Thanks! BRIDGESTONEのメインレースはスペシャルタイヤで覇を争うOK特別戦!

レポート カート

2022年12月28日

2022年末をもってカート用タイヤの供給を終了するブリヂストンへの感謝を込めたイベント「Thanks! BRIDGESTONE」が、12月11日に三重県・鈴鹿サーキット南コースで開催。そのメインイベントとなったOKカテゴリーのスペシャルマッチ“サンクスブリヂストンレース”では、エントリー41台の熱戦を制して加藤大翔選手(HRS)選手が優勝を飾った。

サンクスブリヂストンレース
(2022 鈴鹿選手権シリーズ 第7戦 カートレース IN SUZUKA内)

開催日:2022年12月10~11日
開催地:鈴鹿サーキット南コース(三重県鈴鹿市)
主催:SMSC

 2023年、日本のカート界は大きな転換期を迎える。国内カートレースは長年に渡ってブリヂストン/ダンロップ/ヨコハマタイヤの国内タイヤメーカー3社が中心になって支えられてきたのだが、そのうちブリヂストンとヨコハマタイヤの2社が2022年末をもってカートタイヤ事業から撤退することを発表したのだ。

 年の瀬の鈴鹿南コースで開催された2022 鈴鹿選手権シリーズ カートレース IN SUZUKA(地方カート選手権・鈴鹿選手権シリーズ併催)では、1977年のカートタイヤ供給開始以来、多くのカートファンに愛されてきたブリヂストンへの感謝を示すイベントが行われた。「Thanks! BRIDGESTONE」と銘打った6クラスのブリヂストン・ワンメイクレースを行うスペシャルなイベントで、パドックはエントリー総数223台のマシンとドライバーたちであふれ返った。

鈴鹿サーキット南コースがブリヂストン一色に染まった鈴鹿選手権シリーズ第7戦 カートレース IN SUZUKA。表彰台のバックパネルにも“Thanks! BRIDGESTONE”と表記され、ブリヂストンへの感謝が込められた。
鈴鹿選手権シリーズに参戦する全選手には“Thanks Karting”のロゴがあしらわれたブリヂストンのパーカーが配布され、サーキット内では一体感が高まっていた。
決勝日の昼休みには、参加選手と関係者がコース上に集まって記念撮影が行われた。
南コースパドックエリアに設営されたブリヂストンブースには、1970年代から今日に至るまで、レーシングカートとともに歩んできたブリヂストンの軌跡が展示された。

 そのメインイベントとなったのが、ここ鈴鹿でEXGEL OK CHAMPを運営してきた、有限会社ケーアールピーがオペレーションを担当する特別戦『サンクスブリヂストンレース』だ。レースのカテゴリーは、スプリントカートの最上級に位置するOK。そしてタイヤは、全日本カート選手権OK部門でも使用されてきた、非市販のいわゆる“スペシャルタイヤ”。もちろんブリヂストンのワンメイクだ。

 海外のOKカテゴリーのレースでは、スペシャルタイヤはすでに廃れ、いずれも市販ハイグリップタイヤのワンメイクになっている。この一戦は、恐るべきパフォーマンスで世界中の名だたるトップカーターを魅了してきたスペシャルタイヤのラストマッチでもあるのだ。

 各ドライバーに支給されるタイヤは、レースウィーク全体で5セットと大盤振る舞い。そのうち1セットを大会1日目のタイムトライアルと予選3ヒート(+2日目のセカンドチャンスヒート)で、1セットを決勝で使用する。マシンの最低重量は150kgと、全日本OK部門より5kg重いレギュレーションになっている。

独自シリーズを立ち上げるなど、カートレースの企画や運営を得意とするKRPが大会総合事務局となり、初日にはOK特別戦の全参加者を集めてブリーフィングが行われた。
ふんだんに用意されたブリヂストンのスペシャルタイヤ。レースウィークで各選手にドライ5セットずつ支給される。

 エントリーは大量41台。エントリーリストに名を連ねるのは現役の全日本OKドライバーやそこへのステップアップを目指す若手たちだけでなく、四輪レースの世界で活躍する井出有治選手(Moty's Racing Team)、塚越広大選手(TONYKART RACING TEAM JAPAN)、佐藤蓮選手(Rosa Drago CORSE)といったカート出身プロドライバーの姿も。

 また2002年の全日本FSA部門でダンロップを履いてブリヂストン勢を打ち破りチャンピオンとなった42歳のレジェンド梅垣博至選手(ASTECH)、さらには2021 FIA 世界カート選手権OK Juniorチャンピオン/2022 FIA ヨーロッパカート選手権OKチャンピオンに輝いた14歳、中村紀庵ベルタ(Kean Nakamura Berta)選手(Buzz Racing)がエントリー。さながら時代も国境も飛び越えたカートのオールスターレースといった顔ぞろいだ。

 ちなみに表彰台で決勝の上位3名に贈呈されるクリスタルのトロフィーは、かのティファニー製。ブリヂストンのスタッフ曰く「目玉が飛び出るほど高かった」という豪華な贈りものだ。加えてパドックエリアのブリヂストン・ブースでは、カート界すべての人たちに今までの感謝を伝えようと、参加者も観客も含めた来場者全員が参加できるブレゼント抽選会が催され、当選者発表タイムはにぎやかな歓声で盛り上がっていた。

さまざまな四輪モータースポーツで活躍してきた井出有治選手が原点回帰し、このカートレースに1人の選手として出場した。
2022年のFIAヨーロッパカート選手権のOKチャンピオンに輝いた中村紀庵ベルタ選手も電撃参戦。世界にその名を轟かせたとあって、さまざまな選手から注目を集めた。
豪華メンバーがそろったこの大会の勝者には、特別に用意されたティファニー製のクリスタルトロフィーが贈られる。
真剣なカートレースは2003年の全日本カート選手権FSA部門でチャンピオンを獲得して以来という塚越広大選手が参戦。「今回はブリヂストンの(カートタイヤ)最後のメモリアルイベントですし、スペシャルタイヤで走れる最後のチャンスなので、出てみようと思いました。当時と乗り方とはまったく違うんで、自分の体に染みついているカートの乗り方をしたら、ぜんぜん遅かったです(笑)。今の時代の流れに沿ったドライビングをしないと速く走れないことを痛感しました。現役の子たちは速いし、そんな簡単にはいかないだろうけれど、できれば上位で戦いたいとは思っています。とくに負けたくないのは、井出(有治)さんでしょ、梅ちゃん(梅垣博至)でしょ、それに(野中)誠太と(皆木)駿輔。誠太と駿輔は今、(自身が経営する)ラー飯能で講師をやってもらっているんで、講師同士の戦いですね。決勝は走りたいですし、予選落ちはカッコ悪いので、できればセカンドチャンスヒートには行きたくないですね。真剣ではあるけれど楽しく走りたいなっていう思いが強いです」
かつての全日本ではダンロップとヨコハマタイヤで“打倒ブリヂストン”で頑張ってきた、2002年全日本カート選手権FSA部門チャンピオンの梅垣博至選手。「ヨコハマタイヤで全日本に出ていた時以来だから……、真剣なレースに出るのは丸十年ぶりです。タイヤがものすごく進化していて、猛烈なグリップ力もあって、ここまでコーナリングスピードが上がるものかってくらい速いですよ。改めてブリヂストンのタイヤは素晴らしいです。僕は年を重ねて体が重くなっているので、肩から腕にかけてが辛くて、ヒジも痛いです(笑)。親子(梅垣清選手)対決も注目されているみたいだけど、素直に負けます(笑)。僕は乗るだけで精一杯なんで……。同年代で現役の綿谷(浩明)君や、いっしょにヨコハマタイヤの開発をやってきた(三村)壮太郎もすごいですよね。今回のテーマは、もちろん予選を通過することです。どっちにしろ後ろの方のグリッドだろうけれど、僕も最後のレースを精一杯楽しみます。とくに同い年の綿谷君は、現役カーターだけど負けたくないですね」
2022年はヨコハマタイヤを履いて全日本カート選手権OK部門に参戦していた加藤大翔選手。「今回は(全日本OK部門とは違って)タイヤがワンメイクとなったことでドライバーの腕の差が出るレースだと思うので、とにかく自分の走りをして実力を発揮したいです。今のところ(タイムトライアル終了時点)苦戦はしていないので、順調な仕上がりだと思います。ブリヂストンのスペシャルタイヤの第一印象は、(全日本OK部門で使用していた)ヨコハマタイヤとはまったく違うっていうことです。タイヤの構造もぜんぜん違うので、ヨコハマタイヤとはまったく違う動き方をするし、セッティングも違ってきますね。単純に言うとフロントがよく入ってリアを振り回す感じでしょうか。クセがなくて乗りやすい、ルーキーに優しそうなタイヤだと思います。今回はこういうメンバーの中で走れて本当に楽しいですし、レベルの高いレースになりそうなので、しっかり優勝して、自分の実力を皆さんに見てもらいたいです。まずはこのレースを楽しむことを第一に、その上で優勝したいです」

 大会2日目の昼休みの時間には、コース上で記念セレモニーが行われた。まずは鈴鹿サーキット総支配人・小田栄次郎氏が挨拶。それに続いて、株式会社ブリヂストン・モータースポーツ部門長の堀尾直孝氏がマイクを握った。そこで語られたのは、ブリヂストンをカートに装着してサーキットを走ってきた人々への感謝、多数のブリヂストン・ユーザーがカートレースからF1などに羽ばたいていった思い出、その活躍を国内外で支えてきた同社スタッフたちへの労い、この先カートからステップアップしていくドライバーたちとの四輪レースでの再会の期待、そして今回の参加者たちへの激励の言葉。その朗々とした声は、静かに挨拶に耳を傾ける参加者たちの間に温かく染みわたっていった。

 続いて、参加選手代表として井出選手が挨拶。それが終わると、全日本のトップカテゴリーをブリヂストンとともに戦ってきたチームとドライバーから、ブリヂストンのスタッフたちにサプライズで花束が贈られ、最後に鈴鹿サーキット名物の“鈴鹿トロフィー”が堀尾氏に贈呈された。

 セレモニーが終わると、メインストレートにこの日の6クラスの参加ドライバー全員とブリヂストンのスタッフたちが集まっての記念撮影が行われた。ブリヂストンのロゴがプリントされたおそろいの黒いパーカーを着用したドライバーたちと、おなじみの赤いウェアをまとったブリヂストンのフタッフたちがコースにずらりと並んだ壮観な光景は、46年間にわたって供給されてきたブリヂストンのカートタイヤが、いかに多くの人々に支持されてきたかを物語るものだった。

1977年のカートタイヤ製造開始からずっとエントラントに支えられてきたことに対する感謝の意を表する、ブリヂストンのモータースポーツ部門長・堀尾直孝氏。
鈴鹿サーキットの総支配人である小田栄次郎氏から、タイヤ供給でカートを支えた感謝としてスズシカトロフィーが堀尾氏に贈られた。

 注目のサンクスブリヂストンレースは、1日目にタイムトライアルと予選を、2日目に決勝を行う2デイ制で開催された。レースは、まずタイムトライアルの結果で参加全車をA/B/C/Dの4グループに分け、その総当たり方式で全6ヒートの予選を実施。予選結果をポイントに換算し、各車3ヒートの合計ポイントで決まったスターティンググリッドから決勝が行われるシステムだ。

 7分間のタイムトライアルで44秒759のトップタイムをマークしたのは、今季のEXGEL OK CHAMPでチャンピオンに輝いた加藤大翔選手。1000分の33秒差の2番手は佐藤蓮選手。3~5番手に佐野雄城選手(ASTECH)、野澤勇翔選手(ASTECH)、中井陽斗選手(TEAM EMATY)が続き、注目のKean選手は6番手につけた。

 タイヤは2日間で2セットを使えて摩耗の心配もさほどないとあって、予選からレースは白熱した。そこで決勝のポールを獲ったのは、ふたつのヒートでトップを獲った佐藤蓮選手。好調の加藤選手は1ヒートでペナルティを受けながら、やはりふたつのトップで2番手スタートに。Kean選手は4番手+2番手+3番手で予選をまとめて3番手だ。全日本OK部門ではダンロップ勢の雄としてブリヂストンに戦いを挑んできた朝日ターボ選手(TAKAGI PLANNING)が、ひとつのヒートを制して4番手。5・6番手に堂園鷲選手(Energy JAPAN)と野澤勇翔選手(bbR チームエッフェガーラ)が続いた。

A~Dの4グループに分かれての総当たり方式で行われた予選。各グループとも決勝さながらの争いを見せてくれた。
スーパーフォーミュラでルーキー・オブ・ザ・イヤーを受賞した佐藤蓮選手がポールポジションを獲得する。
セカンドグリッドには加藤大翔選手がつく。奇しくもホンダレーシングスクール鈴鹿カートクラスの佐藤講師の隣となった。

 14時半。多くのギャラリーが見守る中で、いよいよ24周の決勝が始まった。鋭いスタートでトップに立ったのは加藤選手。ポールの佐藤蓮選手には予選ほどのスピードがなく、徐々にポジションを下げていく。加藤選手は何度かライバルにトップの座を譲ったものの、その度に慌てる様子もなく走り続けて先頭を奪還。最後は背後に0.7秒ほどのギャップを築き、まずは右拳で、続いて両拳でガッツポーズを決めてチェッカーをくぐった。スペシャルタイヤ最後の一戦を制したのは、将来を嘱望される14歳の俊英だった。

 2位は12番グリッドから胸のすく追い上げを演じ、ファステストラップもマークした皆木駿輔選手(Crocpromotion)。全日本OK部門でブリヂストンのライバルとして戦ってきたドライバーが1-2フィニッシュを飾ったのは、特別戦ならではのドラマだった。

 時に加藤選手を上回るペースを披露し、2度にわたってトップを走った野澤選手は、終盤にタイヤが苦しくなり3位に留まった。慣れないスペシャルタイヤにいささか手を焼き、エンジンにも不満の声を漏らしていたKean選手は終盤、5番手走行中のアクシデントで戦列を去った。

強者ぞろいのサンクスブリヂストンレースを制したのは、冷静なレース運びをした加藤大翔選手。
「スペシャルタイヤでの最後のレースは、僕が開発してきたヨコハマタイヤではなかったけれど、(全日本カート選手権OK部門において)今年のライバルであり一所懸命戦ってきたブリヂストンを最後に履くことができて、すごくいい経験になったし、自分の今後につながっていくと思います」と語る加藤選手。「レースは24周あるので、半分までは自分の展開をつくって余裕を持って走り、タイヤを最後までもたせるようにしていました。周りの選手よりもタイヤを残すことができ、抜かれても焦らずに対応すれば大丈夫だと思っていました」とレースを振り返った。
2位は皆木駿輔選手、3位は野澤勇翔選手。
サンクスブリヂストンレース表彰の各選手。

 こうしてブリヂストンのカートタイヤに別れを告げる一日は幕を閉じた。ただし、ブリヂストン製カートタイヤに信頼を置くいくつかのレース運営者が、2023年のレースに向けて、カートタイヤ製造終了前にブリヂストンへまとめた数量の発注をかけたとの情報がある。カートコースでブリヂストンのサービストラックが見られなくなっても、カートコースでブリヂストン装着車が活躍する姿は、まだしばらく目にすることができそうだ。

「たくさんの方々にご参加いただいたパドックの光景は壮観でした」と言うのは、株式会社ブリヂストン モータースポーツ企画・推進部 モータースポーツオペレーション課の鈴木栄一氏。「こんなに多くの方々に弊社のタイヤが愛されて支えていただいていたことを、改めて感じております。金曜日の練習走行からこの様子を見て、ひとりひとりがとてもカートを楽しんでくださっていることを肌で感じていますし、これまでの我々の取り組みを皆さんに受け止めていただいていたんだとうれしく思っています」とコメント。続けて「我々がいなくなってからも、皆さんにはカートに真剣に取り組んでいただいて、(カートから)ステップアップしていく中で、どこかのカテゴリーでまたお会いしましょう、またいっしょにレースをやりましょう。その再会を信じながら今日のレースも支えさせていただきましたので、我々のその気持ちが選手の皆さんに伝わればうれしいです」と、サンクスブリヂストンレースを締めた。

フォト/長谷川拓司、JAFスポーツ編集部 レポート/水谷一夫、JAFスポーツ編集部

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