ハイスピードコースへと改修された新生・神戸スポーツサーキット

その他 カート

2023年4月17日

レーシングからレンタルまで、関西屈指のカートコースである神戸スポーツサーキット(兵庫県神戸市)が、2023年2月上旬から約1か月間の改修工事を経て大幅リニューアルを完了、コースレイアウトを大きく変更したサーキットに生まれ変わった。

 2023年1月9日、サーキット改修工事についてのお知らせを発表した神戸スポーツサーキット。開場10周年の節目に、コースレイアウト変更を伴う改修が実施され、2月6~28日までその工事が行われた。そして3月11日に営業を再開し、3月19日には新コースでのオープニングレースとなるSL神戸シリーズ第1戦が開催。また4月8~9日には全日本カート選手権FS-125JAF部門/FP-3部門も行われた。

 この新コースが以前のコースからどのように変わったのかを、同サーキット代表で有限会社ナガオカート代表取締役の長尾貢氏にインタビューしてみた。加えて全日本選手権に参加したドライバーたちのコースインプレッションも聴収して、“新生”神戸スポーツサーキットの姿を紐解いてみよう。

神戸スポーツサーキットは兵庫県神戸市西区に位置し、阪神高速道路7号北神戸線・布施畑東および布施畑西から約1~2分と好アクセスのサーキットだ。
2014年に神戸スポーツサーキットをオープンさせた長尾貢氏。サーキット運営の傍ら、老舗レーシングカートショップのナガオカートの代表取締役も務める。
2月中旬にホームページで公開されたコースレイアウト図。橙色の網部分がコース改修の対象となり、赤色の実線が新たなコースとなる。

 コースレイアウト変更の大きな目的はふたつ。ひとつめはOK部門のレースにも対応できるコースにスケールアップすること。ふたつめは安全性の向上だ。「関西にはOK部門のレースができるコースがありません。そこで、営業開始から10年目に入って改修したい箇所がいくつか出てきたこの機会に、OK部門のカートも走れるコースにしようと考えました」と長尾氏。

 そのレイアウト変更は、従来のコースの半分近くの形状を新しくして、舗装をし直す大規模なものとなった。まずホームストレートの先にある1コーナー部分の幅を広げ、そこからストレートをはさんで左へコの字状に向きを変える2コーナーを延長した上で、ふたつのコーナーのRもタイトなものに。2コーナーからバックストレッチへと向かう3コーナー区間は、3つのカーブから成るS字(正確にはW字)セクションだったものを、ひとつの大きなカーブに変更した。

「とくにレースの1周目は、カートが2列3列に横並びになってS字(3コーナー)に入ってくると、どうしても1台どこかに飛んで行ってしまうような事態が起きていました。そういうことがなるべく起きないように、S字はなくそうということになりました」と長尾氏は言う。

ピットロード出口部分も含めた再舗装により、大幅に拡大された1コーナー。
2コーナーは全体的に施設のアウト側へ広がり、コーナーRがよりキツくなった印象だ。
一番大きく変化したと言える3コーナー。従来のコースは封鎖され、大きな右コーナーに変わった。

 4コーナーから5コーナーのインフィールド区間は従来のまま。その先は、左180度ターンの6コーナーへと向かう直線区間の向きをやや右に動かした上で、ヘアピン状だった6コーナーをふたつのRから成るスプーンコーナー状に変えた。これはひとつめのRが緩やかで、ふたつめのRが小さく曲がるものだ。

 コースの最終区間を迎える8コーナーは、左カーブと右カーブが連続するトリッキーな形状だったものを、ひとつのRに変更。そしてコースの最後に控える9コーナーは、従来より奥へと延長した上でコース幅を広げ、コーナーの形状もホームストレートへの立ち上がりに向けてタイトになっていくデザインに変わった。

 このレイアウト変更によってホームストレートは133mから172mへと延び、コース全長は85m増の1045mに延長された。新コースのデザインについて、長尾氏はこう語る。

「OK部門のレースに対応できるよう、全体的に高速タイプのコースになりました。でも、タイトコーナーも残していますし、簡単には攻略できないコースにしたくて、6コーナーや9コーナーをああいう(出口がきつくなる)形状にしました。難しいコーナーがあった方がいろんなテクニックが身に着くんじゃないかと、僕たちは思うんです」

 5コーナーから6コーナー間と6コーナーから7コーナー間や、4コーナー先と8コーナーから9コーナー間の、コースが狭い間隔で行き交っていたところは、その間隔を広げてアクシデント時の安全を高める工夫もされた。

スプーン状へと変わった6コーナー。その先の7コーナーは従来の舗装のため、グリップの違いが発生する。
8コーナー先は直線的にコースが延長され、一気にスピードが乗る区間となった。
最終コーナーから見たホームストレート。9コーナー側と1コーナー側の拡大で直線が約39mも延びた計算だ。

 舗装は鈴鹿サーキット南コースなどと同じもの。排水性などを考慮して、一層を敷いた後にさらにもう一層を敷く、二層式の舗装がされている。低い箇所には土を盛ってかさ上げし、水はけの向上も図られた。改修完了から1ヶ月弱の時点では、新しく舗装された部分の路面が黒々とし、従来のままの路面との違いがひと目で分かる。

 改修箇所はトラック部分に留まらない。最終コーナーの外側部分は舗装を広げ、パドックエリアを拡張。ヒート後の重量計測などを行う車検場はこの箇所に移動され、レースを上位で終えた参加者たちはゆとりのあるスペースで再車検の時間を過ごしていた。

 コース内には新しいクラッシュパッドと、しっかり固定されたタイヤバリアを、用途を使い分けながら配置して安全性をアップ。ホームストレート脇のクラッシュパッドの下側には、路面に接するようにゴムシートを張って、クラッシュしたカートの潜り込みを防止しているのが目新しい。

 1コーナーの外側にある小ぶりな観覧スタンドは右側に移動され、トラブルに見舞われたカートが突っ込んでこない位置に再設置。その左脇にある電光掲示板も、レース参加者たちが視認しやすいように位置や向きの調整を重ねた上で設置し直された。

アスファルト舗装は鈴鹿サーキット南コースと同等で、水が溜まりにくい材質を使用。
ホームストレートのコンクリートウォールに沿うクラッシュパッドも一新。潜り込み対策が施されている。
重量計測などの車検エリアや、観覧スタンドと電光掲示板の場所も、改修工事と並行して調整された。

 長尾氏が「いちばん大変でした」と苦笑するのが塗装だ。コースの新舗装部分の縁石、一部のタイヤバリア、観覧席の鉄柵などがコーススタッフたちの手作業でペイントされ、サーキットは美しさを増した。また、最終コーナー立ち上がりからコントロールライン部分まで続くコリドー(ローリングラップを走るマシンの整列の基準となる白線)も国際カート委員会の基準に沿った幅と間隔でリペイントされた。

 4月8~9日の全日本大会で参加者たちに新コースのインプレッションを聞くと、大幅に生まれ変わったコースにみんなが手を焼いており、満足できる走りやセッティングに到達した選手はまだいなかった。とくに悩みのタネとなっているのが、新しい舗装と従来のままの舗装のグリップが違う点だった。さらに、グリップが上がった新舗装に「体がキツい」とこぼすドライバーも数名いた。

 とはいえ、全日本大会は深刻なアクシデントが発生することもなく無事に終了。見応えのあるバトルもコースのあちこちで繰り広げられた。神戸スポーツサーキットのリニューアルは、まずは成功だったと言えそうだ。

上空から臨む神戸スポーツサーキット。従来のコース全長は960mだったが、改修によって1,045mとなり、走り応えも十分!
コリドーは国際基準に合わせたことで、従来のラインより幅が狭まった。
改修を手伝ったスタッフたちの力作!?とも言うべきタイヤバリアと縁石部分の塗装。
長尾氏に今後の展望をうかがうと、「今は夏の日差しも厳しいので、ピット2階の観覧席は、できるだけ屋根つきにしていきたいです」と語ってくれた。

全日本カート選手権FS-125JAF部門参戦・佐藤こころ選手(チームナガオ)のインプレッション

「練習では3回くらい走りましたが、新コースでのレースは今回が初めてです。コーナーの形状などが変わったことで難しさを感じたけれど、広くなってバトルもしやすくなったことで、楽しい気がしますね。ただ、古い路面と新しい路面のグリップがぜんぜん違うことに戸惑っています。とくにグリップが高くなったことで、体力的にしんどくなりました。4コーナー付近は以前と変わっていませんが、新路面の1~3コーナーと同じ感覚で突っ込んだら行きすぎちゃいます。ハイスピード寄りのコース設計のようですが、実はギヤ比は変わっていないんです。最初下げめでいったけれど、やっぱり元のギヤ比に戻りました」

全日本カート選手権FS-125JAF部門参戦・福岡主税選手(EHRE MOTOR SPORTS)のインプレッション

「つかみどころがなくなったというか……、S字が完全になくなってしまってリズムが取りにくくなっています。また6コーナーも複合コーナーに変わり、いろんなライン取りができるようになったため、まだ『これだ』っていう走り方が見つかっていません。スピードがある125ccエンジンだと今のコースは楽しいけれど、100ccのKTエンジンなら前のコースの方が楽しかったと思います。それと前のコースと比べると、ちょっと抜きにくい感じがしますね。今回の全日本選手権は模索しながらのレースになると思います。第1戦と第2戦で自分の走り方も変わっているかもしれませんね」

全日本カート選手権FP-3部門参戦・岸秀行選手(チームナガオ・大阪鶴見法律事務所)のインプレッション

「新しいコースにまだ馴染んでいないのですが、難しくなった印象です。とくに2コーナーや最終コーナーは、ちょっと回り込んでいる感じがするので、ひとつのコーナーとして走るのかふたつとして捉える方がいいのか、試行錯誤の状態です。逆にコーナーの入口が広い分、インに入りやすくなるという見方をすれば、面白くなりましたね。また新しい舗装は、古い舗装とグリップ感がぜんぜん違いました。新しいところはかなり引っかかってグリップするけど、古いところは今までどおりなんで別物というか……。周りの選手に聞いても、みんなまだしっくりきてないみたいです」

フォト/長谷川拓司、神戸スポーツサーキット、JAFスポーツ編集部 レポート/水谷一夫、JAFスポーツ編集部

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