるルートクルーに出会えることも。
道路情報板の電光表示からも”非日常”を味わえるラリー。豊田市駅前のTOYOTASHI Station Squareでは、太田稔彦市長がコミュニティFMに出演して大会をアピールした。
豊田スタジアムのJAFブースでは、愛知と岐阜のSSを模したTAMIYAミニ四駆を模した体験コースを用意。スーパー耐久でおなじみ”MC平田”氏らの実況で盛り上がった。
SS19「Asahi Kougen Power Stage」後に暫定表彰が行われ、豊田スタジアムではセレモニアルフィニッシュが行われた。式典ではJAF坂口正芳会長がプレゼンターを務めた。
今大会では国内格式の「Central Rally 2022」も併開され、2022年の「JMRC全国オールスターラリーフェスティバル」が行われた。先頭ゼッケンで出走した地元の廣嶋真/廣嶋浩組が総合首位でフィニッシュ。R-1クラスで優勝した。
「Central Rally 2022」において開催された「アルペンクラシックカーラリー2022」では、SA22C RX-7を駆る国江仙嗣/丸山晃助組が総合首位を獲得し、C3クラスを制した。

PHOTO /小竹充[Mitsuru KOTAKE]、遠藤樹弥[Tatsuya ENDOU]、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS] REPORT / JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS]

ページ
トップへ