WRC勝田貴元選手、シーズン初のフルターマックラリーとなる第4戦で総合6位!

レポート ラリー

2023年4月28日

2023年FIA世界ラリー選手権(WRC)の第4戦「クロアチア・ラリー」が4月20日~23日、クロアチアの首都、サグレブを拠点に開催。2023シーズン初のフルターマックラリーにTOYOTA GAZOO Racing WRCチャレンジプログラムに参加中の日本人ドライバー、勝田貴元選手が参戦。コ・ドライバーのアーロン・ジョンストン選手とともに、TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team(TGR-WRT)から4台目のGR YARIS Rally1 HYBRIDで挑んだ。

2023年FIA世界ラリー選手権 第4戦「クロアチア・ラリー」
開催日:2023年4月20~23日
開催地:クロアチア・ザグレブ周辺

 クロアチア・ラリーは2021年にWRC初開催されたターマックラリーで、舗装コンディションが頻繁に変化する。さらに「インカット走法」で車両をイン側に大きく切り込み、路肩に片輪を落として泥や砂利が掻き出されるコーナーも多くあることから、トリッキーなラリーで知られている。

 雨に見舞われた2022シーズンと比べると今シーズンは比較的コンディションが安定していたが、「ターマックの種類が多くて見た目で判断できない。同じ灰色の舗装でもグリップレベルが違うので、そのあたりの見極めが難しかった」と勝田貴元選手が語るように、路面変化を読むことが難しいラリーとなっていた。

 このラリーに向けたテスト中のアクシデントで、HYUNDAI SHELL MOBIS WORLD RALLY TEAMのドライバー、グレイグ・ブリーン選手が他界した。その影響は大きく、勝田貴元選手によると「いつもと違った雰囲気でした」というクロアチア・ラリーだった。

 ブリーン選手について、勝田貴元選手は「ブリーン選手は僕のコ・ドライバーのアーロン・ジョンストン選手と同じアイルランド出身でしたし、2020年のエストニアでリタイアした時にも“落ち込まずに頑張れ”といったメッセージをくれました。僕も彼もレーシングカート出身なのでトレーニングに誘ってくれたりと、それ以来フレンドリーに接してくれていました」。

 さらに「彼からは楽しみながらドライビングすることの大切さを学びました。今でも彼がいなくなったことが信じられません」とブリーン選手との思い出を語った。その一方で「ブリーン選手はラリーを愛していたので、しっかり走りきろうと思っていました。プロとして競技に集中できたと思います」とのことだ。

ヒョンデに所属するドライバー、クレイグ・ブリーン選手の突然の訃報の直後に開催された第4戦。ヒョンデは慎重に検討し、ブリーン選手への哀悼と、彼のラリーへの思いを称えるために参戦を決めて彼の母国、アイルランド国旗をモチーフにした特別なカラーリングで登場(左)。TGR-WRTをはじめ他のチームも、ブリーン選手への哀悼の意をボディに示して戦った(右)。

4月20日:シェイクダウン / 4月21日:デイ1

 こうしてラリーウィークを迎えた勝田貴元選手は「シェイクダウンの路面はグリップが高かったので、フィーリングは良かった」と語るように、順調な仕上がりで5番手タイムをマークしていた。

 しかし、21日のデイ1から本格的なラリーが始まると、「レッキの時から降っていた雨の影響により、路面が半乾きでグリップ不足に悩まされていました。それに後方からのスタートだったので、インカットでライン上に砂が出てきていたのでペースを上げられませんでした」と、勝田貴元選手は苦戦の展開となった。

 長距離だったSS1とSS2ではトップタイムから10秒以上広げられたが、距離が短かったSS3とSS4でのタイム差は数秒だったものの、トップから約50秒遅れの総合5番手でSS4までのファーストループを折り返した。

 さらに勝田貴元選手はSS5からSS8までのセカンドループでも、SS5でスピンを喫して8番手タイムにとどまる苦しい状況になり、焦りにつながったのだろう。

 SS6では「チームからはスリックタイヤで行くべき、という情報があったんですけど、スタート直前にM-SPORT(M-SPORT FORD WORLD RALLY TEAM)勢がレインタイヤに履き替えていました。僕としては前半でタイムを失っていたし、前のステージでスピンやオーバーシュートもしていたので、何かトライしたいという思いがありました。雨が降っている可能性にかけて自己判断でレインタイヤにしたんですけど、結果的にミスチョイス。路面が乾いていて40秒ぐらいロスしました」と語るように11番手タイムとなってしまった。

 それでも勝田貴元選手は「タイヤと気持ちを切り替えたので大きな外しはなく、走っていました」と持ち直し、デイ1を締めくくるSS8で4番手タイムをマーク、総合6番手でこの日を終えた。

ファンからのサインに応える勝田貴元選手。第1戦は総合6位入賞を果たしたものの、第2戦と第3戦はアクシデントにより入賞はできず。迎えた第4戦クロアチア・ラリーでは出走順や車両トラブルに苦しむも、パワーステージでボーナスポイントを奪取する速さも見せて、総合6位でポイントを積み上げた。

4月22日:デイ2 / 4月23日:デイ3

 勝田貴元選手にとって厳しい立ち上がりとなったデイ1だったが、翌日のデイ2でも「ファーストループでダンパーにトラブルを抱えていました」と厳しい状況だったが、SS9からSS12までは総合6番手を維持した。

 昼のサービスでダンパーを交換したものの、「いつも使っているものとは違うダンパーを使うことになって、それで苦戦することになりました」とのことで、勝田貴元選手はSS13からSS16までのセカンドループでも我慢の走りを強いられた。

 それでも勝田貴元選手は6番手タイムを連発、SS16では5番手タイムと苦しいなかでも安定した走りを披露し、デイ2も総合6番手を守った。

 そして、デイ3ではいつものダンパーに戻したことにより、勝田貴元選手はペースアップを実現。SS17とSS19で4番手タイムをマークするなど、順調な走りを披露した。その勢いはボーナスポイントがかかるこのラリー最終SSのパワーステージ、SS20でも健在だった。

「パワーステージは最も狭くてインカットの多いSSだったけれど、自分ができるプッシュはできたと思います。2ポイントを加算できたことはポジティブですね」と勝田貴元選手はこのラリー4度目の4番手タイムをマーク。総合6位を守り切り、第1戦以来の入賞を果たした。

 クロアチア・ラリーを3年連続の総合6位で終えた勝田貴元選手は「本当はもう少し上を目指したかったんですけど、第2戦のスウェーデンと第3戦のメキシコでの流れが悪かったので、それを断ち切るためにも完走することを意識していました」と明かした。

「その中でもいいペースを探りながら最後まで走り切る、というアプローチだったので、そういった意味では悪くないラリーだったと思います」とラリーウィークを振り返った。さらに「金曜日のタイヤ選択ミスが響きましたが、経験になりましたし、グラベルクルーとのコミュニケーションを含めて昨年よりも良くなっていました」と手応えを掴んでいるようだ。

 同時に勝田貴元選手は「今季最初のピュアなフルターマックでしたが、インカットが多くて難易度の高いラリーでした。ドライであれば大きな差はないんですけど、泥が出てきた時にタイムを失っていた。今回は完走を意識したアプローチだったこともありますが、グリップが変化した時にタイムを失っている割合が多いのでそこが課題です」。

 続けて「次のターマックは10月のドイツ、チェコ、オーストリアをまたぐラリーになりますが、インカットが多くなりそうですし、路面のタイプも変わってくると思うので、ダンパーのセッティングを含めて準備を行いたいと思います」とターマックラリーでの改善点も得た様子だ。

 次戦のラリー・ポルトガルについて、勝田貴元選手は「2021年も2022年も4位でフィニッシュしているし、個人的にも好きなラリーでもあるので少なくとも表彰台を獲得したい。雨さえ降らなければいい出走順で走れるので、金曜日にいいスタートダッシュを切れるように準備をしたい」と意気込む。

「マニュファクチャラーポイントがかかってくるので、チームとどういった戦い方をするのかアプローチを決めないといけないけれど、個人的には表彰台をダーゲットにあわよくば、その上を目指したいと思います」と語った勝田貴元選手。5月11~14日に開催される第5戦、ラリー・ポルトガルでの活躍に期待したい。

 なお、今シーズンのクロアチア・ラリーを制したのは、TGR-WRTのエルフィン・エバンス/スコット・マーティン組。2021年の第10戦、ラリー・フィンランド以来の総合優勝を果たした。マーティン選手はブリーン選手とクルーを組んでいたこともあり、ブリーン選手に捧げる勝利となった。

 TGR-WRTはカッレ・ロバンペラ/ヨンネ・ハルットゥネン組が総合4位、セバスチャン・オジエ/ヴァンサン・ランデ組が総合5位に入り、マニュファクチャラーズランキングのトップを堅持。ドライバーズとコ・ドライバーズランキングでは、エバンス/マーティン組がトップのオジエ/ランデ組と同点に追いつき、ランキング2番手に上がった。

総合優勝を果たしたTGR-WRTのエルフィン・エバンス(右)/スコット・マーティン(左)組。デイ1でのベストタイムはSS8だけだったものの確実に上位タイムを残して総合2番手につけると、デイ2のSS11でトップに浮上。以後もベストタイム獲得はならなかったものの、抜群のタイムマネジメントを見せて総合優勝。フィニッシュ後はアイルランド国旗を広げ、マーティン選手の元相棒、ブリーン選手に勝利を捧げた。

フォト/TOYOTA GAZOO Racing、Red Bull Media House レポート/廣本泉、JAFスポーツ編集部

ページ
トップへ