勝田貴元選手がWRC第9戦ラリー・フィンランドで総合3位、今季初表彰台に上がる!

レポート ラリー

2023年8月15日

8月3~6日、フィンランドの中央スオミ県の都市、ユバスキュラを中心に、2023年FIA世界ラリー選手権の第9戦「ラリー・フィンランド」が開催された。このWRC屈指の高速ラリーに日本人唯一のWRCドライバー、勝田貴元選手もコ・ドライバーのアーロン・ジョンストン選手とともに参戦。第8戦「ラリー・エストニア」に続きTOYOTA GAZOO Racing World Rally Team(TGR-WRT)から4回目のマニュファクチャラー登録を受けて、3台目のGR YARIS Rally1 HYBRIDでチャレンジした。

2023年FIA世界ラリー選手権 第9戦「ラリー・フィンランド」
開催日:2023年8月3~6日
開催地:フィンランド・ユバスキュラ周辺

8月3日・シェイクダウン、デイ1 / 8月4日・デイ2 / 8月5日・デイ3

 前戦よりわずか2週間という短いインターバルでこのラリーを迎えたが、ユバスキュラにファクトリーを構えるTGR-WRTにとってはホームラリーとなるだけに、事前テストを実施していた。勝田貴元選手は「ラリー・エストニアで不調だったので、セッティング、ドライビングともに改善点を洗い出してテストを行なっていたんですけど、デフのバランスやシャシーのセッティングを合わせたことで良いフィーリングを得ることができました」と、好感触。

 さらに「ラリー・エストニアでなぜ遅れたのかイメージできなかったんですけど、エンジニアからのフィードバックで、遅れている原因が決定的なものではなく、“攻めきれていない”ということが分かりました。コーナーで少しカウンターが当たっただけで0.7秒遅れるセクションがあったので、意識していた部分が違うことに気づくことができて、今まで以上に立ち上がりを重視するようになりました」と解説する。

 これに加えて勝田貴元選手はチームメイトのカッレ・ロバンペラ選手のテストに参加し、サイドシートに同乗したそうだ。「彼の横に乗せてもらったことで、いい発見がありました。轍の深いセクションをどのように走るのか、そこを横で見ることで自分とは違うアプローチをしていることが分かりましたし、彼がやっていたことをラリー・フィンランドの2ループ目にトライすることができました」とのこと。事実、その言葉を証明するように、序盤から素晴らしいパフォーマンスを披露していた。

 2023シーズンのラリー・フィンランドは3日のデイ1、ユバスキュラ市内のスーパーSSのSS1で幕を開けた。「抑え気味に、クルマの感触を確かめるように走りました」と語った勝田貴元選手はこのSSを7番手でフィニッシュ。しかし、翌4日のデイ2から本格的なラリーが始まると、好タイムを連発した。「最初のSSでトップタイムを出せたので、乗れているという感覚を得ることができましたし、フィーリングに合っていることが分かりました」と語るように、この日のオープニングステージとなるSS2でベストタイムをマークした。

 しかし、「その後のSSが路面の柔らかさが違うステージだったので抑えすぎました」と振り返った勝田貴元選手はSS3を5番手タイム、SS4は6番手タイム。それでも、SS5で3番手タイムをマークした。さらに「1ループ目が終わった後に雨が降ったので、2ループ目はミックス(路面がドライコンディションとウエットコンディションの混在)で難しいコンディションでしたが、改善することができました」と語るように2ループ目で復調、2番手タイム、3番手タイムを連発し、トップから16.4秒差の総合3番手でデイ2を終えた。

 5日のデイ3は8本のSSで合計約160kmが設定されていたことから、このラリーの勝負どころとなった。「序盤からプッシュしたかったんですけど、雨の影響で滑りやすかったのでペースノートの修正をしたりと、乗れていない感じがありました」と、その言葉どおり勝田貴元選手はこの日のオープニングステージとなるSS11はトップから13秒遅れの4番手タイムとなった。

 さらに「次のステージで取り返そうとプッシュをしていたんですけど、リアをラインから外してしまいスピンしてしまいました」とSS12でミスをした勝田貴元選手は、トップから21.5秒遅れの6番手タイムに失速。HYUNDAI SHELL MOBIS WORLD RALLY TEAMでi20 N Rally1 HYBRIDを駆るテーム・スニネン/ミッコ・マルックラ組にかわされて総合4番手に後退する。しかし、その後は3番手タイム、4番手タイムを連発するなどリズムを取り戻し、スニネン選手と激しい総合3番手争いを展開した。

「土曜日のセカンドループはドライコンディションで安定していたので、タイム差をつけることができませんでした。このまま最終日を迎えた時、リスクを背負う勝負になりそうだったので、土曜日のうちにアドバンテージを作りたいと思いがありました。最後のSSは路面がミックスで、この日で最も難しいコンディションになったので、日曜日の貯金を作るためにリスクを負ってプッシュしました」と決断した勝田貴元選手は、デイ3の最終SSとなるSS18で脅威のアタックを披露。

 その結果、このラリー2回目のベストタイムをマークして総合3番手を奪還、さらにスニネン選手に6.4秒の差をつけてデイ3を終えることができた。

第9戦ラリー・フィンランドは、2023シーズン4回目となるTOYOTA GAZOO Racing World Rally Team(TGR-WRT)からマニュファクチャラー登録での参戦となった勝田貴元選手。総合7位に終わった第8戦ラリー・エストニアから事前テストによって改善できた成果を発揮して、3SSでベストタイムをマークする活躍で総合3位を獲得して今季初の表彰台に登壇。TGR-WRTの本拠地、そして自身の活動の拠点でもある「第2のホームラリー」で成長した強さを見せた。

8月6日・デイ4

 6日のデイ4では、勝田貴元選手を追うスニネン選手がスペアタイヤを降ろす勝負に出て猛追を見せたが、「土曜日の最終SSで作った貯金をうまく使いながら走っていました」と、勝田貴元選手もSS20でこのラリー3回目のSSベストタイムをマークしながら、安定した走りで総合3番手をキープ。「簡単なラリーではありませんでしたが、ヨーロッパでの初の表彰台になりますし、ラリー・フィンランドは差がつきにくいラリーなので、そこで表彰台を獲得できたことはうれしいです」と今季初、WRCでは自身4回目のポディウムフィニッシュを達成した。

「全ドライバーが出走した金曜日のSS2でトップタイムを出せたことはピュアなパフォーマンスとしてすごく良かったと思いますし、ポイントも獲れたのでマニュファクチャラーのドライバーとして最低限の仕事はできたのでホッとしています。それに今大会はチーム代表のヤリ-マティ・ラトバラさんがドライバーとして参戦していたので、豊田章男会長がチーム代表代行として会場に来てくれました。プレッシャーもありましたがモチベーションになったし、なんとしても結果を持ち帰りたい、とやるべきことが明確になった。一緒に表彰台に立つことができたので嬉しいし、本当に感謝しています」と語った勝田貴元選手。

 その一方で、「全てのSSでいいパフォーマンスだったわけではなく、リスクを見すぎてプッシュしきれていない部分が多かったです。特に土曜日はSS2でトップタイムをマークしたのに、SS3とSS4で警戒してタイムを落としていました。うまく戦えば2番手も見えていたパフォーマンスだったので、そこが僕のミスでした。カッレ選手にしても、エルフィン(・エバンス選手)にしても勝つためにはかなりのリスクを負っているので、今後、勝つためにはどのSSでもリスクをマネジメントしながらペースを上げていかないといけないです」と今後の課題を分析した。

 また「土曜日の最終SSは難しいコンディションで、昨年までならプッシュしていませんでしたが、今回はリスクを負って攻めていました。その結果、3位争いで勝てたので、こういった成功例が自信に繋がると思います」と、手応えを掴んだ勝田貴元選手。「エルフィン選手は僕やカッレ選手とは違うデフのセッティングをしているんですけど、そこがスイートスポットで、滑りやすいコンディションでも彼にとってはいいバランスで走れていたようなので、そういった自分のスイートスポットを見つけたい」と語った。

 さらに次戦について「フィンランドと同じグラベルですが、全く異なるラリーなので、ドライビングもセッティングもリセットして切り替えていかないといけません。チームとしても昨年は苦戦していたので、しっかり戦っていきたいです」と意気込みを語った勝田貴元選手。9月7~10日にギリシャの都市、ラミアを中心に開催される第10戦「アクロポリス・ラリー・ギリシャ」での躍進も期待したい。

 ラリー・フィンランドで勝利を挙げたのは、エバンス/スコット・マーティン組。2021シーズン以来となる2回目のラリー・フィンランド制覇を達成し、今季2勝目を獲得。3位の勝田貴元選手が挙げたポイントとともに、マニュファクチャラーランキングでのTGR-WRTのリードを拡大させた。そしてドライバー/コ・ドライバーランキングトップのロバンペラ/ヨンネ・ハルットゥネン組は、SS1からトップを快走していたもののSS8で横転を喫してしまった。ふたりの出身地でのラリーで悔しい今季初のリタイアとなったが、両ランキングのトップは守った。

 TGR-WRTから4台目の車両を駆って2020シーズン以来のWRC復帰、久しぶりにラリー・フィランドを駆けたラトバラ選手もコ・ドライバーを務めたユホ・ハンニネン選手とともに5位入賞を果たし、今季もTGR-WRTがホームラリーを盛り上げた。

TGR-WRTを率いるヤリ-マティ・ラトバラ代表(左写真右)が、かつてはドライバーとしてTGR-WRTに所属していたユホ・ハンニネン選手(左写真右)をコ・ドライバーに迎えて、2019シーズン以来となる母国でのWRCに参戦。TGR-WRTのワークスクルーたちとはカラーリングが微妙に異なる4台目のGR YARIS Rally1 HYBRIDのステアリングを握り(右写真)、ギャラリーの大きな声援も力に総合5位フィニッシュ。WRC通算18勝の実力を見せた。
今季は第4戦クロアチア・ラリーで勝利を挙げていた、TGR-WRTのエルフィン・エバンス(左から3人目)/スコット・マーティン(右から3人目)組。第9戦で今季2勝目を挙げ、ラトバラ代表がドライバーとして参戦したため、チーム代表代理を務めたトヨタ自動車の豊田章男代表取締役会長(中央)とともに表彰台の中央に立ち、喜んだ。総合3位の勝田貴元選手(右から2人目)もコ・ドライバーのアーロン・ジョンストン選手(右端)と笑顔で登壇。総合2位はHYUNDAI SHELL MOBIS WORLD RALLY TEAMのティエリー・ヌービル(左から2人目)/マーティン・ヴィーデガ(左端)組が獲得した。

フォト/TOYOTA GAZOO Racing レポート/廣本泉、JAFスポーツ編集部

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