メキシコの高地が舞台のWRC第3戦、勝田貴元選手は無念の2戦連続ノーポイント

レポート ラリー

2023年3月24日

2023年のFIA世界ラリー選手権(WRC)第3戦「ラリー・メキシコ」が3月16~19日、メキシコ中央高地のグアナファト州最大の都市、レオンを拠点に開催。2023シーズン初のグラベルラリーにTOYOTA GAZOO Racing WRCチャレンジプログラムに参加中の日本人ドライバー、勝田貴元選手もコ・ドライバーのアーロン・ジョンストン選手とともに参戦、TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team(TGR-WRT)の4台目のGR YARIS Rally1 HYBRIDでチャレンジした。

2023年FIA世界ラリー選手権 第3戦「ラリー・メキシコ」
開催日:2023年3月16~19日
開催地:メキシコ・レオン周辺

3月16日:デイ1 / 3月17日:デイ2

 2020シーズン以来のWRC復帰となったラリー・メキシコは特殊なグラベルラリーで、標高の高い山岳エリアにSSを設定。最高地点は2700mを超えることから空気中の酸素の量が少なく、エンジンの最高出力が20%程度低下すると言われている。

 2020シーズンはWRカーで競われたラリー・メキシコ。ハイブリッドシステムを搭載するRally1車両がこの地を走るのは初めてで、バッテリーとモーターによる最大100kWのハイブリッドブーストをいかに効果的に使うか、がポイントとなっていた。

 TGR-WRTのドライバーのなかでは唯一、このラリー初参戦だった勝田貴元選手は「フィンランドと45度ぐらい気温差があるので、事前に暑さ対策を行なっていました。その甲斐もあって体力面で問題はなかったんですけど、想像していた以上にグリップの低いセクションや驚きのあるセクションが多かったので、そのあたりはシェイクダウンの段階から戸惑っていました」と明かした。

 さらに「エンジンのレスポンスが落ちるのでラインを外した場合は、パワーが足りなくて思い通りの走りができなかったことも想像以上に苦労しました。フィーリング的にはひとつ下のカテゴリーのエンジンぐらいだったので、ハイブリッドのブーストをかけることが助けになっていました。タイムを出していくうえでも、ヨーロッパ以上にハイブリッドの活用が重要になっていました」とラリー・メキシコの特殊性を語った。

「難しいラリーなので、アプローチとしては経験を重ねることを意識していました」と語る勝田貴元選手は、16日の夕刻、州都グアナファト市街地で行われたデイ1のSS1とSS2で9番手タイムをマーク。

  さらに翌日のデイ2から山岳エリアで本格的なラリーが始まると、「車内からスモークが出て中盤でタイムロスをしていまいました」とのことで、勝田貴元選手はオープニングステージとなるSS3で7番手タイムと苦しい立ち上がりを強いられた。

  それでも「少しずつ感覚が分かってきて、トップとの差も大きく開かなくなりました」とSS4で6番手タイムをマークした。「どのようなドライビングをすればいいのか、少しずつ分かってきました」とのことで手応えを掴みつつあり、ペースアップが期待された矢先、SS5で予想外のハプニングに見舞われた。

「ステージ終盤の10kmぐらいのハイスピードセクションのところでプレーキングのポイントとラインを誤ってしまいました。普通なら体制を立て直せるんですけど、高地特有の影響、エンジンのレスポンスが悪くて向きを変えられずに、そのままコースオフしました。ペースノートでも対応できた部分もありますが、かなり楽観的になっていてブレーキングポイントとラインがずれてしまいました」と痛恨のコースアウトを振り返った勝田貴元選手。そのままデイリタイアを決断することになったのである。

2021と2022シーズンのサファリ・ラリー・ケニアでは総合2位と3位で連続表彰台登壇中、2022シーズン第4戦ポルトガルでは表彰台争いを見せての総合4位獲得など、グラベルラリーで速さを見せてきた勝田貴元選手。初挑戦のラリー、さらに高地で開催されるラリー・メキシコでは苦戦。デイ2でデイリタイアを喫し、再出走を果たして総合23位に終わったが、特殊な環境での貴重な経験を積んだ。

3月18日:デイ3 / 3月19日:デイ4

  勝田貴元選手にとって悔しい展開となったが、幸い車両をリペアできたことによりデイ3は再出走を果たした。出走順が3番手ということもあって路面の掃除役を強いられたことから、9本中4本のSSでの7番手タイムが精一杯、という状況だった。

  それでも「グリップが低いなかで走っていたので、なかなかタイムを上げられませんでした。それでもメキシコはヨーロッパとはまた違ったドライビングが必要になるので、ドライビングの改善点を学んでいました」と多くのことを吸収したようだ。

  その後も「パワーステージまでドライビングを試したり、チームとしてもいろんなデータを集めたい、ということで車両のテストを兼ねて走っていました」と語った勝田貴元選手はデイ4でも様々なトライを実施した。とはいえ、「納得のいく部分までいかなくて、ドライビングを改善することはできませんでした」と悔しそうに語った。

  総合23位に終わったが「改善点は残りましたが、最後まで走り切ったことによって、ステージのグリップの変化などメキシコの難しい部分が分かったので、来年に活かせる経験になったと思います。結果も内容も完全燃焼できたわけではないけれど、この結果を受け止めて今後のグラベルラリーに生かしていきたいです」とコメントを残した。

  しかし、勝田貴元選手は今シーズン初のグラベルラリーで手応えも掴めたようで、「昨年のギリシャで難しい状況にあったので、テストの段階からグラベルのセットアップに対して注力してきました。そのおかげで、パフォーマンスは確実に上がっていると思います。メキシコは高地特有の影響やグリップの変化などもあって難しい部分もありましたが、グラベルでのパフォーマンスは昨年以上に高いところにきていると思います。クルマも自分自身も積み上げていけば、よりいいパフォーマンスにつながると思うので自信にもなりました」とのことだ。

「第5戦のラリー・ポルトガルは2022年の大会でいいパフォーマンス(総合4位)を出せたので、重要な一戦だと思っています。メンタル的にもいい流れでポルトガルに入っていきたいので、ラリー・クロアチアでしっかりパフォーマンスを出していきたいと思います」と次戦を見据えた勝田貴元選手。4月20~23日に開催される第4戦「ラリー・クロアチア」では彼の躍進に注目したい。

  優勝を巡る争いでは、デイ1で総合5番手につけたTGR-WRTのセバスチャン・オジエ/ヴァンサン・ランデ組がデイ2で8本中2本のSSを制して総合2番手に浮上。デイ3始めのSS11でこのラリー3本目のベストタイムを獲得、総合トップを争っていたHYUNDAI SHELL MOBIS WORLD RALLY TEAM(ヒョンデ)のエサペッカ・ラッピ/ヤンネ・フェルム組のリタイアもあり、総合トップに浮上した。

 オジエ/ランデ組はデイ3とデイ4をとおして、一度も総合トップの座を譲ることなく今シーズン2勝目を獲得。ドライバーとコ・ドライバーランキングのトップに立った。

 チームメイトのエルフィン・エバンス/スコット・マーティン組はヒョンデのティエリー・ヌービル/マーティン・ヴィーデガ組と総合2番手争いを展開。エバンス/マーティン組は2.7秒差で総合2番手を守り、パワーステージで最終SSのSS23を迎えたが、6番手タイム。3番手タイムをマークしたヌービル/ヴィーデガ組に逆転を喫し、悔しい総合3位となった。

 TGR-WRTはディフェンディングチャンピオンのカッレ・ロバンペラ/ヨンネ・ハルットゥネン組も、不利な早い走行順に苦戦しながら総合4位を獲得、トップ4に3台が入り、マニュファクチャラーズランキングのトップを堅持した。

3台目のGR YARIS Rally1 HYBRIDのシートに帰ってきた、第1戦ラリー・モンテカルロを制したセバスチャン・オジエ/ヴァンサン・ランデ組。デイ3始めのSSで総合トップに浮上すると、抜群のペースコントロールと、パワーステージを制してフルポイントを獲得する横綱相撲を見せて優勝。8冠王者のオジエ選手がその強さを遺憾なく発揮して、チャンピオン争いでもトップの座を奪った。

フォト/TOYOTA GAZOO Racing レポート/廣本泉、JAFスポーツ編集部

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