最終戦まで王座を争ったFIA-F4、小林利徠斗選手が優勝でチャンピオン確定!

レポート レース

2023年11月14日

FIA-F4地方選手権の最終大会が、モビリティリゾートもてぎを舞台に11月3〜5日に開催された。最大の焦点は、すでに4人に絞られたチャンピオンの行方だ。トップは小林利徠斗選手で、2ポイント差で三井優介選手、12ポイント差で中村仁選手、そして21ポイント差で野村勇斗選手が続く。練習走行が行われた3日までは、季節外れとも言うべき陽気に恵まれ、好不調の波は候補者4人にはなかっただけに、激戦が繰り広げられるものと思われていた。

2023年FIA-F4選手権シリーズ第13戦・第14戦
(2023 AUTOBACS SUPER GT Round8内)

開催日:2023年11月3~5日
開催地:モビリティリゾートもてぎ(栃木県茂木町)
主催:ホンダモビリティランド(株)、M.O.S.C.、(株)GTアソシエイション

予戦

 本来、予選は4日の8時から20分間の計測で、2組に分けられて行われるはずだったが、サーキット一面を覆った濃い霧によって、スケジュールの変更を余儀なくされてしまう。やがて霧は晴れて30分遅れで実施できたものの、メインレースのSUPER GTのスケジュールに影響を及ぼさぬよう、全車混走の計測30分間に改められた。

 40台が一斉に走ってクリアラップが取りにくく、さらにウエットタイヤを履くまでではないが、しっとり濡れた路面が、ドライバーそれぞれに難題を課した中、ベストタイム、セカンドベストタイムともトップで第13・14戦ともにポールポジション(PP)を獲得したのが小林選手だった。

「終盤にタイムが上がるのは想像していましたが、序盤は路面が湿っているし、すごく冷えていて。昨日まではすごく朝から暑かったので、対照的なコンディションでした。完全に走り方を切り替えて、割り切ってグリップしないなら、しないなりに走って。『あれ、昨日とは違うな?』とか、そういうのは全然考えず走ったので、そこは良かったと思います。今はシリーズのことは意識せず、あくまでひとつひとつのレースをして、その中で成長できるようにしたいです」と小林選手。

 中村選手は小林選手に迫れるベストが2番手、セカンドベストは4番手。野村選手のベストは平安山良馬選手を中村選手との間に挟んで4番手、セカンドベストは8番手につけるも、三井選手はなんと14番手。セカンドベストに至っては15番手と絶体絶命。予選に向けたセット変更が、完全に裏目に出てしまっていた。

ベストタイムで第13戦の、セカンドベストタイムで第14戦のスターティンググリッドを争った予選。ランキングトップの小林利徠斗選手(TGR-DC RSトムススピリットF4)は難しい天候と突然の予選方式の変更にも動じることなく、ベストとセカンドベストともにトップタイムをマークして、チャンピオンにまた一歩近づいた。

第13戦 決勝

 予選の後に天気は急速に回復し、第13戦 決勝の路面は完全にドライコンディションになっていた。注目のスタートで小林選手は出遅れ、1コーナーにはトップで飛び込むも、食らいついて離れなかったのが中村選手だ。そして5コーナーで並んで、S字コーナーでインを刺し、中村選手がトップに立つ。その直後にセーフティカー(SC)が導入された。1コーナーで中団に接触があり、ストップした車両を回収するためだ。

 4周目にリスタートが切られると、早くも平安山選手を交えた3台でのトップグループが形成される。だが、それも束の間のこと、5周目からはそれぞれ単独走行の様相を呈するように。そんな状況がリセットされたのは、8周目から1周の先導のみながら、またしてもSCが入ったことによる。

 隊列が凝縮された状況の中で、完璧にリスタートを決めたのが、4番手を走行していた荒川麟選手。1コーナーで平安山選手を仕留めていた。だが、トップのふたりに迫るまでには至らず、残り3周は完全に一騎討ち。ワンミスが命取りとなる間隔で周回が重ねられるも、辛くも逃げ切った中村選手が今季3勝目をマーク。小林選手に5ポイント差にまで肉薄することに成功した。

「正直、スタート自体は僕もミスしています。でも、その後は思いのほか立ち上がってくれたので、なんとか……という感じでした。自分なりに大きいミスしないように心がけて走っていたので、ちゃんと勝ち切れました。もちろん、まだまだ可能性残っているので(チャンピオンは)諦め切れないです」と、中村選手は正直な胸の内を明らかにした。

 3位は久々の表彰台を奪った荒川選手で、4位は平安山選手。5位には予選7番手からふたつ順位を上げた、卜部和久選手がつけた。

 一方、三井選手はオープニングラップのうちにひとつ順位を上げたが、SCにさらなる浮上を阻まれたも同然。それでも10位まで上がって1ポイント獲得なったが、もはや白旗をあげざるを得ない状況に……。野村選手も一時は4番手を走行していたが、車両トラブルでリタイアを喫した。

 インディペンデントカップは、予選でもクラストップだった鳥羽豊選手が終始同じクラスのライバルを寄せつけず。唯一のピンチがスタート直後の1コーナーの混乱ながら、目の前での発生にも冷静に対処。「やばかったんですが、うまく外に抜けられて、なんとか生き残れて。あとは前の子達とバトルしながら走っていたんですけど、楽しく走らせてもらいました」と今季5勝目の獲得に満足そう。一方、藤原誠選手が4位でゴールし、最終戦を待たずしてインディペンデントカップの新チャンピオンが確定した。

2番グリッドから逆転チャンピオンを狙い、勝利を目指してスタートを切った中村仁選手(TGR-DC RSトムススピリットF4)は王座争いでも先行する、チームメイトの小林選手をオープニングラップのうちに仕留めて二連勝。2023シーズン3勝目を挙げて、最終第14戦にチャンピオン確定の可能性をつないだ。
ポールシッターの小林選手は、中村選手の先行を許すも2位を獲得。最終戦決戦に向けて、優勝を逃したダメージを最小限に留めた(左)。セーフティカー導入も上手く利用した荒川麟選手(Dr.Dry F110)は6番手スタートから3位を獲得し、今季初表彰台となった(右)。
第13戦の表彰台には左から、2位の小林選手、優勝した中村選手、3位の荒川選手が登壇した。
40歳以上のドライバーと女性ドライバーが対象となるインディペンデントカップでは、鳥羽豊選手(HELM MOTORSPORTS F110)がクラスポール・トゥ・ウィンで完勝、終盤戦で調子を上げて、怒涛の三連勝を達成した。
前戦の2位獲得でチャンピオンに王手をかけてこの一戦に臨んだ藤原誠選手(B-MAX ENGINEERING)。クラス3番手スタートからひとつ順位を落として4位となってしまったが、最終戦を残してチャンピオンを決めた。
第13戦のインディペンデントカップの表彰台には、左から2位の植田正幸選手(アキランドwith Rn-sports)、今季5勝目の鳥羽選手、3位の齋藤真紀雄選手(CSマーケティングAKILAND F110)が上がった。

第14戦 決勝

 泣いても笑っても、これが2023シーズンの最終レース。そして、第14戦は現行車両「F110」による最後の戦いにもなった。PPからスタートするのは、もちろん小林選手。中村選手は平安山選手と大宮賢人選手を間に挟んでおり、やや分は悪くもあった。好スタートを小林選手が切ってホールショットを決める中、中村選手も負けてはいない。まず平安山選手を3コーナーで、そして5コーナーでは大宮選手をかわして2番手を奪取! これで小林選手と勝った方がチャンピオン、という状況が築かれた。

 しかし、またしてもSCが! 2コーナーで接触があり、1台が弾き飛ばされてコース脇で止まったからだ。これにより、14戦すべてでSCが導入される格好に。SCランは1周で終わり、切られたリスタートは小林選手も中村選手も問題なし。だが、一騎討ちとはならず、大宮選手だけがふたりのバトルに加わり、早々に4番手以下を引き離す。

 手に汗握るような状況が続くも、それも中盤まで。中村選手が大宮選手への防戦一方となり、その間につくったわずかな差を小林選手は、しっかり最後まで守り抜いた。これで5勝目をマークした小林選手のチャンピオンが確定した。

「勝てて良かったです。全身全霊を尽くしていたので、もう本当に疲れました。シリーズのことは僕だけではどうにもならなかったので、意識しないつもりでしたが、心の底では考えていたんでしょう。常に後ろとの差を気にしながら、ペースはこちらの方がいいという自信はありましたが……。僕は将来、どんなクルマに乗っても誰より速く走れるというのが夢で、結果的にシリーズチャンピオンが獲れましたが、一生涯成長を重ねていきたいと思っています」と語った小林選手。嬉しいという言葉は一度も口にせず、歓喜する様子もなく、しかし、それが本当の気持ちなのだろう。恐るべき18歳だ。

 一方、敗れた中村選手は「まぁ、仕方ないですね。でも、いいレースができたと思います。前半戦、けっこう苦戦して、ちょっとやばいなという感じもしましたが、落ち着いて自分の調子を立て直せませたし、いろいろ成長できたと思います」とシーズンを振り返った。

 三井選手は7位でフィニッシュ。「悔しがるんだったら、もっとやれば良かったと思うところはあります。自分の中ではSUGOあたりから成長を感じていて、セットであったり、ドライビングであったりを進めていって、調子を上げていけましたが、同じ過ごし方をしていたのに何かもてぎでは噛み合わなかった、という感じですね。今は悔しいので、明日からまたトレーニングして来年、何かチャンスいただければ、チャンピオンを獲れる状態にしたいと思います」と、語るあたりも偽らざる心境だろう。3位は大宮選手で、これがFIA-F4初の表彰台。4位は平安山選手が、5位は野村選手が獲得した。

 そしてインディペンデントカップでは仲尾恵史選手が、今季初優勝。「シリーズチャンピオンは昨日で決まってしまって、コツコツ稼いでいたんですけど、惜しかったですね。でも、クルマが後半ずっと調子が悪くて、まともに走れなかったんですよ。それが今回、クルマを借りてちゃんとした走りができたので、そこだけが悔い、残るんですけどね。それでも最後、勝てて良かったです」と仲尾選手。予選でクラストップだった鳥羽選手は序盤の接触でフロントウイングを痛め、終始アンダーステア状態だったため、5位に留まった。

 そして新王者としての凱旋レースを、藤原選手は4位で終えた。「一か八かで行くことなく、マージン取りながら、危ない時はいきませんでした、今日に関しては。いや、もう嬉しいですね。来年は(スーパーフォーミュラ・)ライツに来いって、チームの皆さんから誘われています。F4の職人になるのが目的ではないので、ちょっと考えています」と藤原選手は2024シーズンへの展望も語ってくれた。

ランキングトップ、そしてポールポジションと、戴冠に向けて絶好の体制でスタートを切った小林選手は、逆転チャンピオンを狙い2番手に迫った中村選手の追撃を寄せ付けず、今季5勝目をゲット。優勝という最高のかたちでチャンピオンを確定させた。
逆転チャンピオンにはまず優勝が必須だった中村選手は、4番手スタートからオープニングラップのうちに2番手まで追い上げるが小林選手の攻略はならず。2位フィニッシュでランキングも2位が確定した(左)。今季は第7戦での5位が最上位だった大宮賢人選手(PONOS F110)はセカンドロウの3番グリッドからスタート。中村選手に抜かれるも、前を行く平安山良馬選手(ATEAM Buzz Racing)とのバトルを制してFIA-F4で最上位となる、3位を獲得した(右)。
第14戦の表彰台。左から2位の中村選手、優勝でチャンピオンを確定させた小林選手、FIA-F4初表彰台の大宮選手が上がった。
インディペンデントカップは、今季未勝利ながらも安定して上位に入る堅実な走りでランキング2番手につけていた仲尾恵史選手(TCS AKILAND F110)が最終戦にして今季初優勝。ランキング2位も確定させた。
第14戦インディペンデントカップの表彰台。左から2位でランキング3位となった齋藤選手、優勝した仲尾選手、第10戦の2位以来のトップ3フィニッシュとなる3位を獲得したDRAGON選手(B-MAX TEAM DRAGON)が登壇した。

フォト/石原康、遠藤樹弥 レポート/はた☆なおゆき、JAFスポーツ編集部

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