WRCラリー・ポルトガル、勝田貴元選手は早々にトラブルも、SS16でベストタイム!

レポート ラリー

2023年5月19日

2023年FIA世界ラリー選手権(WRC)の第5戦「ラリー・ポルトガル」が5月11~14日、ポルトガル北部にある第2の都市、ポルト近郊のマトジョニスで開催。1973年のWRC設立当初よりカレンダーに組み込まれている伝統のグラベルラリーにTOYOTA GAZOO Racing WRCチャレンジプログラムに参加中の日本人ドライバー、勝田貴元選手もコ・ドライバーのアーロン・ジョンストン選手とともにTOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamからワークスノミネート。チーム3台目のGR YARIS Rally1 HYBRIDでチャレンジしていた。

2023年FIA世界ラリー選手権 第5戦「ラリー・ポルトガル」
開催日:2023年5月11~14日
開催地:ポルトガル・マトジョニス周辺

5月12日:デイ1

 ラリー・ポルトガルは勝田貴元選手にとって相性の良いラリーで、2021シーズン及び2022シーズンは4位に入賞している。

「2022年の大会はRally1でグラベルの経験が少なかったので、クルマに対する理解やハイブリッドの運用の仕方、セットアップを含めて掴みきれていない状態でしたが、2023年は1シーズンを経験したのでクルマも進化して乗りやすくなったし、限界も見えてきたので落ち着いて走れるようになりました。テスト段階からフィーリングが良くて、タイムも僅差でした」と手応えを掴んでいたのだが、勝田貴元選手のラリー・ポルトガルは予想外のハプニングで幕を開けることとなった。

「SS1の終盤のところでアラームが鳴り始めて、ディスプレイにオルタネーターのトラブルが表示されていました」と語るように、オープニングステージのSS1でいきなりトラブルが発生。

 なんとか同SSを5番手でフィニッシュした勝田貴元選手は「SS1のフィニッシュ後にクルマを調べてみたんですけど、オルタネーターのベルトも切れていなかったので、本体の問題で電気が供給されていない状態でした。バッテリーがチャージされない状態なので、どこかでストップしてしまう状態となっていました」とのことだった。

 そのため、勝田貴元選手は最低限の電力だけで走行するセーフティモードでラリーを続けていたのだが、それでもSS2で3番手タイムをマークする好調な仕上がりを披露していた。

 しかし、「SS3へ向かう途中で完全に電気が止まってエンジンもかけられない状態となりました」とのことで勝田貴元選手はデイリタイアを決断した。

「初日の段階でいいところに着けられれば、2日目は砂っぽいSSが多かったので、そこでいいポジションにいれば、自ずといい結果を得られたと思います。自分のパフォーマンス的にもいいところで戦えたと思うので、金曜日が重要だったんですけどね。SS1の電気系トラブルが全てでした」と勝田貴元選手は早々にデイ1の走行ができなくなり、上位争いから脱落してしまったのである。

2シーズン連続で総合4位入賞、なかでも2022シーズンは表彰台争いも演じたラリー・ポルトガルに、ワークスノミネートも果たして意気揚々と臨んだ勝田貴元選手だったが、SSIで早々にトラブルに見舞われるも、SS2で3番手タイムをマークする速さを見せた。

5月13日:デイ2

「ラリー・ポルトガルに向けて気合が入っていたので、正直、かなり落ち込みました」と率直な気持ちを語る勝田貴元選手だが、デイ2で再出走。

「初日はかなりラフな岩場が多くてクルマに負担のかかるセクションが多かったんですけど、2日目以降はやわらかい砂地が多くて出走順の差が出るセクションが多かった」とのことで、先頭スタートの勝田貴元選手は苦戦の展開を強いられていた。

 それでも「フィーリングは良かったし、スプリットタイムでもいいところがありました」と語るように、勝田貴元選手はSS10およびSS13で5番手タイムをマークするほか、スーパーSSを舞台にしたSS15で2番手タイムを叩き出し、苦しいながらも光る走りを披露していた。

再出走を果たしたデイ2以降は、タイヤのテストや車両の習熟も行いながらの走行となった勝田貴元選手。その中でもSS15で2番手タイム、SS16ではトップタイムをマークし、パワーステージのSS19では4番手タイムの力走でポイントを持ち帰った。

5月14日:デイ3

 そして迎えたデイ3、勝田貴元選手は「デイリタイアして前につけていたMスポーツの選手(ピエール=ルイ・ルーベ選手)と1分ちょっとの差しかなかったので、なんとかパスして少しでも多くマニュファクチャラーズポイントを取りたいと思っていました。」と意気込んでスタートを切った。

「本来ならパワーステージに向けてタイヤを温存したいところだったんですけど、なんとかキャッチしたいという気持ちがあったので、出走順的には厳しかったけれど、タイヤ温存をせずに1本目から走りました」と語ったとおり、激しいアタックを敢行。この日のオープニングステージとなるSS16でベストタイムをマークするとSS17では4番手、SS18では3番手タイムをマークするなど素晴らしい走りを披露していた。

 さらに最終のパワーステージ、SS19でも「Rally2車両が走行した後とはいえ、轍の大きさが違うので、かなり滑る路面でした。タイムロスをしたし、前にいたMスポーツをパスできなかったけれど、ポイント(ボーナスポイントとマニュファクチャラーズポイント)を持ち帰ることができたので、最低限の仕事はできたと思っています」と語った勝田貴元選手は4番手タイムをマークし、総合33位でフィニッシュした。

 デイ1の電気系トラブルで早々に上位争いから脱落した勝田貴元選手だったが、「出走順でかなり不利な状況だったので、本来ならハードをつけていくところをソフトにしたりと、今後のためにタイヤのチョイスを試していました」とのことで、様々なトライを実施していた。

「37kmのロングステージがあるんですけど、20kmを過ぎたあたりでクロスに履いていた左フロントのソフトタイヤが岩肌の路面で削られて、ツルツルになっていました。午後に関してもフルハードではなく、あえてソフトタイヤを持って行って、どういった挙動が出るのか試していました」とのことだ。

 さらにドライビングにおいても勝田貴元選手は「1ループ目のオープニングロードはかなり滑りやすいので、ラインができていないところで、どれだけトラクションをかけられるのか、ブレーキングに関しても、いけるところまで行って曲げるように、そこを意識して走りました」とのことで、第11戦まで続くグラベル連戦に向けて新たなトライを実施していたという。

「今年のポルトガルは例年よりも気温が低かったんですけど、岩肌が出てくるとタイヤのダメージも多かった。そういったデータを持ち帰ることができたのは僕だけではなく、チームにとっても大きかったと思います」と勝田貴元選手は付け加える。

「ポルトガルはフィーリングが良くて、セーフティモードで走ったSS2でも3番手タイムを出すことができました。金曜日のトラブルがなければ、表彰台を争えたと思います」と語るように、第5戦は勝田貴元選手にとって残念な結果となったが、それでもデイ2から再出走を果たしたことにより、多くのことを吸収できたようだ。

 さらに「2023年のターゲットは(エサペッカ・)ラッピ選手のところに到達して、その上にいきたい。ラッピ選手はヒョンデのナンバー2なので、そう簡単ではないけれど、シーズンは長いし、1戦1戦、去年よりも高いところでポイントを稼げれば不可能ではないので、ラッピ選手をキャッチできるところにいたいなと思います」と目標を語ってくれた。

 6月1~4日に開催される第6戦、ラリー・イタリア・サルディニアでも勝田貴元選手の走りに注目したい。

 なお、優勝争いはTGR-WRTのディフェンディングチャンピオン、カッレ・ロバンペラ/ヨンネ・ハルットゥネン組がSS5でトップタイムをマークして総合トップに立つと、10本のSSを制して総合トップを譲らず2023シーズン初優勝を達成し、ドライバー/コ・ドライバー部門のランキングトップを快走。

 HYUNDAI SHELL MOBIS WORLD RALLY TEAMでi20 N Rally1 HYBRIDを駆るダニ・ソルド/カンディド・カレーラ組が2位、チームメイトのラッピ/ヤンネ・フェルム組が3位で表彰台の左右を占めたものの、マニュファクチャラー部門のランキングでもTGR-WRTがトップをキープしている。

ディフェンディングチャンピオンながら第4戦まで勝利は無く、2位と3度の4位でドライバーとコ・ドライバーランキングのトップに立っていたカッレ・ロバンペラ(右)/ヨンネ・ハルットゥネン(左)組。第5戦では19本中10本のSSでトップタイムをマークする横綱相撲で、王者の強さを見せつけた。

フォト/TOYOTA GAZOO Racing、Red Bull Media House レポート/廣本泉、JAFスポーツ編集部

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