最後尾から怒涛の追い上げ! 43歳の綿谷浩明選手が最高峰部門で悲願の初優勝!!

レポート カート

2023年5月11日

国内カートレースの最高峰、全日本カート選手権 OK部門の2023シリーズが、4月30日に栃木県茂木町のモビリティリゾートもてぎ北ショートコースで開幕した。終日雨がコースを濡らすコンディションの下、第1戦では18歳のルーキー吉田馨選手(Drago CORSE)がデビューウィンを達成。第2戦では43歳のベテラン綿谷浩明選手(SPS川口)が最高峰部門の初優勝を飾った。

2023年JAF全日本カート選手権 OK部門 第1戦/第2戦
2023年JAF全日本カート選手権 FS-125CIK部門 第1戦/第2戦
2023年JAF全日本カート選手権 EV部門 第1戦

開催日:2023年4月29~30日
開催地:モビリティリゾートもてぎ北ショートコース(栃木県茂木町)
主催:ホンダモビリティランド株式会社

 タイヤのワンメイク化やレースフォーマットの刷新など、多くの改変を受けて生まれ変わった2023年の全日本カート選手権 OK部門。その最初の大会には8名がエントリーし、うち1名が負傷欠場したため、7名のドライバーによってレースが戦われることとなった。またFS-125CIK部門の第1戦/第2戦と、EV部門の第1戦も同時開催され、合計3つの部門が2023シリーズのスタートを切った。

 この大会は、すべての公式セッションを大会最終日の1日で行うスケジュールで組まれていた。全日本選手権3クラス以外にKTチャンプの特別戦も併催されたため、公式練習を含めて23ものセッションが8時から立て続けに行われ、最後の決勝は17時すぎのゴールだった。

 決勝日の空模様は朝からあいにくの雨。正午過ぎに雨が止むとの予報も外れ、サーキットには午後も弱い雨が降り続き、すべてのセッションはウェットコンディションで行われた。

全日本カート選手権OK部門 第1戦/第2戦

 日曜9時から行われたタイムトライアルで、2番手に0.2秒以上の差をつけてトップタイムを叩き出したのは、2022年FS-125部門ランキング15位の鈴木悠太選手(Team EMATY)。チームを移って心機一転の挑戦を始めた14歳のルーキーが、いきなり才能を開花させた。

 そして第1戦が始まると、鈴木選手はまず予選を独走で制し、続くスーパーヒートを3位で終えて、決勝をポールからスタートすることとなった。2番グリッドは2022年OK部門ランキング6位の実力者、堂園鷲選手(Energy JAPAN)だ。

 だが、22周の決勝では様相が大きく変わった。スタートを制してトップを奪ったのは堂園選手。鈴木選手は2番手走行中の4周目、雨に足元をすくわれてコースアウトを喫しレースを終えてしまった。代わって2番手になったのはOK部門初参戦の吉田選手。吉田選手は予選こそリタイアに終わったものの、スーパーヒートでは他を0.3秒も上回るベストタイムをマークしてトップを獲っており、決勝に自信を深めて3番グリッドからスタートしたのだ。

 焦らず堂園選手に接近した吉田選手は、9周目にそのテールを捕らえると、折り返し点から猛攻を開始。1周のうちに2度も3度もポジションを入れ替え合うバトルの末、堂園選手を下してトップに立った吉田選手は一気に独走を始め、最後はリードを6秒弱にまで広げて勝利のチェッカーをくぐった。

 これは吉田選手にとってOK部門のデビューウィンというだけでなく、FS-125部門に参戦していた2020年からほぼ2年半ぶりのレース復帰で優勝、加えて全日本初勝利だった。2位はタイヤの摩耗に耐えながら走り切った堂園選手。そして吉田選手のチームメイト、藤井翔大選手(Drago CORSE)が5番グリッドから3位でフィニッシュし、OK部門2年目で初表彰台に上った。

第1戦を勝利で飾った吉田馨選手(Drago CORSE)は第一声「いやぁ、うれしいですね」と笑顔を見せ、「この舞台に立たせてくれたチームとDrago CORSEのみなさんに感謝です」と語った。「決勝は闇雲に仕掛けてもウォータースクリーンで何も見えないので、安全策を取って、相手のタイヤがタレるのを待ちました。ほぼ1周ポジションを入れ替え合う戦いは計算外だったけれど、トップに出ることができて良かったです。スーパーヒートが終わって他の人よりタイヤが残っていたので、自信はありました」と全日本選手権でポテンシャルを見せつけた。
2位は堂園鷲選手(Energy JAPAN)、3位は藤井翔大選手(Drago CORSE)。
OK部門 第1戦表彰の各選手。

 午後に入って第2戦を迎えると、またもレースの様相が一変する。新たな主役となったのは43歳のベテラン、綿谷選手だ。第1戦ではセッティングが決まらず4位。第2戦でもトラブルで予選をスタートできなかった綿谷選手だが、スーパーヒートから反転攻勢が始まった。

 このヒートを最後尾からスタートした綿谷選手は目を見張るスピードを披露し、7周目でトップを奪って独走ゴール。フロントフェアリングのペナルティで結果こそ3番手に留まったが、手応えをつかんで決勝に臨んだ。

 迎えた決勝、綿谷選手は抜群のスタートを決めて1コーナー先で3番手に上がったが、3コーナーで逆襲を受けてコースを外れ、最下位に転落してしまう。ところがコースに戻ると、前を行くライバルたちは混戦気味で、さほど離されていなかった。

 綿谷選手はここから気を取り直して追い上げを再開した。大柄な体躯で重量面のハンデもある綿谷選手だが、濡れたコースで熟練の腕が冴えわたる。着々と順位を上げ、8周目にはトップの鈴木選手の真後ろに。そして10周目に一発で鈴木選手をかわし、たちまち引き離していった。ここからゴールまでの12周で綿谷選手が稼いだリードは、実に12秒強。ベストタイムで比較すると、最速の綿谷選手が44秒220なのに対して2番手の鈴木選手は44秒590と、他のドライバーたちより0.3秒以上も速かったのだ。

 ゴールの瞬間、綿谷選手はややスピードを落として右手を高々と突き上げ、この時間を味わうかのようにチェッカーをくぐった。2008年にKF1部門に参戦を始めて以来、最高峰部門では初優勝。全日本では100cc時代のICA部門に出場していた2007年以来16年ぶりの優勝だ。他の6名はすべて10代。そんな中での43歳の初優勝に、サーキットは祝福ムードに包まれた。

 一方、綿谷選手の後方では大混戦が発生していた。2番手の鈴木選手を吉田選手が追い詰め、残り6周で肉弾戦さながらのバトルが勃発すると、そこに落合蓮音選手(TAKAGI PLANNING)も急接近。ヒートアップする前2台の隙を突いて落合選手がするりとポジションを上げ、2位をさらっていった。3・4番手でゴールした鈴木選手と吉田選手はともにペナルティを受け、3位表彰台は繰り上がりで五十嵐文太郎選手(Formula Blue エッフェガーラ)のものとなった。

 開幕2戦を終え、暫定ランキングの首位に立ったのは41点の吉田選手。31点の堂園選手が2番手、29点の五十嵐選手が3番手につけている。

「……長かったですね。辞めないでここまで続けてきて良かったです」と重みのある言葉で語り始める綿谷浩明選手(SPS川口)。「ワイルドカートからキセノンまで10年以上やってきましたから……。自分たちで開発してきたシャシーで勝てたのは、感無量ですね」と苦難の時代が長かったぶん、第2戦での初優勝のうれしさもひとしおの様子。「最初の1周目で飛び出してヤバいかなと思ったけれど、前が混戦でそれほど離れなかったので、追いつけて良かったです。スーパーヒートで手応えがあったので、落ち着いていけば大丈夫だと思っていました」
2位は落合蓮音選手(TAKAGI PLANNING)、3位は五十嵐文太郎選手(Formula Blue エッフェガーラ)。
OK部門 第2戦表彰の各選手。
ともに全日本選手権を戦うチームメンバーと記念撮影。SPS川口の中島高広代表(右から3人目)も綿谷選手の優勝を自分ごとのように喜んだ。

全日本カート選手権FS-125CIK部門 第1戦/第2戦

 全日本選手権に今季新しく設けられたFS-125CIK部門は、2022年まで東西2地域制で行われていたFS-125部門とは異なり、地域分けのない1シリーズで選手権が行われる。レースシステムはOK部門と同じで1大会2レース制で、シリーズは全4大会/8戦。各レースではスーパーヒートも実施される。その開幕戦には18台が参戦。2022年のFS-125部門のシングルランカーは1名のみというフレッシュな顔ぶれだ。

 第1戦は14歳の鈴木恵武選手(Formula Blue MASUDA SPEED)のワンサイドレースとなった。予選とスーパーヒートを無敵のトップゴールで終えて、決勝をポールからスタートした鈴木選手は、1周目こそ3番グリッドの塩田惣一朗選手(HRS JAPAN)の先行を許したものの、2周目に先頭に戻ると一気に後続を突き放し、独走でデビューウィンを果たした。2021年ジュニア選手権 FP-Jr部門王者の鈴木選手は、これが全日本の初優勝だ。

 塩田選手は鈴木選手の逃げ切りこそ許したものの、中盤以降は鈴木選手と同等のタイムで走ってみせ、13歳での全日本デビューを2位で終えた。ガッツポーズでチェッカーをくぐる姿に、その喜びがにじんでいた。

 3位は、こちらも全日本デビュー戦の14歳、箕浦稜己選手(BirelART West)だ。スーパーヒートまではトラブルに祟られ14番グリッドから決勝をスタートすることになった箕浦選手だが、そこから唯一48秒台に入れる走りで11台を抜き去り、3位表彰台に上った。

トップチェッカーを受けた鈴木恵武選手(Formula Blue MASUDA SPEED)は全日本初優勝。「昨年(FP-3部門参戦)は一年間勝てなかったので、今回の優勝は本当にうれしいです。決勝は自信あったんですけれど、塩田選手もペースが良くて、とくに中盤はなかなか離せなくて苦しかったですね。予選やスーパーヒートのように簡単にはいかない状況で、レース序盤は余裕がなくなってしまったけれど、最終的に勝てて良かったです」と胸を撫で下ろした。
2位は塩田惣一朗選手(HRS JAPAN)、3位は箕浦稜己選手(BirelART West)。
FS-125CIK部門 第1戦表彰の各選手。

 第2戦では鈴木選手の勢いが鳴りを潜め、他のドライバーたちが台頭してきた。決勝のグリッドは、ポールが武藤雅奈選手(TAKAGI PLANNING)、2番手が箕浦選手だ。スタート直後、箕浦選手はサイドヒットしながら武藤選手の前に出て一気にリードを広げていく。対して武藤選手は3番手に後退し、その後のコースアウトでレースを終えた。

 箕浦選手は圧巻のスピードでトップを走り続け、リードを6秒以上に広げてフィニッシュ。レース後、1周目の接触がプッシング行為と判定されて5秒加算のペナルティを課されたが、大きなリードに救われて勝利は箕浦選手のものとなった。

 2位は3週間前のFS-125JAF部門開幕戦・神戸大会でも優勝を飾った伊藤聖七選手(Formula Blue Ash)。序盤にはスピンを喫しながらコース上に留まり、終盤には後続からの猛攻にさらされたが、トップに次ぐポジションを最後まで守り切った。また鈴木選手は決勝で再びスピードを取り戻し、箕浦選手と同等のタイムを刻みながら8番グリッドから追い上げて3位でフィニッシュ。暫定ランキング首位でもてぎ大会を終えた。

「昨年のもてぎのレースはあまり良くなかったので、今回勝ててうれしいです」とは、第2戦を制した箕浦選手(BirelART West)。ポールから好発進するも「スタートで当たっちゃって……ペナルティくらったと思って焦っていましたが、引き離してぎりぎり勝つことができて良かったです」と、5秒加算のペナルティをものとしないリードで勝利した。「予選でタイヤを温存して走っていたので、決勝は余裕がありました」
2位は伊藤聖七選手(Formula Blue Ash)、3位は鈴木選手(Formula Blue MASUDA SPEED)。
FS-125CIK部門 第2戦表彰の各選手。

全日本カート選手権EV部門 第1戦

 2シリーズ目を迎えたEV部門は、全3戦で選手権が競われることになった。ここに参戦するのは3月下旬に行われたオーディションで選抜された者を含めた10名のドライバーたち。その内訳は2022シリーズからの継続参戦が3名、新規参戦が7名だ。

 単独走行・1周計測のタイムトライアルでは、全日本FS-125部門の優勝経験を持つルーキー向畑疾走選手(KCNAGAHARA)がトップタイムをマークした。100分の2秒差で渡邉カレラ選手(EIKO JAPAN)が2番手に。全車のタイムが0.364秒差の中に収まる実力伯仲状態だ。

 15周の決勝では、序盤で逃げを打った向畑選手を渡邉選手が追い詰め、折り返し点で逆転。ここから一気にリードを広げた渡邉選手が、参戦2年目で初優勝を飾った。向畑選手は単独走行で2位フィニッシュ。継続参戦組の大槻聖征選手(TOM'S-EV Racing)が7番グリッドからの挽回で3位表彰台を手に入れた。

昨年から全日本カート選手権に加わったEV部門。さまざまな経験を持つドライバーが集い、2023シーズンは10選手によってタイトルが争われることとなった。
「ドライで調子が良かった特別スポーツ走行の昨日から一転、いきなり雨に変わって不安だったけれど、優勝することができて安心しました」と継続参戦の渡邉カレラ選手。「公式練習の感触から、普通に走ればある程度の速さはあると思っていたので、しっかり安定して走れて良かったです。昨日のドライでは2年目のアドバンテージがあるかと思ったんですが、雨になったらアドバンテージは全然感じなかったです。この先も全勝目指して頑張ります」とコメント。
2位は向畑疾走選手(KCNAGAHARA)、3位は大槻聖征選手(TOM'S-EV Racing)。
EV部門 第1戦表彰の各選手。

フォト/JAPANKART、長谷川拓司、JAFスポーツ編集部 レポート/水谷一夫、JAFスポーツ編集部

ページ
トップへ