お台場を舞台に開催された全日本カート選手権EV部門第6戦、初代チャンピオンに確定したのは梅垣清選手!
2022年11月29日
電気モーターをパワーユニットとする全日本カート選手権EV部門の2022シリーズ最終戦が、東京・お台場のJAFモータースポーツジャパン2022特設会場で開催。佐々木大樹選手(D-WOLF)が優勝を飾り、梅垣清選手(ULS)が同部門の初代チャンピオンに確定した。
2022年JAF全日本カート選手権 EV部門 第6戦
(JAFモータースポーツジャパン2022内)
開催日:2022年11月19日
開催地:モータースポーツジャパン特設会場(東京都江東区)
主催:RTA
今年新設された全日本カート選手権EV部門は、第1戦から第4戦までが不成立となっていたが、静岡県・オートパラダイス御殿場での第5戦で初めてレースが成立。そこでの2レースと今回の第6戦で、シリーズが成立するはこびとなった。
この大会の舞台は、お台場特設会場青海地区NOP街区で開催された「JAFモータースポーツジャパン2022」の会場内に設けられた特設コースだ。大勢のモータースポーツファンでにぎわう華やかな会場の中に、プラスチック製コースバリアで仕切られたサーキットが出現した。
JAF国内カート競技規則集によると今回のコースの種別は“臨時”に該当し、カートコースの諸設備が臨時的で、特定の競技会に使用するために一時的に準備されるコースとなる。これに伴い、早朝からコース査察が行われ、安全基準に則ってコース状況など細かく確認がなされていた。
第5戦での経験を基に安全性などを考慮してデザインされた全長500mのコースは、6つのヘアピンコーナーとふたつの緩やかなカーブからなる低速レイアウト。とはいえ、メインストレートは103mの長さがあり、純レーシングマシンとしてのEVカートのパフォーマンスを披露するには十分なスケールだ。
大会は1デイ開催とし、2回の公式練習(15分間/10分間)の後に単独走行で1周タイムアタックの予選(タイムトライアル)を行い、その順位で決まったスターティンググリッドから17周の決勝を行うスケジュールになっている。
参加者たちに貸与されるワンメイクマシンは、第5戦と同じトムス製のTOM'S EVK22。第5戦でいくつかの課題を洗い出したマシンは、バッテリーの脱落を防止するクランプを新設して安全性が高められていた。ブレーキバランス以外の調整や加工が一切禁止され、マシンに関するすべてのサービスをトムスが担うシステムは、第5戦から変わっていない。
会場で併催されていた「にゃんこ大戦争 PRESENTS シティ・サーキット ODAIBA 2022」では、全日本カート選手権の走行がない時間帯を利用して、トムスによるEVレンタルカートを使った体験走行を実施。子供から大人までを対象とした事前予約制の有料プランで、シミュレーター走行とEVレンタルカート走行がセットになった内容だ。
全日本ドライバーが走るコースで走行ができることから一番人気を博していたコンテンツだった。この体験走行ではオプションとして追加料金がかかるものの、JAF発給のゴーカートライセンスも取得が可能で、多くの参加者がライセンス発給の手続きを行っていたほどだ。
またコースサイドのエリアに設けられた「にゃんこカート試乗体験コーナー」では、身長110cm以上の小学生に限定した特設コースでの無料体験走行もあり、行列ができるほどの盛況ぶり。通常の全日本カート選手権の会場では見られない新鮮な賑わいがあり、すべての来場者がカートを見て触れて楽しんでいた。
ちなみにシミュレーターは、今回のコースを周囲の情景まで忠実に再現し、大人用と子供用でハンドルの反力などを変えてある本格的なもの。EVキッズカート教室は、校長が元F1ドライバーの井出有治氏、座学の講師が全日本OKドライバーの三村壮太郎選手という豪華な布陣で、現役カーターも子供たちをコースで見守った。
さらに女性ドライバー限定のプロレースシリーズKYOJOの女性ドライバーたちと、ゲストドライバーがEVレンタルカートで模擬レースを繰り広げるエキシビジョンマッチも実施され、会場全体がさながら“EVカートフェスティバル”の趣きになっていた。
このエキシビジョンマッチに参加した金本きれい選手は、「いつもはエンジンの音を聞きながら走っているので、静かなEVは最初、異様な感じがありました。加速はエンジンよりもさらっとした感覚ですね。エンジンのカートも面白いけれど、EVもどんどん普及しているので、一般の方がこういうカートで楽しむのもいいと思います」とインプレッションを語ってくれた。
全日本選手権に参加するドライバーは、第5戦と同じ顔触れの8名だ。目下47点を獲得してポイントレースをリードしているのは、第5戦の第1レースで記念すべき全日本カート選手権EV部門“最初”のウィナーとなった、全日本スーパーフォーミュラ・ライツ選手権2022チャンピオン確定の小高一斗選手(TOM'S)。それに続くのは、第5戦第2レースの勝者で45点の梅垣選手と、第5戦2位+3位で42点の佐野雄城選手(アステック)。タイトル争いは接戦だ。
タイムスケジュールでは10時が1回目の公式練習の開始時間となっていたが、設営されたばかりで誰も経験していないコースを確認するためにスケジュールが変更される。ドライバーたちはまずEVレンタルカートに乗って5分間のコースチェックを行い、5分間のインターバルの間に主催者がドライバーたちの意見を収集。その後、本番用のEVK22で10分間の公式練習を行うこととなった。未体験の特設コースでの全日本を安全に運営するための、フレキシブルな対応だ。
コースが設けられた敷地は多目的エリアで、アスファルト舗装ではあるがレーシングコースのように滑らかでグリップのいい路面ではない。舗装の継ぎ目の段差が大きい箇所を乗り越えていく際には、マシンはかなり激しくバウンドし、ドライバーの体も揺さぶられる。加えて路面にはサーキットと違って砂ぼこりや小砂利がかなりたまっており、走行が始まると砂塵が舞い上がり、小砂利が飛んでパチパチと音を立てる。滑りやすい路面に、マシンが大きくスライドする光景も散見された。
このコースコンディションについて、「確かに路面の段差はあったけれど、今回はモータースポーツジャパン2022の会場内で大会をやると決まっていて場所を選ぶことができない事情があったし、バリアで囲まれた(エスケープゾーンのない)コースもあまり気にならなかったです」とは、佐々木大樹選手(D-WOLF)のレース後の感想だ。
ただし、「段差が激しいし滑りやすくて、レースをするコースとしては良くない」という声もあった。これは今後、市街地コースで大会を開催していく上での課題だろう。
レンタルカートを使ったコースチェック走行でのトップタイムは42秒フラットあたり。それが5分後の公式練習1回目では14秒近くも縮まり、渡邉カレラ選手(EIKO)が28秒369のトップタイムをマークした。競技用として開発されたEVK22のパフォーマンスは、やはり目覚ましい。
12時、2回目の公式練習がスタート。続いて行われる予選(タイムトライアル1周)は、12時15分開始の予定だったのだが、問題が発生したマシンの修復などがあり、12時45分開始に変更された。インターバルの間のレンタルカート走行などでコース上の砂ぼこりはかなり取れたが、レーシングラインを外れると、まだダストのトラップが待ち構えている。
予選のトップは佐々木選手。そのタイムは27秒345と、1回目の公式練習を1秒以上も更新した。2番手、3番手には梅垣選手と佐野選手が続く。もうひとりのチャンピオン候補である小高選手は、渡邉選手をはさんで5番手につけている。
走行セッションが終わると、ドライバーたちはひんぱんに集まって主催者やトムス代表取締役の谷本勲氏らとミーティングを行い、初めての市街地コースでの大会を成功裏へと導くための討議を重ねていった。17周予定の決勝が、安全性を勘案して12周に変更されたことも、そこで決まったことのひとつだ。
影が長く伸びるようになった午後3時過ぎ、ついに決勝の時間がやってきた。コースサイドには鈴なりのギャラリーの姿が。いつもの全日本カート選手権と違うのは、その人たちの大半が“内輪”のカート関係者ではなく、トップレベルのカートレースに触れたことのない“一般客”であることだ。
メインストレートのスターティンググリッドにマシンが並べられ、コントロールライン上に8名のドライバーが整列する。その列に、衆議院議員で自由民主党モータースポーツ振興議員連盟事務局長の元レーシングドライバー山本左近氏が加わって、高らかに開会宣言。ヘルメットを被ったドライバーたちがマシンに乗り込むと、山本氏が振り下ろすグリーンフラッグを合図に、各車が1周のフォーメーションラップへと発進していった。
そして、レッドランプの消灯を合図に、スタンディングスタートでレースが開始。トップの座を守ってスタートした佐々木選手の後方で、ポジションアップに成功した佐野選手と渡邉選手がバトルを始めると、佐々木選手のリードが徐々に広がっていく。一方、梅垣選手は序盤に2番グリッドから6番手まで後退。それと入れ替わるように、小高選手が4番手に上がってきた。
残り3周、渡邉選手が佐野選手を攻略。翌周には小高選手も佐野選手をパスする。この間に、佐々木選手のリードは決定的なものとなった。12周を独り舞台のまま走り切った佐々木選手は、右拳を挙げてフィニッシュ。2位入賞の渡邉選手に続いて、タイトル獲得を確信した小高選手もナンバー1サインを掲げながらチェッカーをくぐった。
佐野選手は4番手のゴール。そのすぐ後ろにいた大槻聖征選手(Sigma Racing)が最終ラップにスローダウンして止まったため、梅垣選手が5番手でフィニッシュラインを通過した。だが、レースはこれで終わりではなかった。
小高選手はマシンからチェーンガードが脱落しており、まさかの失格に。これで4位に繰り上がった梅垣選手がシリーズポイントを63点に伸ばし、3位になった佐野選手のポイントを1点上回った。歴史に名を刻む全日本カート選手権EV部門の初代チャンピオンに確定したのは、最年少14歳の梅垣選手だ。父親の博至氏は2002年の全日本FSA部門のチャンピオン。親子2代の栄冠に、梅垣選手は感慨深げな表情だった。
実は、梅垣選手もフロントフェアリングのペナルティを受けていたのだが、後ろにいた諏訪百翔選手(Tommy Sports Racing)が不調に陥り大きく後れていたため、ペナルティの5秒を加算されても梅垣選手の結果は4位のまま。もし諏訪選手が本調子で梅垣選手から5秒以上離されていなかったら、チャンピオンは佐野選手のものになっていた。初年度の選手権は“筋書きのないドラマ”の言葉を地でいくような結末だった。
EVレーシングカートが披露したパフォーマンス、カートの認知につながる市街地レースの可能性、実戦を経験したからこそ見えてきたいくつかの課題……。2022シーズンに実現したEV全日本の3つのレースは、カートのみならずモータースポーツ全体の未来を切り拓く、大きな価値のあるものだったと言えよう。
フォト/JAPANKART、長谷川拓司、JAFスポーツ編集部 レポート/水谷一夫、JAFスポーツ編集部