寺島知毅選手がEV部門で初優勝、そして2勝目も挙げてパーフェクトウィン
2025年8月1日

全日本カート選手権 EV部門の2025シリーズ第3戦/第4戦が7月21日、東京都江東区のシティサーキット東京ベイで開催。T2 × HIGHSPEED Étoile Racingの寺島知毅選手がこの日の4ヒートで一度もトップを譲らず走り切って2連勝を飾った。
2025年JAF全日本カート選手権 EV部門 第3戦/第4戦
開催日:2025年7月21日
開催地:シティサーキット東京ベイ(東京都江東区)
主催:RTA、TOM’S
4大会・全8戦で行われる全日本カート選手権 EV部門の2025シリーズは、今回の大会でシリーズの半分を消化することとなる。第3戦/第4戦の会場は予定どおり東京の人気観光地、お台場に位置するシティサーキット東京ベイ(CCTB)だ。前大会には間に合わなかった各チームおそろいのレーシングスーツは全員分が用意され、パドックの光景はさらに華やかさを増した。
開催日は夏真っ盛りで、最高気温が34度を超過する暑さになったため、バッテリーと電気モーターで駆動する当選手権のワンメイクマシンTOM’S EV-KC22には、熱トラブルの防止策が新たに講じられた。高温による障害が懸念されるコントロールユニットの脇に、空気を導き入れる導風板を設置し、その中に保冷剤を固定して冷たい空気をユニットに当てる工夫が施されたのだ。
また会場ではレースの合間にCCTB大会恒例の一般参加アトラクションを実施。レンタルカートを使って全日本の戦いが行われるサーキットを3分1000円の格安料金で走れる屋外カート体験と、屋内のミニコースを使ったキッズカート無料体験走行が催された。大会当日はちょうど夏休みの時期。しかも祝日、海の日とあって、どのアトラクションも大勢の参加者を集めていた。




今大会はレースフォーマットに3つの大きな変更があった。ひとつめは、全12台が一斉にレースする形になったこと。前大会まではタイムトライアル(TT)の結果で上位6台をAグループ、下位6台をBグループとしてそれぞれでレースを行っていたのだが、今回は全長400mのタイトなコースを12台が全車まとめて走ることになる。これに伴い、メインストレートには12台分のスターティンググリッドがペイントされた。最後尾の12番グリッドは、最終コーナーに差し掛かる位置だ。
ふたつめは、TTと決勝の間に予選ヒートが加えられたこと。決勝のグリッドは、この予選ヒートの結果で決まる。予選にシリーズポイントはつかないのだが、オーバーテイクが難しいコースとあって、予選からシビアな戦いになることが予想された。
3つめは、周回数が多くなったこと。第3戦/第4戦とも予選は15周、決勝は25周で行われる。第1戦/第2戦では予選がなく20周の決勝のみで、1日のレースの周回数は2ヒート合計40周だった。それが今大会では倍増し、酷暑の下で全80周のレースを戦い抜く過酷な大会に変貌した。
また、TTは前大会では第1戦/第2戦それぞれで1周の単独タイムアタックが行われたのだが、今回は計時セッションを1回にして2周の単独タイムアタックを実施。各自のベストタイムで第3戦予選のグリッド、セカンドタイムで第4戦予選のグリッドが決定される。
そのTTでは全車が25秒を切るタイムを記録する中、2024年全日本カート選手権 FP-3部門チャンピオンの寺島知毅選手が24秒444の最速タイムを叩き出して第3戦予選のポールを獲得。前大会2連勝の三村壮太郎選手が0.03秒差で2番手に続き、岡澤圭吾選手がやはり24秒台前半のタイムをマークして3番手につけた。



第3戦予選
第3戦の予選は寺島選手、三村選手の2台が3番手以下をやや引き離して周回。中盤から寺島選手が三村選手との差をじわりと開いてゴールし、第3戦決勝のポールを手に入れた。三村選手は無理に勝負を仕掛ける様子を見せず2番手のままゴール。岡澤選手がスタートで出遅れたことで、ひとつ順位を上げた徳岡大凱選手が3番手でチェッカーを受けた。

第3戦決勝
雲ひとつない快晴の下、第3戦の決勝が始まった。フロントローの寺島選手と三村選手はポジションキープのまま25周の戦いを発進すると、徐々に後続との間隔を開き始め、5周目に入るころには一騎討ちの構図ができ上がっていた。
全力で逃げる寺島選手、それを0.4秒ほどの差で追う三村選手。オーバーテイクが難しいコースとはいえ、ワンミスで順位がひっくり返る距離での緊迫したチェイスが延々と続いていった。その展開に変化が現れたのが残り10周を切ったあたりのこと。2台のギャップがわずかに開いた。その間隔は周を重ねるにつれて0.5秒から0.6秒へとじわじわ拡大していく。
最終ラップ、寺島選手は三村選手に0.8秒ほど先んじてコントロールラインを通過した。もう手の届かない距離だ。実績豊富な三村選手の追走を25周にわたって抑え切った寺島選手は、右拳を握って初優勝のチェッカーをくぐった。0.969秒差で2位フィニッシュの三村選手は、「寺島選手のバッテリーがタレるのを待っていたけれど期待どおりにはならなかったし、ミスもしなかった。寺島選手は速かった」と潔く敗戦を認めた。
一方、トップ争いの後方では見応えのあるバトルが繰り広げられていた。オープニングラップでは4番グリッドの中井陽斗選手と6番グリッドの豊島里空斗選手が徳岡選手をかわし、2周目には豊島選手が中井陽斗選手の前に出て3番手に浮上。すると間もなく中井陽斗選手が豊島選手を抜き返し、さらに豊島選手がクラッシュしたことで徳岡選手が4番手に戻った。
終盤、徳岡選手は中井陽斗選手との距離を詰めて接近戦に持ち込み、要所のコーナーでインを締める中井陽斗選手を巧みにパスして3番手でゴールする。しかし、徳岡選手にはプッシングで3秒加算のペナルティが下り、3位は中井陽斗選手のものに。その後方でもバトルが展開され、野澤勇翔選手が中西凜音選手の追走から逃げ切って4位を手に入れた。




第4戦予選
第4戦に入ると、寺島選手の好調ぶりはさらに際立つ。予選を再びポールからスタートすると、中井陽斗選手が岡澤選手から2番手を奪う間に寺島選手は大きなリードを開き、独走ゴールで今度も決勝のポールを手に入れた。2番手のゴールは中井陽斗選手。徳岡選手が5番グリッドから大集団のバトルを縫って順位を上げ3番グリッドを獲得。その後ろに三村選手が続いた。

第4戦決勝
日が傾きかけた15時55分、会場に隣接するイマーシブ・フォート東京の建物の影がメインストレートを半分ほど覆うようになったコースで、この日最後のレースとなる第4戦の決勝が始まった。ポールの寺島選手は1周で2番手の中井陽斗選手に0.6秒弱の差をつけると、一気に独走状態へ持ち込んでいく。
だが、寺島選手に楽勝は許されなかった。7周目、5台一丸のセカンドグループで戦っていた三村選手が、突如左リアタイヤの脱落に見舞われてストップ。これでレースは三村選手のマシンが撤去されるまでニュートラリゼーションとなり、寺島選手が稼いだ約1秒のリードはふいになってしまう。
11周目、レースが再開された。寺島選手はリスタートでも先頭の座をキープしたが、その背中には中井陽斗選手と徳岡選手が張りついている。しかし、ここまでのレースで自信を深めた寺島選手は動じなかった。自分の走りに集中してコースを攻めると、後続は徐々に離れていく。19周目、寺島選手のリードは1.3秒に広がった。もう安全圏内だ。
終盤には後続が急追してきた場合に備えてペースを抑えモーターを労わる余裕も見せた寺島選手。第3戦とはガッツポーズの手を変えて左手でナンバー1サインを示しながらフィニッシュした。一日を通じて一度もトップを譲ることのない、完璧な2連勝だった。
2位は徳岡選手。今年が全日本初参戦ながら、OK部門でも活躍する先輩の中井陽斗選手を19周目に一発で抜き去り、ギャラリーにインパクトを残しての自己最上位だ。中井陽斗選手は2戦連続の3位フィニッシュで着実にポイントを積み重ねた。そこからやや遅れて、中井悠斗選手が追いすがる大和田夢翔を振り切って4位でレースを終えている。




暫定シリーズランキングは、82点に急伸した寺島選手が首位に浮上。その後には77点の野澤選手、72点の三村選手と中井陽斗選手、71点の中井悠斗が続き、ポイントレースは白熱している。次回、9月14日に行われる第5戦/第6戦はナイトレースでの開催になる可能性もあるとのことで、また新趣向での戦いが期待できそうだ。
ドライバー育成講習


大会終了後、ひとつの新しい試みが実施された。それはプロドライバーを目指す当シリーズ参加者たちのため、四輪レースの世界で活躍するプロフェッショナルを講師に招いて自身の体験などをレクチャーしてもらう『ドライバー育成講習』だ。
初回の講師はTGR-DCレーシングスクールの校長にして現役レーシングドライバーでもある片岡龍也氏。会場となったCCTBのゲストルームには、先ほどまでレースを戦っていた12名のドライバー全員が出席し、片岡講師の話に耳を傾けた。
片岡講師がまず口にしたのは、今回の厳しい暑さの中で行われたレースで散見された体力面の問題だった。「こういった(プロドライバーの発掘・育成を目的とする)レースに出る上でまず準備できることは、レースを走り切る体力を身につけること。それがマストだと思います」
続いて話題になったのは、自分のプロドライバーを目指す気持ちがどれほど強いものなのかを確認することの大切さだ。「まず、自分は本当にレーサーになりたいのか、何を犠牲にしてでもレーサーになりたい気持ちがあるのか、ということを思い返してください」
さらに片岡講師は、周りの人たちが自分の味方になってもらうための心構えや態度のことを受講者たちに説いた。
「例えばミハエル・シューマッハ選手は、何百人もいるチームのスタッフ全員の名前を覚えていて、ファクトリーに行ったら全員に挨拶していたそうです。世界チャンピオンにそうされたらうれしいし、この人のために頑張ろうって気持ちになりますよね。これは極端な例だけれど、要は一緒にレースをしている人たちに感謝の気持ちを持ってほしいということです」
講習の終盤、片岡講師は参加者のひとりひとりに自己紹介と自己分析、シリーズ後半戦の課題を語らせ、1時間弱に及んだこの会を締めくくった。真剣な表情で片岡講師の話に聞き入っていたプロドライバーの卵たちにとって、この講習は貴重な機会となったことだろう。
PHOTO/大野洋介[Yousuke OHNO]、JAPANKART、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS] REPORT/水谷一夫[Kazuo MIZUTANI]、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS]