翁長実希選手が女性初となる全日本カート選手権チャンピオン確定の大快挙!

レポート カート JAFWIM

2023年10月30日

三重県鈴鹿市の鈴鹿サーキット南コースで10月21~22日、全日本カート選手権FS-125CIK部門およびEV部門の2023シリーズを締めくくる大会が開催された。EV部門第3戦では富下李央菜選手(YAMAHA Formula Blue)が優勝、翁長実希選手(TOM'S EV Racing with RSS)が2位となって、女性ドライバーが1-2フィニッシュを達成。翁長選手が全日本カート選手権史上初となる女性ドライバーのシリーズチャンピオンに確定した。

2023年JAF全日本カート選手権 FS-125CIK部門 第7戦/第8戦
2023年JAF全日本カート選手権 EV部門 第3戦
2023 鈴鹿選手権シリーズ MAX Masters - AVANTI 第5戦

開催日:2023年10月21~22日
開催地:鈴鹿サーキット南コース(三重県鈴鹿市)
主催:SMSC

 5つの部門で競われてきた2023年の全日本カート選手権は、10月21~22日の鈴鹿大会でFS-125CIK部門とEV部門が閉幕して、すべてのレースが終了する。最高峰のOK部門もこの大会でシリーズを締めくくる第7戦/第8戦が行われる予定だったが、エントリーが規定台数に達せず不成立に。これによってOK部門の2023シリーズは全6戦・有効5戦で最終ランキングが集計され、4勝を挙げた藤井翔大選手(DragoCORSE)がチャンピオンに確定した。

 大会最終日、すべての公式セッションが行われる鈴鹿サーキット上空は快晴。秋本番を迎えて爽やかに冷えた空気の中、チャンピオン争いが持ち越された2部門の熱戦が繰り広げられた。

第7戦/第8戦が不成立となったOK部門は、藤井翔大選手がタイトル確定となった。

EV部門 第3戦

 シリーズ全3戦のトムス製電動カート・ワンメイクのEV部門には、手元のレバーでアクセルとブレーキを操作する“ハンドカート”を駆る55歳の生方潤一選手(OX-Kanto with J.M.P.)が初参戦し、参加は今季最多の11台となった。

 ポイントランキングで首位に立っているのは、2度の3位で40点を獲得している大槻聖征選手(TOM'S EV Racing)。2番手には34点の翁長実希選手(TOM'S EV Racing with RSS)がつけている。最終ポイントランキングを決するのは全3戦の合計ポイントで、チャンピオン候補には実に8名ものドライバーが名を連ねていた。

 各車単独走行の1周アタックで行われたタイムトライアルでは、開幕戦のウィナー渡邉カレラ選手(EIKO JAPAN)が他に0.3秒以上の差をつける圧巻のトップタイムをマークする。2番手は翁長選手、3番手は向畑疾走選手(KCNAGAHARA)、大槻選手は8番手だ。

 10周の予選では、その戦況が変化を見せる。富下選手が6番グリッドからぐいぐいと順位を上げ、トップでゴールして決勝のポールとなったのだ。渡邉選手は2番手。第2戦優勝の中川賢太選手(TOM'S-EV Racing with LAM Racing)が4番グリッドから3番手に上がり、翁長選手は4番手でゴールした。

 決勝は15周。トップをキープして発進した富下選手を、3周目に渡邉選手がかわして先頭の座を奪い、スタートで3番手に上がった翁長選手がそれを追う。5周目、予選でファステストラップをマークしていた中川選手がスローダウン、優勝候補の一角がレースから脱落した。これで先頭集団は渡邉選手、富下選手、翁長選手の3台となった。

 8周目、富下選手が1コーナーで渡邉選手のインに飛び込みトップを奪還する。さらに渡邉選手には翁長選手が急接近してきた。すると、ここから富下選手が一気に集団から抜け出していく。11周目、富下選手のリードは1秒以上に拡大。完全な独走状態だ。

 残り4周、翁長選手が1コーナーで渡邉選手をパスして2番手に上がり、背後にギャップを広げていく。終盤のトップ3はそれぞれ単独走行。大槻選手は得点圏外の位置から上がってこられないままだ。

 そしてチェッカー。富下選手が、翁長選手が、相次いでコントロールラインを駆け抜けた。女性ドライバーの1-2フィニッシュ達成だ。富下選手は2020年にFP-3部門で全日本に参戦を始め、たびたび表彰台には立っていたが、これが全日本初優勝だった。

 渡邉選手は3位でゴールして今季2度目の表彰台に上がり、シリーズランキング2位を確定して2023シリーズを終了した。大槻選手のフィニッシュは8位。これで翁長選手が女性として初めて全日本カートのチャンピオンに就くことが確定した。

「やっと初優勝です」と照れながら笑顔を見せた富下李央菜選手(YAMAHA Formula Blue)が勝利をつかんだ。「今までのレースではあまりパッとしなかったんですけれど、今回は重量が軽い選手がストレートで速くて、それが大きかったのかなって思います」と勝因を語る。「昨年はけっこう重量が重かったこととか、いろいろあって乗りにくい感じだったんですけど、今年は乗りにくさがぜんぜんなくて、今日も普通に走れてる感じがするなって思っていました」とEV部門参戦2年目の富下選手が悲願を達成した。
2位は翁長実希選手(TOM'S EV Racing with RSS)、3位は渡邉カレラ選手(EIKO JAPAN)。
第3戦表彰の各選手。
翁長選手がEV部門のチャンピオンを確定させた。
富下選手と翁長選手の女性ドライバーが活躍を見せたEV部門。1-2フィニッシュを遂げ、全日本カート選手権に新たな歴史を刻んだ。

FS-125CIK部門

 FS-125CIK部門では、鈴木恵武選手(Formula Blue 増田スピード)がここまで合計168点を獲得してポイントリーダーに、佐藤佑月樹選手(RT WORLD)が同149点でランキング2番手につけている。チャンピオン争いに残っているのはこのふたりだ。

 最終ポイントランキングは全8戦中有効6戦の集計。今回の2レースの得点を加点する、ベースとなる上位4戦の合計は鈴木選手が123点、佐藤選手が117点と僅差。今回の2レースで最大70点が加算されるので、栄冠の行方はまだまだ見えない状況だった。

 エントリーは20台、そのうち6名が初参戦のドライバーだ。今季ラストの大会は、そのルーキーたちが大活躍を演じた。まず戦いをリードしたのは松本琉輝斗選手(HRS JAPAN)だ。FS-125JAF部門には参戦実績のある松本選手だが、FS-125CIK部門はこれが初参戦。

 にもかかわらず、松本選手はタイムトライアルでトップタイムを叩き出すと、予選もトップで終えた。スーパーヒート(SH)では箕浦稜己選手(BirelART West)にトップを譲ったものの、松本選手はここも2番手でゴールして、第7戦決勝のポールを獲得する。

 迎えた20周の第7戦決勝は、思わぬ幕開けとなった。戦いがスタートすると、箕浦選手がトップに、4番グリッドの田邊琉揮選手(HRS JAPAN)が2番手に浮上。松本選手は白石いつも選手(HRS JAPAN)にも先行を許して4番手に後退した。

 ところが、逃げる箕浦選手に田邊選手が追いつくと、2台は11周目に接触して大きく順位を下げてしまう。これで白石選手を抜き返して3番手を走っていた松本選手が先頭に復帰。松本選手はその後も背後にギャップを保ったままチェッカーまで走り切り、デビューウィンを遂げた。これは14歳の松本選手の全日本初優勝だった。

 チャンピオン候補のふたりは、鈴木選手が6番グリッドから、佐藤選手が8番グリッドから、それぞれ順位を上げて2位と3位でフィニッシュした。この結果、鈴木選手は第8戦のSH予選ポイントと決勝で合計26点を獲れば自力でチャンピオン確定。対して佐藤選手はSH予選ポイントランキング3位以内と決勝の優勝が、逆転チャンピオンへの絶対条件となった。

「(FS-125JAF部門の)レースでは自分の乗り方が悪くてペースが良くなかったけれど、今回は緊張せずに安心して走ったら勝てました」とは、第7戦を制した松本琉輝斗選手(HRS JAPAN)だ。前半で2台に先行された局面では、タイヤを残していたこともあって追いつく自信があったようだ。そしてその2台がアクシデントで後退したのを見て「ああ、勝ったな」と思ってひと安心したとのこと。「ここまで来られたのはチームのおかげなので、とてもうれしいです」と素直な感想を述べた。
2位は鈴木恵武選手(Formula Blue 増田スピード)、3位は佐藤佑月樹選手(RT WORLD)。
第7戦表彰の各選手。

 続く第8戦ではもうひとりのルーキーが頭角を現した。ジュニアカート選手権を卒業して今回が全日本デビューの14歳、田邊選手だ。田邊選手は予選で3番グリッドからトップに浮上して独走ゴール。SHでは箕浦選手に続いて2番手でチェッカーを受け、決勝をポールからスタートすることとなった。2番グリッドは箕浦選手、3番グリッドは松本選手だ。

 佐藤選手はFS-125JAF部門との2冠確定を狙って奮闘するものの、予選、SHともゴールは5番手で、SH予選ポイントのランキングは5番手。この時点で佐藤選手の戴冠の可能性はなくなり、14歳の鈴木選手の新チャンピオン就任が確定した。鈴木選手のタイトル確定は2021年のジュニアカート選手権FP-Jr部門に続いて2度目のことだ。

 決勝では箕浦選手がスタートでトップを奪い、その後も真後ろに食い下がる大集団からのプレッシャーに耐え切ってフィニッシュ、第2戦以来の2勝目を果たした。田邊選手は勝利こそ逃したが、2位獲得で才能をアピール。3位には武藤雅奈選手(TAKAGI PLANNING)が入賞した。

 佐藤選手はこのレースを4位でゴール。王座確定のお披露目レースとなった鈴木選手は、9番グリッドからファステストラップをマークしながら前を追ったが、最終ラップの最終コーナーでストップして今季ラストのレースを終えた。

鈴木選手がFS-125CIK部門のチャンピオンを確定させた。
レースウィークは練習から厳しい状況で、タイムもあまり出ていなかった箕浦稜己選手(BirelART West)。「今まででいちばんキツいレースでした」とレースを振り返った。「スーパーヒートも結構ぎりぎりだったんですけれど、決勝では後ろを抑えられて良かったです」とコメント。今シーズンについて「初めて走るコースに行ったときに全然結果を出せなかったけど……」悔しさをにじませつつ、「それらをひっくるめて、今回のホームコースのレースに生かしていいレースができて良かったです」と締めた。
2位は田邊琉揮選手(HRS JAPAN)、3位は武藤雅奈選手(TAKAGI PLANNING)。
第8戦表彰の各選手。

AVANTI

 16台が出走した併催レースの鈴鹿選手権シリーズAVANTI第5戦では、最年少18歳の奥村泰生選手(ハラダカートクラブ)が優勝。奥村選手はポールからスタートした直後のアクシデントで2番手に後退したが、3周でトップに戻って独走勝利を遂げた。2位は3番グリッドから発進した岡部雅選手(clubマイム)。3位には4番グリッドからトップで1周目を通過した井上繁和選手(KC NAGAHARA)が入賞した。

優勝の奥村泰生選手(ハラダカートクラブ)は「スタートでちょっと接触があって(2番手に下がって)どうなるのかと思ったけれど……」と出鼻をくじかれたものの、「ペースが良かったんで、(トップに戻って)その後は突き放すことができました。3連勝できてうれしいです」と語る。「結構エンジンの調子が良くて、今までより高い回転数を出せるようになっていたので、それが勝因のひとつかなって思います」と勝利を喜んでいだ。
2位は岡部雅選手(clubマイム)、3位は井上繁和選手(KC NAGAHARA)。
AVANTI表彰の各選手。

MAX Masters

 同じく併催レースの鈴鹿選手権シリーズMAX Masters第5戦には19台が出走。最年長59歳の塚本幸男選手(GrenBlue RT)が7番グリッドから挽回して、ラスト3周で先頭に立って逆転優勝を飾った。普段は当該年14歳以上対象のSenior MAXで戦っている塚本選手。同32歳以上対象のMAX Mastersには久々の参戦だった。2位は加藤雅規選手(MOMOX)。出石哲也選手(AKILAND RACING)が残り2周で2台をかわして3位を手に入れた。

「うまくいきました! やればできる子だったんですよ(笑)」と興奮気味に語るのは優勝の塚本幸男選手(GrenBlue RT)。「いつもはやせ我慢しながらSenior MAXに出ていて、『あいつはMastersでもそんなに速くないのに、よくSeniorに出てるな』なんて言われたくなかったですからね(笑)」と奮起したそうだ。「木村選手の逃げ、加藤選手のペースを気にしつつ、追い付いてからどうするか考えようと思いつつ追い上げていました」
2位は加藤雅規選手(MOMOX)、3位は出石哲也選手(AKILAND RACING)。
MAX Masters表彰の各選手。
FP-3部門を除く、全日本カート選手権のシリーズチャンピオンを確定させた選手が揃った。左からEV部門の翁長選手、OK部門の藤井選手、FS-125CIK部門の鈴木選手、FS-125JAF部門の佐藤選手。カートスポーツ専門誌のJAPANKARTより、記念パネルが進呈された。
レースを見に来ていた松井沙麗選手が、本人たっての希望により、念願のサーキットクイーンを務めた。

フォト/JAPANKART、長谷川拓司、JAFスポーツ編集部 レポート/水谷一夫、JAFスポーツ編集部

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