エルフィン・エバンス選手が雪辱を果たし、TGR-WRT勢が表彰台を独占! 変わる天候と過酷な路面に翻弄されたラリージャパン2023は、約54万人の観客を集めて無事閉幕
2023年11月27日
愛知県と岐阜県を舞台として、12年ぶりに復活した「ラリージャパン」。2回目となる2023年大会はFIA世界ラリー選手権(WRC)第13戦「FORUM8 Rally Japan 2023」として開催され、悪天候に見舞われたものの、53万6900人もの来場者を数えて無事閉幕した。
2023 FIA World Rally Championship Round 13 FORUM8 Rally Japan 2023
2023年FIA世界ラリー選手権第13戦「フォーラムエイト・ラリージャパン2023」
開催日:2023年11月16~19日
開催地:愛知県(豊田市、岡崎市、新城市、設楽町)、岐阜県(恵那市、中津川市)
主催:TMSC、M.O.S.C.O.、豊田市
12年ぶりに復活したFIA世界ラリー選手権(WRC)日本ラウンド「ラリージャパン」の2回目となる2023年大会は、昨年より1週間ほど遅い11月16~19日に開催された。
今大会はJAF公認クラブ「トヨタ・モータースポーツ・クラブ(TMSC)」、JAF加盟団体「特定非営利活動法人M.O.S.C.O.」に加え、JAF加盟団体「豊田市」がオーガナイザーとして参画したことが大きなトピックとなっていた。
それに伴い、太田稔彦市長が会長を務めるラリージャパン2023実行委員会が組織され、同委員会の事前広報も奏功して、53万6900人もの来場者を数えて閉幕している。これはコロナ禍明けという時期に加え、豊田スタジアムのピッチに新設された、2台同時スタートのスーパーSSの恩恵が大きく、このステージだけで合計7万人もの観客を集めている。
今年のラリージャパンのフォーマットは、基本的には2022年大会を踏襲しており、木曜の豊田スタジアムでのスーパーSSから始まり、金曜は愛知県豊田市と設楽町で7ステージ、土曜は豊田市と岡崎市、新城市で8ステージ、日曜は豊田市と岐阜県恵那市、中津川市で6ステージという、2県6市町のターマックを走る合計22ステージで構成された。
前回大会と比べて「伊勢神トンネル」の路面改修や、設楽町エリアの災害に伴うルート変更などもあった。また、今シーズンのWRC各ラウンドで本格導入された「タイヤフィッティングゾーン」が今大会にも導入され、土曜には岡崎市の岡崎中央総合公園、日曜には中津川市の中津川公園に設定。渋滞が発生しやすいサービスパーク往復時のタイムロス解消にも寄与していた。
金曜は予報通りの雨模様。序盤から大波乱に見舞われる
木曜日には、2022年大会ではSS1に使われた鞍ケ池公園でシェイクダウンが行われ、豊田市駅前ではラリーショーが開催された。そして、今大会の目玉となる豊田スタジアムでのスーパースペシャルステージでは、ラリーのスタートセレモニーが行われた。
例年では参加車両が一台ずつセレモニアルスタートを行う形式だったが、今回は参加車両がゲートを通過する手順では行われず、プライオリティの高いクルーを対象とした「ミート・ザ・クルー」イベントを兼ねる形でスタート進行が行われた。そして、豊田スタジアムのスーパーSSを使用したオープニングのSS1が18時52分にスタートした。
記念すべき第一走者は、勝田範彦/木村裕介組のGRヤリスと新井敏弘/松本優一組のWRX S4の組み合わせ。両者は併催された国内枠のJRCar1クラスでの出走となった。ここからRally2車両、Rally1車両と出走が続き、走行を終えた車両は、多くの観客が待ち受ける豊田市駅前を経由してパルクフェルメに入るという流れとなった。
金曜日は予報通りの雨模様に見舞われてしまう。特にステージがある山岳地では強い雨が降り続き、路面は水たまりや、堆積した落葉や松葉に覆われ、開催時期が後ずれした影響による気温と路面温度の低下も相まって、かなり滑りやすい状況となっていた。
この路面に足をすくわれたのは、M-Sport Ford WRT(フォード)からラリージャパン初参戦を果たしたエイドリアン・フルモ―/アレクサンドル・コリア組と、2022年大会ではステージ上にて車両が全焼するトラブルに巻き込まれたHyundai Shell Mobis WRT(ヒョンデ)のダニ・ソルド/カンディド・カレーラ組。この2台は金曜のオープニングステージとなるSS2の同じ地点でコースオフを喫してしまう。
そして、TOYOTA GAZOO Racing WRT(TGR-WRT)は、第11戦ラリー・チリで3年連続のマニュファクチャラーズ・タイトルを確定させ、第12戦中欧ラリーでカッレ・ロバンペラ/ヨンネ・ハルットゥネン組がドライバー&コ・ドライバーチャンピオンを確定させており、残された「ホームラリーでの初勝利」を挙げるべく4台体制で臨んでいた。
その急先鋒を担うべく、ワークスではなくTGR WRCラリーチャレンジプログラムで4台目のGR Yaris Rally1 HYBRIDを任されていた勝田貴元/アーロン・ジョンストン組だったが、オープニングのSS2、そして、先の2台と同じ場所でコースサイドの立木に当たり、車体を小破させて上位争いから離脱することになってしまった。
そんな路面状況に見舞われたことと、Rally1車両は強い雨量で視界不良に陥る傾向もあったことから、大会随一の高速セクションが設定されていた得たSS4はキャンセル。2022年大会と同様に、もはや「日本らしい」と言える過酷なコンディションで幕を開けた。
そこでSS2から総合首位に立ったのは、TOYOTA GAZOO Racing WRTのエルフィン・エバンス/スコット・マーティン組。午前のループまでは、2022年大会のウィナーであるヒョンデのティエリー・ヌービル/マーティン・ヴィーデガ組が2番手につけ、セバスチャン・オジエ/ヴァンサン・ランデ組が3番手を走る状況となっていた。
しかし、波乱はまだ続き、SS6ではヌービル/ヴィーデガ組がスタート直後にクラッシュで戦線を離脱。金曜の8本を終えた総合順位は、エバンス/マーティン組が首位を守り、50秒差の2番手にオジエ/ランデ組、首位から約2分差の3番手にカッレ・ロバンペラ/ヨンネ・ハルットゥネン組がつけ、TGR-WRT勢が上位を独占する形となっていた。
ちなみに、SS2で車両右前方を小破した勝田/ジョンストン組は、ラジエターに注水を続けながら何とか走行を続けられる状況であり、SS3を5番手タイムで切り抜け、SS4のキャンセルにも助けられて、豊田スタジアムでのサービスに生還することができた。
ここでチームによる完璧なリペアを受けられた勝田/ジョンストン組は、午後のステージから猛追撃を始める。林道ステージであるSS5、SS6、SS7では3連続ベストを叩き出し、持ち前のパフォーマンスを存分に発揮する激走で、総合順位を9番手にまで回復させた。
目まぐるしく変わる路面で魅せた勝田貴元選手の激走
土曜日のオープニングとなるSS9では、路傍の観客対応のため赤旗で中断となってしまう。ステージを走行していたヌービル/ヴィーデガ組と勝田/ジョンストン組、フォードのオィット・タナック/マルティン・ヤルヴェオヤ組、ヒョンデのエサペッカ・ラッピ/ヤンネ・フェルム組には救済措置が適用された。
土曜の天候は曇りベースのドライ路面だったが、路面温度や気温が低い状況は変わらず、滑りやすい路面状況となっていた。SS10以降は、エバンス/マーティン組を首位に、1分以上の差を付けてオジエ/ランデ組とロバンペラ/ハルットゥネン組が続いていた。
ここで注目を集めたのは、やはり勝田/ジョンストン組で、SS9こそ救済措置によりオジェ/ランデ組と同タイムのベストとなったが、仕切り直しのSS10ではベストタイムを計測。SS11とSS12の岡崎中央総合公園ステージは6~7番手に留まったものの、SS13とSS14の林道ステージでは再び連続ベストを叩き出す。そしてSS15の新城ステージは勝手知ったる全日本時代のホームコース。独自のラインで再びステージベストをマークした。
土曜最終のSS16は豊田スタジアムのスーパーSSだが、実は、SS15の新城ステージでは何と一時的に降雹に見舞われていた。そして、最終日の日曜は、使用される恵那エリアに雪マークという予報も出ていた。中央道の道路情報板には夜間のタイヤ規制が表示されており、関係者の間ではスノーラリーを危惧する声も囁かれていた。
明けた日曜日は、幸運にも晴天に恵まれた。特に恵那、中津川エリアは、午前からの強い日差しと、前夜に施した凍結防止対策も相まって、路肩には薄く残雪があるウェット路面となった。最終日は豊田市と恵那市に6本のステージが用意されている。
オープニングのSS17とSS18はヌービル/ヴィーデガ組が連続ベストを叩き出した。対するエバンス/マーティン組は、安定した走行で総合首位を堅守する。
土曜までに総合6番手へと順位を回復させていた勝田/ジョンストン組は、5番手を走るタナック/ヤルヴェオヤ組との30秒差を埋めるべくアタックを続けた。SS19では再びトップタイムを計測した勝田/ジョンストン組は、ここで大きく遅れたタナック/ヤルヴェオヤ組をパスして総合5番手を獲得してみせた。
ステージを3本を残した日曜昼の時点で、総合順位はエバンス/マーティン組、オジエ/ランデ組、ロバンペラ/ハルットゥネン組というTGR-WRTが上位を独占していた。
勝田/ジョンストン組としては、4番手のラッピ/フェルム組を逆転してTGR-WRTの4台独占を狙いたいところだが、SS20では4番手、SS21ではベストを叩き出し、SS22パワーステージを残した時点における総合4番手との差は1分07秒という状況だった。
大会の最終ステージは豊田市の旭高原が舞台。エバンス/マーティン組としては、2022年大会では、最終日にコンマ6秒差の2番手に付けていた状況でタイヤにダメージを負うという苦い経験があったことから、雪辱となる優勝は喉から手が出るほど欲しかった。
SS22パワーステージは、ヌービル/ヴィーデガ組、タナック/ヤルヴェオヤ組、ラッピ/フェルム組がトップ3に並び、4番手には勝田/ジョンストン組、5番手にオジェ/ランデ組、6番手にロバンペラ/ハルットゥネン組が付けた。
そして、エバンス/マーティン組が7番手タイムでフィニッシュし、後続に約1分17秒差を付けてシーズン3勝目、そしてラリージャパン初優勝を成し遂げた。この結果により、TOYOTA GAZOO Racingのホームラリーを制覇するという、2023シーズン最後のパズルを埋める役割を、エバンス/マーティン組がしっかりと果たすことになった。
勝田/ジョンストン組は、金曜午後から怒涛の連続ベストを重ねて5番手のタナック/ヤルヴェオヤ組をパス。4番手を走るラッピ/フェルム組には届かなかったものの、9本のステージでベストを叩き出す「貴元劇場」を見せつけて総合5位を獲得した。
2022年大会に続いて脱落者続出のサバイバルラリーとなったラリージャパン。2024年は、さらに一週後となる11月21~24日に愛知・岐阜エリアで開催されることが明らかにされている。日本の冬がWRCにどのような影響を与えるのかも、気になるところだ。
PHOTO /遠藤樹弥[Tatsuya ENDOU]、小竹 充[Mitsuru KOTAKE]、山口貴利[Takatoshi YAMAGUCHI]、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS] REPORT / JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS]
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