中村直樹選手がGR86で念願の初優勝! 単走も追走も好調でシリーズ争いの首位に立つ

レポート ドリフト

2023年11月6日

約2か月のインターバルを置いて、10月28~29日にオートポリスで開催されたD1グランプリシリーズ第7戦/第8戦。この2週間後にはお台場での最終戦が控えており、大接戦となっている上位ランカーのドライバーたちに注目が集まる中、伏兵・中村直樹選手の優勝でシリーズ争いはさらなる混沌状態となった。

2023 D1グランプリシリーズ 第7戦/第8戦「2023 AUTOPOLIS DRIFT」
開催日:2023年10月28~29日
開催地:オートポリス(大分県日田市)
主催:株式会社サンプロス

 舞台となった大分県日田市のオートポリスは、D1グランプリシリーズ屈指の高速サーキットとして名高い。その一方で場所柄、大半の選手は気軽に練習に行くことができない不慣れなコースでもある。全開区間が長くてマシンへの負担も大きいことから、ドライバーのスキルはもちろん、マシンの完成度にいたるまで、高いレベルが問われることとなる。

 そしてシリーズチャンピオン争いは第6戦終了時点でさらに激化し、首位が藤野秀之選手(TEAM TOYO TIRES DRIFT)、続いて田中省己選手(SHIBATIRE RACING SEIMI STYLE D)、松山北斗選手(+LenoRacing watanabe)が10ポイント内にひしめく混戦模様となっている。

 このラウンドの出走は37台。審査区間は例年同様にホームストレートから逆走方向へスタートして、ファイナルコーナーを通過するレイアウトが採用された。進入時の最高速度は遅いマシンで150km/h、もっとも速いマシンでは170km/hオーバーに達する。なお、このスピード域ゆえに新品のリアタイヤは本番2周でほとんどボウズとなってしまう。

 昨年との違いはゾーン2の位置だ。3か所の通過指定のうち、ゾーン2がインクリップをゼブラから遠ざける形に修正され、インカットによる減点が厳しくなった。そのため想定される通過ラインも変化し、ゾーン3でのオーバーランが減った代わりに、ゾーンに到達しにくくなる弊害も。マシンの軌跡をどう伸ばすかのテクニックが新たに要求されることとなった。

天気に恵まれたオートポリスには37台がエントリー。毎年、ハイスピードな進入からの激しいドリフトが見ものとなっている。
最初の右コーナーに設けられたゾーン2のトラックリミットのライン。インカットは減点となってしまう。
立ち上がりのゾーン3は実際のコースアウトよりも手前に規制線が引かれ、タイヤ2本は減点2で、それ以上は減点5となる。振り返し地点からこのゾーンに飛ばしてそれが届きそうもなかった場合、ドライバーはサイドを引くなりクラッチを踏んだままにしてアウトに車両を流すのだが、そうすると円弧が変わって後半でコ―スアウトする可能性が高まる。

第7戦 単走&追走

 ウォームアップ走行で横井昌志選手(D-MAX RACING TEAM)が大クラッシュ、リタイアという波乱の幕開けとなった予選。路面温度が上がらない前半の組だったからか、フェイントモーションを使う際にわずかな前後タイヤの軌跡のズレが起き、コース左のゼブラに乗り上げてしまった。ほとんどノーコントロール状態でスポンジバリアに激突したそうだ。

 単走優勝は中村直樹選手(TEAM VALINO × N-Style)。前日の練習でエンジン(2JZ改3.4L)にダメージを負っていることが判明したが、すぐにスペアに載せ換えて対応。これまでシリーズチャンピオンを始め、何度も単走優勝している中村選手だが、GR86では初の単走ゴールドメダル獲得となった。ちなみに99点台をマークしたのは中村選手のほか、田中選手、蕎麦切広大選手(SHIBATIRE RACING)、松山選手の3名だ。

今シーズンから乗り換えたGR86ではここまで勝利がなかっただけに、中村直樹選手は格別にうれしそうだった。

 決勝は末永正雄選手(D-MAX RACING TEAM)と田中選手の対決。田中選手は2018年からD1GPに参戦し始めて初の決勝進出だ。ついに初優勝か!? と期待が高まったが、鹿児島在住の末永選手が地元のファンの声援に支えられて勝利する。

 ここでは追走ポイントよりもDOSSのスコアが明暗を分けた形となった。2位の田中選手はよほど悔しいかと思いきや、「今日の勝ち上がり方は納得できる状況じゃなかったし、悔しさはそんなにない。これで初優勝しても喜べなかったと思う」とコメント。

 クラッシュが多かった第7戦について、思いのほか路面温度が上がらなかったのに対して、指定のタイヤウォームアップエリアでは満足いく状態にならないことについても言及し「運営側に改善要求を出したい」と田中選手は冷静に語った。なお数名のドライバーからも同じ提案もあり、翌日の第8戦では改善された。

ともに先行は97点でイーブンだったが、後追いでは2点差がつく。末永正雄選手がDOSSのスコアを意識した走りで勝利を収めた。
「横井さんがリタイアしたので『ボクが頑張らないと!』という気持ちがいいプレッシャーになった」と優勝の末永選手。
第7戦の優勝は末永選手、2位は田中省己選手、3位は中村選手、4位は蕎麦切広大選手、5位は松山北斗選手、6位は植尾勝浩選手、7位は秋葉瑠世選手、8位は藤野秀之選手、9位は久保川澄花選手、10位は目桑宏次郎選手。

第7戦 注目ドライバー・畑中夢斗選手

今年からD1GPに出場を果たした畑中夢斗選手(Z CHALLENGER×BOOSTAR)が、単走で97.5点を獲得して15位。うれしい初決勝進出を遂げた。D1ドライバーだった畑中真吾氏を父親に持つ期待の新星は弱冠20歳。競技ドリフト界では2世ドライバーが今後も増えていくことだろう。

第8戦 単走&追走

 練習走行でエンジョンブローを喫した藤野選手はエンジン載せ換えが間に合わず、ランキング上位のリタイア宣言からスタートした第8戦の予選。この波乱は続き、前日優勝の末永選手が予選通過ならず。また前日2位でランキング首位に上がった田中選手も予選落ちしてランクダウン確実に。

 この時点のポイントランキングトップ3がノーポイントになった。そんな状況の中、最終走者の中村選手が最高得点の99.83点をマークして、第7戦に続いて連続単走優勝を果たす。中村選手は「ようやくGR86の動きがつかめるようになってきた。昨年はV8シルビアで思ったより高回転まで回せなかったけど、やっぱり2JZは最高」と走行後にコメント。

嫌いなテクニックとして挙げていた左足ブレーキを最近は採り入れるようになった中村選手。まさに鬼に金棒の走りを身につけ、2戦連続の単走優勝を果たした。

 追走の後追いは先行車との距離に応じて「後追い点」が付与される。オートポリスラウンドで設定された最高点の15点をマークしたのは、ベスト16で岩井照宜選手(RS Watanabe SPEED MASTER)と対決した秋葉瑠世選手(Z CHALLENGER × BOOSTAR)だ。このフルマークには160km/h近いスピードから最初のコーナーでのハイレベルな接近が要求される。

 そしてベスト8の対戦では、蕎麦切選手が15点のフルマークで追走に定評ある横井選手に勝利する。ふたりは出身地が近く、普段の練習でも顔を合わせることが多いそうで「師弟対決」などと比喩されることもあるが、シリーズチャンピオン経験者の先輩格も若手の勢いに圧倒されることが多くなってきたと言える。

 決勝は中村選手と、その中村選手に憧れてD1GPを目指した秋葉選手の戦いとなった。互いに想像以上の善戦で、審判員の発表があるまではどちらが勝利したか分からないほど甲乙つけがたい追走だった。しかし、後追い得点を重視するよりもDOSS得点を落とさず冷静に走り切った中村選手が勝利する。

憧憬の念を抱く選手に対し、接近ドリフトで魅せた秋葉選手だったが、ベテランの中村選手の得点がわずかに上回った。
中村選手にとってGR86では追走初優勝となり、チームヴァリノのエースとしても肩の荷が降りたことだろう。
第8戦の優勝は中村選手、2位は秋葉選手、3位は蕎麦切選手、4位は齋藤太吾選手、5位はヴィトー博貴選手、6位は川畑真人選手、7位は横井昌志選手、8位は下田紗弥加選手、9位は日比野哲也選手、10位は森孝弘選手。

第8戦 注目ドライバー・久保川澄花選手

予選初通過の久保川澄花選手(MUSEE PLATINUM D×D)は、2010年から始まったD1レディースリーグで3年連続チャンピオンを獲得し、「女帝」と言われる存在。結婚出産を経て競技ドリフト界に復活し、D1ライツを経て今年からD1GPに参戦開始、初のD1GP追走に進んだ。決勝では藤野選手と対決するも敗退して9位で終わったが、予選6位通過はD1GP史上で女性最上位だ。

第8戦 注目ドライバー・秋葉瑠世選手

第7戦では予選10位から決勝ベスト8と自身最上位を記録した秋葉選手(Z CHALLENGER × BOOSTAR)。その流れで翌日の第8戦は予選11位、決勝ではまずベスト16の岩井選手との対決で追走ポイント16のフルマークを決め、そして準決勝では前日に敗れた蕎麦切選手に勝利して決勝戦まで登り詰めた。2JZを搭載したS15シルビアを駆るD1GP参戦3年目の28歳は、最終戦に向けて台風の目になるだろう。

 中村選手が優勝したことで、シリーズランキングが大きく変動、首位に登り詰めた。以下、蕎麦切選手、田中選手、松山選手、藤野選手と続き、この誰もがチャンピオン獲得の可能性を持っている。単走はその逆で、首位に蕎麦切選手、続いて中村選手が追う形となった。最終ラウンドの第9戦/第10戦のお台場は、2週間後の11月11~12日にJAFカップとして開催される。

フォト/藤原伸一郎(SKILLD) レポート/川崎隆介(SKILLD)、JAFスポーツ編集部

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