WRC第7戦サファリ、勝田貴元選手は総合4位でTGR-WRTのトップ4独占に貢献!

レポート ラリー

2023年7月3日

2023年のFIA世界ラリー選手権(WRC)第7戦、開催70周年となる「サファリ・ラリー・ケニア」が6月22~25日、ケニアの首都、ナイロビから北へ約100kmの距離に位置するナイバシャ湖の周辺で開催。この過酷なグラベルラリーに、WRC唯一の日本人ドライバー、勝田貴元選手もコ・ドライバーのアーロン・ジョンストン選手とともに参戦、TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team(TGR-WRT)の4台目のGR YARIS Rally1 HYBRIDでチャレンジした。

2023年FIA世界ラリー選手権 第7戦「サファリ・ラリー・ケニア」
開催日:2023年6月22~25日
開催地:ケニア・ナイバシャ湖周辺

6月21日・シェイクダウン / 6月22日・デイ1 / 6月23日・デイ2

 2021シーズンにWRCに復帰したサファリ・ラリー・ケニアは勝田貴元選手が得意とするラリーで、2021シーズンは総合2位入賞を果たし、自身初のWRCでの表彰台を獲得、2022シーズンも総合3位で表彰台に登壇して二季連続でポディウムフィニッシュを果たしてきた。

「2023年のSSは昨年より荒れているところもあれば、リペアされた部分もあったりで、同じステージだけど変化がありました。今年も表彰台の獲得を目標にしていました」と三季連続の表彰台登壇を狙っていた勝田貴元選手だったが、21日のシェイクダウンで予想外のハプニングに祟られた。

 2回目の走行で2秒以上のタイムアップを図るなど、着実にペースを上げていた勝田貴元選手だったが、「フィーリングが良かったのでもう一本走って煮詰めていこうと思っていたんですけどね。フィニッシュ近くのジャンプの右コーナーで、バンプに引っかかってしまってそのまま横転しました」と、3回目の走行でロールオーバーを喫したのである。

「ラリーが継続できるかどうか分からない状態でした。なんとかメカニックがクルマをリペアしてくれてSS1から走れることになりましたが、不安の残る状態でスタートすることになりました」と勝田貴元選手が振り返ったように、メカニックの懸命なサポートによって翌22日にナイロビ近郊のカサラニに設定されたスーパーSSに出走。セーフティマージンをもって走行した勝田貴元選手のSS1のタイムは7番手だった。

 勝田貴元選手の3度目のサファリ・ラリーは波乱含みの幕開けとなったが、翌23日、デイ2からナイバシャ湖を中心に本格的なラリーがスタートすると、この日のオープニングステージとなるSS2で5番手タイム、続くSS3では3番手タイムと好タイムを連発した。「最初にタイムを失っても最後に何が起こるのか分からないのがサファリの特徴だったので、多少ロスしても最初は様子を見ながら走っていました」と語るような走りでも、総合4番手に上げてみせた。

 しかし、SS3を走り終えるとトラブルが発生していた。「フロントのロワアームに大きな穴が開いていました。応急処置としてスパナをアームの上下につけて結束バンドで固定しました」と、勝田貴元選手はトラブルを抱えながらSS4に出走することになった。「ペースを落としましたが、なんとか30kmのステージを走り切ることができました」と語る勝田貴元選手はSS4を6番手タイムで走破し、総合順位でも4番手をキープした。

 デイ2でもファーストループからトラブルに祟られた勝田貴元選手だったが、セカンドループでも予想外のハプニングが続いた。「デイ3以降にいいポジションを獲得できるように、プッシュしていこうと思っていたんですけど、午後の1本目でシマウマとぶつかりまして、フロントの左側を破損していましまいた」と語るように、勝田貴元選手はSS5で8番手タイムと失速した。

 幸いメカニカルな部分のダメージはなく、SS6で5番手タイムをマークしたが、SS7で「右フロントをパンクして、その影響で右フロントを破損しました」という勝田貴元選手はトップから約27秒遅れの7番手タイムに低迷。総合順位でもトップから約1分19秒遅れの総合5番手でデイ2を終えた。

サービスでセバスチャン・オジエ選手(手前)とカッレ・ロバンペラ選手(奥)、2人のワールドチャンピオンとコミュニケーションをとる勝田貴元選手。経験豊富なチームメイトたちからもラリーを学べることは、TOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamに所属する強みだ。

6月24日・デイ3 / 6月25日・デイ4

 デイ2でも様々なハプニングに祟られた勝田貴元選手だったが、「荒れた長いステージが多いので波乱が起きるだろうと思っていました」とのこと。その言葉どおり、24日のデイ3では総合3番手につけていた、HYUNDAI SHELL MOBIS WOELD RALLY TEAM のエサペッカ・ラッピ/ヤンネ・フェルム組がSS11でリタイアするなど、サバイバルラリーが展開された。

 一方、波乱を予想していた勝田貴元選手はクレバーな走りを披露したことで、総合4番手に浮上。総合3番手につけていたチームメイトのエルフィン・エバンス/スコット・マーティン組とはわずか2.8秒差で、ここから勝田貴元選手はエバンス選手と激しい総合3番手争いを展開した。「プッシュをして順位を上げていこうと思いました。しっかりとアドバンデージを作りたいのでプッシュしたんですけど、フィーリングが良くて無茶をした走りではなかったです」と語る走りで勝田貴元選手はSS12でこのラリー初のベストタイムを叩き出し、エバンス選手をかわして総合3番手に上げた。

 しかし、「フィーリングが良かったので、最後のロングSSでもプッシュして最終日に繋げたいと思っていたんですけどね。例年同様に今年もスコールでドライもあれば、ウエットもあったりで難しいコンディションになりました。自分のミスもあって、スピン2回、コースオフ2回でタイムロスをしてしまいました」と勝田貴元選手が振り返ったこの日最後のSS、SS13は4番手タイム。

 対するエバンス選手は2番手タイムをマークした。「プッシュしてアドバンテージを持って最終日に挑みたかったんですけど、それが裏目に出てしまいました。それに、エバンス選手はプッシュしながらも一線を超えないところでマネジメントしていました。この経験を活かしていかないといけないです」とSS13の走りを反省した勝田貴元選手。エバンス選手とは16.7秒差にひらき、総合4番手でデイ3を終えた。

「ひっくり返せる自信がありましたし、何が起きるのか分からなかったので、プレッシャーをかけたいという気持ちもありましたが、チームとしては1-2-3-4の状況でもあったので、クルマを最後まで運ぶということを心がけていました」という勝田貴元選手は25日のデイ4で、順調な走りを披露。この日のオープニングステージ、SS14で3番手タイムをマークした勝田貴元選手。「クルマの状況は悪くなくて、そんなにプッシュしていたわけではないんですけど、エバンス選手のミスで差が縮まりました」とのことで、エバンス選手とのギャップを11.4秒差まで短縮した。

 それゆえに「プッシュしていけばチャンスがあるかもしれないので、詰めていきたかったです」と語っていた勝田貴元選手だが、続くSS15でまたしても不運が襲う。「ハイブリッドユニットのトラブルで、ハイブリッドブーストが使えない状況でした」と、SS15で6番手タイム、SS16も8番手タイムに留まり、エバンス選手とのギャップが35.7秒に拡大した。

 昼のサービスでトラブルを修復したことで、SS17で勝田選手は3番手タイムをマークしたものの、「午後の2本目のSSでトヨタ勢は苦戦しました。“フェシュ・フェシュ”というケニア特有の細かい砂が含まれたセクションがあるんですけど、ラジエターの間にその砂が詰まってしまって、僕を含めてトヨタの4台はオーバーヒート症状でペースダウンを強いられていました」と苦しい展開だったことを明かした。

 それでも「ブレーキングをした時にノーズが砂を掘って巻き上げることを2年前に経験していたので、なるべくブレーキングを激しくしなかったり、ラインを外していました。その結果として、オーバーヒートの割合が少なくて、他の選手よりもペースダウンをしなくてすみました」と、対策した勝田貴元選手はSS18でこのラリー2度目のベストタイムをマーク。

「エバンス選手はミスをしないので、何か起きない限り、ポジションをひっくりかえせない。最終のパワーステージはきっちりクルマをフィニッシュさせることにしたんですけど、最後のSSも簡単にはいきませんでした。ラスト3kmぐらいのところに大きな岩がライン上にあったんですけど、その岩を乗り越えた時にラジエターにダメージを受けました。最後の1kmはラジエターに水がない状態でした」とのことで、まさに最終のSS19まで波乱の展開が続いた。

 それでもこのSSを6番手タイムでフィニッシュした勝田貴元選手は「最初から最後まで波乱続きのラリーでした。3番手争いをしながらも、ハイブリッドのトラブルが僕のほうに出た時点で“今週末は僕の週末ではない”と思いましたし、結果としては悔しかったけれど、その中でも4位でフィニッシュできたことはポジティブですし、チームとしてもいい結果で終わることができました。この結果はメカニック、スタッフのサポートがなくして得られなかったのでチームのみんなに感謝したいです」と振り返ったこのラリーで、総合4位入賞を果たした。

 エバンス選手と勝田貴元選手が3位争いを繰り広げる前方では、SS2でベストタイムを叩き出して総合トップに立ったチームメイトのセバスチャン・オジエ/ヴァンサン・ランデ組が快走。2022シーズンのサファリ・ラリーを制した、やはりチームメイトのカッレ・ロバンペラ/ヨンネ・ハルットゥネン組が6つのSSでベストタイムをマークして追うも、ひとつ多い7つのSSを制したオジエ選手が今季3勝目を挙げ、TGR-WRTは二季連続1-2-3-4フィニッシュを達成した。

 勝田貴元選手は「過去2大会と比べると自分のパフォーマンスは上がっていたと思います。それがSSタイムに現れているセクションもありました。そんな中でも小さなミスやパンクも重なってロスをしました。昨年まではミスを避けながら走っていましたが、今年は初日に遅れたので、そこを取り返したいという部分でプッシュしていました。それでもプッシュしきれていない部分があって離されましたが、攻めきれたSSではタイムも速かったし、遜色のないパフォーマンスを示すことができたと思います」と、このラリーで得た手応えを語った。

 次戦の第8戦「ラリー・エストニア」について、「同じグラベルでありながら、ハイスピードの戦いになるんですけど、第9戦のラリー・フィンランドでいい結果を出したいので、フィンランドに向けてエストニアで自信とスピードを持っていきたいと思います。エストニアは轍ができやすいセクションもありますし、出走順的にも悪くないところでスタートできるので、そこを有効活用して最初からいいポテンシャルを出していきたいと思います」と語っているだけに、7月20~23日に開催されるラリー・エストニアでも勝田貴元選手の活躍に期待したい。

2023シーズンは勝田貴元/アーロン・ジョンストン組と、ワークスとなる3台目のシートをシェアしているオジエ/ヴァンサン・ランデ組。今季はここまで他のクルーたちより2戦少ない5戦参戦ながら、最多の3勝を獲得。オジエ選手はWRCフル参戦から一歩退いたものの、変わらない強さを見せている。
優勝したオジエ/ランデ組を中心に、TGR-WRTが集合写真を撮影、左側に立った勝田貴元選手は笑顔で撮影に臨んだ。二季連続でサファリ・ラリー・ケニアの総合1位から4位までを独占したTGR-WRTは、持っているポテンシャルを発揮して、このラリーで最大の結果を得続けている。

フォト/TOYOTA GAZOO Racing、Red Bull Media House  レポート/廣本泉、JAFスポーツ編集部

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